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カテゴリー: 司法

鉄路紀行

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 本林 健一郎 、 出版  偲ぶ会
これは正真正銘、ホンモノの鉄ちゃんの書いた紀行文です。全国各地の駅を踏破した様子が写真とともに語られています。
紹介する文章は、あまりに率直で、いささか自虐的です。でも、嫌味がなく、そうか、そうだったのか・・・と、鉄路の世界にひきずりこまれていきます。
鉄道マニアですから、当然のことながら九州新幹線にも乗っています。そして驚嘆するのは、各駅で降りて、駅周辺の写真まで撮って紹介するのです。岐阜羽島と並んで政治駅で有名な筑後船小屋駅、そして新大牟田駅も登場します。
旅行の思い出について、著者はキッパリ断言します。記憶に残らない思い出など忘れたほうが良いのである。いったん忘れてしまって、どんなところだっけ・・・といい加減な記憶を思い出しつつ、結局、思い出せないまま目的地を再訪したほうが新鮮に感じるもの。
旅先で食べた駅弁がまずかったら、写真つきで、「まずい!」と叫びます。これは残念ながら私にとっても本当のことも多いです。
年齢(とし)をとってくると、自分が他人の孤独に吸い寄せられていくような感覚に陥ることがある。
開門海峡を渡るとき、送電が直流から交流に変わるため、10秒ほど電灯が消える。すると、何か自分が浮海魚にでもなって、溺れていく気分になる。
「乗り鉄」(鉄ちゃん)の格言の一つは、蒸気(機関車)は見るもの、電車は乗るもの。
旅行記を読んだ弁護士から、「こんな旅をするなんて、ヒマ人だね」「ヒマ人というよりバカだね」「しかも磨きのかかったバカだね」、などという「賞賛の声」が寄せられる。
著者は、他の乗客が鉄道マニア(鉄ちゃん)かどうか、すぐに分かる。大判の時刻表を持っている。茶色系統の服を着ている。さえない風貌をしている。カメラかデジカメを携帯している。結局のところ、同じ「臭い」がするので分かる。そして、鉄道マニア同士は、お互い離れた席にすわる。
鉄道マニアは、鉄道に対する求愛行為が社会に受け入れられない、恥ずべき行為であることを十分に自覚している。そのため同業者の行為を見ると、自分も同じ恥ずべき行為をしていることを意識し、自己嫌悪に陥ってしまう。
ローカル線の普通列車で自然を満喫する、なんてプランを立てるのは、ロマンチストで空想主義である男のなせる業(わざ)である。これに対して女性は現実主義者なので、ローカル線などにロマンなんてなく、旅行はしょせん旅館の質と食事で決まることをよく知っている。
全国の隅から隅まで鉄路を求めて、ときには渋々ながらバスに乗ったりした楽しい旅行記です。
残念ながら著者は47歳の若さで突然死してしまいました。著者の父親は日弁連元会長の本林徹弁護士です。早くして亡くなった健一郎弁護士のご冥福を祈念します。A4版(大判)のすばらし追悼・紀行文でした。あったことのない故人の優しい人となりが素直ににじみ出ていて、すっと読めました。本当に惜しい人材を亡くしてしまいました。
(2018年5月刊。非売品)

焼身自殺の闇と真相

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 奥田 雅治 、 出版  桜井書店
2007年6月、名古屋市営バスの若い運転手が牛乳パックに入れたガソリンを頭からかぶって火をつけ、自殺を図った。この焼身自殺の原因は職場にあったにちがいない。
しかし、その手がかりは、本人が書いて残した上申書と進退願しかなかった。職場の同僚の協力は得られない。遺族の依頼を受けた水野幹男弁護士は裁判所に証拠保全を申請した。そのなかに「同乗指導記録要」があった。
「葬式の司会のようなしゃべりかたはやめるように」
「葬式の司会のようなしゃべりかた」というのがどんなものなのか、私は想像できません。ただ、その話し方が非難されるようなものには思えないのですが・・・。
そして、バス車内で老女の転倒事故が起きたのに気がつかなかった運転手だと「特定」されたのでした。
彼は、2月から6月までの4ヶ月間のあいだ、次から次に、身に覚えのない災難にあっていることが次第に判明していった。そこで、公務災害として遺族は労災申請します。
バスで転倒したという女性もなんとか探し出して本人と会い、乗っていたバスが全然ちがうものだということも判明しました。
ところが、公務外という結論が出てしまったのです。しかし、遺族はめげずに再審査を請求します。そして、再審査を担当する審査会の委員長の弁護士が突然、辞任するのです。独立性と公平性が保障されていないので責任をもてないからというのが辞任理由でした。それでも、審査会は反省することもなく、棄却されてしまったのでした。やむなく、名古屋地裁に提訴することになり、裁判が始まりました。
法廷には、元同僚も勇気をふるって出廷して証言してくれました。同じ日に3人もの職制がバスに乗って同乗指導したことを認めつつ、それは偶然のことだと居直る証言もあり、一審は有利に展開していたはずなのですが・・・。
一審判決は公務災害と認めませんでした。当事者が主張していないことまで持ち出し、「たいした失敗ではないのだから、自殺するほどの心理的葛藤はなかった」としたのです。あまりにひどい一方的な判決でした。
ただちに控訴し、名古屋高裁では証拠調べをしないままに判決を迎えます。そして、逆転勝訴の判決が出たのでした。
「葬式の司会者のようなアナウンス」とは、小さい声で抑揚のない話し方ということなのですね。このような表現は、相手をおとしめる言葉であると高裁判決は断じました。
さらに、バスの内の転倒事故についても、そのバスで事故が起きたと断定することは困難だというきわめて常識的な判断が示されたのでした。
そこで、「被災者が、接客サービスの向上に努める名古屋市交通局の姿勢を強く意識して、精神疾患を発症するに至ったとみられることからすれば、被災者の精神疾患の発症は、公務に内在ないし随伴する危険が現実化したものと認めることが相当」だとしました。
それにしても、認定まで実に9年もの年月を要したというのも大変でしたね。それでも一審判決のようなひどい判決が定着しなかったことが何よりの救いでした。
ながいあいだの遺族と関係者のご苦労に心より敬意を表します。
(2018年2月刊。1800円+税)

