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カテゴリー: アラブ

サウジアラビア

カテゴリー:アラブ

(霧山昴)
著者 高尾 賢一郎 、 出版 中公新書
サウジアラビアって、どんな国なのか、行ったこともありませんし、これから行くこともないでしょうから、とんとイメージが湧きません。それで、手軽な新書を読んでみたというわけです。
サウジアラビアはアラビア半島の大部分を領土とする王制国家で、日本の原油輸入量の3割強を供給する産油大国。また、メッカとメディナという二大聖地を擁するイスラーム世界の盟主とされている。
イスラームは、ユダヤ教やキリスト教と同根のセム系一神教である。
イスラームという宗教は、ムハンマドに啓示を授ける以前から存在し、ムハンマドが開祖というわけではない。ムハンマドは、自らを最後の預言者と表明していた。また、預言者のうち、神から授かった啓示を人々に伝える役割を負った者を使徒と呼ぶ。したがって、ムハンマド以降は、預言者も使徒も存在しない。
サウジアラビアには、数千あるいは数万とも言われる多数の王族が存在する。このため、サウジアラビアの王室は、親族のあいだで、いかに権力を分散させ、共存するかを課題としてきた。
さらに、サウジアラビアは建国当初より王室は宗教を職掌としてこなかった。サウジアラビアは政教一致国でありながら、政治権威と宗教権威を厳密に分ける政権分離国家でもある。
ムハンマド・イブン・サウード初代国王の子孫をサウード家といい、4500人もいる。この王族のなかにも権力の中枢にいる人と、そうでない人がいる。
そして、シャイフ家という宗教の名家が正統性を与えることで、王制が維持されてきた。
サウード家は、自らの権威を強化するためにシャイフ家と婚姻を重ね、さらには、アラビア半島征服の過程で、各地の有力部族の顔役とも婚姻を進めることを支配の方法とした。
アラムコを国営企業としたことで、サウジアラビアは国有財産としての石油の収益を一手に握り、これを国庫に収めることで国家財政を潤してきた。石油部門による収益は、国家歳入の7~8割、GDPに占める割合は1979年に87%超だった。
この潤沢な資金によって、政府は国民に税金を課さず、一方で手厚い福祉や補助金政策を用意することができた。
サウジアラビア人労働者の3分の1は、公務員、公共部門の労働者の7割を占める。逆に、民間部門に働く人が少ない理由は、産業の少なさにある。
サウジアラビア国内のシーア派は人口の10%強。シーア派はワッハーブ主義からみて異端と呼べる存在。スンナ(スンニ)派は、預言者ムハンマドの言に従う人々。これに対してシーア派は「従わない人々」の筆頭。
9.11の首謀者としてアメリカに暗殺されたオサマ・ビン・ラディンは、サウジアラビアの大手ゼネコンのビン・ラディン・グループの経営一族の出身。ただし、サフワの主流だった知識人層には該当しない。
世界には、さまざまな国があり、多様な考え方が存在することを実感させてくれる本でもありました。
(2021年11月刊。税込902円)

