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2023年1月 の投稿

過労死

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 過労死弁護団全国連絡会議 、 出版 旬報社
 KAROSHIはカラオケと並んで世界に通用するコトバです。なんと不名誉なことでしょう。しかも、過労死の企業の典型といったら、なんと日本を支配する電通です。まったくひどいものです。
 日本の過労死問題について、世界の人々の理解を広げるため、過労死弁護団は、1991年に「KAROSHI」英語版を刊行した。それから30年あまりが経過した今日でも過労死はなくなっていない。なくなっていないどころか、ますます増えそうな状況にある。
 それというのも、日本ではあまりに労働組合が弱体化し、労組への加入率は激減したまま低迷し続けていて、ストライキは現代日本では死語も同然。
 他人(ひと)への迷惑をかけたらいけないから、自分の権利主張も控えるのが当然だという風潮、他人の足をひっぱるのが「常識」になっている。いやいや、昔は日本でもストライキがあり、職場占拠も珍しくなかったのです。それは江戸時代の百姓一揆の伝統を良い意味で承継していたのです。でも、今では…。
 過労死とは、働きすぎによる過労・ストレスが原因で死亡すること。この分野で第一人者である川人博弁護士は、過労死が現代日本では毎年1万件ほど発生していると推定している。厚労省が労災と認定する脳・心臓疾患や精神症疾患等の疾病(死亡を含む)は毎年800件で、そのうち死亡者は200件。これは氷山の一角。
 過労死弁護団連絡会議が設立したのは1988年6月のこと。最初の10年間は、死因のほとんどは脳卒中や心臓病死だった。
 1998年以降は自殺が急増した。そして、40代、50代の男性が多かった。
 1998年以降は20代、30代の労働者のケースが増え、女性のケースも増えている。
 過労死KAROUSHIは3K、Karaoke、Kaizenと並んで、世界的に有名な日本語。
 日本の労働組合は、欧米に比べると、活動力が弱い。そのうえ、組織率は17%だけ…。
 労働時間が1日に12~13時間、2週間連続勤務、月350時間労働、そして、年間4000時間をこえる過重労働。これでは病気にならないほうが不思議ですよね。
 電通に入った東大卒の高橋まつりさんは、上司からのパワハラもひどく、24歳になったばかりのクリスマスの朝に、会社の借り上げ寮から投身自殺。
 「今週10時間しか寝ていない。1日2時間の睡眠時間」なんて、信じられません。
 ところが上司は、こう言ったのです。
 「会議中に眠そうな顔をするのは、管理ができていない」
 「髪ボサボサ、目が充血したまま出社するな」
 「今の業務量で辛いのは、キャパ(能力)がなさすぎる」
 まつりさんは、こう書いています。
 「死にたいと思いながら、こんなにストレスフルな毎日を乗り越えた先に何が残るんだろうか」
 将来ある若い女性をここまで追い込む会社に存在価値があるのか、疑ってしまいます。ところが、先日の東京オリンピックの汚職事件の主要な舞台もまた電通でした。
 そして、アベ首相を押し上げていたのも電通。どこか、狂っているとしか言いようのない会社が日本を表でも裏でも動かしているのです。ここまでくると、日本の社会がおかしくなっている責任の一端が電通にあると言って、言い過ぎではないと私は思います。
 労災認定された過労死は2002年の160人を最高に、近年は減少傾向にある。それでも2020年は67人もいた。過労自殺のほうは、1999年の11件が少し増え、過去13年間は63~99人で横ばい。2020年は81人。2020年の過労死と過労自殺者の合計148人は、業務上死亡802人の2割を占めている。
 長時間労働は、うつ病、不安障害、睡眠障害の原因になる。
 メンタルヘルス休職者比率の高い企業のほうが、時間の経過とともに企業の利益率は悪化していく。
 では、電通はいったいどうなのでしょうか。相変わらず、超々大儲けしているように外見上は見えますが…。川人博弁護士は、過労死は、日本社会の構造的な原因によるものだと断言しています。本当にそのとおりだと思います。
 労働組合なんて、あってないような存在と化している現代日本において、労働者が自分の生命・健康そして基本的な権利を守り、主張することがとても難しくなっています。でも、あきらめてはいけません。そのための手引書もたくさん出ています。ぜひ活用したい本です。
 長年の知己である川人博弁護士から、本書の英語版と一緒に贈呈していただきました。ありがとうございます(英語版のほうの活用は検討課題です)。
(2022年12月刊。税込1430円)

