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カテゴリー: 日本史(戦前・戦中)

竹島

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者  池内 敏 、 出版 中公新書 
 いま、日本の中学校・高校の社会科教科書には「竹島は日本国有の領土である」と明記されている。しかし、竹島が古くから日本の領土であったという事実はないということが、この本で実証されています。そして、同時に、古くから「韓国」の領土であったわけでもないというのです。
なるほど、そういうこともあるんだな・・・と、私は思いました。だって、人がずっと住んでいたわけではない島なんですから・・・。そして、広い海にある小さな島の領有権を昔から争っていたわけではないのです。
日本の主張も韓国の主張も、それぞれ確として大きな証拠があるわけではなく、その差は決して大きくないにもかかわらず、どちらも自分のほうに一方的に利があるかのような主張を繰り返してきた。まあ、政治家って、いつだって自分の選挙民向けにはいい顔をするということですよね。ですから、こういう領土問題っていうのは、決して熱くなってはいけないということなんですね。要するに、どこかで妥協的を見つけるしかないわけです。
竹島は、自然状態では人間の居住に適さない島である。
17世紀を通じて、竹島が単独で利用されたことはなかった。常に鬱陵島とあわせての利用だった。そして、渡海禁止令が出されたあとは、渡海事業から撤退した。元禄の竹島渡海禁令をもって、日本が17世紀末には、竹島の領有権を放棄したことは否定のしようがない。つまり、遅くとも17世紀末には、日本の竹島に対する領有権は存在しない。ただし、日本人が渡航してはいけない島だとなっても、それがただちに朝鮮領の島になったということでもない。
元禄の竹島渡海禁令と天保の竹島渡海禁令という二つの禁令によって、江戸幕府は日本が竹島と鬱陵島と接触する途を公的に断ち切った。
明治政府は、明治10年に内務省での検討結果をふまえて、竹島と鬱陵島が日本領でないと判断し、大政官指令を発した。ところが、1900年ころになると、鬱陵島には日本人と朝鮮人の定住がすすんだ。日本人が200~500人、朝鮮人は1000人をこえるようになった。そのなかで、竹島が「再発見」された。
1905年(明治38年)の竹島を日本領に編入するという閣議決定は、それまでにあった竹島に対する領有権を再確認するというものではない。あくまで、日本領でなかったものを日本領としたのである。
そして、1951年のサンフランシスコ平和条約の調印される前、韓国政府はアメリカ政府と竹島を韓国領と明記するよう求めたのに対して、アメリカ政府は却下する回答書を発した。
日本の外務省が「竹島は日本の固有領土だ」というとき、それは過去よりずっと日本が支配してきた領土」という意味ではない。そもそも「固有」というコトバの定義は一度も公式にはなされていない。なあんだ、「固有」ってごまかしのコトバだったんですね。今まで、よくもだまされてきたものです・・・。
竹島をめぐる歴史的経過を初めて知りました。
(2016年1月刊。880円+税)

吾が青春に悔あり

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者  菅野 孝明 、 出版  ふくしま平和のための戦争展実行委員会
 日本軍の兵営のなかで無意味かつ不合理な初年兵へのリンチなどが横行していたことを、絵と文章によって体験を通じて明らかにした貴重な記録集です。
 著者は大正10年(1921年)に福島で生まれ、20歳で受けた徴兵検査では兵隊には不適な丙種合格となりました。
そして、国民徴用令による強制動員で東京の電機工場で働いていました。
ところが、ついに1944年2月に招集令状が来て、朝鮮工兵隊にとられ、翌年(1945年)2月には東京は赤羽工兵隊に転属し、東京大空襲を経験します。復員できたのは、1945年の8月ではなく、同年10月でした。
 初年兵に対する理不尽な上官のリンチの数々はすさまじいものです。ともかく兵隊の命を粗末に扱う帝国軍ですから、もう滅茶苦茶です。牛肉とかセミとか名づけられた拷問に耐えるしかありませんでした。
ところが、いじめるばかりの上等兵を仕返しに闇討ちすることもあったようです。そして、軍内では演芸大会があり、芸達者な兵は、それが我が身を助けます。
ウヨクデーは、兵士たちによる最高のほめ言葉。サヨクデーは、最低という、さげすみの言葉。どこから来た言葉でしょうか。まさか、右翼とか左翼から来ている言葉じゃないでしょうね・・・。
あまりの辛さに脱走兵が出て、それを追いかけにも行きます。
ともかく、この本は、たくさんのイラストがありますので、どうしようもなく不合理な軍隊生活の様子がよく分ります。こんな社会に戻してはいけないと痛感するばかりでした。ぜひ、あなたも手にとってご一読ください。
(2016年1月刊。1800円+税)

