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2025年4月 の投稿

士業プロフェッショナル2025年版

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 産経新聞生活情報センター 、 出版 ぎょうけい新聞社
 豊前(ぶぜん)市で法律事務所を構えて9年になる西村幸太郎弁護士が紹介されています。
 もとは豊前市には弁護士が1人もいない弁護士過疎地域の一つだった。そこに、西村弁護士が日弁連ひまわり基金法律事務所を開設したのは2016年10月のこと。
西村弁護士は司法過疎地へ弁護士を派遣する福岡市内のあさかぜ基金法律事務所で3年間の実地訓練を経て豊前市に移り住み開業した。
豊前市の人口は2万3千人、山の幸と海の幸は豊富だけど、大手企業は見あたらない。
 開業当初は、1ヶ月の売上が8万円だったが、西村弁護士は積極的に地域に出かけ、地道に顔を売る努を続けた結果、今では経営は安定している。縁もゆかりもない豊前だけど、西村弁護士は初めから骨をうずめる覚悟で豊前市に赴任した。今ではマイホームを構え、子どもたちも元気に育っている。弁護士事務所も地域のインフラの一つだと考えている。
ゼネラリストが営む地域密着型の事務所として西村弁護士が心がけているのは三つ。一つは人身傷害分野で、交通事故などを扱う。二つは終活、相続・遺言の分野。三つは、企業顧問。
 二つ目の終結については、積極的に高齢者向けにセミナー(講座)を開いている。そのためのテキスト(たとえば「自筆証書遺言のつくり方」)も発行している。
 三つ目の企業顧問についても企業法務をテーマとした冊子を作成している。西村弁護士のモットーは経営者が「本業に専念できる環境」をつくること。つまり、企業がトラブルをかかえてしまったらその対策に追われて、本業がおろそかになりかねない。そうならないよう、西村弁護士は予防法務の積極的な実践を心がけている。たとえば、「会社法・労働法の基礎地域と活用法」という冊子には、コンプライアンスのチェックシートがあり、丁寧に解説されている。
 西村弁護士はたくさんの資格を有している。経営心理士、国家資格キャリアコンサルタント、宅地建物取引士、終活カウンセラー協会認定終活講師、上級相続診断士、自分史活用アドバイザー。
 いやはや、すごいものです。よほど勉強好きなんですね。
 今後ますますの地域密着の活躍を心から期待します。
(2025年3月刊。1650円)

30代からの社会人合格者のリアル

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 中央経済社編 、 出版 中央経済社
 司法試験・予備試験に社会人になってから挑戦し、合格した人たちの体験記です。これを読むと、ずい分と司法試験の様相は変わってしまったものだと実感します。
 それでも、合格の心がまえ自体は、いつだって同じだということも確認できます。目標をしっかりもち、どんな試験なのかを見定め、あとはひたすら集中して勉強するのです。過去問をやって、答案の文章が書けるのは、もっとも基本とすべきものであることは、昔も今も変わりません。それはネット受験になってからも変わるはずがありません。手で文章を書くのか、それとも手指の先で入力するかだけの違いです。
インターネットを通じて受験指導を個人的に受けられるというのを初めて知りました。たとえば、週1回、オンライン個別指導が受けられるのです。
 ある合格者は、予備試験の過去問を1日1通起案したそうです。365日、ずっとやり通したというのもすごいです。
 司法試験に「写経」と呼ばれる勉強方法があるというのも初めて知りました。ただし、これも機械的に答案を書き写してしまうだけだと、頭に何も残らないという危険があります。それでは時間のムダになってしまいます。
答案を分かりやすく、論理的に書くのは簡単なようで、実は訓練が必要なこと。たしかにそのとおりなんです。
 過去問を大量に解いて、時間感覚を身につける。これも大切なことです。時間切れになってはいけません。時間配分を徹底しなければ合格ラインに達することができません。
習慣化することが大切。そのとおりです。そして、この習慣をつくるには、はじめに努力するのが肝心です。
資格試験では「完璧」にこだわるのは大きなデメリット。まったく、そのとおりです。
社会人が勉強するなかで、もっとも大変なのはメンタルコントロール。これには、いささか異論があります。メンタルコントロールは、「ヒマ」な学生だって、実は「ヒマ」だからこそ大変なのです。忙しいと余計なことは考えるゆとりもないでしょう。でも「ヒマ」な学生は、小人閑居して不善をなすで、気が散ること、おびただしいのです。これが私の実感です。
 ただ、このように書いた女性はなんと、2人の子持ちの主婦。しかも、受験勉強を始めたとき2歳と4歳の子が、5年後の合格時には7歳と9歳でした。可愛いさかりの我が子2人をかかえて、よくぞ勉強時間を確保し、また集中したものです。感服するほかありません。
 この女性は、「やることに迷ったら、今一番やりたくない勉強をする」と決め、それを実行したのです。これはまた大変な意思の強さです。
 地方公務員をしながら、試験勉強をし続けた男性は、時間がないなか、効率よく勉強する工夫をしました。たとえばスキマ時間の活用です。
映画プロデューサーをしていた人が司法試験を一念発起して合格した、だなんて、信じられません。
旧司法試験に合格できず、大会社の法務部に13年間つとめたうえで、働きながら司法試験に挑戦して合格した男性がいます。40代、4児の父親です。この人が参考書として、弁護士職務基本規程をあげているのには驚かされました。こんなものが司法試験に必要だなんて、信じられません。この人は、週に15~20時間しか勉強できなかったそうです。それでも合格できるのですね。たいしたものです。
目ざすゴールはアウトプット。インプットは、そのための前提行為にすぎない。なーるほど、そうなんでしょうね。
 頭が良くても、努力を惜しみ、小手先で要領よくすます、素直・愚直になれない人が合格するのは難しいと語ります。まことにそのとおりだと私も思います。
 私にとって受験は50年以上も前のことですが、今どきの受験生の心境が知りたくて読んでみました。大いに勉強になりました。実は私の受験生活の実際を紹介した本(「小説・司法試験」花伝社)を刊行しているのです。電子書籍としても売られていて、ほんの少しですが、反応も少しはあります。良かったら、一度のぞいてみてください。
(2025年2月刊。2200円)

