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カテゴリー: 司法

公認会計士VS特捜検察

カテゴリー:司法

著者:細野祐二、出版社:日経BP社
 粉飾決算したとして無罪を主張しながら一審も二審も有罪となった公認会計士が、いまの司法制度を厳しく弾劾した本です。検察と裁判所だけでなく、弁護士までもが鋭く指弾されています。経理処理のあり方については分からないことだらけですが、著者の憤慨ぶりはよく伝わってくる本です。
 日本の司法は激しい制度疲労を起こしている。制度疲労は、検察官だけでなく、裁判所にも、そして弁護士にもある。
 報道記者は、なぜ真実を報道しないのか。司法記者クラブの存在、そして、99.9%の起訴有罪率のなかで、報道機関自身が本来の健全な批判精神を忘れ、逮捕すなわち有罪という予定調和に安住しているのではないか?
 検察官は取調の冒頭でこう言った。
 あなたには黙秘権がある。しかし、行使するな。黙秘権を行使することは、あなたのためにならない。今日の(任意の)取り調べについては、弁護士にも話してはならない。ところで、テープレコーダーなどを持ち込んでいないだろうな?
 否認すると・・・。
 いい加減にしろ。すべて分かっているのだ。いつまで、ふざけた態度をとっているのだ。検事の声は怒りに震えている。立ったまま大声を出し、足を踏み鳴らしながら、机の上から身を乗り出すようにして、まくし立てる。自分の大声で興奮し、その興奮で、また怒りが加速される。
 著者は高血圧のため常に水分を補給しなければ血液の循環障害が出るので、医師からはこまめに水分を補給するよう注意されているのに、飲むことが許されない。ところが、取り調べにあたった検察官は、大きな湯飲み茶碗でお茶を飲みながら取り調べをした。
 検察官は、こう言った。
 検察官面前調書は、被疑者の言うことをそのまま書くものではない。被疑者と検察官の合作なのだ。したがって、調書には検察官も署名する。
 特捜検察は時流に乗った事件の立案を求める。公認会計士の責任がマスコミをにぎわしているので、本件は立件された・・・。
 著者の勾留期間中の取り調べは、21日間、合計95.5時間にわたって行われた。190日後に、やっと保釈された。逮捕の翌日から最初の日曜日までの6日間は、徹底した脅迫で痛めつける。その後は、罵声や恫喝による脅迫は止む。その後の10日間は、シナリオにあわせた論詰に変わる。最後は、昼に自白調書への署名を説得し、夜になると強要するというパターンだ。
 21日間の勾留期間中の取り調べで、何度も、「もうダメだ。署名するしかない」と観念した。それを踏みとどまったのは、弁護士の励ましがあったから。
 判決は、検察官の論告をそのまま認め、求刑どおりの懲役2年、執行猶予4年だった。即日、控訴した。
 弁護人は、アリバイ証明のための証拠請求をしてくれなかった。
 どうせ、請求しても、検察官が開示するかどうか分からない。裁判官が証拠開示命令を出してくれるかどうかも疑問だ。弁護人は、こう言った。
 でも、やってみないと分からないではないか。著者は、こう批判します。もっともです。でも、私も、ときどき同じようなことを言うことがあります。
 日本の弁護士は、どうせ有罪に決まっているという日本の司法の予定調和のなかで、多かれ少なかれ検察官となれあい、裁判官に対する執行猶予おねだり型の弁護活動しか行わない。容疑を全面否認して検察官と全面対立する被告人の弁護においても、弁護人は裁判所の心証を良くするなどと非論理的な理屈を言い立てて、やはり無罪判決おねだり型の弁護活動を行ってしまう。これでは、検察官も裁判官も、弁護士なんか怖くない。だから弁護士は、検察官からも裁判所からも軽んじられる。なぜ法の正義と被告人の人権を全面に打ち立てた弁護活動をしないのか?
 検察官は、証人尋問の前にリハーサル(証人テストという)をやる。そして、証言が終わると、検察官の部屋で反省をする。これは、前もって証言のあと検察官の部屋に来るよう証人はクギを刺されることによる。検事の手直しを受けたうえ、丸暗記させられた。 40回ものリハーサルをやらせられた。
 要するに、この事件は、著者が捜査段階で公認会計士としての守秘義務を理由に供述調書への署名を拒否したことから、捜査当局が不当な私憤を抱き、その私憤の上に強制捜査を行ったところ、たまたま机の引き出しから100万円の現金が発見されたことから、証拠にもとづかないで逮捕したことによる免罪事件だ、と主張しています。
 著者の怒りが迫力をもって伝わってくる本です。裁判員裁判を批判する人が少なくありませんが、私は今の職業裁判官による裁判に任せていいとは思えませんので、裁判員裁判を地道にすすめていき、少しでもより良いものに改善していったほうが良いと考えています。
(2007年11月刊。1800円+税)