トンヤンクイがやってきた

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者  岡崎 ひでたか 、 出版  新日本出版社
 戦争中、日本は中国で何をしたのか、そして日本人は国内でどんな生活をしていたのか、対比させながら話が進んでいきます。中学生や高校生、若い人にぜひ読んでほしいと思いました。340頁もありますが、なんとか挑戦してほしいものです。
 中国は上海近くの農村地帯で生活している子どもの目から、抗日戦争の無惨な実際が語られます。悪虐非道な日本軍は、最新兵器を駆使するので、中国軍はとてもかないません。それでも、中国の人々は、ひそかに抗日の戦いをはじめ、子どもたちもそれに関わるのです。ここらあたりは、著者が現地で取材した実話にもとづいていますので、真に迫っています。
 著者が取材に行ったとき、部屋の中は怒りの炎に包まれていた。恐ろしい燃えるような眼に囲まれた。中国の民衆にとって、まだ戦争は終わっていなかった。そうなんです。加害者は忘れても、被害者は、ずっと忘れることができないものなんですよね。
 日本が戦争を反省して、憲法9条を定めたことをふくめて、お詫びの言葉を述べると、すっかり部屋は穏やかな平和の色に包まれた。
世の中は星(陸軍)と錨(いかり。海軍)に闇に顔、ばか者のみが行列に立つ(清沢冽)
中国は、鉄鉱石にしろ石炭にしろ、日本とはケタ違いの生産量でべらぼうに安い。タダ同然。労働者はいくらでもいて、賃金はうんと安くてすむ。だから、中国で工場をはじめたら、企業はもうけ過ぎてもうけ過ぎて・・・。それに、協力するのは、つわものぞろいの関東軍。
職業軍人は、戦争を起こしたくて、待っていた。出世できるチャンスだから・・・。 職業軍人は、戦争がないと手柄をたてられず、出世が難しい。
「軍事予算をどんどん増やす。そして、献金を集める。戦争は大儲けのチャンスよ」
中国の人々は日本軍を「トンヤンクイ」と呼んだ。東洋の魂だ。
 日本軍が食料微発に来たときの対応4ヶ条。
 ① 逃げ隠れして、会うのを避ける。
 ② かくれることが出来なくなっても、粘り強く、一日でも先送りする。
 ③ コメを出すしかないときには、水にひたしてふかしておく
 ④ コメの袋のなかに、ニセ物を入れるなど、工夫する。
 いやはや、戦争というのは、まさしく生活全般を根底からひっくり返すものだと痛感しました。親子読書の一冊にしてみたらいかがでしょうか・・・?
 「自虐史観」だなんて、つべこべ言わず、この本を読んでほしいものです。いい本です。ご一読をおすすめします。
(2015年12月刊。1800円+税)

第二次世界大戦1939-45(下)

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(霧山昴)
著者  アント二・-ビーヴァ― 、 出版  白水社
 いよいよ第二次世界大戦の下巻にたどり着き、ようやく読了しました。なにしろ500頁もの大作なのです。そして、内容がずっしり重たいので、そうそう簡単に読み飛ばすわけにはいきません。
 知らないこと、知らなかったことが、いくつもありました。そして、今日的意義のある記述が至るところにあるのです。たとえば、空爆です。イギリスはドイツの都市に住宅爆弾を繰り返しました。大変な被害をもたらしたのですが、戦争終結には直結しませんでした。これは、イギリス空軍の大将のまったく間違いだったと著者は厳しく批判しています。私もまったく同感です。
 イギリス爆撃機軍団を率いるハリス将軍は、都市への戦略爆撃によってドイツを屈服させると豪語していた。しかし、結果は、そうならなかった。むしろ、鉄道線路こそ狙うべきだったのです。そして、工場です。ところが、イギリス軍(ハリス将軍)は安易にも都市住民の虐殺に走ってしまいました。絶滅収容所への線路を叩いてほしいという要請も無視したようです。とても罪深い過ちだったと思います。
 同じように都市への爆撃を重視したのが、アメリカ空軍のカーチスルメイ将軍です。ルメイ将軍は、日本の製造業の中心地帯をひとつ残らず燃やしつくす決意だった。そして、それを着実に実行していった。まさしく日本人大量虐殺の張本人ですが、戦後日本は、そんなルメイ将軍に大勲章を授与しているのです。こんな人物に勲章をやるなんて、日本政府のアメリカへの従属性というか、奴隷根性はどうしようもありません。腹が立ってなりません。
そして、この本は、日本軍に人肉食が横行していたことを再三きびしく指摘しています。
日本兵は糧食不足に悩んだあげく、地元住民や捕虜を食料源とみなした。若い中国人女性を犯し、殺し、喰った。「味が良くて、柔らかかった。豚肉より美味だった」という日本軍兵士の告白が紹介されています。おぞましいばかりです。
 そして、七三一部隊は、中国人捕虜3000人以上を生体実験で無惨に殺していくのに、アメリカ軍はそのデータを入手して、誰ひとり、犯罪者として訴追することはなかったのです。
 こんな事実に目をつぶって、戦争にはひどいことがある。日本だけが悪いことをしたわけではない、なんて開き直るのは許されることではありません。
 自虐史観とかいって、都合の悪いことに目をつむっていては、憎しみあいが増すばかりです。悪いことをしたことに正面から向きあって、はっきり謝罪し、二度しないことを世界の人々に固く誓約することこそ必要な態度だと思います。
 それにしても、スターリンの悪知恵、悪らつさには、今さらながら背筋も凍る思いです。
 チャーチル首相は、終戦直後の総選挙で惨敗しました。それほど、イギリス軍のなかに上官そして、不合理な命令ばかり出していた政府の命令に怒っていた人たちが多かったということです。
スターリンはチャーチルの失墜にショックを受け、ソ連軍をきびしく取り締まったというのです。ジューコフ将軍は、そのあおりを喰らって、しばし冷や飯を食べることになります。
 世の中はタテから見るだけでなく、ヨコからも見る必要があることを教えてくれる本でもありました。ずっしりと重たい戦記本です。ぜひご一読下さい。
(2015年8月刊。3300円+税)