続・日本軍兵士

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 吉田 裕 、 出版 中公新書
 アジア・太平洋戦争の敗戦までに230万人の日本軍兵士が死亡した。その多くは戦闘による死ではなく、病気による死(戦病死)だった。また、大量の海没死(船舶の沈没による死)もあった。
 日本軍は直接戦闘に使われる兵器・装備、すなわち正面装備の整備・充実を最優先したため、兵站(へいたん)や情報、衛生医療、休養を著しく軽視した。
 腹が減っては、イクサは出来ない。日本軍は、こんな基本をすっかり忘れ、精神一到、何事が成らざらん。そればかりでした。まさしく単細胞そのもののトップ集団でした。
1941年、国家予算に占める軍事予算の割合は日本は75%、アメリカは47%だった。
 日本敗戦時、陸軍では全兵員の2.4%が将校、9.2%が下士官、88.4%が兵士。
 日清戦争のとき、全戦没者に占める戦病死者の割合は9割に近かった。ところが、日露戦争では、それが26%にまで低下した。これは伝染病による死者が激減し、凍傷も減少したことによる。軍事衛生・軍事医学の近代化の成果でもあった。
 ところが、日中戦争が始まった1941年には、戦病死者の割合が50%をこえた。1941年の主要疾病は、マラリアが第1位で3万5千人、次に脚気(かっけ)が5千人、第3位が結核の2千人。脚気が増えたのは、軍隊の給養が急速に悪化したことによる。栄養失調と同じ。
 日本敗戦後に亡くなった兵士が18万人もいる。戦場の栄養不足のため、克服されたはずの脚気が復活し、戦争栄養失調症が大流行した。
 日本軍は兵站を無視して、食料は現地調達主義をとっていた。中国軍は日本軍に何も渡さないようにして撤退していったので、戦場には食べるものがなかった。
 米が完全に主食になるのは意外に遅く、戦後の1950年代後半のこと。兵舎に入って主食の白米を食べられるのは、一般の兵士にとって大変魅力的なものだった。軍隊に入って、初めて白米を食べたという兵士も少なくなかった。これはこれは、意外でした…。
 1933(昭和8年)に入営した兵士の半数近くは、パン食の経験がなかった。なので、兵舎でパン食はなかなか普及しなかった。
日本は陸海軍とも歯科医療を軽視した。ところが、アメリカ陸軍には、第一次大戦前から歯科軍医がいた。第二次大戦中、1944年には、1万5千人もの歯科将校がいた。いやあ、これは違いますね。歯痛に悩む兵士が満足に戦えるはずはありません。私は「8020」を目ざして、年に2回、歯科検診を受けています。
 イギリス軍では、兵隊に月1回の歯科検診を義務づけていた。日本軍の立ち遅れは明らかです。
日本軍は、中国戦線で高級将校の戦死傷者が思いのほか多数にのぼった。宇垣一成はこの事実を知り、その原因が、部下の兵士が戦闘意欲に乏しいため将校が前に出ざるをえなくなったことによると嘆いている。
 日本兵は過労、ほとんど睡眠がとれず、老衰病のようにして死んでいった。また、精神病患者が増大した。
中国戦線に派遣された日本軍兵士は、その多くが家庭をもつ「中年兵士」だった。そして、彼らは戦争目的が不明確なまま、厳しい戦場の環境の下で、長期の従軍を余儀なくされると、自暴自棄で殺伐とした空気が生まれた。これが日本軍による戦争犯罪をつくる土壌の一つとなった。長期間の従軍の結果、軍紀の弛緩が目立ちはじめた。
身体検査規則が改正(緩和)されると、知的障害のある兵士が入営してきた。こうした兵士は、軍務に適応できずに、自殺したり逃亡したりする例が少なくなかった。
 日本軍の前線での救命治療の中心は止血であり、輸血はほとんど普及しなかった。
 たしかに、日本軍が輸血している光景というのは全然見たことがありません。この面でも遅れていたのですね…。
南方でもっとも恐るべきは敵よりもマラリヤである。栄養失調によって体力が衰えると、ダメージは大きかった。
 軍医の重要な仕事の一つは詐病(さびょう。インチキ病気)の摘発だった。いやあ、これはお互い、たまりませんよね。
日本陸軍の機械化・自動車は立ち遅れた。1936年の自動車生産台数は、日本が1万台なのに対して、アメリカは446万台、イギリス46万台、ドイツ27万台。これは圧倒的に負けてますね。トラックでみると、日本が1945年までの8年間で11万5千台なのに対して、アメリカは245万台と、ケタ違いに多い。
 日本軍兵士には、十分な軍靴も支えられなかった。中国人から掠奪した布製の靴や草履をはいていた。これに対してアメリカ軍は、軍靴を4回も改良している。そもそも日本軍兵士には、靴をはいた経験のある兵士は2割でしかなかった。
 こうやってみていくと、日本軍兵士がいかに劣悪な環境の下で戦わされていたのか、あまりに明らかで、これで勝てるはずがないと妙に確信させられました。
 日本軍なるものの実態を知るうえで、必須の本です。
(2025年2月刊。990円)