弁護士50年、次世代への遺言状(下)

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 藤原 充子 、 出版  高知新聞総合印刷
高知弁護士会初の女性会長(1985年)であり、人権分野での目ざましい活動に挺進してきた著者が自分の扱った裁判のなかから特筆すべきものを紹介しています。前にこのコーナーで紹介した本に続く、下巻です。
私は、司法の堕落とも言えると思った白ろう病裁判での高松高裁判決をまずは紹介したいと思います。まさに血も涙もない判決の典型です。
高知営林局管内でチェーンソーを使用していて白ろう病となった林業労働者が国を訴えた事件です。一審の下村幸男裁判長は現場検証で自らチェーンソーを操作したとのことで、写真が紹介されています。そして、白ろう病は国の責任だ、労働者の安全配慮義務を怠ったとして、1億円余の支払を国に命じたのです。ところが、高松高裁(菊池博・瀧口功・渡辺貢)は、この一審判決を取り消し、請求棄却としました。その理由がひどいのです。
「機械を数年にわたって使用したあとに発症した重症でない職業病について直ちに企業者に債務不履行責任があるとしたら、長期的にみれば機械文明の発達による人間生活の便利さの向上を阻み、わが国のように各種の機械による産業の発展で生活せねばならぬ国においては、国民生活の維持向上に逆行するもので、合理的ではない」
「経年により進行増悪しても、医学上説明できないことで、それらは私傷病や加齢によるものとみるほかない」
もちろん、この判決には上告したのですが、最高裁は上告棄却。しかし、奥野久之裁判官だけは国の安全配慮義務違反を認めました。
ただし、その後、白ろう者の職業病認定を求める行政訴訟では勝訴しています。これで少しばかり救われました。
スモン訴訟や中国残留孤児国賠訴訟についても裁判所のあり方について、著者はいろいろ問題提起していますが、共感するところ大です。裁判所は、もっと弱者に対して温かい目をもって法論理を展開すべきだと思いますし、あるときには、求められた必要な勇気をふるい起こすべきなのです。
この点、今も弱者に冷たく、権力に弱い裁判官があまりに多い現実に、直面して、弁護士生活45年になろうとする私は、たまに絶望感に襲われます。でも、決して絶望はしていません。話せば分かる裁判官もまだまだ少なくないからです。
それにしても、1968年(私が大学2年生のころです)に著者が高知弁護士会に入会したとき、手土産をもって弁護士会の長老に挨拶まわりをしなければいけなかったとか、料亭へ全会員を招待(費用は新人弁護士が半分もち)しなければいけなかったなど、まったく信じられない話も紹介されていて、びっくり仰天です。
著者の今後ますますのご健勝を心より祈念しています。
(2018年5月刊。1389円+税)