私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか

カテゴリー:司法

著者:島村英紀、出版社:講談社文庫
 64歳で逮捕された教授(地震学者)の書いた本です。2006年2月から7月まで、なんと171日間も札幌拘置所暮らしを余儀なくされました。その拘置所での日常生活が、ことこまかく紹介されています。
 札幌拘置所には暖房器具はない。建て替え前は、暖房もなかった。今は廊下に暖房がある。そうなんですね。だから警察の留置場(代用監獄)のほうがいいという被疑者もいるのです。悪いことをした人間にエアコンなんてぜいたくだという「素朴な」国民感情がある限り、冷暖房は難しいでしょうが、本当にそれでいいのでしょうか・・・?
 拘置所の廊下を歩くときには、真ん中を、まっすぐ前を向いて歩くことが要求される。決して拘置所に収容されている人と目を合わせてはいけない。
 昼食は午前11時すぎに配られる。昼食後は昼寝してもいい。平日だと12時半から1時間。土日と休日は、12時半から2時間。これ以外の時間は横になってはいけない。
 就床は曜日にかかわらず18時。フトンを敷いて横になってもいい時間だ。就寝は、曜日にかかわらず21時。これは、寝なければいけない時間。これ以降、起きていてはいけない。
 食事は歯ごたえのあるものは、ほとんどなく、柔らかいものがほとんど。長期収容者に歯の悪い人が多いせいだろう。比較的に低脂肪で、魚タンパク、練り製品が多い。野菜は煮たものが多い。ワカメ、昆布、ヒジキなど海草類は多い。
 塩分は多すぎで、デザートや果物が意外に多い。麦が1割ほど混じった米飯は、想像していたより悪くはない。よくかむと甘い。巨大なコッペパンも出る。焼き魚は、焦げていることが少なく、うまい。
 本は合計して98冊を借りて読んだ。
 著者は詐欺罪で起訴されました。ところが、被害者とされた北欧(ノルウェー)の大学の代表者が法廷で詐欺にはあっていないと証言したにもかかわらず、有罪(懲役3年、執行猶予4年)となりました。研究費を私的流用したという点を検察官は立証できなかったのに・・・。
 ところが、著者は控訴しなかったのです。控訴してもムダだと判断したわけです。
 その理由の一つに、札幌高裁には、有罪を乱発するので有名な裁判官がいて、その裁判官が担当する可能性が高いということがあげられています。なるほど、たしかに、そういうことも、現実には考慮されていることです。控訴したあげく執行猶予どころではなく、実刑になっては大変ですからね。だけど、司法って、そんなにあてにならないものであっていいのでしょうか・・・。
 そして、真実追究とか名誉回復とか悔しいという気持ちより、残された人生を本来やりたいことにつかったほうがよほどいいと判断したというのです。
 なるほど、それも一つの決断だと弁護士生活35年の私も思いました。私の体験でも、司法は、それほど、あてになる存在ではありません。勇気のない裁判官(もっとも、本人はあまりそのような自覚はありません)が、それほど多いのです。
(2007年10月刊。533円+税)