ロシアから見える世界

カテゴリー:ロシア

(霧山昴)
著者 駒木 明義 、 出版 朝日新書
 ロシアがウクライナに侵攻して始めた戦争が、3年たっても終わりません。
プーチン大統領は2000年からなので、首相の4年間も含めると、あのスターリンも超えている。そして5期目の今の任期は2030年まで。
プーチンは大統領選挙ではいつも圧勝しているが、テレビの候補者討論会に常に欠席していて、1回も参加したことがない。よほど自信がないのでしょうね…。
プーチンは、ピョートル大帝を崇拝してやまない。プーチンは若いころからピョートル大帝を崇拝していた。ウラジミール大帝と呼ばれることを夢想しているのではないか…。
プーチンを好きなのは年寄りばかり。若者、とくに20代は誰もプーチンを支持していない。でも、みんな自分の人生で手いっぱい。抵抗したら危険。牢屋に入れられ、すべてを失ってしまう。誰もそんな危険を冒したくはない。
 プーチンはウクライナを「非ナチ化」すると高言している。「非ナチ化」とは、ロシアに刃向かうことは許さないという意味。
プーチンは、レーニンをきわめて否定的に評価している。ウクライナはレーニンがつくり出した人工的な国家であり、レーニンが革命によって政権を奪取したから。
 国際刑事裁判所(ICC)はプーチンに対して逮捕状を出している。ロシアがウクライナから子どもたちを連れ去ったことが戦争犯罪だと断罪した。このICCの所長は、日本人女性の赤根智子裁判官。ロシア側は報復措置として、主任検察官と赤根所長を指名手配した。なので、赤根裁判官はロシアには入れません。
 ロシアの教育現場は、戦時体制に組み込まれている。「欧米の軍事支援が戦闘を長引かせ、犠牲者を増やしている」と、学校で子どもたちは教えられているのです。
ソ連時代の11月7日の革命記念日は廃止した。街頭に出る市民の抗議活動によって政権が倒れるというシナリオはプーチンは忌み嫌っている。
 これって、アメリカのトランプと同じですよね。トランプは自分の選挙もプーチンの助けを借りたという疑惑がありますが、まさしくアメリカの王様気取りです。この2人とも、つくづく嫌になってしまいます。
 この本を読んで怖いと思ったのは、ロシア市民の29%が核兵器が使われる可能性を現実のものとして受けとめていること、そして、核を使おうとしているのは、ロシアではなく、ウクライナだというロシア政府のクロロパガンダがロシア市民にしっかり浸透しているという事実です。
 「日本に原発を落としたのはアメリカではなく、連合国だと日本の教科書に書かれている。教科書に事実を書けないほど、日本は抑えつけられている」
 こんなことをプーチンは高言したそうです。いやはや信じられません。そして、日本人は原爆を落としたのがアメリカだとは知らない。こんな俗説がロシアで広く信じられている。とんでもないデマがロシアに広がり、定着しているようです。
 「ロシア人を獣にしたのはテレビだ。テレビはウクライナを敵として描き、人々を、ウクライナを憎む獣にするために働きかけた」
 これは、ノーベル文学賞を受賞したベラルーシの作家の言葉。ところが、わが日本もロシアの現況を笑うわけにはいきませんよね。大軍拡予算が着々と進行していって、全国各地に弾薬庫が大拡充されるなかで、その問題点を具体的に報道することもなく、ただ目先の「手取りをふやす」ことにだけ焦点をあてて報道するという、目くらまし戦法を日本の主要マスメディアはとっています。プーチンの威光にひれ伏すロシアのマスメディアと、どれほどの違いがあるのでしょうか…。
 でも、まだ日本は、こんなことを書く自由があるだけでいいじゃないか。そんな「反論」も聞こえてきそうです。でも、でも…。
(2024年9月刊。990円)

