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カテゴリー: 司法

弁護士の夢のカタチ

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 日弁連若手法曹サポートセンター 、 出版 安曇出版
弁護士になることがゴールではない。どんな弁護士になるか、夢が大切。
まことにそのとおりです。今は、どんな弁護士になるのか、夢を語るときではない。それよりも少しでも条文を覚え、法解釈を身につけるのか先決だとして、社会に目をふさいで受験にいそしみ、弁護士になったら前に抱いていたはずの夢なんか、まるで忘れてしまって金もうけにいそしむようになってしまった人を身近に何人も見聞しました。
夢ばかりみていて、夢想の世界に浸っていたら、もちろん合格は遠ざかってしまうわけですが、たまには夢をみながら、緊張関係をもちつつ勉強に励んだほうが、弁護士になってからも視野が広がる。このことを私の体験を通して実感します。
この本は2012年11月発刊ですから、8年前の本なので、少し古くなっているところがありますが、大切なところは変わりません。
それにしてもブラジルの弁護士の話には驚きました。
ブラジルは人口1億9千万人で、67万人もの弁護士がいる。これは、アメリカとインドに次いで多い。以前は、大学を出たら弁護士になれたり、州ごとに弁護士試験があったりしていた。今では全国統一試験が年に3回ある。日本と同じように受験予備校がある。ブラジルの大学法学部では、4年生と5年生のとき、実務研修が義務づけられていて、大学に設置されている法律事務所で市民から相談を受け、訴状などを起案する。
ところで、ブラジルの裁判は解決まで5年かかる。弁護士志望は公務員より少ない。公務員のほうが弁護士より給料もよいし、社会的信用も高い。
ええっ、日本とかなり違いますね…。
国会議員になった人、吉本興業やユニクロ、そして病院でインハウスローヤーとして活動している人…。そして人材紹介業にいそしんでいる人、国際人権活動に邁進している人など、さまざまな分野で活動している弁護士たちの一口コメントには興味深いものがあります。
この本の前半100頁ほどは、イソ弁が独立しようとするとき、何を考え、どうしたらよいのかのガイダンスとなっています。私自身も3年あまりで、6人目の弁護士だった集団事務所を独立して開業しました。とても不安な出発でしたが、まったく大正解でした。やはり、ニーズあるところで、地道に実績づくりを心がけたのが良かったと思います。
何事も焦ってはいけません。初心忘るべからずを思い出させてくれる本でした。
(2012年11月刊。2000円+税)

安保法制違憲訴訟

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 寺井 和弘、伊藤 真 、 出版 日本評論社
安倍前首相は健康問題を理由として、ある日突然、辞職を表明しましたが、なんとなんと、入院することもなくピンピンしていて、今では再々登板を狙っていると伝えられています。病気は政権を無責任に投げ出す口実でしかなかったわけです。それほど元気なら、モリ・カケそしてアベノマスクの500億円ムダづかいをきちんと説明してもらわなければなりません。決してあいまいにしていいものではないと思います。前政権の官房長官をつとめていた菅首相は安倍政権を継承するというのですから、ましてやモリ・カケ問題の解明を責任もってやってほしいものです。
この本は、安倍政権の最大の間違いである安保法制が日本国憲法に反していることを裁判で明らかにしようとしている弁護士たちの労作です。
福岡をふくめて全国22の裁判所で25件の裁判(原告は総数8000人)が進行中ですが、すでに札幌地裁や東京地裁など7つの一審判決が出ています。ところが、すべて原告の請求を棄却してしまいました。
この7つの判決は、原告らの被害にまともに向きあうことなく、軍事や平和についての専門的知見に対して謙虚に耳を傾けようともせず、そして、裁判所に課せられている憲法価値を擁護する者としての自覚がまったく欠けていると言わざるをえません。残念です。
安倍政権の下では、公文書を改ざんしてまで上司を通じて安倍首相夫妻を守ろうとした官僚の忖度(そんたく)が横行しましたが、それが裁判官まで感染したようです。裁判官としての誇り、プロ意識、職業倫理を疑わざるをえない判決のオンパレードでした。
福岡地裁にも、原告3人の話を聞いただけで証人申請の全部を却下してしまうなど、信じられない裁判官たちがいます。原告の忌避申立は当然ですが、仲間意識からそれを却下してしまう裁判官ばかりなのに、思わず涙が出そうになります。
裁判官は、人権と憲法を保障するという崇高な目的のために権力を行使できるという希有な職業です。なので、強い独立性と身分保障がされていますし、高額の給与が支給されているのです。そのことを自覚していない裁判官に出会うと、正直いってガッカリとしか言いようがありません。
安保法制法が実行されたときに国民が受ける侵害は、「漠然とした不安にすぎない」。
本気なのかと目を疑う判決文です。
「わが国が戦争とテロ行為に直面する危険性が現実化しているとまでは認められない」とも判断していますが、現実に起きていないから、これからも起きないといっているのと同じです。私も、もちろん、そうあってほしいと念じてはいますが、現実はその「思い」を踏みにじる危険が客観的に、かつ具体的に迫っていると考えるべきだと思うのです。
「福島第一原発」だって、メルトダウンが大事故にならなかったのは、本当に偶然の幸運だったわけです。なのに、偶然おきなかったのをおきるはずがないと決めつけているのと同じこと。それではいけません。
「いま」の裁判所は「昔」と明らかに変わってしまった。これは本書での指摘ですが、「いま」は現在だとしても、ここでいう「昔」とは、いったい、いつのことなのでしょうか…。
裁判所の判決が政治部門への配慮がすぎるうえ、司法権の独立を疑わせるような判決や決定がためらいもなく出されている。それは、あたかも「憲法の番人」としての司法の役割を放棄し、「政権の番人」になり下がってしまったかのよう…。
でもでも、今でも少ないながらも、憲法価値をなんとかまもろうと努力している裁判官がいるのも事実です。そんな裁判官を励まし、きちんと憲法にかなった判決を書いてもらう、そんな努力を怠るわけにはいきません。
この本には、かの我妻栄の講演(1971年10月)が紹介されています。裁判所は政治に安易に迎合してはいけないと強調したのでした。まさしく、そのとおりです。
(2020年11月刊。1200円+税)

