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カテゴリー: アメリカ

アンデス文明ガイドブック

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 松本 雄一 、 出版 新泉社
 南アメリカの古代アンデス文明には大いに心が惹かれます。マチュピチュ遺跡を見てきたという人は私の身の回りにも何人かいますし、ナスカの地上絵は今なお新発見が続いています。そして、シカン文化は黄金製品で有名ですよね。
 私は現地に行くことはとっくにあきらめましたので、こうやって本を手にとって写真を眺めて心を踊らせ、解説文を読んで、なるほどそうだったのかと膝を叩いています。
 アンデス山脈は、南アメリカ大陸の西側、南北8千キロに及びます。アンデス文明は、この地域で4000年以上にわたって盛衰した文明です。
アンデス文明の特色は三つ。その一つは、他の文明から何の影響も受けていない、独自のもの。その二は、文字、鉄、車輪がない。それでも、絵文字とキープはありますよね…。その三は、自然環境の多様性。砂漠、山地そして熱帯雨林まで…。
アンデスでは、土器が出現するより前に神殿が出現した。土器がなくて、いったい料理と食事はどうやってしていたのでしょうか…。
 神殿は「王様」が君臨して人々に強制的につくらせたものではなく、小規模な集団で、階層化も進んでいない社会が何百年にもわたって造り続けたもの。「王様」が命令して造らせたのではないなんて、驚きです。「王」はいなくてもリーダーはいたようで、女性のリーダーもいたようです。
 紀元前後ころのモチェというアンデス最初の国家は、北海岸により、1億4千万個の日干しレンガによって神殿をつくった。そして、戦争捕虜を人身供犠していた。
 同じころ、南海岸ではナスカ文化が興隆していた。地上絵だけでなく、地下水路の技術も発達させた。
北海岸で黄金文化を誇ったシカンは単一王朝による国家ではなく、複数の有力な家系に連なる人々が支配階層を構成する連合政体、多民族的な社会だった。黄金の仮面には圧倒されますよね。
インカ帝国を構成するインカ族は80以上もの民族集団を支配下におさめていた。インカ帝国というのは、スペイン人征服者がつけたもので、当時の人々が使っていたのは「タワンティンスーユ」というもので、これは「4つの地方」を意味している。
インカ帝国の王は、誰が次の王になるか決まりがなかったので、継承をめぐる争いが頻発した。新たな王は、大地や建物をはじめとする先代の財産を引き継ぐことはできなかった。インカの王は、それぞれが自分自身を支える「パナカ」という親族集団をつくりあげ、首都クスコに王宮を構えた。新たな王は、自分のパナカを養うための土地を初めとする財を一からつくりあげる必要があった。
 インカ帝国は総延長4万キロという「インカ道」という幹線道路を整備した。宿駅を配置し、飛脚をつかった情報伝達システム、キープ(結縄)という記録手段をもっていた。キープは誰でも解読できるものではなく、キープカマヨックという解読専門家がいた。
マチュピチュは都市ではない。最大でも750人ほどしか居住できない。宗教色の濃い建築物がほとんど。男女比は男3:女2で、さまざまな民族集団に属する人々がいた。
 アンデス文明の解読に日本人が大いに役立っているというのもうれしい話ですね。
(2025年1月刊。1980円)

