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カテゴリー: 司法

なぜ弁護士はウラを即座に見抜けるのか?

カテゴリー:司法

著者:佐伯 照道、 発行:経済界アステ新書
 とても刺激的なタイトルのついた本です。大阪の佐伯弁護士は、柔和な見かけによらず、かなりの豪傑です。なにしろ、事務所に押しかけて来た2人組がフトコロにピストルを隠し持っているのに気がついても、ひるまず柔らかい会話を30分間し続けて、2人組の戦意を喪失させ、早々と退散させてしまいました。帰る途中で、2人組はピストルを試射して前を行く通行人をケガさせ、たまたま目の前にあった警察署によって現行犯逮捕されたというのです。これは並みの弁護士には、とても真似のできない話です。
 佐伯弁護士は、妥当な解決、あるべき姿、望ましい結果とは何かを考え、そこから「では、どうするか」を発想する。観念上の理想は追わないが、現実的な理想は希求するのだ。
 相手が大声で威嚇するときに、自分も負けじと声を荒げたりするのは得策ではない。挑発するような言葉や態度は慎む。怒らせないように、暴れさせないように、静かに、ぼそぼそと、言うべきことを言い、主張する。それで十分なのだ。うむむ、なーるほど、ですね。
 暴力団の事務所へも佐伯弁護士は一人で出かけました。私も、30年も前のことになりますが、地元の暴力団組長宅に行ったことがあります。怖いものですから、先輩弁護士に頼んで同行してもらうことにして、二人で行きました。玄関には虎の剥製が置いてあり、見るからにヤクザという若者が応対してくれました。お茶を運んできた女性は、いかにもアネゴ肌で、いやあヤクザ映画そのままなんだと感心してしまったことでした。その人は今やれっきとした市会議員で、公共事業を裏で取り仕切っていて、影の土木部長と呼ばれています。
 脅そうとして、まったく通用しなかった佐伯弁護士に対して、暴力団の組員は内心は強い敗北感を持っていた。夜、自宅前で二人組の男が嫌がらせのために張り番をしている。そこに帰って来ると、佐伯弁護士は「御苦労さん」と声をかけたというのです。
 ぼそぼそと言う。決して挑発するようなことは言わない。絶対に大きな声は出さない。帰ってくれ、とも言わない。何をしてくれ、とも言わない。ともかく淡々と、「お互いの不利益になることはしないようにしよう」と呼びかける。
破産管財人となって在庫一掃セールをやったとき、2億2000万円もの現金を紙袋に入れ、両手にぶらさげて帰って来た。22キロの重さだった。うひょう、私も一度は持ってみたいものです。
 弁護士のスキル・アップに大変役に立つ、しかも面白い本です。ありがとうございました。ぜひ、引き続きご活躍いただき、ご指導いただきますよう、お願いします。
(2008年12月刊。800円+税)