塀の中の事情

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 清田 浩司 、 出版 平凡社新書
日本全国の刑務所の実情をつぶさに歩いて調査した結果を知らせてくれる本です。
現在(2019年4月)、全国に61人の刑務所、6の少年刑務所がある。入所者は男性4万156人、女性3564人。ここ数年は4万人台で推移している。8万人台になるのでは…と心配されたこともあったが、半減した。ただ、男性は減ったものの、女性はそれほど減ってはいないため、男性用が女性用に切り替えられたところもある。
窃盗(万引きなど…)と薬物事犯(覚せい剤など…)は、再犯率が高い。また、60歳以上の受刑者がすでに2割をこえている。
外国人受刑者は増えたが、現在は増加傾向はストップした。
収容者の高齢化がすすみ、いまや刑務所は介護施設状態にある。
収容者2600人という日本最大の府中刑務所の受刑者の平均年齢は49歳、4人に1人が60歳以上。刑務所のなかでも「老老介護」がすすんでいる。70代の認知症受刑者を同室の受刑者が介護している。
高齢の受刑者の「癒し」のためにカメが飼われている刑務所(尾道)もある。
LB級と呼ばれる受刑者は、長期刑(L)であり、再犯の可能性が高い(B)ということ。
いま、無期懲役は、事実上、終身刑に近い。無期懲役囚のなかに「マル特無期」というのは、死刑が求刑され、判決で無期懲役が宣告されたというケース。たとえば、オウム真理教の林郁夫元被告。
日本にも塀のない先進的な刑務所があるのですね…。四国・今治市にある大井造船作業場がその一つです。ここには30人ほどの受刑者が一般社会人である行員とともに働いている。カギも縄も何もないので、逃亡者が出てしまう(2018年4月)のは、仕方がないのです。そして、責任まかされて働いているうちに実社会でもフツーに生きていけるようになりました。しかも、再犯率は12%ほどに低下した。
網走刑務所には、「二見ヶ岡農場」という解放的な農場があります。その広さは、東京ドームの76個分というのです。すごいですね…。
刑務所内の処遇改善は法の求めるところでもあります。刑務所の職員も大変でしょうが、再犯をなるべく減らすためにも人間らしい処遇が保障されるべきだと、読みながら、つくづく思いました。
(2020年5月刊。1200円+税)