「憲法の良識」

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 長谷部 恭男 、 出版  朝日新書
安保法制がまだ法案の段階で、国会に与党推薦の憲法学者として登場した著者が、安倍首相の改憲案を平易なコトバでトコトン批判し尽くした新書です。
議論の精緻さ、厳密さよりも、ごくごくシンプルな説明をこころがけたというだけあって、なるほど、とても分かりやすいものになっています。
憲法は、国としてのあり方、基本原理という「国のかたち」を定めているもの。
安倍「改憲」は、祖父(岸信介)から受け継いだという自分の思いを実現するためのものであって、国の利益のためではない。公私混同もはなはだしい。
安倍政権は、集団的自衛権の行使は許されないとしてきた従来の政府解釈を変更したが、その根拠はないし、政府自体が根拠のないことを自白している。
明治憲法に兵役の義務と納税の義務が定められていたが、美濃部達吉は、これに法的な意味はまったくないとした。義務かどうかは法律で定めれば義務になる。ただそれだけで、憲法に書くようなものではない。
憲法に「これは義務です」と書き込むことに意味はない。
明治憲法は、君主が人民に押しつけた典型的な「押しつけ憲法」であり、ドイツからの直輸入品である。
憲法9条は非常識だという人は、9条を非常識なものとして理解するから非常識なのであって、良識にそって解釈すれば、非常識なものではない。それは解釈する側の考え方の問題である。
明治憲法こそ「押しつけ憲法」だという指摘には、はっと心を打たれました。
(2018年5月刊。720円+税)

世界を切り拓くビジネス・ローヤ―

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 中村 宏之 、 出版  中央公論新社
西村あさひ法律事務所に所属する弁護士たちを紹介した本です。
私はビジネス・ローヤーになろうと思ったことは一度もありませんでしたし、今もありません。
私が弁護士になったのは、ふつうに生きる市井(しせい)の人々のなかで、何か自分なりに役立つことが出来たらいいな、そしてそれが社会進歩の方向で一歩でも前に進むことにつながったらいいなと思ったからでした。
だいいち、ビジネス・ローヤーの「24時間、たたかえますか」式のモーレツ弁護士活動は、ご免こうむりたいです。いま、我が家から歩いて5分のところにホタルが飛び舞っています。少し前は、庭で新ジャガを掘り上げ、美味しいポテトサラダをいただきました。四季折々を実感させてくれる田舎での生活は心が癒されます。
それでも、ビジネス・ローヤーと田舎の人権派弁護士は、もちろん全然別世界で活動しているわけですが、共通するところも少なくないことを、この本を読んでしっかり認識しました。
西村あさひ法律事務所に所属する弁護士は500人をこえる。これは日本最大の法律事務所だ。片田舎にある私の事務所でも、西村あさひと対決することがあります。それほど日本全国にアンテナを張りめぐらしているわけです。
事務所の基本理念は明文化されている。その第1条は、「法の支配を礎とする、豊かで公正な社会の実現」。
西村あさひは、企業の事業再生、倒産関連で圧倒的な存在となっている。
パートナーシップの配分は収支共同(ロックステップ)。これは、いわば財布を一つにしているということ。パートナー(100人)会議があり、パートナー30人から成る経営会議があり、5人のパートナーからなる執行委員会がある。そして、毎年30~40人の新人弁護士を採用している。海外拠点も、9ケ所にあり、大阪・名古屋・福岡に地方事務所を置いている。
ビジネス・ローヤーは英語ができないと、どうしようもない。
ああ、これで私には入所資格がありません・・・。
弁護士業のすばらしいところは、プロフェッショナルとして、お金に左右されることなく、言うべきことが言える点である。
この点は、私も、まったく同感です。
常識の意味を考えることが大切。合理的でない常識でも、何かしら合理的な理由が存在しているはず。その常識を超えるサービスをクライエントに提供する。
交渉の場に出る前、どう出るのかをよく考える。相手や舞台を変えることも検証するし、ときには一対一(サシ)で議論することにもチャレンジする。
弁護士が天職だと感じる人は、やっていて飽きない。やっていて楽しく、面白い。いろんな人と話ができる・・・。
私も弁護士を天職、天の配剤と考えています。
弁護士の仕事に必要なものは、思いやりだ。これは、真に相手の立場にたてるかどうかも検討しなければいけない。いろんな関係者のことを考慮して、最善の選択肢を考えないといけない。
必ずしも人は理屈だけでは動かない。人間力、人としての物の見方や考え方の総合力が問われる。総合力を発揮して、より良い解決なり、よりよい同意を依頼者のためにするのが弁護士の仕事だ。
基本的に弁護士は一つのインフラなので、日本企業が海外で仕事をするときの用心棒、ビジネスパートナーであり、サポーターでもある。弁護士の「個の力」も大切だが、法律事務所の全体の組織力を上げないと、欧米の事務所には対抗できない。
事業再生を専門とする弁護士の特徴は、ほかの分野に比べて、判断することが求められる局面が多いことにある。想定外の問題が次々に噴き出していく。それを前提として解決をどうやって勝ち取るか・・・。
①若いうちは、まず正論を考えろ、②細かいところまでいちいち相談するな、③債権者は敵ではない。こんな文句(フレーズ)が受け継がれています。
弁護士の仕事は、とても面白く、まったく飽きない。やり甲斐があり、交渉や戦略を立ててのぞむのは当然のこと・・・。なるほど、まったくそのとおりです。
(2016年4月刊。1400円+税)

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