山と花

カテゴリー:司法

著者:福山孔市良、出版社:清風堂書店
 「弁護士の散歩道」シリーズの第4巻です。たいしたものですね。海外そして国内の旅行記を中心として書き続けている大阪の弁護士による旅行エッセイです。
 実は私も、海外旅行に行くようになって、いくつもの旅行記を自費出版しています。一番初めは今から22年前のアメリカのクレジット会社の視察旅行です。「カード社会の光と影」というタイトルで出版しました。次はヨーロッパの環境調査です。ドイツのシュヴルツ・バルト(黒い森)も調査に行きました。フランスのボーヌで初めてキールを飲み、その美味しさに感激したことを今もはっきり覚えています。ブルゴーニュのワイン街道を走りましたので、「ワイン片手にヨーロッパかけ巡り」(1987年)を刊行しました。
 旅行記といえば、このほかにもフィリピン・レイテ島に行って「レイテ島だより」(1990年)を出し、1990年夏にフランス(エクサンプロヴァンス)に40日間、家族をほっぽらかしで独身気取り語学研修に出かけ「南フランス紀行」を刊行しました。これらは本というか冊子というものでしたが、それでは旅行記として固苦しいという印象を与えることを反省し、その次からは写真集のようなものにしました。スイス(ルツェルン)に1週間ほど滞在した旅日記を「スイスでバカンスを」(1999年)にまとめ、中国のシルクロードに10泊したのを「北京・西安そしてシルクロード」(2004年)、そして、ボルドー(サンテミリオン)に出かけた10日ほどの旅を「サンテミリオンの風に吹かれて」(2005年)として刊行しました。いずれも写真を主体としたもので、読みやすい冊子にしたと自負しています。
 以上、ついつい長々と自慢話をしてしまって申し訳ありません。著者の旅日記は私の旅行範囲をはるかに超えています。ヨーロッパは山歩きです。「花を求めて一万里」という印象すら受けます。写真の腕前もなかなか見事なものです。私も、花は好きなのですが、写真をとる技術がもうひとつ未熟というだけでなく、花の名前がよく識別できません。
 著者は、ドイツの山、イタリアの山、そしてギリシャやアイルランドにまで足をのばします。いえいえ、中国にも奥地まで歩いていくのですから、たいしたものです。
 私も中国の黄山にまで行ったことがありますが、中国は、本当に底知れぬ大きな国だと実感したことです。
 そして、日本国内の旅行記もちょっぴりつけ足されています。私も、自慢じゃありませんが、日本全国47都道府県、すべて行くことができました。でもでも、まだ島にはいくつも行っていないところがあります。
 私よりちょうど10歳年長の著者に対して、これからも健康に留意されて元気に山歩きにがんばられますよう、エールを送らせていただきます。
(2008年2月刊。1429円+税)

