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2024年12月 の投稿

日本のデジタル社会と法規制

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 日本弁護士連合会 、 出版 花伝社
 2022年9月、旭川市で開かれた人権擁護大会のシンポジウムの内容が本になりました。私もシンポジウムに参加していましたが、今や日本のデジタル化はすさまじいものがあります。SNSの活用(乱用)によって選挙のやり方まで大きく変わってしまいました。活字人間の私にはなかなかついていけませんが、黙って指をくわえて見守るだけではいけないと考えています。
大手IT企業が収集するスマートフォン(スマホ)の履歴から、個人情報が収集され、私たちは丸裸にされてしまっている。たとえば、グーグルテイクアウトの利用履歴から、自宅マンションの居住フロア、家族構成、年収、職歴、性別、年齢まで判断し、さらには仕事を転職し、体調を悪化させるという近い将来まで予測する。
 いやあ、これは恐ろしいことです。私は自分を誰かが管理するというのが本能的に嫌いですので、スマホは持たず、ポイントカードも使いません。どこで、いつ、何を買ったなんて知られたくないし、私の趣味・性向なども第三者に教えたくなんかありません。
 フェイスブック(FB)には、月間20億人のユーザーが1日あたり3億5000万枚の写真をアップロードした。これも実は2017年のデータですので、今はもっとすごい数字になっていることでしょう。
 同じことは電子マネーについても言えます。キャッシュレスは、個人情報の集積を促進するものでもあります。
 今では、外部から自動車のエンジンを切ったり、ワイパーを動かすことも出来る。
 そして、データを活用したら、選挙での投票行動に影響を与えることが出来る。この本でも、SNSによるフェイクニュースの拡散の恐ろしさが指摘されていますが、東京都知事選の石丸、衆院選の玉木、そして兵庫県知事選の立花と斉藤。恐るべきペテン師の横行に、身が震える思いです。
 中国ではAIによる信用スコアリングが普及している。中国ではキャッシュレス決済比率は8割近い(2018年)。そのほとんどがアリババグループのアリペイとテンセントのウィーチャットペイ。この2つでモバイル決済の9割を占める。社会信用システムは、顔認証技術と信用スコアから成っている。信用スコアによる評価を回避するのは、きわめて困難。この信用スコアは、第二の身分証のようなものになっている。信用スコアが低い人は、社会の下層で固定されてしまう。
世界には7億7000万台(2019年)の監視カメラがあり、うち54%が中国にある。2021年末には10億台をこえた。
顔認証システム搭載の監視カメラは、旧来型の監視カメラと情報の精度やボリュームの次元がまったく異なる。顔認証システムは、顔に着目した外形による生体認証の一種である。
 ジュンク堂書店は、万引き防止のため、顔認証システムで入店を検知している。顔認証システムも人がつくるシステムである以上、完全ではなく誤りを含む。
台湾では、故意・危害・虚偽の3要素がそろったときは、各省庁に設置された即応対策チームが60分以内に対策として正しい情報を発信することになっている。
 デジタル庁に対する国家予算は4720億円(2022年度)です。これは司法予算3222億円よりはるかに大きいのです。そして、いずれ8000億円の予算になるとのこと。うひゃあ…、です。
 マイナンバーカードの普及・宣伝のため国は1兆8000億円も使いましたが、笛吹けど、踊らず、でした。いつものように、一部の広告会社などに巨額の税金が流れこんだことでしょう。そんなお金があるのなら、大学の学費の無料化が実現できたはずです。
 SNSを規制することが簡単にできるはずもありませんが、現状のような野放しは、さすがにまずいと思います。それと同時に、選挙を金もうけビジネスにしている立花某については、やはりきちんと取締の対象とすべきと私は考えます。だって、「他人を当選させるために立候補しました。私には投票しないで下さい」と候補者が呼びかけるなんて、どうしてもおかしいでしょう。明らかに公選法の趣旨に反しています。
 このシンポジウムの実行委員長をつとめた武藤紗明弁護士(大牟田市出身)から贈呈していただきました。ありがとうございます。大変勉強になりました。
(2023年10月刊。2500円+税)

