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カテゴリー: 中国

レッド・ルーレット

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 チズモンド・シャム 、 出版 草思社
 「私が陥った中国バブルの罠」がサブタイトルの本です。そして、「中国の富・権力・腐敗・報復の内幕」とも表紙に書いてあります。
 著者は目下、行方不明の元妻ホイットニーとともにバブルの波に乗って、大もうけして、ぜいたくざんまいをしていました。まさしくバブルの申し子です。車は、ロールス・ロイス、そしてフェラーリ。40歳の誕生日のプレゼントは50万ユーロのスイス製腕時計。ホイットニーは、香港で1500万ドルのピンクダイヤモンドを買った。絵画も500万ドルのものをポンと買う。そして、プライベートジェット機でフランスに飛び、超高級レストランで、ロスチャイルド家のワインを飲む。1900年に始まる年代物のワイン。そのワイン代だけでも10万ドル(1000万円)を超える。
 野心をもった官僚は1晩に3回、夕食の席に着く。1回目は5時に始まり、要望や信頼のある下位の人々が中心。2回目は6時半に始まる。上位の人々や政治的同輩のための場。3回目は8時から、気心の知れた人々を集めてのもの。
 中国で本当に成功するのは、「関係」(クワンシ)、つまり体制とのコネを持っている人だけ。中国で成功の扉を開くためには、二つの鍵が必要。一つは政治的な影響力。中国で起業家が成功するのは、共産党と利害が一致したときだけ。誰であれ、体制の内部に後援者が必要。二つ目には、チャンスがめぐってきたときの実行力。
 中国で肝心なのは、何をしたかではなく、誰と知りあいかだ。
 中国共産党の中央組織部のなかには、青年幹部局があり、党幹部は息子・娘に政府や党での高い地位を確保するようにしている。これは知りませんでした。太子党は党によって育成されているのですね。
 中国では、もっとも裕福な100人のうち3分の2が毎年、入れ替わっている。投資の失敗、経営判断の誤り、犯罪、政治的動機による告発、影響力を失った党内派閥と手を結んでいたとき…。リターンは非常に大きくても、いつ足元をすくわれるか分からない。
 中国で最大級の取引がしたいなら、力のない人間だと思われてはいけない。見栄を張るのも、ゲームの一部だ。
 中国では、車のナンバープレートも重要なステータスシンボル。
 情報が厳しく管理され、恐怖が体制に浸透している中国では、十分に注意する必要がある。中国では、コネが生活の基盤になっているので、競争相手になるかもしれない人々や世間に自分のコネを知られたくないのは当然。
 中国の官僚社会では、酒を飲むことと、食べることが中心となり、それができることが重要なスキルとなる。
 中国は資本主義化したと言われているが、経済の重要な側面は、すべて国家によって管理されている。中国では、あらゆる重要なプロジェクトは国家発展改革委員会の承認を必要とする。中国では、規則は意図的にあいまいに作られていて、しょっちゅう変更され、いつも遡及して適用される。
 習近平について、よく知る人は、彼の能力は水準にも達していない。彼には学がないと評価されていたとのこと。
 ホイットニーは温家宝の妻と親密な関係を築くのに成功したのでした。
 現代中国の内情を体験者が暴露した興味深い本だと思いました。
(2022年9月刊。税込2860円)

地図と拳

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 小川 哲 、 出版 集英社
 戦前の満州を舞台とする小説です。630頁もある大作なので、読みはじめてから読了するまで、珍しく1ヶ月もかかってしまいました。
 ところで、驚くのは、オビのキャッチフレーズです。「日本SF界の新星が放つ、歴史×空想小説」とあるではありませんか。ええっ、これがSF小説なの…。私には信じられません。私は満州を舞台とする小説だと思って読んだのに、「歴史・空想小説」だなんて…。そんなこと言ったら、歴史物は、みんな「空想小説」ですよね。
 つまり、たとえば主人公の武将が何を言ったか、どんなことを考えていたのかなんて、みんな作者が空想(想像)したに決まっています。それを、いかに真に迫ったものとして読ませるかに、作者の筆力がかかっているわけなんです。そして、それを私も日夜、精進しているつもりなのです。
 そして、もう一つ驚いたのは、こんな部厚い大作が6月に初版が出て、9月には第三刷だというのです。いったい、SF界では、著者はそれほど有名人なんですか…。ちっとも知りませんでした。
 まあ、ともかく満州を舞台とする本を、私は今、一生懸命に集めて読み込んでいるところです。というのも、私の叔父(父の弟)が、日本敗戦後の戦後、八路軍の要請にこたえて紡績工場の技師として働いていたのですが、国共内戦のさなかでしたので、満州各地を転々と放浪していました。それを叔父の手記をもとにして、それこそ歴史小説にしたいと考えて挑戦しているところなのです。
 この本のすごいところは、満州を舞台としているのですが、なんと、序章は1899年に始まるというところです。日露戦争(1894年)の5年後です。満州の利権を狙って外部勢力としてロシアと日本がつばぜりあいを初めている状況です。いやあ、すごいです。
 そして、1901年、1905年、1909年、1923年、1928年、1932年、34年、37年、38年、39年、41年、44年、最後に45年になります。これだけ細かく経緯をたどるというのは、並大抵のことではありません。完全に脱帽です。大変勉強になった「SF小説」です。
(2022年9月刊。税込2420円)