立ち退かされるのは誰か?

カテゴリー:イギリス

(霧山昴)
著者 山本 薫子 、 出版 慶応義塾大学出版会
 ジェントリフィケーションと脅かされるコミュニティ、こんなサブタイトルのついた本です。いったい、ジェントリフィケーションって何…。
 ジェントリフィケーションとは、市中心部の労働者住宅地域・低所得地域が再開発され、高級住宅や中流層(ミドルクラス)以上の人々を対象とする商業施設が新たに開業することで、住民の入れ替わりが起き、より高所得の住民が増加する現象のこと。
 1980年以降、都市のグローバル化、経済のサービス化、情報化が進んだことで、都市の社会構造に変化が生じた。再開発されたインナーエリアで何が起きたかというと、地価の上昇に加えて、老朽化した建物の取り壊しや改装、新しい商業施設やマンション(集合住宅)の建設、中流層向けの小売店や飲食店が増加した。地域が「高級化」したのだ。
ジェントリフィケーションについて当初は好意的に評価された。それが2010年代半ばに一変した。ジェントリフィケーションの負の側面に警鐘が鳴らされた。
2018年、ジェントリフィケーションについて、地域にマイナスの影響を及ぼしかねない「高級化」であり、地域の特性や文化が失われる、時代遅れの開発主義・拡張主義として批判されるようになった。
 ジェントリフィケーションという語を創出したのは、ドイツ生まれのルース・グラスという女性学者。イギリスに渡って、イギリス人と結婚し、社会学者として、活動した。
 グラスは、第二次大戦後のロンドンの都市化を調査・研究し、人々にとって住宅の持つ意味の変化に気がついた。ロンドン市内の老朽化した民間賃貸住宅(下宿)の住人を追い出すために法外な家賃を要求し、追い出しに成功すると、より不安定的な立場に置かれているアフリカや西インド諸島出身の移民に部屋を貸し、彼らがほかに行き場がないことを承知の上で高額の家賃を徴収するという悪質な家主がいた。すなわち、高額な家賃と、それに見合わない不十分な住環境にある民間賃貸住宅の存在が明るみに出た。
グラスは、人種問題(非白人問題)というのは、実は「白人問題」なのだと看破した。
 イギリス人は国内に差別も偏見もないというが、それは、イギリス人が自らのもつ偏見や外国人嫌いにまったく気がついていない、自覚がないというだけのこと。
 イギリスでは、偏見が必ずしも差別とはみなされないという傾向がある。
 当初、ジェントリフィケーションは、地域の中流化を意味していた。しかし、今や、都市が直面しているのは経済的・社会的な衰退。買い物客の減少、店舗の撤退、空き店舗・空き家の増加…。
 1990年代以降、横浜の寿町では、高齢者・障がい者・生活保護受給者という福祉ニーズの高い住民の増加が著しい。寿町の高齢化率は52.8%(2023年)で、全国平均(29.1%)を大きく上回っている。寿町は、今ではホームレスが暮らせない町となっている。
 寿町では、地域福祉施策が重点化され、福祉機能が拡充されていった裏面として、かつては町内にいるのが当たり前だったホームレスが暮らせない町となった。
日本ではカナダほど住宅価格が高騰しておらず、また住民の階層的な入れ替わりも顕在化していない。
 なるほど、そうかもしれないな…。そう思いました。
 かつてはホームレスが駅周辺に普通に見かけていましたが、今やほとんど見かけません。それでもホームレスの人々は今もいるとのこと。いったい、どこで、どうやって生活しているのでしょうか…。その人たちの生活実態を知らせる報道や本が少ないという気がしてなりません。
(2024年12月刊。2700円+税)

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