中東テロリズムは終わらない

カテゴリー:アラブ

(霧山昴)
著者 村瀬 健介 、 出版 角川書店
「イスラム国」(ISI)が2人の日本人を殺害したのは2015年1月末のことでした。まだ5年しかたっていませんが、なんだか昔のことのように感じられます。それほど、日本では中東のことはニュースにならないし、何が原因で、どんなことが起きているのか、十分に知らされていないと思います。この本には足をつかって中東の実情をつかみ、私たちに知らせようとするものです。
シリアやイラクなどの中東で、今やアメリカのコントラクターが「活躍」している。
コントラクターとは、アメリカ政府が発注する軍事関連の仕事を請け負う退役軍人のこと。その多くが元特殊部隊といった、高度の軍事スキルを身につけていて、アメリカの民間軍事会社に所属している。
アメリカ軍の展開する兵力規模には含まれないので、アメリカ国民向けには都合がいい。しかし、現実には、作戦現場では、アメリカ軍兵士よりもコントラクターのほうが多かったりする。今や、コントラクターがアメリカの安全保障政策を与える不可欠の存在となっている。というか、今ではアメリカは、コントラクターなしには軍事作戦を遂行できなくなっている。
いったい、これで現場の作戦指揮命令系統に矛盾は起きないのでしょうか…。
そして、シリア内戦の影響から、兵器産業は好景気に沸いていた。シリアの反体制派に兵器を供与していたサウジアラビアやトルコ、アメリカなどが兵器を調達していたのはブルガリアなどのバルカン諸国だった。バルカン諸国で大量に買い付けられた兵器は、いったんトルコやヨルダンに運ばれ、そこからシリア国内の反体制派武装組織に渡った。
著者はTBSの中東支局長として、ギリシャにたどり着いた難民ボートも取材しています。大変な苦労があったようです。
難民は1人あたり12万円から24万円を密航業者に支払っていた。そこには難民でもうける難民ビジネスが存在していた。
アメリカは2003年のイラク侵攻によって、フセイン政権というスンニー派の政権を打倒して、シーア派の政権を誕生させた。隣国のシーア派大国イランは、その長年の悲願を敵国アメリカがやってくれたことを信じられない思いで見ていた…。
イランのスレイマニ司令官(アメリカがドローン攻撃で殺害した)が殺されたときにイラクにいたのは、イラン革命防衛隊の息のかかったイラクのシーア派民兵組織を指導するためだった。今では、イラク政治においてイランは大きな影響力をもつに至っている。このことに貢献したのは、実は、他ならぬアメリカだった。
2003年のアメリカによるイラク侵攻は、イラクに大量破壊兵器ないし生物兵器があるというイラク人化学者の「告白」を根拠としていた。しかし、この「告白」をした人物は、とんでもない嘘つきで、もともと信用できない人物だった。このスキャンダルによって、大統領候補とまで言われていたパウエルは急に失速した。
カーブボールと名づけられたイラクの「化学者」は、ドイツでより良い待遇を受けるために作り話をし続けたのだった。相手の興味をひく物語を語り続けている限り、クスリと酒を飲んで快適な生活が得られたのだ。
著者たちは、生物兵器の製造工場だったというところまで現地を見に行ったのです。なんという取材でしょう。ある意味で生命がけの取材だったようですが、見事、「告白」がウソだったことを裏付けたのでした。
大量破壊兵器疑惑は世論に戦争を売りつける手段だった。こんなウソをまともに押しつけられ、貴重な税金がアメリカの軍需産業をうるおしているかと思うと、被害にあった人々の怒りを全身に受けとめ、戦争反対の声をもっと大きくしなくてはいけないと痛感するのでした…。
(2020年3月刊。1500円+税)

