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カテゴリー: 司法

誰が労働法で保護されるのか?

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 水谷 英夫 、 出版 LABO
 私は大学生のころ労働者階級こそが社会変革の原動力たりうると聞いて、誰がいったい変革の主体なのか、周囲を見まわしたことがあります。でも、身近には変革を志しているような人をほとんど見つけることができませんでした。
 現代日本では、労働者階級という言葉を耳にすることはほとんどありませんし、労働組合の存在感もほとんどありません。連合の芳野会長に至っては自民党と仲良くするのが先決、最優先で、共産党切り捨てに奔走するばかり。本当に見苦しいとしか言いようのない哀れさです。彼女を見ていると、労働組合なんて頼りにならないと若者が思うのも当然です。
 さて、この本は仙台弁護士会に所属する著者(弁護士)によるものですが、改めて、今日の日本社会における労働者の多様化を思い知らされました。
 ウーバーイーツやバイク便で働く人々が労働者だというのは当然だと私は思うのですが、いやいや、彼らは請負契約で働く個人事業主であって、労働者ではないとされることがあります。でもでも、会社の事業組織に組み入れられ、会社が契約内容を一方的・定型的に決めているのだから、労働法の適用対象となりうる。これが労働委員会そして裁判所の考え方です。当然だと思います。では、フランチャイズ店の店長は果たして労働者なのか・・・。
 まず、単なるコンビニの店長だと、実態として「使用従属関係」にあると認められるので、分会をつくったとき労働組合法上の労働者として保護対象になります。これに対して、フランチャイズ加盟店のオーナーは、継続的供給契約であり、ノウハウの対価として本部にロイヤリティを支払う構造になっている。となると、労働者性を認めるのは難しい。そうでしょうか?
 一人親方だって労働者になりうるし、弁護士も東京の一部の高給優遇されている人を除けば、労働者性が認められて当然。
今やカタカナ職業がものすごい勢いで増加中です。フリーランス・ワーカー、プラットフォーム・ワーカー。クラウド・ワーカー、ライドシェア従事者などなど・・・。私にはイメージの湧かない職種もありますが、このように名称も労働提供形態が千差万別そして、労働基準法の対象になるのか、どれもなかなかの難問ですよね。
 テレワークといっても、さまざまな格好で自宅において仕事するパターンです。いったいこれが労働者だと言えるのか・・・。
 この本は、質問に答えるという形式で労働法上の「労働者」とは誰なのかを、実に分かりやすく解説しています。見事な編集さばきで、とても見やすい本です。
 全国各地の図書館に常備しておくべき、その価値のある本です。出版社(渡辺豊氏)から贈呈していただきました。いつもありがとうございます。
(2024年1月刊。3300円+税)

