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カテゴリー: 宇宙

はなぶさ2、最強ミッションの真実

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 津田 雄一 、 出版 NHK出版新書
はやぶさ2は無事に日本に戻ってきました。目下、リュウグウで採取してきた岩石の分析中だと思います。この本では、はやぶさ2がリュウグウに無事たどり着き岩石を採取し、地球への帰還の旅を始めるところまでが語られています。
なにしろすごい話の連続です。たとえ話でいうと、東京スカイツリーのてっぺんから、富士山の頂上にいるミジンコを見分けることができるほどの分解能をもつデルタドア。
はやぶさ2から送られてくる電波を地球上の日本とアメリカとオーストラリアにある複数のアンテナで同時に受信し、その位相差を計測することで探査機の太陽系内での位置を正確に測る。数億キロメートルの彼方を飛行する探査機の位置をキロメートル単位で正確に測ることができる。
はやぶさ2は、イオンエンジンで宇宙を高速で飛んでいる。その時速5400キロというのは、新幹線の20倍、飛行機の6倍の速さ。これほどの加速量をはやぶさ2の重さ609キログラムのうちのわずか30キログラムの燃料でまかなう。
イオンエンジンは、キセノンを燃料とする極端に燃費のいい宇宙用の推進機関。キセノンをマイクロ波のエネルギーで電離させ、その電荷を帯びた粒子(プラズマ)に高電圧をかける。プラス電荷の粒子がマイナスの電極に引きつけられることを利用し、キセノンのプラズマ粒子を加速して宇宙空間へ射出する、その反動で機体を推進させる。発生できる力は1グラム重。地球上で1円玉ひとつを持ち上げられる力。そして、その1グラム重を1年間ずっと発生し続けるのに必要なキセノンはわずか10キログラム。これで、はやぶさ2を時速2000キロメートルまで加速することができる。イオンエンジンは、力は弱いが超絶持久力のある推進機関だ。
はやぶさ2の根幹技術は、4つ。一つは、このイオンエンジン。二つは光学誘導航法、三つはサンプル採取技術、四つは高速大気圏突入技術。
はやぶさ2のチームづくりでは共通体験を重視し、いかに失敗を経験させるかを重視した。すごい発想です。模擬訓練のときには、神様チームと運用チームとに分かれ、神様チームはとんでもない無理難題を運用チームに押しつけるのでした。その一つには、重要人物が嫌なタイミングで腹痛になって管制室から消えてしまう。そんなとき運用を続行してよいのか…。「こんなトラブル起こるわけない」というトラブルまで、ありとあらゆるトラブルを想定して、その対策をみんなで練っていったというのです。すごいです。
計算だけを頼りに、30億キロメートルもの距離を目隠して飛び続けていて、ある日ぱっと目を開いたら、その視野の真ん中にちゃんとリュウグウがうつっていた。嘘のような本当に起きた話です。
はやぶさ2がリュウグウに着陸できるのは直径6メートルのエリア。なので許される着陸誤差は3メートルしかない。そして、実際に着陸したときの誤差は、なんとわずか1メートル(60センチ)しかなかったのでした。いやはや、これが3億キロメートル彼方の未踏天体への初着陸なのです。
はやぶさ2の管制室の休憩スペース「スナック姫」には安いスナック菓子とアルコールなしの飲料のみだったとのこと。やっぱりアルコールはダメなんですよね。外ではいいわけでしょうが…。
はやぶさ2に関わったチームのメンバーが、次から次へ難局に直面しながら、まったく悲壮感がなく、いかにも壮大な実験を楽しんでいるという様子が手にとるように伝わってくる、ハラハラドキドキの面白い本でした。日本の科学者もやりますね…。
一読を強くおすすめします。
(2020年11月刊。900円+税)