気骨の判決

カテゴリー:司法

著者:清永 聡、 発行:新潮新書
 いやあ、恥ずかしながら、ちっとも知りませんでした。年間500冊の単行本を読んで、それなりに物識りを自負している私ですが、私のまったく知らないことを私より2回りも若い著者に発掘されてしまうと、なんとしたうぬぼれを抱いていたことかと、耳の先まで赤く恥ずかしくなってしまいます。
 東条英機の恫喝にもめげず、大政翼賛会一色に塗りつぶそうとした選挙の無効を宣言する判決を大審院が下していたのです。すごいことですよね。軍部や右翼の暴力と圧力を跳ね返して鹿児島での現地審理を実現し、200人近い証人を調べ、直後に警視総監となった県知事まで証人喚問して追及したというのです。よほどの信念ある裁判官でなければできませんよね。しかも、選挙無効にする条文は、極めて形式的条項しかなかったのに、その趣旨に照らして無効としたのですからね。偉いものです。
 昭和17年4月に衆議院の総選挙が実施された。立候補者1079人は普通選挙が始まって以来、もっとも多かった。大政翼賛会の推薦する候補者が、そのうち466人。残る6割613人は非推薦だった。非推薦の政治家には、片山哲、鳩山一郎、芦田均、三木武夫という4人の戦後の総理(首相)が含まれている。ほかにも、尾崎行雄、中野正剛、赤尾敏、笹川良一、一松定吉、西尾末広、犬養健など多士済々だ。特定のイデオロギーを持つ人物ということではなく、政府に反発し、議会を活性化しかねない人間が排除された。
 そして、推薦候補には、国庫(臨時軍事費)から1人あたり5000円の選挙費用が支給された。非推薦候補者は、対立候補と戦うというより、政府によって組織された妨害を受けて困難な選挙戦をすすめざるをえなかった。露骨な演説会の妨害、投票妨害があった。投票率は83%で、前回より10%増。推薦候補の当選率は8割。非推薦候補も85人が当選した。多くの非推薦候補が落選させられた。
 そこで、鹿児島2区から立候補して落選した冨吉栄二は東京の弁護士を代理人に立てて大審院に対して選挙無効の裁判を起こした。事件は大審院の第3民事部に係属した。部長は当時57歳だった吉田久判事。苦労して中央大学を卒業して判事になった経歴を持つ。
吉田部長は部下である4人の裁判官を引き連れて鹿児島まで出向いて、出張尋問を実施した。このとき、吉田判事は、わたしは、死んでもいいという覚悟を決め、遺書まで書いていた。鹿児島で証人200人を調べたなかには官選知事であった鹿児島県知事もふくまれている。
このころ東条英機首相は、首相官邸で全国の裁判官を前に恫喝する大演説をぶった。
 戦争勝利なくて司法権の独立もあり得ない。戦争遂行上に大きな支障を与えるようなことがあれば、緊急措置を講じざるを得ない。
 大審院長も同じような考えであった。そんななかで、昭和20年3月1日、吉田久裁判長は、選挙無効の判決を下した。いやあ、これってすごいですよね。終戦の年の3月ですよ。最近になって、アメリカ軍の空襲のために焼失したと思われていた判決原本が今も現存することが判明したとのことです。このような気骨ある裁判官がいたことを知ると、日本の司法もまだまだ捨てたものじゃないと思わされます。
 いい本でした。著者はNHK記者とのことですが、今後の活躍を大いに期待します。
(2008年8月刊。680円+税)