沈没していくアメリカ号を彼岸から見て

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 エマニュエル・パストリッチ 、 出版 論創社
 日米で学び、米韓の大学で教え、アメリカ大統領選挙に立候補したアメリカ人の学者が、アメリカを語り、日本人に訴えています。とても共感できる内容でした。こんなアメリカ人学者がいるのを私は初めて知りました。
 ロバート・キャンベルは私も知っていますが、文学以外の政治について語らないのを著者は不満なようです。それにしても、著者の語学力はすごいです。日本語も韓国語も、そして中国語も話します。どうやらフランス語も話せるようです。それでも、ロバート・キャンベルのように天才的な語学力があるわけではなく、努力したのだといいます。
アメリカの大学は、イエール大学で学び、教え、またハーバード大学で学んでいます。東大では大学院で勉強しています。韓国でもいくつかの大学で教えています。
 日本の平和憲法の意義を高く評価していて、アメリカの憲法を日本国憲法のように変えるべきだと提言しています。そして、日本人とアメリカ人の人的交際が少なすぎる、市民同士のつながりをもっと強める必要があると強調しています。その点、日本(東京)の笹本潤弁護士を高く評価しています。国際法律家協会で世界的に活躍している弁護士です。
 アメリカは日本に企業の支配を押し付け、日本を危険な海外戦争に引きずり込もうとしている。日本とアメリカは、平和を大切にする経済関係に戻るべき。機械やコンピュータではなく、人間性に、コンクリートやプラスチックや鉄鋼ではなく、自然に置かれるべき。人間の心の奥底を探る知的探求にもとづく、新たな強固な関係を目ざすべき。
 今の日米合同委員会は非公開だけど、平和委員会という名称に変え、委員会の透明性を高めて、東アジアの平和体制の構築を目ざすべき。いずれも実にもっともな指摘で、とても共感します。
 日本のテレビニュースの質は著しく低下している。著者は厳しく指摘しています。私はテレビを見ませんが、たまに見ると、くだらないワイドショーやお笑い番組ばかりです。著者は1988年のリクルート・スキャンダルの報道以来、質が劣化しているといいます。NHKをはじめ、いかにも「政府広報」番組ばかりになってしまいました。
 日本人学生は自分の中に閉じこもりがちで、東大生は友だちになるのが一番難しいと言われているが、本当だった。そして、東大でバドミントン部に入ったけれど、厳しい上下関係にはなじめなかったとしています。
今、ハーバード大学はトランプ大統領から目の敵にされ、国の補助金が停止され、ハーバード大学は国を訴えて係争中です。ところが、著者は、このハーバード大学について、厳しい評価をしています。効率性と生産性を追求するあまり、かつてはあった知的自由の多くが破壊されてしまった。この変化は、大学に対する銀行の力が強まった結果であり、ハーバード大学理事会の超富裕層の力が強まった結果である。知的自由の喪失はひどいものだ。 
アメリカでアジアにかかわる政策を立案して推進している人々は、アジアに関する専門知識をもたず、アジアをほとんど理解していない人々でしかない。
 アメリカは、アジアで武器を売る市場を確保することを最優先課題としている。
キッシンジャーは、自分のコンサルティング会社に連邦政府の資金を投入させることを主眼としているビジネスマン。
 韓国社会は深刻な問題をかかえている。高い自殺率、汚染された空気、学校での容赦のない競争、若者たちが感じる疎外感、輸入食品・輸入燃料への過度の依存。そしておびただしい数の貧困な高齢者の存在。
 韓国政治では理想主義的な若い政治家たちも腐敗している。
 韓国では政党の重要性ははるかに低く、個人的な関係、個人の美徳のほうが政治的行動の中心となっている。
 アメリカでは、警察があまりにも残忍になっている。これに対して、日本の警察は国民に対して残忍な弾圧をしていないと評価しています。アメリカでは、警察を呼ぶこと自体が危険、市民にとっても危険だという著者の指摘には驚きました。
 日本人は、多国籍企業や銀行に支配されてはいけない。アメリカが支配権をもっている腐敗した政治・軍事システムから日本は独立すべきだ。まったく同感という思いで230頁の本を読み終えました。
(2025年2月刊。2200円+税)