宇宙に行くことは地球を知ること

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 野口 聡一、矢野 顕子、林 公代 、 出版 光分社新書
野口聡一さんは今、宇宙船に乗っていますよね。半年間は宇宙にいるのでしょう。健康維持が大変だと思います。
野口さんをインタビューしている矢野顕子さんはニューヨーク在住のミュージシャン。なんと、大学どころか高校2年の夏休み以来、学校というものに通ったことがないといいます。その矢野さんが宇宙に強い関心をもって、野口さんにインタビューを申し込んだのでした。
国際宇宙ステーション(ISS)は、地球の上空400キロメートルを、秒速7、8キロメートルで飛行している。この速さは、なんとライフル銃の弾丸より、数倍も速いというのです。これはすごい。そして、わずか90分、1時間半で地球を一周するといいます。いやはや…。すると、どうなるか。昼と夜の270度以上もの激しい温度変化が、45分おきに訪れる過酷な世界。
宇宙空間は、空気のない真空。昼は120度以上、夜はマイナス150度以下になる。そして、スペースデプリと呼ばれる宇宙ゴミや放射線が飛びかっている。
重力情報がない、視覚情報がない、耳からの情報も限られる。これが宇宙空間。なので、船外活動中には感覚遮断が起きやすい。
宇宙飛行士の生命を守るための宇宙服には、宇宙飛行士の感覚を遮断する働きがある。宇宙空間では手すりを伝って移動する。
宇宙服の手袋には、指先にヒーターがついていて、昼間の120度の熱さも夜のマイナス150度の冷たさも感じないようになっている。でも、手袋はシリコン製なので、温度によって硬さが違う。夜はカチカチに硬くて、昼はだんだん柔らかくなる。なので、この手袋の硬さの変化で、温度を感じる。つまり、手のひらが太陽を感じる。
宇宙飛行士は、眠るときは寝袋に入る。空間にポツンと浮かぶよりも寝袋で軽く拘束したほうが安眠できるのだ。
チャレンジャー号の事故(7人死亡)は1986年1月28日に起きました。私が37歳のときのことで、大変なショックを受けました。だって、打ち上げられたかと思うと、目の前で爆発してしまったのですから…。コロンビア号の事故(同じく7人死亡)は、申し訳ないことに印象が薄いのです。2003年2月1日、帰還するとき、着陸寸前にロサンゼルス上空で空中分解したのですよね…。こちらはチャレンジャー号のような映像がないので、記憶が薄れてしまいました。あれから33年、17年もたってしまったのですね…。
野口さんが3度目、宇宙に行くのは、人類の可能性を広げること、自分が生きている証として挑戦した結果を子どもたちに見せたい、次世代につなげたいと考えたからだそうです。
宇宙服は14層の生地で構成され、120キログラムある。素肌に身に着けているのは冷却下着。ここには、長さ84メートルものチューブが縫い込まれていて、チューブに水を流して体温の上昇を防ぐ。そして、宇宙服の内部には、0.3気圧の純酸素を満たしている。
宇宙船の船外活動中は、誰も助けてはくれない。無限に広がる宇宙の闇の中で、何が起きてもたった2人ですべての作業を完遂しなければならない。もし通信機が故障して交信が途絶えたら、究極の孤立状態になる。指先は死の世界に触れている。
もし、酸欠が起きたとしても苦しくはない。身体が弱るより先に、意識がなくなってしまうから…。
ロシアの宇宙船ミールでも、実は火災も起きたし、貨物船との衝突事故も起きた。また、空気汚染もあった。ISSでは、火災・空気漏れ、汚染が三大緊急事態と言われているが、ミールはすべて経験している。だけど、非常事態にあっても、ミールでは死者を一人も出していない。
うむむ、これは実にすごいことだと思います。立派です。
宇宙空間は、絶対的な闇。「何もない黒」。一切の生を根絶するような闇。逆に、宇宙は光に満ちている。地球の昼のあいだは、地球のまぶしさが半端でないので、人間の目の限界から、宇宙空間は真っ暗闇に見えてしまう。
野口さんには、ぜひとも半年後、元気に地球に生還していただき、さらに大いに語ってほしいものだと心から願っています。
(2020年9月刊。900円+税)