少年院のかたち

カテゴリー:司法

著者:毛利 甚八、 発行:現代人文社
 マンガ『家栽の人』は本当によくできています。これが裁判官を取材せずに、まったく想像でつくられた本だなんて、驚きの一語に尽きます。
 僕は小説を書くために雑誌の世界に入った。大学(日大芸術学部文芸科)時代に数編の小説を書いた経緯から、取材する力がなければ職業として数多くの小説を書くことはできないと考えた。
 『家栽の人』は、『家裁少年審判部』(全司法労働組合。大月書店)と少年法を頼りに、前15巻のうちの最初の3巻は、まったく想像によって書いた。僕は主人公の桑田判事に「家族が大切」「子どもの気持ちが大事」という、ひどく古臭いメッセージを、さまざまな言葉に変奏して語らせ続けた。いま振り返ってみると、裁判所を何も知らない人間が描いたにしては、意外によくできていると思う。そして、現実の裁判官などに会って話を聞くと、自分が描いているような裁判官など、どこにも存在しないことがわかった。
 いやあ、そうでもないんじゃないでしょうか・・・。そして、著者は大分の少年院の篤志面接委員になったのです。ウクレレを教えたりしているそうです。すごいですね。
 少年院にいる子どもは、総じて成功体験が少ない。挑戦して失敗するところを他人(ひと)に見られるのが恐ろしい。少年院に来る子どもは隠し事をしてきた。こっそり悪いことをしているので、嘘をつくことから始まる。そこで、この業界の人間は、その点の嗅覚は発達している。
子どもたちは、もともと甘えたいという気持ちが蓄積されている。誰に対しても甘えが出てくる子どもがいる。
 この本の後半は、小説『法務教官・深瀬幸介の件』というものです。財団法人・矯正協会の『刑政』に連載されたそうですが、なかなか良くできています。法務教官の悩み、失敗、そして生き甲斐が語られ、ホロリとし、また考えさせられます。
亡くなった義父は久里浜少年院につとめていました。特別少年院だったので、大変だったようです。事務畑ですが、とても真面目な人でした。そんなこともあって、私は、法務教官とか矯正現場の人たちの日頃の大変な労苦に思わず親近感を覚えます。
 なんでも処罰してしまえばいいという風潮が日本で強まっていますが、本当に困ったことです。もっと社会が温かい心をもって犯罪に走った人に接しないと、日本はますますギスギスした国になってしまいます。
 先日、見知らぬ男性とたまたま路上で論争する機会がありました。その男性は、今の子どもたちはなっとらん。道徳教育が必要だと盛んに息巻いていました。これに対して、私は、子どもは大人社会の反映なんです。もっと大人がゆとりを持って、ゆっくり子どもと接することができるようにならないとダメでしょう。年寄りを差別したり、若者に不安定雇用を押しつけて人生の展望を奪っておきながら、子どもばかりに道徳教育なんかしたって意味はないと反論しました。その男性は、まず大人を変えないといけないということですか……と絶句し、なるほど、そうかもしれないと言って、首をかしげながら帰って行きました。はじめは会話が成り立つか不安でしたが、なんとか成り立ちました。路上といえども、やっぱり話し込むのは大切なんだと実感したことでした。
(2008年7月刊。1700円+税)

ヤメ検

カテゴリー:司法

著者:森 功、 発行:新潮社
 ヤメ検という言葉は、「正義の味方」が、「悪の擁護者」へと転落・腐敗したというイメージを伴って語られることが多いのです。いえ、元検察官で今は弁護士として素晴らしい活躍している人が私の身近に何人もいます。ただ、悪徳ヤメ検がごく一部でも生まれると、悪いイメージが拡大再生産して、独り歩きしてしまうのです。
 つい先日も、ヤメ検の弁護士が国選弁護人としての被告人への面会回数を水増ししたということが大きく報道されていました。たかだか数万円から20万円ほどの悪さを働いたわけですが、弁護士全体の社会的評価を著しく下落させてしまいました。 
 ヤメ検弁護士とは、文字通り検事をやめた検察官OBの弁護士の俗称である。昨今話題になった大事件では、必ず大物のヤメ検弁護士が被告人に寄り添い、後ろ盾になっている。
 緒方重威は、仙台と広島の高等検察庁の検事長をつとめた元エリート検事である。公安調査庁の長官もつとめた。その父親は、満州国最高検の検事であった。緒方は、若いころ、法務省の営繕課長をつとめた。このポストは目立たないが、全国に影響力がある。
 防衛庁汚職の山田洋行の法律顧問は豊島秀直弁護士。同じく、高松と福岡の高検検事長をつとめた。
 東京高検の検事長をつとめていた則定衛は、検事総長まちがいなしとされていた。ところが、女性スキャンダルを朝日新聞が一面トップで報道したため、辞職せざるを得なかった。そして、この則定弁護士は、サラ金「武富士」の弁護士をし、JALの顧問弁護士として活躍している。
 大物ヤメ検弁護士の報酬は高い。8000万円から1億円するのも珍しくない。
 大阪の加納駿亮弁護士は、大阪府の裏金調査委員会のメンバーとなったが、本人は検察庁の裏金事件の当事者でもあった。最近まで福岡高検の検事長をしていたので、福岡の弁護士にも顔が知られている人です。
 刑事事件専門のヤメ検弁護士は、用心棒のようなもの。
 検察庁をやめたばかりの無名の弁護士が、先輩のヤメ検弁護士から仕事を紹介してもらうことは多い。先輩にしても、山ほどの依頼が来るから、こなしきれない。それを振り分ける。やがて、ヤメ検弁護士が系列化していく。細かい刑事弁護は、若手に任せてしまう。
 この本の主人公の一人、田中森一について、次のように書かれています。
 もはや田中に司法エリートとしての自信は、みじんも感じられない。転落の最大の要因は、他のヤメ検弁護士と同じく、かつて対峙してきた不正との同化だろう。
不正と対決してきたはずの検察庁のトップが、弁護士になったとたんに、その不正の新玉の弁護人として、マスコミに華々しく登場するというのは、やはり異常なように思いますが、いかがでしょうか。
 この本には、そんな異常事態がゴロゴロしていることが、厭になるほど紹介されています。
(2008年9月刊。1500円+税)