三国志名臣列伝・魏篇

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 宮城谷 昌光 、 出版 文芸春秋
 著者の中国古典ものはかなり読んでいますが、いつも、その豊富な知識量に圧倒されてしまいます。もちろん著者の尽きせぬ想像力も大きいのだとは思いますが、登場人物の性格描写をふくめて、ことこまかな情景描写によって、頭の中に宮城谷ワールドをこつ然と思い浮かべることができるのです。すさまじい筆力です。
 ときは三国志の時代です。ですから曹操や劉備などがもちろん登場します。でも、本書は「名臣列伝」ですので、彼らを支えた「名臣」たちが次々に登場して目の前で大活躍します。
 曹操の奇策や奇襲は、兵法書を読んで発想したのではないか、そう考えている曹真に対して、曹遵は、「兵法書なんか読むな」と言った。兵法書には、薬もあるが、毒もある。主(あるじ)の才能は、そこから薬を取り出すことができること。主の才能に及ばない者は、かえって毒にあたって、兵を失い、身を滅ぼしてしまう。
 戦場は臨機応変の場だ。知識をひけらかす場ではない。兵法書の教えにしばられた者は叩きのめされることがある。戦場は巨大な生き物の背に乗っているようなもので、刻々と変わる戦に勝つためには、軍をひとつの大家族にする。兵士を弟や子のようにいたわり、結束を強靭(きょうじん)にし、しかも将軍の手足のように使えるようにする。すると、兵士は将軍を父のように仰ぎ、水も火も恐れずにすすむ。
 そのためには、兵士が食べ終わるのを待って、将は食べはじめる。兵営に戻るときも、兵士を先に入れる。就眠についても、すべての兵士が眠ったあと、将は眠る、
 いやあ、そこまでやるものなんですね…。
 相手を説得するときに用いる言葉には、適度な重みと浸潤(しんじゅん)性があり、相手の胸の深いところに届く。その言葉は人格から発し、信念の強さをともなっている。
 うむむ、相手を説得するには、こんな要素が欠かせないのですね…。
 『三国志』を久しぶりに読みたくなりました。血、湧き、肉、踊る。冒険小説のように、ひところ、はまってしまいました。私の中学生のころだったでしょうか。
(2021年9月刊。税込1870円)

虹色のトロッキー

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 安彦 良和 、 出版 中公文庫コミック版
 戦前、日本は中国東北部を「満州国」として「独立」させて支配していました。そのとき、日本軍部は日本政府と対立・抗争する関係にあり、日本軍部のなかでも暗闘が繰り広げられていました。それぞれの思惑が微妙にからみあって、難しいバランスの下で「満州国」は成り立っていたのです。
 そして、「満州国」には、相当数の白系ロシア人がいました。ロシア革命によって、ボリシェヴィキ・ソ連共産党から追われ、また嫌ってロシアの地を離れて中国に入りこんできたのです。日本軍の一部に、そんな白系ロシアの反共勢力と結びつこうとする動きがありました。本書の「トロッキー」は、そのような動きを象徴するものだと受けとめました。
 1巻から読みはじめて、8巻までを読了するのに、マンガ本なのに1ヶ月近くもかかったのは、満州国をめぐる複雑怪奇な動きを理解するのに骨が折れたからです。
 それにしても、私とほぼ同じ団塊世代の著者のストーリー展開は見事なものですし、絵もよく描けていると驚嘆するばかりです。
 満州に満州国エリート層を養成するための「建国大学」があったことは、このマンガ本シリーズを読む前に知りましたし、このコーナーでも紹介しています。「エリート養成」が看板ですから、思想的な締めつけはほどほどにしておく、つまり、かなりの自由主義教育がすすめられていたようです。でも、しょせん、軍部支配下での「自由」でしかありませんでした。
 満州国の首都は新京と名づけられ、近代的な大通りと豪層な建築物が立ち並びました。現在の長春です。
 そして、ハルビンには郊外に七三一部隊の本拠地があり、3000人以上もの罪なき人々をスパイ容疑などで捕まえ、人体実験の材料(「マルタ」と呼びました)とし、その全員を殺害・焼却してしまったのです。
 満州国で幅をきかせたのは、石原莞爾、甘粕正彦、東条英機そして辻政信らがいます。
 辻参謀は、ノモンハン事件においても、甚大な被害を日本軍にもたらしました。
 ノモンハン事件においては、ソ連軍の圧倒的な軍事力の下で、日本軍(関東軍)は、みじめに敗退していったのでした。
 モンゴル人将軍と日本人青年の出会いと結びつきの強さも登場します。いかにもスケールの大きな、ストーリー展開でした。
 それにしても、8巻シリーズという長編を完結させた著者のすごい力技(わざ)に脱帽します。
(2019年4月刊。各税込692円)