気のむくまま 思うままに

カテゴリー:司法

著者:鈴木康隆、出版社:清風堂書店
 1967年(昭和42年)に弁護士になった大阪の先輩弁護士の随想記です。1967年と言えば、私が上京して東京の大学に入った年です。あれから、もう40年以上がたってしまいました。当時、私は田舎の因循姑息に耐えられないと思い、ひたすら東京に憧れていました。そこには、きっと自由の新天地があり、素晴らしい女性にも出会えると期待したのです。でもでも、東京はあまりにも広大無辺でした。人が多すぎるのです。私のような田舎者にとって、方言を気にすることからハンディがありました。生まれてこのかた「野蛮な」九州弁しか話したことのない私は、寮のなかはともかくとして、家庭教師先の「上流」家庭に行くと、話すだけでドギマギしてしまうのでした・・・。今でも、そのときに感じた胸の痛みをはっきり覚えています。40年という月日は遠い過去のようで、ひとたび思い出すと、つい昨日のことになってしまいます。脳の働きの不思議の一つです。
 第一章は「旅をする」です。著者はヨーロッパ旅行を何回もしています。フランスにもスペインにも行っています。スペインが他のヨーロッパの国々と異なっているもっとも大きな原因は、中世において800年もイスラムに支配される国だったとあるのを読んで、なるほど、と思いました。そして、サンチャゴというのは、キリストの12人の弟子の一人であるヤコブのスペイン名だということも知りました。
 私は40歳になったとき、毎年1回は外国へ行くことを決めました。それ以来、年に2回、外国へ行ったことはありますが、まったく海外へ行かない年はありません。やはり、Think globaly,act localy を実践するには、自分の身体を年に1回は外国に置いてみるのが一番です。
 第二章は本との出会いです。そのなかに大川真郎さんの本(『豊島(てしま)産業廃棄物不法投棄事件』)が紹介されています。世間一般には弁護団長だった中坊公平元弁護士の活躍の方が有名ですが、実は大川真郎弁護士の働きが、この取り組みを実質的に支えていたことがよく分かる本です。そして、いつも控えめな大川弁護士がNHKの「列島スペシャル」という45分のドキュメンタリー番組で2回も放映されたということを、この本を読んで初めて知りました。大川弁護士の、日弁連事務総長として、謙虚でありながらもきわめて戦闘的な言動を身近に体験した私としては、なるほど、なるほどと賛嘆した次第です。
 また、福山孔市郎弁護士が、「労働弁護士は闘う商人である」と喝破したというので、驚きました。そして、ある長老弁護士が、毎年、正月に神社に参拝するとき、「世間騒動、家内安全と祈念している」という言葉が紹介されています。それがウソかホントかはともかくとして、なるほどそうだなと私も思います。なにしろ、弁護士というのは他人(ひと)のもめごとをエサにしてメシを食っている人種であることだけはたしかなのです。ですから、モメゴトがなくなってしまうと生きていけません。でもでも、もめごとがこの世からなくなるっていうことは、今のヒト族のおごり高ぶりを見たら、ありえないとしか思えません。そうではありませんか・・・。
 楽しく、かつ、戦後日本社会をふり返ることのできるタメになる本でした。
 正月休み中に恒例の人間ドッグ(1泊)に入りました。今はホテルに泊まります。夕食はバイキングでした。家族連れで一杯でしたが、受付にいた係員の男性が流暢な韓国語を話しはじめ、韓国人の客の存在に気がつきました。ホテルは日本語のほか韓国語と中国語の表示があちこちにあります。
(2007年11月刊。1429円+税)

キムラ弁護士、ミステリーにケンカを売る

カテゴリー:司法

著者:木村晋介、出版社:筑摩書房
 『マークスの山』(高村薫)を1週間かけて精読し、公判調書を読みくだく要領で 70枚ものフセンを貼りつけ、登場人物の相関図を作成しながら読破したというのです。すごーい。それだけで感嘆しました。『マークスの山』は、私は旧版と新版と2度よみましたが、そのたびに感銘を深めるだけで、そこに矛盾があるなどと感じたこともありませんでした。ただ、実は、気がついたことが一つだけありました。登場人物が、なんと私と同世代だったということです。それを考えると、たとえ権力の上層部にいたとしても、そう簡単に事件をもみ消したり、シロをクロと言いくるめるような「権力」の行使なんて無理だよな、ということです。
 横山秀夫の『半落ち』にも挑戦しています。なぜ、被疑者は空白の2日間について真相を語らなかったのか。それを話しても誰も不利益を受けないのに・・・、という指摘は、私も漠然とした疑問を抱いていたところでした。そして、弁護士が被疑者と会うには弁護人選任届が提出されていることが要件ではない。それを著者は知らなかったのではないか、という指摘には、なるほど、そうですね、とうなずいてしまいました。
 そして、夏樹静子の『量刑』にも果敢に挑戦するのです。これには驚きました。『量刑』は、私がとても感心したミステリー小説だったからです。ところが、さすがはキムラ弁護士です。『量刑』のアラをたちまち見破ってしまいました。業務上過失致死傷罪を構成するのを落としているというのです。これは、すごいことです。
 ほかにも、いろんな本が取りあげられ、キムラ弁護士の教養の深さに感じいりながら読みすすめていきました。こんなミステリー小説の読み方もあるのですね。すごいですよね、すごいです。キムラ弁護士の眼力に比べると、私って、まだまだ弁護士力がかなり不足しているようです。でも、これで弁護士35年目に入っているのですけど・・・。少しばかり自信をなくしてしまいました。シュン・・・。
 お正月休みに庭の手入れをして、今はかなりすっきりしています。黄色い小さな花をたくさんつけたロウバイが盛りです。ほんとうにロウのような色をしています。匂いロウバイと言いますが、実は、あまり匂いは感じません。私の鼻が悪いのかもしれません。
(2007年11月刊。1400円+税)

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