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カテゴリー: 司法

回想録

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 山本 庸幸 、 出版 弘文堂
 元内閣法制局長官で、最高裁判事もつとめた著者が、後任の長官に小松一郎元駐仏大使がなると聞かされたときの衝撃を赤裸々に描いています。
 著者は私より1学年だけ年下なのですが、1浪してしまったため、東大入試が中止となって、京大にまわったのでした。私も東大闘争(当事者の一人ですので、紛争とは呼びません)に関わったものとして、申し訳なく思いますが、決して私たちのせいではないと考えています。当時の政府の政治的判断なのです(実施しようと思えば実施できたと思います)。
 官房副長官から、「君には辞めてもらうことになっている」と申し渡されたのです。そこで、後任を尋ねると、「フランス大使の小松くんだ」と言われ、思わず「全身に鳥肌が立つような気がした」といいます。
 「官邸は、集団的自衛権を実現するために、この人事を考えたに違いない。かねてから最悪の事態として想定していた通り、いよいよ、来るものが来たということか・・・。ここが、まさに正念場だ」
 「私の交代劇は、大きな歴史の転換点となった」
 まさしく、そのとおりだったと私も考えています。
 「内閣法制局は、特に政界の左翼の人たちからは、とんでもない保守反動の右翼の権化のような組織と思われたもの」
 この点も、認識は一致しています。
 ところが、「内閣法制局は首尾一貫して同じ説明をしているにもかかわらず、いつの間にか、その立ち位置が、以前の右翼側から、気が付いてみると、真反対の左翼側へと動いてしまっていたのである。何という皮肉かと思った」
 これまた、認識は共通しています。
 「集団的自衛権は・・・要するに、他国から直接攻撃を受けなくとも、わが国の友好国を攻撃する国に対して、わが国が一方的に武力の行使をする、つまり戦争行為を行うことができることを意味する。これほどのことが、現行憲法九条の下で認められるとは、とても考えられないのである。どう理屈をこねても、憲法を改正しない限り、それはできないと言わざるをえない」
 いま、全国の裁判所で、安保法制が憲法違反であることを裁判所で認めてもらおうという裁判をすすめています。ところが、著者のこのような明確な認識は明らかに正しいにもかかわらず、裁判所はあれこれ言い逃れするばかりで真正面から憲法判断しません。本当にだらしない裁判官ばかりです。どこかに骨のある裁判官が一人くらいはいないものかと探し、待っているのですが、かなり絶望的です。
そんななかで、最高裁の裁判官就任の記者会見でも、著者は集団的自衛権は憲法に違反すると堂々と表明したというのです。偉いものです。こんな人がもう少し裁判所にいてほしいものです。
内閣法制局長官を経て最高裁判所の裁判官になってからも、それなりの筋を通したことがよく分かる回想録となっています。
(2024年2月刊。3400円+税)

「裁判官の良心」とはなにか

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 竹内 浩史 、 出版 LABO
 弁護士を16年間したあと、2003年4月から今も裁判官をつとめている著者が裁判所の内情をつぶさに明らかにしている本です。
 16年間の弁護士生活のなかでは市民オンブズマン活動にいそしみ、情報公開請求も取り組みました。そして青法協(青年法律家協会)の会員であり、愛知県支部の事務局長を5年間つとめました。
 裁判官になってからは、実名を出して「弁護士任官どどいつ」というブログを20年間続けています。裁判官が実名でSNS発信しているのは先日、不当にも罷免された岡口基一元判事と2人だけでした。もう1人だけ匿名で発信している若い裁判官がいるそうです。「駆け出し裁判官nonの裁判取説」です。
 著者が大分地裁につとめていたとき、村上正敏所長に呼びつけられ、ブログをしていることについて「査問」されたとのことです。この村上所長は、著者が異論を述べると、あとで「君は僕に口答えをしたね」と非難したというのです。まさしく官僚そのものの発想ですね。この所長は、その後、順当に出世していったとのこと。
 著者は民事裁判官としての「良心」は、第1に正直、第2に誠実、第3に勤勉だとしています。だから、裁判はとにかく早ければいいというものではないとしています。まったく同感です。なので、AIには裁判官の代わりはできないし、させるべきではありません。
 著者が弁護士任官で裁判所に入って驚いたことの一つは、裁判官同士の親類縁者が実に多いことを知ったことだといいます。そのうち、裁判官を目ざすのは親が裁判官だからという「家業」になってしまうんじゃないかと皮肉っています。それほど、裁判官の世界が窮屈になっているということです。
裁判で最も重要なのは、判決が正当なものであり、当事者の納得を得ているかどうかのはず。だから、裁判所で統計をとるとしたら、上訴率と判決の変更率のはず。ところが、これらは統計の対象とはされていない。ただし、私は地裁所長の裁判官評価において、この点は重視しているのではないかとみています。つまり、一審の裁判官がひどいと、控訴率は高くなるし、高裁で原判決の破棄が増えてくるからです。
現状の最高裁のひどさは私も実感しています。これは、保守的で狭量とさえいえる政治的な任命人事の結果もあって、最高裁は昭和時代へ先祖返りをしている。そして、弁護士出身の最高裁判事が今や第一東京弁護士会の超大企業顧問弁護士ばかりがほとんど独占していて、いつだって自公政権言いなりの判断しかしていない、このひどさも目に余ります。
 現職裁判官の熱血あふれる内部告発の本です。大いに共鳴しながら、最後まで一気に読み通しました。あなたもぜひご一読ください。
(2024年5月刊。2300円+税)