アインシュタインの影

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 セス・フレッチャー 、 出版 三省堂
見えないブラックホールの撮影についに成功した天文学者たちの苦闘を紹介しています。地上の浮き世(憂き世)のゴミゴミした紛争から一時のがれて、宇宙の彼方に飛んでいってみましょう。
地球は天の川銀河の中心から2万6千光年ほど離れている。なので、銀河の中心を目指して光速ロケットに乗ってすすむとおよそ2万光年で銀河中央の膨らみ(ドルジ)に出会う。ここは、宇宙誕生の直後にできたような古い星が集まる場所で、ピーナツの形をしている。そして、さらに何千光年か進むと、いて座のB2がある。これは、私たちの太陽系の1千倍ほどはある黒雲で、そこには、シリコンやアンモニア、シアン化水素、ラズベリーみたいな香りの蟻酸エチル、そして誰にも飲み干せない量のアルコールが満ちている。
そこからさらに390光年ほど行くと、恐怖の内部領域に入る。銀河の中心までは、あと3光年ほどだが、そこでは、コズミック・フィラメントと呼ばれる雷光が空を引き裂き、遠い昔に爆発した星の名残りのガスが漂い、中心へと吸い込まれていくガス流が不気味に輝く。動力は巨大な渦潮のように何でも呑み込む。太陽よりもはるかに巨大な星が猛スピードで飛びかう。空間には放射線が満ち、原子は引き裂かれてもっと小さな粒子の霧となる。さらに近づく、この霧が光り輝く超特大の円盤と化して、ほとんど光と同じ速さで飛びまわっている。その中心にある真っ暗な領域こそ、巨大ブラックホール、わが銀河の中心にある不動の点だ。これをいて座スターAと呼ぶ。
宇宙の果てに、太陽の何億倍もの質量をもつブラックホールがあることは知られている。
いて座スターA(ブラックホール)の質量は、太陽の400万倍。このブラックホールには太陽400万個分の物質が詰め込まれている。ところが、アインシュタインの方程式によれば、ブラックホールの中は空っぽであり、そこに落ち込んだすべての物質は、ブラックホールの中心にあって、無限大の密度をもつ一点(特異点)に吸いこまれているはず…。では、この特異点では、何が起きているのか…。
まだ誰も一度も見たことがないのに、科学者たちは、ブラックホールの存在を信じ、その様子について長年にわたって議論してきた。
この本は、ブラックホールの写真を撮るという難題に挑んだ天文学者たちの物語です。
アインシュタインは、動力は力ではなく、時空のゆがみだと考えた。1960年代の後半、パラボラアンテナを使って、太陽のすぐ近くを通るタイミングで金星と火星に電波を送り、それが戻ってくるのに要する時間を測定した。すると、太陽の動力のせいで、曲げられた電波は千分の1秒の10分の2だけ遅れて戻ってきた。これはアインシュタインの予言どおりだった。
ブラックホールは、物質ではなく、純粋な動力だ。モノではなく、一連のプロセスと考えたほうがいい。ブラックホールの温度は絶対零度だ。そして、ブラックホールは、完全に真っ暗だ。ほとんどのブラックホールは、光速に近いスピードで回転している。
およそ銀河と呼ばれるものの中心には、巨大ブラックホールが必ずある…。
2017年4月、ついに天文学舎のチームは、ブラックホールを囲むような明るい星々の真ん中に黒いもの(ブラックホール)の存在を認め、写真に残した。どの写真にも、オレンジ色の輪がうつっていて、輪のなかは真っ黒い巨大な穴。穴の下に見える明るいレモン色の三日月型は、ブラックホールのまわりを猛スピードで周回する物質から放たれた光だろう。
アインシュタインの一般相対性理論は、ブラックホールには真っ黒な影があるという予想の正しさを証明した写真だった。
地球規模で天体観察していることもよく分かる本です。地上でコロナ対策をめぐって、ケンカなんかしているときじゃないですよね。コロナ対策が不十分なまま、GO TOトラベルなんて、経済対策に走っているスガ君を叱ってやりたいです。
(2020年4月刊。2000円+税)