半導体有事

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 湯之上 隆 、 出版 文春新書
 熊本にTSMCが進出して、巨大な工場をつくりあげました。日本政府は1兆円でしたか、莫大な税金を投入しました。外国の営利企業にそんなに巨額の税金を投入していいものなんでしょうか…。著者は、それに批判的です。
 営利企業であるTSMCのために、日本の税金を使うのは、はっきり言って間違っている。TSMCの工場を熊本に誘致しても、日本の経済安保はまったく担保されないし、サプライチェーンも強靭(きょうじん)化されない。このように、土地、インフラ、助成金など、日本の税金を使うことは許されないと断言しています。
TSMCの熊本の工場でロジック半導体を生産する前工程は日本国内で行うとしても、マスク設計、製造と後工程は今までと同じく台湾で行われ、中国本土で最終製品に組み込まれることに変わりはない。中国の工場というのは、ホンハイという本社は台湾の会社がもっている工場のことで、そこでアイフォンなどのスマートフォンに組み込まれる。
 そもそも、半導体とは、演算するロジック半導体、データを保存するメモリ半導体、電気、音、光、温度、圧力などを処理するアナログ半導体に分かれる。このなかで、とくにロジック半導体の不足が深刻となり、今やTSMCが9割を占めている。
半導体は一国や一地域で閉じて生産できるものではない。TSMCの最先端技術なくして、最新のアイフォンも、高性能コンピューターも、AI半導体も、製造することはできない。
人類の文明の進歩は、TSMCの微細加工技術に大きく依存している。
 TSMCは、世界中のファブレスが設計しやすい世界標準の仕組みを構築した。つまり、TSMCは、受託生産専門だが、設計を制しているのだ。
TSMCの売上高の成長はすさまじいし、その営業利益率は50%に近い。売上高の半分が利益だ。
 EUVは、オランダの露光装置メーカーASMLLしか製造できない。
中国の半導体産業は、市場規模で世界最大だが、自給率が低い。
 日本は、この分野で、韓国に、技術でもビジネスでも負けている。日本は、過剰技術で、過剰品質をつくってしまう。
 昨年(2023年)4月に刊行された新書なので、事態はさらに変化しているとは思いますが、半導体をめぐる動向を少しばかり理解することができました。
(2023年12月刊。950円+税)