初日への手紙Ⅱ

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(霧山昴)
著者  井上ひさし 、 出版  白水社
 圧倒されます。そして、ぐいぐいと引きずり込まれてしまいます。
 時がたつのを忘れます。読みおえたとき、胸が熱くなっています。今日は、すごいいい本に出会えたな、そう思って感謝の気持ちで一杯になります。
 新国立劇場のこけら落とし(初演)の作品として井上ひさしは新作を目ざします。いつものように、凝りにこった台本です。戦前の日本史、天皇の言動、軍部の動向、そして被爆死してしまった演劇人のことなどを徹底して調べあげ、見やすい年表をつくり、そして登場人物の人形を机の上に並べてストーリーを考えに考え抜いて文字にしていくのです。
 まさしく身(生命)を削る必死に作業です。10日間、お風呂にも入れないほど、一刻一秒も惜しんで、睡眠時間を削って、それでも開演初日まであとわずかというのに、台本はまだ完成していません。遅筆堂として有名でした。
 しかし、出来あがった台本の素晴らしさは観客の心を大いに揺さぶります。だけど、これでは演じる役者はたまりませんよね・・・。
そんな舞台裏が井上ひさしの送ったFAXを通じて明らかにされています。
「状況はますます切迫してきましたが、命がけでやっているのですから、きっと活路は見つかるはず・・・。そう信じて続けます」
 「連日、4時間しか眠れません」「今夜、久しぶりに普通のごはんを食べました。ストレスで胃をこわして体力を失くしたのが夏バテの原因です」
 「小生の基本は、やはり半分は小説家のせいか、文字で読むものとして戯曲を書いています。文字で意味を、ルビで音を、が基本になっています」
 「戸倉 役者なんてものはね、真っ当に働いている世間様のお情けにすがって生きている屑、人間の屑だ。なんか悲しくて、そんなものに成り下がれるというんだよ。
  丸山 俳優は百姓になる、漁師になる、仕立て屋になる、キコリになる、大工になる、鉄道員にも商人にも軍人にも巡査にもなれる。
      俳優は、この世に生をうけたありとあらゆる人間を創り出すことができるんです。
      人間の屑にそんな神様のようなことができますか。人間の中でも宝石のような人たちが俳優になるんです。なぜなら、心が宝石のようにきれいで、ピカピカ輝いている者でないかぎり、すなおに人の心の中に入っていって、その人そのものになりきることができないからです」
 いやあ、いいセリフですね。こんなセリフを私も自分の本のなかに書いて生かしてみたいです・・・。
 「ある程度は観客に挑戦する。観客の期待への挑戦。期待の上を行く」
 「短いセリフ(台詞)には笑いを、長いモノローグには涙を」
 「コトバは世界を認識する枠組みです」
 「人間のドラマは、人間の内面に起きる、外面の表現ではない」
 「スパイは必ず二重スパイになる。そういう運命である。そしてスパイは、相手からもっとも信頼された瞬間に裏切る」
 「お二人を前に、頭の中でスシ詰めになって混乱していたアイデア群をしゃべっているうちに、芝居の全貌がくっきりと見えてきました」
 そうなんですよね。いくらかのアイデアがある時点で、それを理解しあえる人に話していくと、それが具体的に固まり、生き生きとして発展していくものなんですよね。最後に、井上ひさしの言葉を紹介します。
 「劇場は、人間が連帯しあうことだけを体験するところです。劇場は、人間がいったん死んで、つまり無になって、いっしょになって生まれ買われるところです。劇場に神様がいると明らかに思うときがあります。その神様は、突然いるというのではありません。俳優とお客が一緒になったとき、現れてる演劇の神様がいる。これはみんなでつくる神様です」
 いい本です。井上ひさしの汗と温かい体温を感じさせてくれる本でもあります。このところ疲れたなと感じているあなたにおすすめの一冊です。
                  (2015年10月刊。3400円+税)

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