続・農家の法律相談

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 馬奈木 昭雄 、 出版 農文協
 私は読んだことがありませんが、『現代農業』という雑誌があるそうです。全国の農家を対象とする業界誌なのでしょう。
 そこで著者は、32年の長きにわたって農家から届くトラブル・悩み事に対し、誌上で回答しているのです。その長さに驚かされます。
 もっとも、私も民商(民主商工会)の全国機関紙である「全国商工新聞」に月1回の法律相談のコーナーを1989年7月から担当して35年になります。新聞のコーナーですから、短い文章で、いかに分かりやすく回答するか、いつもない知恵をふりしぼっています。
 この本は15年前に同旨の本を著者は刊行していますので、その続編になります。最近は民法も次々に改正されていますので、回答した時点では正しくても現在の出版時では間違いになったりもします。そこは若手の吉田星一弁護士がチェックしていますので、安心です。
 さて、内容です。さすがに農家からの質問ですから、農地、生育環境と農薬にかかわるもの、農事組合法人や土地改良区をめぐる問題など、農家をめぐる諸問題についての百科全書みたいに、かなり網羅的な内容になっていて助かります。
 手元に1冊置いておくと、農家の皆さんはきっと安心されることでしょう。
 私がまず関心をもったのは農薬です。自家消費の野菜のほうは無ないし低農薬にしているけれど、商品として出荷するものは、許される限度までふんだんに農薬を使用しているというのはよく聞く恐ろしい現実です。
 隣の農家がネオニコチノイド系の殺虫剤(スタークル)を散布したためミツバチが死んで、生物栽培に影響が出ているので損害賠償を請求したい…。当然に請求できるわけです。
 同じように、隣人が勝手に畑の法面(のりめん)に除草剤をまいたというのも違法行為として賠償請求できます。
 この本で厄介な問題だ、難しいという回答が多いのは、村落共同体の一員として今後も生活していかなければならないときです。馬奈木弁護士も「法的解決」では解決しないと回答しているのがあります。
 問題点を周囲の人に具体的に説明して、仲間を増やすという「努力を地道に続けるしかない、そんなことも世の中では多いと私も考えています。
土地改良地域内に農用地を所有していたら土地改良区は法律によって、強制的に加入させられる。うひょお…、そうなんですか、ちっとも知りませんでした。
 農家には、専業か兼業かを問わず、役に立つ1冊であることを私が保証します。ぜひ買って読んでみてください。おすすめします。
(2024年2月刊。2200円)