動物のひみつ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 アシュリー・ウォード 、 出版 ダイヤモンド社
 人間は万物の霊長なんかでは決してない。そりゃあ、そうですよね。いつまでたっても人間が人間を殺す、しかも大量に殺す戦争が果てしなく続いていますし、むしろ拡大しています。そのうえ、地球の温暖化がすすんでいて、南極・北極の氷がどんどん溶けていって、ホッキョクグマの生息域を狭くしているのですから…。
 700頁もの分厚い本なので、昼寝の枕にするのにも、ちょっと高すぎかな…と、ついためらってしまいます。ところが、滅法面白くて、ついつい頁をめくる手が止まりません。といっても読み終えるのに、4日間もかかってしまいました。毎日曜日午後の楽しみにていたのです。そんな前口上はほどほどにして、ちょっとばかり内容を紹介します。
 同じネグラを共有するコウモリは、食事ができなかった者がいると、満腹になったコウモリが自分の飲んだ血の一部を吐き戻して、空腹のコウモリに与える。
 オキアミは1匹は人間の小指ほどの大きさしかないが、とてつもなく大量に生存していて、その全部をあわせた重量は、全世界の人間の全体重より重い。そして、このオキアミを、魚もイカも、ペンギンもアホウドリも、アザラシも巨大なクジラも、みな重要な食料としている。
 クジラの糞は、濃い雲のようなもの。鉄・リン・窒素などの栄養分が多く含まれ、植物プランクトンは、この栄養分を利用する。オキアミは、この植物プランクトンを食べている。
 ゴキブリは学習する。ゴキブリの種の数は5000にもなる。ゴキブリの集団には明確な階層がなく、リータンもいない。
アリとシロアリは、何百万年と戦い続けている。
 グンタイアリの女王は、わずか4日か5日のうちに、なんと30万個もの卵を産む。コロニーが50万匹を超えるころ、3年周期で、コロニーが二つに分裂する。
 地球には、100兆匹ものアリがいる。南極を除く、すべての陸地にアリはいる。
 魚は、身体に占める筋肉の割合がもっとも多い動物である。全体重の80%が筋肉。
ムクドリは大集団になって空を飛んでいるが、どの個も自分のそばの7羽ほどの個体の動きに反応しているだけ。それによって仲間同士が衝突しないように予防する。
 鳥たちにとって、上昇気流は、踏石、あるいは燃料補給基地のようになっている。
ニワトリの間には序列がある。ニワトリの序列は、一度決まったら、数ヶ月いや年数も続くことが多い。
 ニワトリを大集団で飼うこと自体が、ニワトリの自然な習性に反すること。
 ネズミは賢く、さまざまな環境に適応できる。ネズミの嗅覚は非常に鋭い。ネズミは用心深い動物でもあり、巧みに毒餌(エサ)を避ける。
 ネズミは、仲間が飢えていると、気前よく食べ物を分け与える。あれれ、これってコウモリもやっていましたよね。
 母親に大切に育てられた子どもたちは、穏やかな、精神のバランスの取れた大人になる。これは、50年も弁護士をしている私の実感でもあります。逆に言うと、親から見捨てられていると感じた子どもは大きくなってから、親と大人社会に復讐しようとする傾向にあります。
 ハダカデバネズミは、30年以上も生きるのが珍しくない、というように長生きする。
ハダカデバネズミは、ガンにならないし、皮膚には痛覚がない。ハダカデバネズミは糞をよく食べる。ワーカーが女王の糞を食べると、女性ホルモンによって、多くのエストロゲンが入ったとき、子ネズミたちにとっての良き代理母となる。なーるほど、ですね。
 全世界に10億頭以上もいるウシ(牛)の血流は、肥沃(ひよく)な三日月地帯にいた80頭のオーロックスにまでさかのぼれる。
 牛は個体の違いを見極めることが出来る。牛は、群れの仲間の顔を少なくとも50頭、識別できる。写真であっても見事に個体を識別できる。これは人間についても同じ。自分への態度の悪かった人間、美味しい食べ物をくれるなど良くしてくれた人も、きちんと覚えていて、区分できる。
 象の嗅覚は、とてつもなく鋭い。数十キロメートル先に水たまりがあると察知できる。象は10キロメートル離れた仲間の発する可聴可音を察知できる。象には驚異的な記憶力がある。
 シンガポールというのはライオンの街という意味。シンはライオンのこと。雄ライオンの全盛期は、わずか2年か3年。ライオンの雄も狩りをする。ただ、雌とは方法が違う。
 ハイエナの社会ではメスのほうがオスより攻撃的で、全体として優勢。最下位のメスですら、最高位のオスよりも地位が上。ハイエナが笑い声をあげるのは、恐怖を感じていたり、緊張しているという合図。
 ハイエナは標的とした動物集団をよく観察し、「こいつは弱い」と判断した標的をしぼる。
 クジラの子どもは、母クジラの乳を吸うのではなく、食べる。カッテージチーズのようになっているから。
 バンドウイルカには、高度で複雑な言語があり、絶えず近況を伝えあっている。
 著者はシドニー大学の動物行動学の教授。対象とする動物の幅広さ、そして、その認識の深さには驚嘆するばかりです。
(2024年4月刊。2200円)

佐賀戦争、130年目の真実

カテゴリー:日本史(明治)