「核兵器廃絶」と憲法9条

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 大久保 賢一 、 出版 日本評論社
 いま、世界に1万2500発の核兵器があり、そのほとんどはアメリカとロシアが保有している。しかも、1800発は、いつでも発射できる警戒即発射態勢にある。
 さらに、アメリカもロシアも、自分の国や同盟国が危なくなったと思ったら核兵器を使用することを公言している。先制不使用ではない。やられる前にやっつけてやろうという政策。
 いったい、これほど大量にある核兵器を全廃させることは可能なのか…。
 核兵器廃絶なんて夢みたいな話で、全然、実現可能性のない話だよね。少なくない人が、こう考えている。でも、夢なんかじゃないし、必ず、しかも一刻も早く実現しなくてはいけない緊急の課題なんだと、著者は力を込めて強調しています。
 まず、第一に、最高時(1986年)に核兵器は7万発あった。なので、6万発近くがすでに減っているのです。残り1万発余りだって、その気になれば「核兵器ゼロ」は決して夢物語ではありません。
 核兵器を地球上からなくそうと取り組むと必ず出てくるのは、「抑止力」として核兵器は必要だという「核抑止論」です。「使うかもしれない」と思わせて危機を盛り上げ、交渉の決定打にしようという考え。しかし、1発でも使えば、戦場だけでなく、アメリカとロシアとの間の全面核戦争になる可能性がある。
 殲滅(せんめつ)戦争に、こちらは耐えるが、おまえは耐えられないだろうというところに抑止の本質がある。しかし、それは単なる幻想でしかない。ロシアのプーチン大統領の発言によって、はしなくも核による抑止が幻想だということが明らかになった。核の脅しで外国を制御できるなんて、考えてるほうが実は馬鹿げています。
 核兵器を保有する9ヶ国が、2022年に核兵器の開発や維持のために使ったお金は11兆5500億円という巨額。これって、まったく無駄なお金の使い方の典型ですよね。こんな大金を教育や福祉予算にいくらかでもまわしたら、ずいぶん世界は住みやすい優しい社会に変わると私は思います。
 著者は「核」のボタンが間違えて押されそうになったことが過去に何回もあることも指摘しています。恐ろしいことです。しかも、それは古い話ばかりではありません。
 2018年1月18日、ハワイ当局が「弾道ミサイルがハワイに向かっている。近くのシェルターを探せ。これは訓練ではない」と市民に告知した。まったくの誤報です。本当にヒヤヒヤものですよね…。本当に核兵器だったら、シェルターに入って、どうなるものでもありません。
 オバマ大統領が広島に来たときも、すぐそばに「核のボタン」が入ったカバン持ちを同行させていた。トランプみたいな狂信的な大統領の下で、いったい歯止めがあるのかまるで心配です。
 さて、日本政府です。日本政府は、いつだってアメリカ政府の言いなり。オスプレイが堕落しても、まともに抗議もしませんでした。アメリカの「核の傘」の中に入って守られているという、ありえない幻想に浸ったまま、何ら独自の行動をとろうともしません。情けない限りです。
 今や、「終末時計」では「残り90秒」だとされています。ロシアのウクライナ侵攻戦争、ガザ地区に対するイスラエル軍の大々的な戦争が依然として進行中です。いつ、どこで、誰によって核兵器が使われるか、まったく予断を許しません。
核兵器はなくせる。核兵器に頼ってはいけない。核兵器は今すぐ全廃すべき。そんな声を高らかに上げましょう。
 核兵器は人類を破滅させるものなのです。
 日本政府は、アメリカによる原爆投下を「罪悪」ではあるが、「違法ではない」としているというのには驚きました。歴代の自民党政府の公式見解です。また、アメリカ政府も原爆投下について、今に至るまで反省も謝罪もしていません。オバマ大統領も同じなのです。
 著者は喜寿(77歳)を迎えたようです。ところが、この7年間に5冊もの著書を刊行したとのことです。相変わらず意気軒高です。今後ますますの活躍と健筆を期待します。
(2023年12月刊。1800円+税)

人道の弁護士・布施辰治を語り継ぐ

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 森 正、黒田 大介 、 出版 旬報社
 戦前、人権派弁護士として大活躍した布施辰治弁護士が亡くなって今年(2023)は70年の節目にある。
 布施辰治(1880年から1953年)は、日本国内はもとより、日本の植民地だった韓国や台湾においても尊敬されるべき日本人として知られる存在となっている。とありますが、いったい今の若い弁護士そして高校・大学生は布施辰治をどれほど知っているのでしょうか・・・。
 布施辰治は宮城県石巻市出身です。私の同期(26期)の庄司捷彦弁護士は、この本の中で何回も言及されていますが、同じ石巻出身ということで、庄司弁護士からよく話を聞かされました。
3.11のとき石巻市は大変な被害にあっています。石巻市を訪問したとき、庄司弁護士の案内で市内の被害状況を視察しました。大川小学校の被災状況を見て、思わず息を呑みました。
布施辰治は、弁護士職を天職と受けとめ、在野精神を堅持し、弁護士資格を剝奪されたり、投獄されても、屈することなく、民衆と政治的少数者の人権擁護に殉じた。
 また、布施辰治は、「死刑囚弁護士」と称されるほど数多くの重罪事件に取り組んだ。
 2004年、韓国の廬武鉉大統領のとき、布施辰治に勲章が授与された。抑圧・搾取民族の一員が被抑圧異民族の国家から表彰されるのは異例の出来事。これは、とても意義深い、画期的なことだと私も思います。
 関東大震災の直後に、罪なき朝鮮人が何千人も虐殺されたとき、それを知った布施辰治は、謝罪文を韓国の新聞に掲載したそうです。すごいことです。
 布施辰治は戦前、弁護士資格を剥奪され、投獄されたあと、「聖戦協力」したこともあったようです。生きのびるためには仕方のない状況だったのではないでしょうか・・・。
 布施辰治の遺族は、段ボール箱40個分になるほど、布施辰治に関する資料を保存しておいたようです。たいしたものです。本書には、その資料からの発掘も含まれています。
 布施辰治は普選運動に取り組み、実現すると、自らも第1回普選(1928年)のときに候補者になった(残念ながら落選)。
 布施辰治を知る人の評価に目を見張ります。
 「私は発電所を連想する。その顔から、社会活動の発電所のような感じを受ける」
 社会変革を目ざして、底辺から支え、もち上げ、押しすすめていくといったイメージですよね、きっと、これは・・・。
 布施辰治は社会主義者を自認することがなかった。それは生涯、変わらなかった。
 布施辰治は治安維持法違反に問われて起訴され、有罪判決を受けて千葉刑務所に入獄した。このときの判決文がすごいです。
 「多年、人道的戦士として弱者のために奮闘したる貫き、情熱を有する士は、ときに、その危険を冒(おか)し、あるいはこれを顧慮せずして、知らず識らずのうちに、その渦中に投するの例、必ずしも絶無なりというべきにあらず・・・」(1953年、大審院判決)
 戦前にも「裁判官の良心」が認められますよね、これって・・・。
 辺野古をめぐる裁判で那覇地裁や最高裁裁判官たちの国の言いなりに判決に接すると、まさしく絶望しかありません・・・。でも、絶望して何もしないというわけにはいきません。
 布施辰治について書かれた本を、まだまだ読んでいないというものが何冊もあるようです。大変刺激を受けました。
(2023年12月刊。1800円+税)

