弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年10月 8日

江戸の絵本読解マニュアル

日本史(江戸)


(霧山昴)
著者 叢の会 、 出版 文学通信

 江戸時代については、それなりに知っているつもりでしたが、草双子(くさぞうし)は聞いたことがあるくらいで、詳しいことは知りませんでした。この本によって、草双子の魅力をたっぷり味わうことができました。
 京都・大坂の上方(かみがた)を追いかけ、文化を発展させてきた江戸は、上方とは異なる独自の性格をもつ「絵本」をつくり出した。それが草双子。
 草双子は版本(はんぽん)。1枚の桜の木の板に文字と絵を掘りつけた版木(はんぎ)を使って刷り、製本する。作者が文章を書き、画工が絵を書き、それを彫師が板に彫って版木をつくる。その版木に墨を付けて和紙に刷るのが刷師。刷り上がった紙を半分に折って丁合を取り、表紙と裏表紙を付けて和綴じ、袋綴じをする。こうした一連の作業をプロデュースしているのが版元。
 江戸時代前期には、近世文学の仮名草紙と浮世双子が絵入り本、上方絵本と武者絵本は全ページに絵が入る絵草紙として出版された。少し遅れて江戸時代の中期初めころ、江戸で草双子が出版されはじめた。
 赤小本、赤本、墨本、青本と、表紙の色で区別されて呼ばれている。やがて安永期に黄表紙群が登場し、草双子は転換期を迎えた。
 たとえば「桃太郎」の話。江戸時代にもよく知られた昔話だった。そして草双子では、桃太郎のライバルとして柿太郎を登場させ、両者は鬼退治を競う。柿太郎のほうが一足先に鬼退治に向かうが、鬼にやっつけられてその子分となり、やってきた桃太郎と戦う。桃太郎にはかなわず、桃太郎が鬼を退治すると、柿太郎は桃太郎の家来になった。
 草双紙では、登場人物が誰なのか、顔立ちや着物の紋様で描き分けるか、袖や着物の裾に文字を書き込んで人物を示す手法も多用される。これは分かりやすいですよね。
 江戸中期、初期の草双紙に登場する化物(ばけもの)たちは、子どもから大人まで親しみやすい存在、「愛されキャラ」の化物だった。
 普段から身の回りで使用している器物に手足をつけ、顔を描いたりもしている。化物を擬人化して、当時の風習や流行を取り入れ、紹介している。続く黄表紙の時代では、化物の世界を面白おかしく想像し、ユーモアたっぷりの笑いのタネとして、化物のパロディーが描かれた。
 坂田金平(きんぴら)や鎌田又八は、当時の歌舞伎でも演じられる人気の勇者であり、こうした人気ヒーローが巨大な化物を退治していく話が草双紙で人気を呼んだ。これは最近の「鬼滅の刃」と同じようなものだ。
 草双紙には、読者の旅行への「お出かけ心」をくすぐる仕掛けがしつらえられているものが少なくなかった。日本人は昔から旅行が大好きなんですよね...。
 江戸時代は、人々が古典文学に出会い、求めた時代だった。それまで貴族や学者など、一部の人々のあいだで書き写され伝えられてきた作品が、出版文化が花開いたことから、広く人々が手に取れるようになった。
 『源氏物語』は、その代表作であり、リメイクやパロディーものなど、二次創作も盛んで、原作同様に楽しまれた。福岡の小林洋二弁護士も『源氏物語』オタクのようです。
 中国の『三国志』も江戸で大人気の作品でした。
 江戸時代の人々の豊かな活字文化の一端を知ることができました。
(2023年4月刊。2100円+税)

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