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カテゴリー: 日本史(戦前)

後期日中戦争・華北戦線

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 広中 一成 、 出版 角川新書
 自衛隊の幹部が今もなお「大東亜戦争」と呼んでいるのを知って、思わずひっくり返りそうになりました。「大東亜」って、一体、何のことですか…。
日本は朝鮮を植民地として支配し、満州も間接的に統治して、悪名高い七三一部隊を置いて人体実験を繰り返しました。そして中国大陸で日本軍は「三光作戦」をあくことなく強引にすすめました。焼き尽くし、奪い尽くし、殺し尽くすというのです。そんな悪虐非道の軍隊に民心がなびくはずもありません。日本軍が中国大陸で戦争に勝てなかったのは当然なのです。
日本は中国で点と線だけを支配していましたから、周囲を取り囲まれて全滅する拠点が生まれるのは必至です。
いやいや、太平洋方面とは違って、日本軍は中国大陸に何十万人もの軍隊を敗戦時まで常駐させていたのだから、決して日本は中国に負けてなんかいなかったんだと今なお強弁する人がいます。とんでもない間違いです。
たしかに、日本軍は上海から南京まで勝って前進しました。南京大虐殺はその過程で日本軍が犯した蛮行の一つですが、実のところ、それ以上は地上を前進することはできなかったのです。なので、上空から重慶を無差別爆撃しました。そのしっぺ返しが東京大空襲に始まる日本全土の都市への無差別爆弾攻撃であり、ヒロシマ・ナガサキへの原爆投下です。
1940年8月から12月まで、中国共産党の八路(はちろ)軍(「パーロ」と呼ばれます)は日本軍に果敢に攻撃をしかけました。八路軍の兵力は115個団・40万人です。八路軍も多大の犠牲を払いましたが、日本軍は3万人もの死傷者を出し、3千ヶ所の拠点を喪ったのでした。日本軍は、このときまで八路軍をまったくバカにしていたのでした。なので、不意打ちを喰ってしまったのです。
日本軍は深刻に反省して、八路軍についての認識をあらためました。日本軍の主任参謀は次のように報告しました。
「八路軍は単なる軍隊ではない。党、軍、官、民から成る組織体である。明確な使命感によって結合されているのであって、思想、軍事、政治、経済の諸施策を巧みに統合し、政治7分、軍事3分の配合で努力している。したがって、日本軍も軍事のみでは鎮圧できず、多元的複合施策を統合して発揮しなければならない」
しかし、日本軍がそのような多元的複合施策を展開できた(できる)はずもありません。
善良な日本人から成る、規律正しい日本軍が中国大陸で悪虐非道なことをするはずがない、そんなことをした証拠もないと今なお言いつのる日本人がいます。しかし、そんな人は単なる思い込みにすがっているに過ぎません。
今のイスラエルのガザ侵攻をみてください。すでに3万5千人以上の罪なきガザ市民が殺されています。一人ひとりのイスラエル軍兵士がいかに善良であっても軍隊となると、平気で大量人殺しをするのが戦争なのです。
「パーロ(八路軍)とともに」(花伝社)という本を書いた者として、後期日中戦争の実際を知りたいと思って読みました。ともかく、戦争だけはしてはいけません。岸田政権、それを支えている自民・公明党を支持していることは戦争を招き寄せているようなものだと、つくづく実感しています。
(2024年3月刊。960円+税)

治安維持法と特高警察

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 松尾 洋 、 出版 教育者歴史新書
 1928年の「3.15事件」、つまり日本共産党の一斉大量検挙が行われ、小林多喜二が当事者への取材をもとにして小説『1928.3.15』を書いた事件のあと、すべての県に特高課が設けられ、警察署には特高主任か特高係事務がおかれた。
 特高警察は、内務省が人事の任免権を握っていた。各道府県の特高課長は、指定課長、指定警視と呼ばれ、内務省が府県知事に任命すべき人物を指定していた。特高警察の活動費である機密費は中央から直接手渡された。
 各地で収集された情報は内務省の警保局に集中され、中央集権機構が確立されていた。警察制度そのものが中央集権的だったが、特高警察はさらに中央集権的であり、特高警察官は一般警察官のなかでの最高のエリートだった。
警視庁の特高部には最多600人、大阪府警察部に150人、大きい警察署で7.8人、小さい署で2.3人いた。在外公館勤務員をふくめ5000人ほどいた。
特高警察の「武器」となったのが治安維持法、なかでも「目的遂行罪」が大いに威力を発揮した。
 目的意識がなくても、当局が「結社の目的遂行のためにする行為をなしたる者」と認定すれば犯罪が成立するというものです。カンパに応じたり、一夜の夜を提供しただけであっても、犯罪として検挙されることになったのです。
 まさしく暗黒日本としか言いようのないひどい治安維持法の怖さを再認識しました。
(1979年4月刊。600円)