腐敗する「法の番人」

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 鮎川 潤 、 出版 平凡社新書
 日頃、気になりながら、つい忘れかけていたことをいろいろ思い出させてくれる新書でした。
 まずは警察とマスコミの関係です。新聞・テレビを漫然とみていると、なんだか日本の社会は凶悪犯罪が次々に起こり、犯罪が増えて治安が悪くなっていると思わされます。
 ところが、実際には、以前は毎月1件以上は国選弁護事件を担当していましたが、このところ、年に1回あるかないか、です。被疑者弁護事件はときどき担当していますが、ともかく犯罪が圧倒的に激減しました。これは全国共通の現象です。
 殺人事件は戦後最低件数を更新しています。犯罪の認知件数はピーク時の3分の1にまで減っているのです。ところが、その事実を多くの国民が知ったら、警察の人員や予算を減らせという声が湧きおこりかねず、また、警察幹部の天下り先の確保が難しくなってしまいます。それで、「日本の治安はこんなに悪くなっている」と日本人に思わせるよう、警察はマスコミを操作しているのです。
 警察白書を発表するとき、警察は見出しの文句まで用意しておくそうです。いやはや、それをそのまま垂れ流すマスコミも、どうかと思ってしまいます…。
 今、高齢者の犯罪はたしかに増えています。それはスーパーやコンビニでの万引事件です。そこには病的な面もあるわけです。万引を繰り返していると、確実に実刑になります。コンビニで100円ほどのおにぎりを万引きして、常習累犯(るいはん)窃盗として、1年間も刑務所に入れておくことになるのが、珍しくありません。いったい、それにどれだけ意味があるでしょうか。なにしろ、1人を1年のあいだ刑務所に入れて国が面倒みると300万円もかかるのです。まるで費用対効果にあいません。
 刑務所の収容者は急速に高齢化しています。65歳以上の人が男性で1.4%(1990年)だったのが、13%(2020年)、女性は1.7%(1990年)だったのが、19%(2020年)に激増しているのです。そして、重罰化・長期刑化のなかで、刑務所の医療は、病気治療だけでなく、終末医療まで求められているといいます。だから、介護・福祉だけでなく、終末医療も必要というのです。驚くべき現実です。
 万引事件が増えたのは、防犯カメラの設置が増えたことにもよるといいます。コンピューター・システムの発達は「犯罪増加」にもつながっているのですね…。
 警察の裏金が大きな社会問題となりました。今ではまったくなくなったのでしょうか。とてもそうは思えません。勇気ある現職警察官による内部告発によって明るみに出たことでしたが、今もひそかにやられていないと果たして断言できるでしょうか…。
 ともかく、警察の裏金は図体がでかいために、ケタ違いでした。検察庁でも裁判所でも裏金づくりはやられていました。それはカラ出張によって旅費を浮かせているのが主流でした。しかし、公安警察ではスパイへの報償金という仕掛けがあります。スパイですから氏名を秘匿した人に支払うわけなので、それを担当刑事が着服していないか、誰もチェックできないのです。この手法を使えば、いくらでも裏金をつくり出すことができます。
 警察がスパイをつかっていないはずはなく、その報償金が明朗会計になっているはずもないのですから、今でも警察では裏金が公然と横行していると私は考えています。でも、よく考えてください。それって、業務上横領事件です。しかも、税金ですから、被害者は国民、つまり私たちなのですよ…。犯罪を取り締まるはずの役所が自ら犯罪しているとしたら、大問題です。
 検察、そして裁判所についても、その「腐敗」を鋭く暴いている真面目な新書でした。
(2024年2月刊。980円+税)

大江戸トイレ事情

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 根崎 光男 、 出版 同成社
 ヨーロッパでは畑の肥料として糞尿をまいたら、大根などの野菜を生(ナマ)で食べるなんて人々の衛生観念から考えられもしませんでした。ところが、日本では、同じように育てた大根を生でも食べているのを見て、ヨーロッパ人が驚いたということです。
 私の子どものころ、農村地帯に行けば、畑の一隅に肥料とするための糞尿ためがあちこちにありました。間違って、そこに足を突っ込んでしまうという悲劇も日常茶飯事に起きていました。私も経験したような気がします。表面は乾燥しているので、地面そのもので区別がつかないのです。
 江戸時代の初期には、町の糞尿は邪魔物でしかなかった。ところが、江戸中期以降、生鮮野菜を育てて江戸に供給する必要から、肥料として江戸の糞尿が注目されるようになった。つまり糞尿が下肥として商品価値を帯びるようになった。
 すると、糞尿を引き取りたい江戸周辺の農村ではお金を出して確保するようになった。でも、値段が上がるのは困る。そこで、農村側は下肥値段の値下げを運動として取り組んだ。そこに、一部の農民が抜け駆けをして、少しでも下肥を多く確保しようとする。なので、都市と農村側とでは、ずっとその交渉が続いた。
 その交渉のあいだに立ったのが町奉行所であり、関八州取締役だった。関八州取締役というのは、ヤクザを取締って治安を維持するという仕事だけではなく、下肥(糞尿)の取引にも介在していたのですね。
 昔は、百姓は「モノ言わない存在」というイメージでしたが、実のところ、どうしてどうして、町や奉行所に対して、自分たちの要求を通そうとして、いろいろ運動していたのです…。もちろん、そこでは、読み書きが出来ることが必須でしたが、そこは心配なかったのです。寺子屋はあるし、従来物と呼ばれるテキストを学ぶと、当局への嘆願書や訴状の見本があるのですから…。
 江戸時代、江戸には各所に公衆便所が設置されていました。朝鮮通信使が江戸に来たときには臨時の便所が設置されました。
 そして、この公衆便所には落書きもあれば、なんと広告まで貼られていたのでした。
 ちなみに、便所の周辺に赤い実をつける南天の木がよく植えられていますが、それは、「南天」が「難転」、つまり「難を転じる」から、火難よけになると信じられていたからだというのを初めて知りました。
 京阪では、人糞の売却代金は家主の収入で、小便のほうは借家人の収入とされた。
 ところが、長屋の共同便所を管理している江戸の家主は、その糞尿の売却代金の全部を自分の収入としていた。
 当時の江戸の人口は、町人が50万人、武家たちが50万人、合計100万人をこえていた。すると、糞尿(下肥)の代金総額は3万5千両を超えるものだった。たいした金額ですよね、驚きました。
 よくぞここまで調べあげたものだと感嘆しながら読みすすめました。
(2024年1月刊。2400円+税)

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