判事がメガネをはずすとき

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 千葉 勝美 、 出版 日本評論社
典型的なエリート裁判官である著者の趣味の一つが野鳥の写真撮影なんですが、その出来映えは、たいしたもので、日本野鳥の会のカレンダーに何度も採用されているとのこと。たしかにすごいショットのカラー写真がカットで入っています。
しかし、厳冬期の野外での野鳥撮影だなんて、読んでいるだけでブルブル、身も凍えてしまいます。
冬の夜明け前の河原にブラインド(床のない簡易テント)を張り、重い三脚にすえつけた大砲のような600ミリ超望遠レンズだけを外に出し、夜明け前からじっと野鳥を待つ。ブラインドのなかにいても、寒さが足元からしんしんと全身に伝わってくる。ダウンを身にまとい、カイロを下着に貼りつけていても、吐く息の白さが、外気温が氷点下を下回っていることを視覚的に自覚させる。南極越冬隊が着るために開発された化学繊維で空気を取り込んで寒さを遮断する「魔法の下着」を着て、痛いほど冷たくなる足の指先を暖めるため、雪靴の中に使い捨てカイロを敷くが効き目はない。
身体に悪い趣味だ。ひどい寒さにじっと耐え続けるだけでなく、シャッターを押す瞬間は、胸の鼓動が早くなり、緊張感は高まり、精神的にも好ましくない状態になる。さまざまな苦しみ、悩みの連続。ただ、それでも、それが少しもストレスにはならない。
まあ、それは、そうなんでしょうね。強制的にやらされているのではなく、あくまで、自分が好きでやっていることなんですから…。
趣味は、このほか、バラの栽培もありますし、中島みゆきもあるそうです。
裁判官は、鳥類にたとえればフクロウに匹敵する希少種。一般の人々は、実像を身近に知ることもなく、裁判官とは何者か、あまり知られていない。
まさしく、そのとおりです。著者より数年は後輩になる私にしても、裁判官の私生活なるものはほとんど知りませんし、聞いたこともありません。
かなり前に、裁判官は日本野鳥の会に入ることだってためらっているんだって…と聞いたことがあり、ええっ、そ、そんな…と驚きました。どうやら、著者もその一人だったようですが、著者くらいエリートだと、その点は心配しないですむのかもしれません。なにしろ最高裁の局長を経て、最高裁判官を6年8ヶ月もつとめたほどですから。
大学生のころ、著者は平澤勝栄大臣と一緒にセツルメント法相に所属していました。
裁判官としては、紛争当事者、犯罪の加害者と被害者、それぞれの悩みや人間の弱さを分かろうとする姿勢が大切だ。これは、当事者の気持ちに同調する、あるいは同感するというのではなく、心から理解するということ。
この点はまったく異論がありませんが、ややもすると、理屈を先に立てて、その要件(型)にあてはめ、あてはまらないものはどんどん切り捨てていくというは発想が強い裁判官が多いという気がしてなりません。
私は、少し前に福岡地裁の若いエリート裁判官に対して、一般民事裁判で、よほど忌避しようかと思ったこともあります。ぺらぺらと要件事実は話すのですが、事案の本質とか解決の筋道を真剣に考え探ろうとする姿勢がまったくなく、涙が出てくるほど悲しく、腹立たしい思いをしたことを今もはっきり覚えています。
これでは裁判と裁判官に対して信頼できません。裁判の経験者のうち18%しか、裁判をやってよかったと回答しなかったというのもよく分かります。裁判の利用件数が増えないのは、決して弁護士だけの責任ではありません。
(2020年8月刊。2100円+税)

弁護士になった「その先」のこと

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 中村 直人、山田 和彦 、 出版 商事法務
ビジネス(企業法務)弁護士として名高い著者が、所内研修で若手弁護士に話した内容がそのまま本になっていますので、すらすら読めて、しかも大変面白く、実践的に約に立つ内容のオンパレードです。
「企業法務の弁護士は、大半がつまらない弁護士である」、なんてことも書かれています。問われたことしか答えない、「それは経営マタ―だから、これ以上は、そっちで考えて」と知らん顔をして逃げる弁護士を指しているようです。
企業のほうからみると、大半の企業法務の弁護士は物足りない。上場会社の大半は、今の弁護士に満足していない。彼らは、常に優れた弁護士を探している。なーるほど、ですね。
昔は法務部に30年もつとめているという猛者(もさ)がいたが、今では法務担当も4年から5年でどんどん変わっていく。なので、新しい弁護士も喰い込む余地があるというわけです。
評価の低い弁護士は、結論を言わない、ムダにタイムチャージをつけて請求してくる。自己保身ばかり気にする、お金くれとうるさい…。
高い評価の弁護士は、仕事は速く、答えを明快に言い、その理由を説明してくれる。目からウロコの言葉をもっている。これまた、なーるほど、ですね。
法律論点は、事実関係の調査のあとに考えること。先に理屈を考えて、それに事実をあわせてはいけない。それでは説得力のない机上の空論になる。企業法務は、しばしばそれをやってしまう。頭のいい人の弱点。
血の通っていない主張は裁判官の心を打たない。先に法律ありきっていうのは、絶対にダメ。
楽しく仕事ができる弁護士が、一番良い弁護士。
弁護士、誰もが1件や2件くらい、気の重い事件をかかえている。いやだなあと思って逃げていると、犬と一緒で、追いかけられる。なので、気の重い事件は後まわしにしない。依頼者には正直に、そして正義に反する仕事はしない。
勝ったときには、しっかり喜ぶ。
毎日にスケジュールも中長期的なスケジュールも、自分で管理する。自己決定権をもつことが幸せの源泉。
会議は2時間以内。
書面を書き出したら一気に書く。途中で別の仕事をしない。文章が途切れてしまう。
起案するのは若手。それに先輩が深削する。そうやって学ぶ、
大部屋だと電話の受けこたえまで自然と身につく。
私よりひとまわり年下のベテラン弁護士ですが、さすがビジネス弁護士のトップに立つだけのことはある話の内容で、大変共感もし、勉強にもなりました。
(2020年7月刊。2000円+税)

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