アメリカ・イン・ジャパン

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 吉見 俊哉、 出版 岩波新書
 ハーバード大学にも教養学部があるそうです。その東アジア言語文明学科で著者が2018年に講義した内容が再現されています。この新書のはしがきにおいて、著者は2度目のトランプ大統領について、次のように書いています。
 2024年11月のアメリカ大統領選挙で明らかになったのは、アメリカ人の平衡感覚の喪失が、トランプ自身によるものという以上に、すでにアメリカ社会の内部崩壊が深く進行していることの現れであり、もはやこの内部崩壊は、長期的に回復不可能であろうと思われる。
カマラ・ハリス大統領候補は、彼女なりのベストの戦いぶりを見せていたように思えた。しかし、より多くのアメリカ国民が、おそらくは自己利益だけのためにトランプ大統領の再選を選んだ。
 これは間違いなく、アメリカの「自由」のある本質だ。つまり、アメリカの「自由」の歴史とは、一面で、先住民の徹底した排除と殺戮、所有権の絶対化と金銭万能主義、根本的な人種差別主義と暴力主義と市場主義を「明白なる運命」として、東部諸州から西部へ、さらには太平洋から全世界へと拡張させてきた歴史である。
うむむ、なるほど、なるほど、そうだったんですね。アメリカの「自由」と「民主主義」は、もう一つ別の側面があるというわけです。
 アメリカ人の「西部開拓」は、実は先住民を絶滅に追いやる殺戮の過程だった。それは「開拓」ではなく、まさしく「侵略」だった。しかし、アメリカ人の多くは、今も自分たちの国が「侵略」の産物だということを認めたがらない。
 1848年、カリフォルニアには15万人の先住民が生活していたが、10年後の1860年には3万人にまで減っていた。
 江戸時代の末に日本に来たペリーは、日本について、次のように結論した。
この国では、それぞれの組織が相互監視を徹底させ、失敗を許さない仕組みを発達させており、内部からの変化はきわめて起こりにくい。なーるほど、これって昔も今も変わりませんね。
 日本人はきわめて勤勉かつ器用な民族であり、製造業の中には他国の追随を許さないほど、優れたものがある。
 日本人は外国から持ち込まれた目新しいものを素早く調べて、その製造技術をすぐに自分のものにし、非常に巧みに、また精緻に同じものを作り出す才能を有している。
 いやあ、これまた戦後の日本について語られているかのように感じてしまいます。
 ペリーと交渉した日本側も、いずれも実に大胆な演技を白々と演じていた。すごいですね、見事に日米双方とも演技していたことを見破っています。
当時の日本人の対米認識には、強大な他者に恐れおののく心性と、その他者についてのそれなりに正確な観察が併存していた。
アメリカに留学した内村鑑三が見たものは、アメリカ社会の拝金主義、そして差別だらけの現実と混乱、狂気と刑務所、膨大な貧困層だった。
よくも日本とアメリカの違いを深く掘り下げていると感嘆しながら、ゼミ生になった気分で読みすすめました。
(2025年1月刊。1166円)

レイディ・ジャスティス

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(霧山昴)
著者 ダリア・リスウィック 、 出版 勁草書房
 「もしトラ」が現実化してしまいましたが、この本は、前のトランプ政権時代に、暴政に抗してたたかった多くの女性法律家を紹介しています。
 人種差別、人工妊娠中絶の阻害、投票権の制限そして性暴力などに対して、果敢に挑んだ女性法律家たちの不屈の勇気に大いに励まされました。
 正月休みに、身近に置いていた、このピンク色の本を、全然期待もせずに読みはじめたのです。ところがところが、思わず居ずまいを正して、背筋をピンと伸ばして、一心に読みふけってしまいました。
 アメリカのロースクール生の半分は女性だが、民間分野で働く弁護士のうち女性は3分の1でしかない。ローファームもパートナーは21%だけど、そのトップが女性であるのは12%。企業のCEOのうち女性は5%もいない。連邦議会議員では24%、州知事は18%、州議会議員でも29%しか女性はいない。
 はるか昔から、法は女性に対して棍棒(こんぼう)のように使われてきた。
女性の先駆者たちは、法が自分自身に課と制約と戦いながら、法制度との戦争に身を投じてきた。
 この本で真っ先に登場するのは、ポール・マリーという女性です。アメリカでも有名ではないようです。ハワード大学に学年で唯一の女性として入学し、1944年に首席で卒業した。そしてイエール大学で法学博士号を取得した最初のアフリカ系アメリカ人。1946年にはカリフォルニア州初のブラックの司法副長官になった。アメリカの連邦最高裁判事として有名なルース・ベイダー・ギンズバークは、ポール・マリーを高く評価していたそうです。
 続いて、サリー・イェイツというトランプ政権が発足し、ムスリムのアメリカ入国禁止を大統領令で発したとき、それはアメリカ憲法に違反すると明言し、司法省から追放された(当時、司法長官代行だった)。
 トランプの命令は、宗教によって入国について差別するものなので、司法省がそんなことを認めるわけにはいかないと明言したのです。
 イェイツは、本当に優秀な政府の弁護士は個人的な栄誉や誰か別の人の栄誉のためではなく、法のために動くということを示した。本当に優秀な政府の弁護士は、大統領が欲しいものを何でも手に入れるようにするイエスマンとして動くのではないのだ。
 ムスリムが多数を占める国からの渡航を禁止するトランプの大統領令が出されたことから、空港でアメリカに入国できず、最悪の場合はシリアへ「送還」される。これを阻止するためにベッカ・ヘラーは動き出した。そして、大手ローファームのプロボノ案件として行動してもらうことに成功した。
そういうことがあるんですね、アメリカの大手ローファームはプロボノ案件を扱うことにもなっているので、そこに喰い込んだわけです。1時間半のうちに、1600人もの弁護士が呼びかけに応じたというのです。すごいことです。そして4時間のうちに3000人の弁護士がボランティア活動を引き受けたのでした。
ニューヨーク市内の大手ローファームで働いている弁護士がケネディ空港に続々と集まってきた。4つのターミナルに100人の弁護士が配置された。そして、ケネディ空港の外には何千人もの支援の人々が集まったのです。
 アメリカの民主主義の底力を感じます。これを受けて、裁判所は、弁護士たちの申立に応じて「送還」を差止する緊急命令を出したのでした。
 アメリカのヘイト勢力が怖いのは、ロケットランチャーや半自動小銃で武装した集会が開かれるということです。これに抗議するのは、まさしく命がけになります。
 極右の武装団体が公然と武装をしたまま町中を行進するなんて、日本では想像も出来ません。
 「自宅のドアを開けたら、すぐそこ、10フィードしか離れていないところに、半自動小銃とナチスの方を持った人たちがいるのが見える。これが、どんなことも想像できますか…」
 アメリカでは妊娠中絶を犯罪とする州があり、それを武力で実現しようとする勢力がいます。これまた怖い話です。
 著者は弁護士資格をもつ女性ジャーナリストです。
 女性に法を足すと、魔法の力が生まれる。これを自分たちは毎日証明している。
 このように断言する著者に、心より賛同の拍手(エール)を送ります。
 