(霧山昴)
著者 毛利 敏彦 、 出版 明治維新史研究会
 佐賀に行って出会った冊子です。いま、佐賀では江藤新平の見直しがすすんでいるそうです。そして、江藤新平が刑死することになった「佐賀の乱」も「佐賀戦争」と呼び名が変わりました。
 佐賀戦争は明治7(1874)年2月に起きた。5300人が出動した政府軍側の戦死者184人、負傷者174人。これに対して、佐賀士族の戦死者も173人、負傷者170人です。双方、同じくらいの死傷者が出ました。
そのきっかけとなったのは、佐賀士族が小野組を襲って官金20万円を略奪したとされている件です。-実は、県と小野組とのあいだでお金が動いたことはあっても、略奪されていないというのです。2月11日の電信で、「金みなある。安心すべし」と東京に知らされています。
 ところが、大久保利通は、土佐出身の岩村高俊を佐賀県の県令に抜擢(ばってき)して、熊本鎮台に兵を出させ、この兵を率いて佐賀県庁に乗り込み、江藤新平たちを呼び出したのです。いわば挑発したのでした。それに対抗して江藤新平たちは急に戦争準備を始め、ついに戦争が始まりました。
 要するに、大久保利通は岩村を鉄砲玉として利用して、江藤新平の抹殺を狙ったのです。なぜか…。
 大久保利通は、江藤新平のすぐれた能力・頭脳に対して異常な嫉妬心をもち、憎んでいた。三条実美・太政大臣も岩倉俱視右大臣も江藤新平に対して絶大な信頼を寄せていた。江藤新平が政府に復活したら、明治政府のトップは江藤がなり、薩摩閥はその下に扱われる心配がある。そこで、江藤新平は抹殺された。
また、このころ、民戦議院建白が動いていた。江藤新平は地元の佐賀に戻って、自由民権運動の組織をつくろうとしていた。大久保利通は、民選議院が設立されることを大いに恐れていた。うむむ、そうだったのですか…。
(2005年3月刊。非売品)

住吉物語

カテゴリー:日本史(平安)

(霧山昴)
著者 吉海 直人 、 出版 角川ソフィア文庫
 「平安貴族が夢中になったシンデレラストーリー」「紫式部、清少納言も愛読」
 こんなキャッチフレーズがオビについた本です。ええっ、何、なに、平安時代にシンデレラ物語があっただなんて嘘でしょ、信じられなーい。
 「住吉物語」と「落窪(おちくの)物語」は、どちらも10世紀に書かれたもので、「継子(ままこ)」いじめの物語というのが共通している。
 「住吉物語」は「源氏物語」に引用され、「落窪物語」は枕草子に引用されている。
「落窪物語」のほうは男性作家、「住吉物語」は女性作家が書いたとみられている。
 同じ継子いじめといっても、「落窪物語」は、あとで復讐しているのに対して、「住吉物語」では目立った復讐はされていない。
 継子いじめのストーリーでは、前提として母親が死んで、継母と同居するようになり、その継母には娘がいるけれど、継子(ヒロイン)のほうが美人で才能にも恵まれているので、それが継母は気に入らないという流れです。なるほど、そうすると、シンデレラ物語と確かに共通するとことがありますね・・・。
 御前(ごぜん)は、武士階級の妻に用いるもので、「女房」は中世、とくに近世以降に使われることになった呼び名。正妻は、北の方、本妻、嫡妻(ちゃくさい)と呼んだ。
 平安朝の貴族の子女には、必ず複数の乳母が付けられる。授乳期間が終わっても養君が成人しても、乳母は側についている。乳母と養君の結びつきは単なる雇用関係(主従)を超える強固なもの。ときに乳母は結婚相手の選定にまで関与している。つまり、貴族には、実母と乳母という複数の母がいた。
 「時の鐘」とは午前3時を告げる除夜の鐘のこと。この鐘は、夜をともに過ごした男女の「後朝(きぬぎぬ)の別れ」の時を告げるもの。乳母は養君に忠実に仕えるもの、そして、フツーの女房は、主人を裏切る心配がある。
 平安時代にラブストーリーそして復讐の話(ストーリー)があったとは、驚きです。
 まあ、騙されたと思って、あなたも読んでみてください。驚くほど似た展開なのです。
(2023年4月刊。1040円+税)

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