地磁気逆転と「チバニアン」

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 菅沼 悠介 、 出版 講談社ブルーバックス新書
地球の磁場(地磁気)が180度ひっくり返る現象は過去に何度も起きていた。そして、いちばん最近(77万年前から13万年前まで)に起きた地磁気逆転の証拠が「チバニアン」なのだ。
そもそも、地磁気は、地球内部を源として、大気圏を遠く離れた宇宙空間まで張り出し、太陽からの放射線や太陽風だけでなく、遠い銀河から飛来する銀河宇宙線などからも地球の表層を守るバリアの役割を果たしている。もし地球に地磁気が存在していなかったら、地球の大気は太陽風によって剥ぎとられてしまい、地球に生命は誕生しなかった可能性がある。
金星や火星には、地磁気に匹敵する大規模な磁場は存在しない。かつて火星には地磁気に匹敵する強力な磁場が存在したが、40億年前に消滅してしまった。そのため、火星の大気は太陽風にさらされ、剥ぎとられて、水も蒸発してしまい、生命が存在する環境でなくなった。
金星も同じで、太陽風によって大気、ときに水が散逸してしまった。それによって、大気中の二酸化炭素が吸収できなくなって、現在のような灼熱(しゃくねつ)の環境となった。
ヨーロッパコマドリは地磁気を感知して北欧から地中海へ飛行する。目の中に地磁気に反応する受容体があり、生化学反応して、それを視覚的に感知できるようになっている。つまり、地磁気を視て飛んでいる。
いま地磁気の強度が弱まっている。このまま地磁気が低下したら、1000年から2000年後にはゼロになってしまう。そうすると、人工衛星は故障し、世界の送電網や携帯電話などの通信網、GPSにも大きな影響が出る。
地球は一つの大きな磁石であり、球体の永久磁石ではなく、揺れ動く磁石なのだ。
地球はまさしく揺れ動いている天体の一つなんだということを実感させてくれる話です。そして、人類をふくめた生物が、この地球上に存在しうるのも、貴重かつ幸運な確率の産物だということも自覚させられます。要するに、もっと足元の地球を大切にしようということです。コロナ禍のゴールデンウィーク中に読んだ面白い本の一つでした。
(2020年4月刊。1100円+税)

銀河の片隅で科学夜話

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 全 卓樹 、 出版 朝日出版社
コロナ・ウィルスのせいで、毎日、気が滅入ってしまいそうですが、そんなときには、宇宙のスケールで考えてみるのもいいことですよね。
1日の長さは、1年に、0.000017秒ずつ伸びている。0がコンマの下に4つ並んでいます。
3億5千万年前は1年は385日だった。このとき1日は23時間。6億年前は1日が22時間、9億年前だと20時間しかなかった。
今から500億年すると、地球がまだあるとして、1日の長さは今の45日になってしまう。
もちろん、そんなころには、あなたも私も星のくずの彼方を原子にでもなって浮遊しているだけなんでしょうが…。
天の川銀河の中心には太陽を2千の2千倍、400万倍集めて、極限まで縮めたような、想像を絶する怪物、超巨大ブラックホールが鎮座している。あらゆる存在の中心に暗黒が棲んでいるのだ。しかも、この暗黒はただの虚無ではない。なんともはや、想像を絶する世界です。
宇宙飛行の費用は、今のところ、1回68億円。10年後には20億円にまで下がる見込み。いやはや、そんな大金を出せる超大金持ちが世界にも日本にもいるというのが信じられません。
この本は東大のなかでも難関で天才たちの集まるところと言われる理物(りぶつ。理学部物理学科)卒の著者が縦横無尽に語っているのですが、最後に紹介されるアリの話にもっとも心打たれました。なんと、奴隷になったアリたちも反乱をすることがあるというのです。
アリも人間と同じく、自由を愛し、そのために命さえ投げ出すのだ。
こんなことを知ることができるのも多読しているからのことです。なので、本読みはやめられません…。
(2020年4月刊。1600円+税)

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