人質の経済学

カテゴリー:アラブ

(霧山昴)
著者 ロレッタ・ナポリオーニ 、 出版  文芸春秋
誘拐がビジネスになっている、そのことがよく分かる本でした。
そして、誘拐がジハーディスト組織を育てているのです。さらに悪いことは、そんな誘拐ビジネスを生み育てたのは、アメリカ軍であり、それに追随した欧米諸国なのです。ですから、日本だって、その責任を分担する義務があるということです。
9.11以来、誘拐件数は飛躍的に増え、身代金の要求額もうなぎ上りになっている。
2004年には、200万ドル払えばイラクで誘拐された欧米人を解放することができた。今日では、1000万ドル以上も支払わされることがある。
欧米人の人質予備軍は無限に存在している。政府と交渉人は、自国の市民を解放しようと躍起になる。その結果、情報提供者から手配師、ドライバーに至るまで、値段は押し上げられる。
9.11が起きるまでは、世界の麻薬取引の大半は、アメリカで洗浄され、クリーンな米ドルに替えられていた。麻薬取引の80%」は、ドル建ての現金決済だった。そのドルをアメリカ国内に運び込む主なエントリーポイントになっていたのは、西インド諸島にあるオフショア金融機関や偽装銀行である。だが、9.11のあとにアメリカが制定した愛国者法によって、このプロセスは不可能とは言わないまでも、きわめて困難になった。
アメリカの金融当局には、世界中のドル取引を監視する権限が与えられた。したがって、アメリカの銀行やアメリカに登記した外国銀行は、世界のどこであれ疑わしいドル取引に気がついたとき、それをアメリカ当局に通報しないと刑事罰に問われる可能性がある。
コロンビアの麻薬カルテルは麻薬ビジネスであげた利益をアメリカ国内で洗浄できなくなっただけでなく、アメリカ当局に気づかれずに、そして誰からも通報されることなく、利益をある国から別の国へ移し、世界のどこかでどうにかしてドルの洗浄をやってのけなければならない。
この問題を解決したのが、イタリアの犯罪組織と手を組むこと。南米とイタリアの犯罪組織が手を組んだのは、ヨーロッパには愛国者法のような法律がなかったから。ヨーロッパにとって、文字どおりマネーロンダリング黄金時代が到来した。
麻薬カルテルは、ベネズエラと西アフリカに目を付けた。麻薬ビジネスは途方もなく、もうかる。
古い密輸ルートが再発掘された。これで活性化した密輸業者が、もう一つの禁制品である人間という商品に手を出すようになった。この商品には二種類ある。一つは、身代金目当てで誘拐される外国人。もう一つは、ちゃんと料金を払える難民。
いったんやり始めると、誘拐はすぐに麻薬の密輸を上回る利益をもたらした。
外国人の誘拐がひどくもうかることが分かると、アフガニスタンのアルカイダは、がぜん誘拐に熱心になり、傘下のジハーディスト集団にも、誘拐をやれと奨励するようになった。
どの国の政府も、実は、人質に優先順位をつけている。そして、人質ごとに、払ってもよい金額を決めている。つまり、誘拐組織だけでなく、政府も人質一人ひとりを値踏みし、この命とあの命に重みをつけている。そして、誘拐組織は、政府が人質に順位をつけていることをよく承知している。
難民キャンプから、国際的な人道支援組織(NGO)の要員を誘拐する目的は三つ。
一つは、難民キャンプからNGOを追い払うこと、二つには欧米に拘留されている仲間のジハーディストを解放すること。三つ目は、身代金をせしめること。
海賊ビジネスでは、誘拐より多額の初期投資を必要とするため、出資者を募って確保する必要がある。多くの場合、攻撃する小型艇のほかに、やや大型の母船が必要となる。
それでも海賊ビジネスでは投下資本のリターンは、きわめて良かった。出資者が実に利益の75%をとる。海賊の取り分は25%のみ。
国連の推定によると、2005年4月から2012年12月までに、ソマリアの海賊ビジネスは、4億ドル前後の利益を上げた。
2006年に誘拐された人数はわずか188人だったのが、2010年には1181人にまで増えた。身代金の額も増えた。2006年には、一人あたり平均して100万ドルだった。2011年には500万ドルに値上がりした。
2011年の海賊業の収入は年間2億ドルを上回り、ソマリア第二の収入源になっている。ちなみに一位は出稼ぎ労働者の本国送金。こちらは年間10億ドルである。
ソマリア人は、海賊を犯罪とは考えておらず、生きのびるために必要な手段だとみなしている。この地域では、ほかに生きていく手段はない。海賊ビジネスの上げる利益は国の経済の一部になっている。
イスラム国には、冷徹な戦略がある。一部の人質は処刑し、それを大々的に宣伝するほうが価値があると判断し、他方、一部の人質は身代金または捕虜と交換するほうが価値があると計算している。
安倍首相が「イスラム国と戦う諸国に2億ドルの支援を約束します」と言ったことから、日本もアメリカ軍に加担すると受けとられ、日本人の人質が殺害されることにつながった。
人質ビジネスの実態を鋭く暴露した本です。読んでいくと、ますます日本は欧米の軍事行動に加担してはいけないと確信しました。
(2016年12月刊。1750円+税)

ようこそアラブへ

カテゴリー:アラブ

(霧山昴)
著者 ハムダ なおこ 、 出版  国書刊行会
アラブ首長国連邦(UAE)にすむ日本人女性によるレポートです。大変面白く、一気に読みあげました。なるほど、国が違うと、こんなにも考え方や、習慣が異なるのですね。改めて、よくよく考えさせられました。
もちろん、みんな違って、みんないい、という金子みすずの言葉のとおりなのですが、それを実感し行動するには、自覚的な努力が必要なのだと思います。
著者はUAEの男性と結婚し、UAEで5人の子どもの子育てをしました。ですから、UAEの学校生活の様子も語られるのですが、その試験の厳重さは、日本をはるかに上回っています。
UAEの人口は900万人。ところが、UAEの国民はその1割強の96万人。外国人が圧倒的多数を占めている。
UAEの国と国民に見習いたいことは、人を見る眼と寛容さ。
旅人は3日間は無条件に親切にされる。そして、そのあいだに人間を見抜かれる。
UAEの人が、人間を見る眼は非常に怜悧(れいり)。外部の人間を簡単に信用するようでは、一族を破滅に導いてしまうという厳しい自然・社会環境を生き抜いてきた人々である。
イスラムの国では、コーラン(クルアーン)朗誦を省略する儀式(儀典)はありえない。
そして、朗誦のあと、それにあわせた詩が詠まれる。
商店で買い物するとき、女性は決して店内に入らない。
アラブの人々には素晴らしい能力がある。即応能力であり、即戦力である。どんな状況になっても慌てないし騒がない。流動的な状況を見きわめて、すばやく適切な行動をとる。
アラブでは、出来る人間がやる。神様は担げる人間にしか荷を背負わせない。荷を担げる人間は、担げない人間よりよほど幸福だ。
アラブでは、貸しや借りをその場で清算しようとする人はいない。自分の貸しが、将来、自分に、家族に、部族に、いつかどこかで違った形でも戻ってくると考える。
預言者マホメット(ムハンマド)は、世界でもっとも大切にしなければならないのは母親だと説いた。二番目も、三番目も母親で、四番目にやっと父親が出てくる。アラブ・イスラーム世界で母親をないがしろにする人間は、世間からも社会からも、まったく尊敬されない。
イスラームでもっとも立派な人間とされているのは、自分の家族に優しい人。
イスラームでは出家を禁止している。家族とともに生きて、宗教上の義務をつとめることとされている。
UAEでは、自国民については、幼稚園から大学まで、教育は無償。
アラブ世界では、高校の卒業成績はとても重要で、一生涯、履歴書にのせるほど重視される。公立高校の期末試験は国が問題をつくって厳重な管理・監督の下で試験が実施される。採点も三人が担当し、インチキが出来ないシステムである。
アラブ世界では、高校を卒業したり、病気が治ったり、子どもが生まれたとき、資格をとったときには、周囲の人々へ当人がお祝いを出す。もらうのではない。自分の幸運に感謝して、周りの人々も幸福のおすそ分けをする。
アラブ世界に生きる誇り高き人々の生きざまの一端を知ることのできる、興味深い本でした。ぜひ、あなたもご一読ください。
(2016年12月刊。1800円+税)