人道の弁護士・布施辰治を語り継ぐ

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 森 正 ・ 黒田 大介 、 出版 旬報社
 戦前の日本で人権擁護のために大奮闘した布施辰治弁護士について書かれた本です。
布施辰治自身が治安維持法違反で警察に逮捕されて留置場に放り込まれたときの驚くべき話を紹介します。なにしろ当時は、弁護士が法廷で共産党員の弁護人として弁論すると、それ自体が「目的遂行罪」にあたるとして特高によって検挙されたという時代です。
 1933(昭和8)年11月、両国警察署に布施辰治はまわされてやって来ました。すると、それを知った人たちが、監房で歓迎会をやったというのです。勝目テル(当時38歳)という、同じく治安維持法違反で検挙されていた人が体験記を書き残しています。
 11月7日はロシア革命が成功した記念日だ。何かお祝いをしようと勝目が考えていると、なんと有名な布施辰治弁護士がまわされて入ってくるという。それでは歓迎会を兼ねて革命記念祝賀会をしよう。勝目は親しく話せるようになっていた看守長に話を持ちかけた。すると、看守長は布施弁護士について関東大銘を受けていたらしく、「わしは首になっても賛成する」と即決賛成してくれた。最古参の看守長が賛成というなら、残る3人の看守ももはや異議は言えない。もちろん、上にばれないようにしなければいけない。1日3回、夜の9時が最後だ。それから祝賀・歓迎会をやることになった。
 このとき留置場には、1929年2月に捕まった説教強盗として名を売った30歳すぎの男、神兵隊事件で検挙された右翼もいたが、歓迎会には全員が協力してくれることになった。みな面白いことに飢えている。
 看守4人が手分けして見張ってくれて始まった。各房から代表として選ばれた人が布施弁護士の入っている房の前に立って、それぞれの持ち芸を披露する。説教強盗は物真似を始めた。見事な、本職はだしの物真似だ。自称スリの名人は浪花節(なにわぶし)をうなる。浅草公園の主(女性)はこれまた驚くほど見事なダンスを披露して、拍手喝采だ。やんややんやの拍手で大いに盛り上がっていく。最後に、勝目たち活動家11人が、それぞれの房の格子戸の前に立ち、「インターナショナル」を合唱する。
 歓迎会の終わりに、布施辰治は房の中から感激のあまり声が震えながら、お礼の言葉を述べた。
 「私も、ながいあいだ、不当な勾留に閉じ込められて、あちこち留置場をまわってきましたが、こんなに楽しいところはありませんでした。諸君の今夜の温かい贈り物を私は生涯、心に留めて、諸君とともに闘っていくことを、ここに誓います」
 そして、次に緊張した顔つきの看守たちに笑顔を向けて、こう言った。
 「諸君の予想外の御支持に対して厚くお礼を申します」。軽く頭を下げて「こういう居心地の良いところなら、いつまで居てもいいと思うくらいです」と結んだ。それを聞いて、看守をふくめて思わずみんな手を叩き、大爆笑となった。
 勝目は胸が熱くなり、看守長に対して、「ありがとう、ありがとう」と何度も頭を下げたが、それ以上は言葉にならなかった。あとで、この看守長は、この歓迎会のことがバレて、早期退職に追い込まれたという。
 どうでしょう。信じられない話ですよね。でも、実話だというのです。私は、これを読んで、思わず胸が熱くなりました。本書で紹介されているところに少し付加しています。ぜひお読みください。
(2023年12月刊。1800円+税)