新・弁護士読本

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 才口 千晴 、 出版 商事法務
 著者は「倒産弁護士」として有名でした。なので、倒産法改正にも深く関わっています。法制審議会の倒産法部会のメンバーとして1996年10月から2004年11月までの8年間に、破産法の改正、民事再生法の制定等に大きな役割を果たしたのです。私も民事再生法の個人版の制定にあたっては、日弁連の委員会のメンバーとして、意見を口頭そして書面で積極的に開陳し、資料を提供し続けました。なにしろ、年間20万人以上もの自己破産申立があっていたころのことです。民事再生個人版の申立はもう少し多いかと予測していましたが、案に相違して、それほど多くはありませんでした。それでも最近、久しぶりに1件だけ申立したところ、なんとか認可されました。
 「倒産弁護士」のあと、著者は最高裁判事となり4年8ヶ月間つとめました。いくつも少数意見を書いたようです。泉徳治判事(現弁護士)と同じ第一小法廷に所属していました。
 キャリア裁判官は、結論を定めて理由付をする。これは、なるほど、そうだろうなというのが私の実感でもあります。結論が決まっていれば、その理由はいくらでも書けるものなのです。
 それにしても、最近の最高裁判決はひどいです。ひどすぎます。再審を認めなかった鹿児島の大崎事件なんて、鴨志田弁護士が結論を聞いて卒倒したそうですが、その悔しさはよく分かります。沖縄の辺野古埋立をめぐる一連の裁判にしても司法権の独立なんて、どこに行ったのか…と、泣くしかありません。これも、大先輩の田中耕太郎という元長官が砂川事件の最高裁判決を出すにあたって実質当事者であるアメリカ大使に評議内容を洩らし、その指示をあおいでいたことが明るみになっても、田中耕太郎の処分すらしない卑屈さをひきずっているからでしょう。情けない限りです。
 さて、著者は、この本によって、後進の弁護士に弁護士とは何者か、どうあるべきかを説いています。含蓄ある内容です。しかも、弁護士は10年で一人前になるということを前提として、それぞれの経験年数の弁護士からの質問に著者の経験をふまえて答えるというパターンですので、とても読みやすくなっています。
 後輩弁護士を指導するときのポイントは三つ。
 その一、後輩の疑問や意見によく耳を傾け、積極的に理解するよう努める。ただし、安易に迎合はしない。
 その二、自分の考えを後輩に押しつけない。
 その三、指導は簡潔・明確とする。
 チーム・リーダーを養成しようとするには、意欲と実行がポイント。弁護士にとって愛嬌のあることは大切なこと。依頼者に親しみの心をもって事件に真剣に取り組み、紛争を解決して心を安らかにしてあげることは弁護士の職務であり、使命。心の温かさ、真剣かつ人間的な姿を一言で表すと愛嬌になる。
 著者はストレスを抱えながら仕事をしてはいけないと断言します。いつもフレッシュな身体でいなければならない。そのためには、重たい仕事、苦しい仕事をまず処理すること。そして、仕事の悪循環を避けること。なーるほどですよね。でも、言うは易くなんです…。
 「危ない事件」からはできる限り速くひく。度胸を決め、必要な筋を通し、将来に禍根を残さない。預かった資料やお金をすぐに返却して、決然と辞任する。
 うむむ、これが難物なんですよね。でも、本当にそうなのです。悪いしがらみからさっと脱け出し、新天地で心機も一転バリバリとやるのかストレスをためないコツです。
 私よりひとまわり年長の著者は、85歳になっても以前と変わらず意気軒高そのもの。私も見習って、うしろからついていきます。
 今後ともお元気にご活躍されることを心より祈念します。
(2023年9月刊。2200円+税)