日本人が夢見た満洲という幻影

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 船尾 修 、 出版 新日本出版社
 私は幸いにして大連に行ったことがあります。1回目は旅順には立入れませんでした。2回目で日露戦争で有名な203高地にものぼりました。「のぼった」といっても、歩いてではなく、観光バスです。頂上には「爾霊山(にれいざん。二〇三)」と揮毫(きごう)された実弾型の記念碑が今もそびえ立っています。この頂上から日本軍は当時もっていた陸軍最大の二八センチ砲で、旅順港内に停泊していたロシア艦船を砲撃したのでした。
 私は訪れていませんが、旅順刑務所が建物としてそっくり残っていて一般公開の博物館になっているそうです。ここは、ハルビン駅で枢密院議長だった伊藤博文を暗殺した安重根が収容され、刑死したところでもあります。安重根は今では朝鮮の英雄です。中国でも、「抗日烈士」とされています。
 なぜ伊藤博文が満州のハルビン駅まで行ったのか…。ロシアの外務大臣と満州分割を協議するためでした。二つの帝国が自分勝手に中国を分割して統治しようとしたのです。そんなことは許さないとした安重根の暗殺行為が称えられるのには理由があります。
 奉天も長春(新京)も行ったことはありませんが、日本は満州国統治の過程でどでかい道路と広場をつくり、高層建築物を次々につくっていったようです。しかも、驚くべきことに、中国は、そのまま、多くの日本式建物を残して、今も使っているのです。
 満州国というのは、たかだか13年半ほど存在した「国」にすぎない。
 かつての官公庁の建物は巨大で威圧感がある。ただ、デザインが独特で、美しい。これほどたくさん残っているとは思いもよらなかった。いやあ、著者の撮った豊富なカラー写真が、それを実感させます。
 関東軍の「関東」とは「関」の東側。「関」とは、万里の長城の東端である山海関の東側に位置するということ。
 遼東半島は関東州と名づけられたが、ここは満州国の一部ではない。日本の租借(そしゃく)地という名の領土であった。
 満州(マンジュ)は、文殊(モンジュ)に由来する。文殊菩薩(ぼさつ)は、チベット仏教を信仰する女真族がなかでも崇敬していた。
 清朝の太祖はヌルハチといい、女真族と名乗っていた。その息子ホンタイジが民族名を満州族と改めた。その民族発祥の地を盛京と呼び、その後、奉天、現在の瀋陽となった。
 日本軍に爆殺された張作霖の息子の張学良は満鉄に平行(併行)した鉄道を敷設した結果、満鉄の経営は悪化した。ええっ、満鉄と併行した線路に列車が走っていたというのは初耳でした。満鉄に走っていた特急のアジア号はいかにも格好よいですよね…。
 満州国が日本のカイライ政権であることは明々白々でした。それでも、20ヶ国と国交を結んでいたというのにも驚かされます。南京国民政府も国交を樹立したというのですから、開いた口がふさがりません。そのうえ、国交がなくても、アメリカもイギリスもソ連も満州国に領事館を置いていた。いやあ、そうだったんですか…。
 ちなみに、現在の北朝鮮と国家を樹立している国は164ヶ国もあるとのこと。これまた驚きです。
 私は大連には行ったことがあります。人口600万人という巨大な大都市です。
 戦前は数万人ほどの小都市でした。大連の人口は終戦時に60万人、そのうち20万人を日本人が占めた。そして、満鉄がありました。満鉄の社員は総数40万人。現在のトヨタ自動車の社員が36万人なので、それより多かった。これまた、意外や意外の大きさです。
 この本で、満州国には国籍法がなかったことを知りました。つくれなかったのです。「五族協和」として、満州人、漢人、蒙古人、朝鮮人、そして日本人です。でも、白系ロシア人も大勢いました。日本は二重国籍を認めていない。だから満州国籍を選ぶと、日本国籍を失ってしまう。でも、日本人は、そんなことはしたくない…。なので、国籍法は制定しなかった、というのです。
 満鉄社員は、月給が高いだけでなく、遠隔地手当が充実していて、住宅も提供され、日本企業として破格の待遇だった。
  幻の満州国を今も残る豪壮な建物の写真とともにかえりみる貴重な本でした。
(2022年7月刊。税込3080円)

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