加害者は変われるか?

カテゴリー:司法

著者:信田さよ子、 発行:筑摩書房
 過去に例を見ない貧困層の発生、不況脱出の掛け声とはうらはらな格差社会の進行。増え続ける子どもの虐待は、そこを行き続ける若者の希望のなさを知らないと、理解不能だ。
 なーるほど、ですね。これって鋭い指摘だと私は思います。でも、日本経団連も、自民・公明の政権も、それでよしとするのです。格差があって何が悪い。格差の存在こそ、社会発展のバネだというのです。先日、新聞を読んでいましたら、アメリカのAIGグループが行き詰まったけれど、その社長の月給は、なんと1億円だったというのです。従業員がどうなろうと知ったことじゃない。社長が毎月1億円もらって何が悪いと開き直っているそうです。ひどい経営者です。でも、今の御手洗・日本経団連は、まさにアメリカ式高給優遇の経営者を目ざしています。許せません。労働者を首切って、食うや食わずの状況に追いやっていながら、自分さえ良ければ、というわけです。アメリカも昔はもう少しましでした。経営者が超高給取りになったのは、この20年ほどの現象なのです。
 言葉も持たず、大切にされた経験もなく、ただただ年齢だけ大人になった人々。お金もなく、暴力以外に人に関わるスキルもなく、親から保護を受けた記憶もない。将来、豊かに暮らせる見通しもなく、目先の消費と快楽しか存在しない。
 子どもの虐待は、これまで、世代間で連鎖すると考えられた。しかし、今では虐待は多くの研究から必ずしも連鎖するわけではないことが明らかになっている。世代連鎖が必ず起きるという強迫観念にとらわれることはない。だから、世代連鎖という言葉は慎重に用いるべきだ、と著者は提唱しています。
 もっとも危険な親は、当事者性を持たない、つまり、虐待しているという自覚のない親たちである。子どもを栄養失調で餓死させた虐待事件の親は、口をそろえて「しつけだった」と弁解する。
子どもを殴っているとき、私を見つめる怯えた目の中に、不意に幼い頃の自分の姿を見てしまうことがある。
これは子どもを虐待していた母親がグループ学習のときに発表した言葉。
悪い夫は、良き父親にはなれない。
DV被害者の妻は、夫を許すものかという怒りと、DV被害者と呼ばないでほしいという。私が夫の被害者だなんて、そんなことは認めたくありません。だって、夫に負けたことになるでしょ。このように主張するのだそうです。
 あまりに暴力がひどいので、110番通報した妻が驚くのは、警察官が駆けつけると「妻はいま精神的に不安定でして、ご迷惑をおかけしました」と穏やかな口調で語る夫の姿だ。このようなDV夫に共通して欠けているものは、妻に対する共感と想像力である。
 痴漢常習者は、スイッチが入ってから、計画し遂行するまでのプロセス自体が快楽なのである。それは決して一瞬の気の迷いなどという刹那的とか一時的なものではない。彼らは電車に乗り込むときから、すでにスイッチが入っている。痴漢常習者は、決して対象のほうを見ていない。指と性器に神経を集中させながら、目は吊広告を見たり、電車の窓外の景色を何気なく見るふりをしている。
 うむむ、なるほど、そうなんですか・・・・・・。
(2008年3月刊。1500円+税)

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