八路軍(パーロ)とともに

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 永尾 広久 、 出版 花伝社
 ようやく改訂、増刷できました。
 モノカキとして書くのは楽しみですし、一冊の本にまとめるのは喜びです。でも、出来あがった本を売るのは大変です。書いているときは一人の作業ですが、本にまとめ、売るとなると、大勢の人の手を借り、たすけてもらわないといけません。もちろん、それが嫌やだというのではありません。本にするのは形として見えますが、売るとなると、まったく見えてこない作業になります。ベストセラーになれば、形が見えてくるのかもしれませんが、そんな状況は期待できませんので、ひたすら各方面に送りつけ、人の噂を高めてもらおうとするしかありません。
 その意味で、本書がなんとかかんとか増刷にこぎつけることが出来たのは、思いがけない人の助けがいくつもあったからです。ありがとうございます。
 なんとかして増刷したかったのは、いくつかの誤記はともかくとして、付加・訂正したいところがあちこちあったからです。その一つが、帝銀事件と七三一部隊の関わりです。
 青酸カリ化合物を扱う手慣れた様子から「犯人」とされた平沢貞通氏のような画家がやれるはずはないと思うのですが、GHQの圧力で、七三一部隊員の方面の捜査は中止させられました。平沢氏は長く獄中について、ついに無念の死を迎えてしまいました。
 この本の主人公の久は関東軍の一兵士として敗戦時、鉄嶺にいましたが、のちに柳川市長をつとめた古賀杉夫氏も満州国の高級官僚として鉄嶺にいたことを本人の著書で知りましたので、そのことを付加しました。
 八路軍から逮捕命令が出たのを知って、満鉄の掃除夫になりすまし、機関車のうしろの石炭車の上に腹ばいになって逃げたというのです。逃げ遅れた日本人の高級官僚13人は河原で銃殺され、その遺体は無惨にも野犬に食い荒されたとのこと。
 古賀杉夫元市長の息子は古賀一成元代議士であり、大学の同級生でもあります。
主人公の久たちは八路軍とともに満州各地を転戦しますが、そのとき、「西の蒙古方面行きのワンヤメヨウ線」に乗ったとしました。「ワンヤメヨウ」とは何か分からなかったのです。満州に詳しい人に照会して、「王爺廟」と漢字で書くことが分かり、白温線という路線だということも判明しました。何事にも先達がいるものです。
 八路軍の百団大戦によって日本軍の拠点が次々に撃破され、両親を亡くした4歳の女の子が八路軍に救出され、日本軍に送り届けたというエピソードを紹介しています。その女の子(栫美穂子)が郷里の宮崎で無事に成人していたのが探し出され、救出した八路軍司令の聶(じょう)栄瑧(えいしん)将軍(80歳になっていました)と北京の人民大会堂で再会したという話です。この女の子の父親がつとめていたのは、井陘(せいけい)炭鉱駅でした。
 満州(中国東北部)をめぐる国共内戦の最終段階にあった錦州改防戦のとき、圧倒的不利を悟った国民党軍の司令官が八路軍に投降してきたとき、八路軍はどうしたか…。八路軍は捕虜に温かく接し、場合によっては旅費まで与えて釈放していたのですが、この司令官と家族を大八車で荷物とともに護衛つきで北京まで送り届けたというのです。このことが広く知れ渡ると、北京・天津にいた国民党軍は戦意喪失・投降する将兵が続出し、双方の死傷者が少なくして決着ついたというのです。
歴史の真偽を知るのはなかなか容易なことではありませんが、こんなエピソードをまじえて生きた歴史をもっともっと学び、生かしていきたいものです。
 ぜひ、この改訂・増刷分を購入してお読みください。ご協力をお願いします。
(2024年4月刊。1650円)

徳川夢声とその時代

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 三國 一朗 、 出版 講談社
 無声映画時代に、活弁(かつべん。活動弁士)として活躍し、戦後はラジオ朗読で美声をふるった徳川夢声に関する本です。
無声映画というのは、まったく音がありません。なので、まずは音楽をつけます。生演奏です。
 映画館の面前、スクリーンの下にオーケストラ、ボックスがあります。かすかな明りがあり、そのボックスからなまのヴァイオリン・ピアノ・セロ(チェロ)が奏(かな)でられます。この音楽によって、騒々しかった場内が静かに落ち着きます。
そして、次に正面に向かって左側のスクリーンの端の舞台にある小さなガラス箱に薄いグリーン色の灯がつき、活弁の弁士名が洒落た文字で浮かび上がる。さあ、弁士の登場です。弁士はフロックコートか黒紋付に袴(はかま)姿。
 弁士は「前説(まえせつ)」を美文調で語り始めます。この前説は、映画そのものが5分か10分なのに対して20分から30分も長く話します。そんな長い「前説」を廃したのが徳川夢声。
 徳川夢声と名乗るようになったのは、赤坂溜池にある映画館「葵(あおい)館」で語るようになってからのこと。「蔡」というから「徳川」と名乗ったのです。
 徳川夢声の弁士としての給料は80円から100円。当時としては大変な高級取りです。
 そして、さらに月給は上昇し、160円、いや400円という、とんでもない超高級取りになりました。それくらい弁士に高額の給料を払ってでも客の入りが良ければ会社としてはもうかったというわけです。27歳で400円というのですから、いったい今のお金にしたら、いくらになるのでしょうか…。
 ところが、やがてトーキーの時代になります。弁士なんて不要です。弁士のストライキも起こったりしましたが、徳川夢声は声の良さからラジオに進出するのです。私は聴いていませんが、ラジオでの「宮本武蔵」の朗読は大好評だったようです。
 徳川夢声は1971(昭和46)年8月に77歳で亡くなりましたが、その前、私もラジオやテレビでその味わい深い声を聞いたことがあります。
戦前の無声映画時代の活動弁士(活弁)のことが知りたくて読んだ本ですが、他にもいろいろ教えられることのある本でした。
(1986年6月刊。1100円)

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