(2024年7月刊。3500円+税)

ブラジルが世界を動かす

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 宮本 英威 、 出版 平凡社新書
 ブラジルというと、真っ先にアマゾンの密林を思い浮かべます。最近では金採集などによる乱開発が進んでいるようで、心配しています。
 ブラジルの人口は2億1600万人、世界で7番目。国土面積は日本の22倍もあり、世界で5番目。GDPは世界第9位と、かなり上位にあり、今後さらに発展しそう。
 270万人の日系人がブラジルに暮らしている。これは海外の日系人500万人の半分以上という割合を占めている。戦前戦後の日本から26万人がブラジルに移住した。
 そして今、日本には21万人超のブラジル人が暮らしている。愛知、静岡、三重、群馬などの工場で働いている。
 ブラジルは、人口の4割以上が混血。その結果、差別が比較的少ない社会となっている。奴隷解放は1888年と、遅れている。
 ブラジルはカトリック教徒の国で、65%、1億2千万人の信徒がいる。プロテスタントは22%。ブラジルは貧富の格差が大きい。相続税が極端に小さいので、富裕層の子弟は、優位な立場で人生を歩む。
 今のルラ大統領は3期目で、2期つとめたあと収賄罪で刑務所に入っていたけれど、カムバックした。ルラ大統領は幼いころから街頭でピーナツを売り、靴磨きをし、また、日系人の経営するクリーニング店でも働いた。旋盤工をしているとき、左手小指を切断するという労災事故にあった。汚職事件で有罪となり、580日間、獄中生活を送った。
2024年のG20の議長国として、ブラジルは存在感を発揮している。ブラジルで中国の影響力が低下した背景に、アメリカが中南米への関心の低下もあげられる。アマゾン川の全長は7千キロメートル。その流域は700万平方キロメートル。
 ブラジルは国内電力の85%を再生可能エネルギーにしている。水力が62%、風力12%、太陽光が4%となっている。
 ブラジルには中国製の品々がよく目立つ。
 農業大国ブラジルの弱点は、肥料の8割以上を輸入に依存していること。ブラジルでは、サトウキビを原料とするエタノール燃料がガソリン並みに扱われている。エタノールはガソリンよりも3割ほど燃費が劣るが、価格はガソリンの7割ほど安い。
 ブラジルは航空機メーカーがあり、米ボーイング、仏エアバスに次いで、ブラジルのエンブラエルは世界第3位。
 ブラジル人の7割がPIXを利用している。現金を持ち歩く必要がない。
 味の素の社長は、2代続けてブラジル経験者。
ブラジルは150年来、戦争をしていない。だから、世界に平和を訴えることができる。
 ブラジルと日本との関わりも少し知ることが出来ました。
(2024年10月刊。1100円+税)

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