砂漠の豹、イブン・サウド

カテゴリー:アラブ

(霧山昴)
著者  ブノアメシャン 、 出版  筑摩書房
 サウジアラビアの建国史です。1990年12月の発行ですから、今から25年も前の古い本です。書棚にずっと眠っていた本ですが、サウジアラビア王国のことが気になって読んでみました。
 著者は1901年生まれのフランス人ジャーナリストです。ヴィシー政権で大臣をつとめたこともあって、戦後、戦犯裁判で死刑の宣告も受けています。
 著者がイラクやエジプトなどで会った(1960年より前のこと)政治家は、その後、暗殺されたり、処刑されたりしています。そうでなくても、イラクのように劇変を遂げました。それはともかくとして、現在のサウジアラビア王家を創設したイブン・サウドの生い立ちから王の座に就くまでは、まさしく血なまぐさい激闘の歴史でした。
 イブン・サウドとは通称で、本名はアブドルアジズ(「力のしもべ」という意味)といいます。
「天国は前にあり、地獄は背後にあり」
 これはアラブの熱意を燃やすために定められたコーランの規定であり、このように断定して、結束させる号令になっている。
イフワンとは、武士の兄弟のちぎりのこと。教友。
イブン・サウドは一家の長男ではなかった。二人の兄、ムハンマドとアブダラーがいた。その二人の兄が戦闘のなかで殺されてしまったことから順番がまわってきた。
 砂漠のなかの戦いは常に容赦がない。敗者は決して勝者の寛容をあてにしてはならない。脅かされている場合には、こちらから先手を打って出なければならない。
 兄二人が敵に殺されるときには、イブン・サウドはその現場にいて、黒人どれいの脚のあいだから震えつつ見ていた。
 アラブの部族は、砂漠の砂に似ていた。その一つ一つは完全に独立している。砂のように、こぶしのなかに握りしめることはできるが、それを固めてひとつのかたまりとするのは難しい。握っている力がゆるめば、砂の粒は指の間からこぼれ落ち、ぱらぱらになって、以前と同じく独立した、小さな独立した単位にもどってしまう。
 大部分のアラブは、忠節あるいは理想によってイブン・サウドを支持したのではなかった。打算から味方についただけなのである。
イブン・サウドを狙った暗殺国19人を処刑するとき、18人まで斬首したあと、19人目は、殺されず、解放された。見たことを広く、多くの人々に語れ、ということである。
 イブン・サウドは大胆な武人だったようです。イブン・サウドは、もちろんイスラム教徒ですが、その宗派はワハブ派です。
 イブン・サウドは、トルコのケマル・アタチュルクと同世代の人物であり、それぞれの国を近代生活のレベルにまで引上げようと試みた点は共通しているが、ケマルはスルタンを追放し、宗教を政治から切り離そうとした。それに対してイブン・サウドは、イスラムの純化を唱えるワハブの教えを広め、みずから政教両面のあるじとなって国家統一の基礎を築いた。
 イブン・サウドはまた、「アラビアのロレンス」とも同時代を生きています。イギリスとの関わり方は、大変むずかしかったようです。
 いろいろ知らないことばかりでした。建国史というのは古代日本もそうですが、血なまぐさい話のオンパレードですね。
(1990年12月刊。2400円+税)

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