原爆「黒い雨」訴訟

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 田村 和之 ・ 竹森 雅泰 、 出版 本の泉社 
 2022年4月から2023年3月までの1年間、3800人が広島県・市から「被爆者」と認められて被爆者健康手帳を受けとった。戦後78年たって初めて「被爆者」として認定されたというのは、いったいなぜなのか…。
 その答えは2015年11月に裁判(「黒い雨」訴訟)が起こされ、一審の広島地裁(2020年7月29日に判決)、二審の広島高裁(2021年7月14日に判決)で、ともに原告が勝訴し、確定したことによる。
 放射線に被爆したとき、健康被害は直ちに発生せず、数十年もたってから発生することがある。これって恐ろしいことですよね。福島原発の汚染水による健康被害だって、急性症状がないからといって、安心はできません。「風評被害」があるだけで実害はない、なんて皮相な受けとめでしかありません。
 「黒い雨」とは、1945年8月6日に広島市に原爆が投下されたあとに発生した雨(色が黒くなかったものを含めて「黒い雨」と呼ぶ)のこと。「黒い雨」は原爆由来の放射性物質を含む雨で、放射性降下物(フォールアウト)の一種。
この本で圧巻なのは、「黒い雨」の降った地域を学者が現地に出向いて聞き取り調査をして確認し、図示していったことです。あるときは小学校の講堂に200人をこえる住民が参集して、丁寧に聞き取りして、地図に落とし込んでいったのでした。
 この聞き取り調査のなかで、「黒い雨」が2回降っていたこと、キノコ雲からの雨と、火災積乱雲からの雨の2種類あることも明らかにされました。また、土壌の残留放射能と、染色体異常についての調査だけで、「放射線の影響はなかった」と断定することの誤りも明らかにされています。
 さらに、内部被爆を隠蔽・排除する被爆者援護法の問題点が指摘されています。
 「黒い雨」の「黒」は、火球で生成された放射性微粒子群と火災による「すす」である。
 内部被爆においては、遮蔽や回避が容易ではなく、外部線量計測システムを使用して、実効被爆線量を形式的に行ってしまうと、桁違いに線量(率)を過小評価してしまう。一般に、内部被爆は低線量被爆と思われているが、放射性微粒子の摂取がからんでいるときには、局所的に超高線量被爆の状態が存在し、慢性的な細胞の発生リスクの上昇が生じている可能性がある。
 この裁判では原告84人全員が勝訴した。とはいうものの、うち15人は手帳をもらう前に亡くなった。そして、前述のとおり3800人が手帳をもらったものの、認定申請を却下された人もいて、そのうち23人を原告とする第2次「黒い雨」訴訟が提起された。(2023年4月28日)。
 したがって、「黒い雨」訴訟の目的達成はまだ道半ばというしかない。
 「黒い雨」訴訟の経過と判決の意義、そして今後の課題がよくまとめられている本です。大変勉強になりました。
(2023年6月刊。3000円+税)
 いま、庭にはフジバカマの花が咲いています。アサギマダラ(蝶)を呼び込もうと考えて、昨年から植えているのです。アサギマダラは2000キロも移動するという驚異的な蝶なので、私の庭にも立ち寄ってくれないかと期待しているのですが、残念なことに、まだその姿を実見していません。もっとも、平日昼間は私も仕事していますので、この間に来訪しているのかもしれませんが…。
 チューリップを植えていると、なぜか手元にアリが群がっていて、アリにかまれてしまいました。チクッとしたのですが、風呂に入ると、はれ出しました。それで、ドクダミ酒を綿棒につけてはれたところに塗って対処しています。

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