クレプトクラシー,資金洗浄の巨大な闇

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ケイシー・ミシェル 、 出版 草思社
 世界最大のマネーロンダリング天国、アメリカというサブタイトルのついた本です。
 ウクライナ、赤道ギニア、ハイチなどの独裁者から押し寄せる違法な超大金を洗浄するシステムがアメリカでものすごく活用されているということを今さらながら強く認識させられる本でした。
 アメリカは世界最大のクレプトクラシーの避難地となっていて、今や史上最大のマネーロンダリングの国だ。世界中に張りめぐらされた犯罪ネットワークに関係する、何兆ドルもの資金が手品のようにクリーンで合法的なお金に一瞬で変わり、実際に使えるようになる。
 アメリカはクレプトクラシーの世界が出現するために手を貸し、その過程で利益を受けている。アメリカでは、匿名のペーパーカンパニーが次々に設立されていて、その背景に誰がいるのか、まったく分からない。ペーパーカンパニーとは、ブラックボックスにも似た汚いお金を変換させる魔法の装置だ。洗浄されたお金は、捜査官も解明できない。アメリカでは幽霊会社を設立するのは、許しがたいほど簡単、容易だ。必要な時には、「ノミニ―」と呼ばれる人間が選ばれる。ノミニーは、ペーパーカンパニーの取締役、株主そして共同経営者という登記できる、名目上の第三者。当局の質問に対しては、会社に関わっているのは自分だけだと主張する(できる)。
アメリカでは、連邦ではなく、州政府が法人誘致をめぐって、互いに競い合っている。ニュージャージー州には、企業が殺到した。登記のために駆け込んでくる企業のおかげで、州の財政はありあまるほど潤沢となり、州民に対しては減税するようになった。同じくデラウェア州でも登記した企業から毎年15億ドルもの収入を得て、売上税・資産税を課していない州にとって巨大な財政支柱になっている。年間22万5000件超の企業が設立され続けている。
 チリの悪名高い独裁者ピノチェトも隠れ資産をもって私腹を肥やしていることが明らかにされた。
 ウクライナでも独裁者がせっせと私腹を肥やしていた。ウクライナの銀行、プリヴァトバンクの融資先の99%は内容のない幽霊のような企業だった。
 トランプ前大統領は、自分の不動産を通じて、何十億ドルもの資金洗浄してマネーロンダリングに関わっていた。トランプの所有する物件はどれも、過去数十年にわたって、アメリカに流入していきた汚いお金の大洪水のおこぼれに預かってきた。トランプの物件の最終的な所有者のうち、身元が公表されているのは、ごくわずか。怪しい買い手の大半は、アメリカで登記したダミー会社を徹底的に利用して、アメリカの不動産を購入していた。大統領に就任したトランプは、アメリカ政府が築いてきた反腐敗という壮大な砦を破壊するような行為を始めた。腐敗に対する規制、先例と伝統をトランプはあくことなく破壊した。
トランプ大統領に快く思われるには、トランプのホテルに宿泊するのが一番だと気がついた首相や大統領もいた。
 ウクライナのゼレンスキーというユダヤ人の俳優が世に出たのは、テレビドラマを通じてウクライナの大統領を数年かけて演じカリスマ性を獲得した。クレプトクラットであるコロモイスキーの支援も受けてゼレンスキー大統領は誕生した。でも今なおウクライナは腐敗とは無縁ではない。
 世界中の汚い大金がアメリカに集中している仕組みがあることを認識しました。それも気の遠くなるほどの大金です。世界中の多くの人が食うや食わずの生活をしているというのに、なんということでしょうか・・・。
(2022年9月刊。税込3,080円)

抑留記

カテゴリー:日本史(戦後)

(霧山昴)
著者 竹原 潔 、 出版 すいれん舎
 著者は1906年生まれなので、日本敗戦(1945年)時は39歳。陸軍士官学校を卒業した職業軍人で、陸軍中佐。情報関係の将校として、アガバ機関という特務機関長も務めている。日本に帰国したのは1956年12月なので、11年もシベリアに抑留されていた。山崎豊子の『不毛地帯』のモデルの一人とのこと。
 シベリアのラーゲリ(収容所)でも日本軍の中佐としての誇りを捨てず、ロシア人を「ロスケ」(露助。ロシア人に対する蔑称。日本人に対するジャップのようなもの)と呼んで恥じるところがない。
 著者はなぜ日本が侵略戦争をしたのか、満州を支配した日本軍が何をしたのか、驚くほどまったく反省していません。日本軍は強かったと「ロスケ」に言われて、得意然としています。そんな致命的弱点がある体験記なのですが、人間としての誇りは失わないという点は、最近の映画「ラーゲリより愛を込めて」の主人公・山本幡男に共通するところがあり、共感できるところも少なくないのです。つまり、戦争というものの非人間性をこの本も明らかにしています。
 日本の敗戦直後、師団参謀として金策するのにアヘンを確保し、それを蒙古人に売っています。そこでもアヘンの害悪という点は、まったく念頭にありません。日本人将兵1万人を救うのが先決だという発想であり、論理なのです。
 著者のアガバ機関というのは、蒙古系のブリカート人を保護・育成して、ソ連軍に対抗する勢力として利用しようという仕事をしたようです(もちろん失敗しています)。
 ノモンハン事件でソ連軍の捕虜となり、日本軍に戻れず、やむなくブリカート人になってしまった日本人も登場します。これも、日本軍の限界というか、弱点なのですが、著者は、何ら問題としていません。
 シベリア抑留では、たくさんの日本人がソ連側のスパイになるよう勧誘されたようです。著者は情報将校として、スパイの接し方、利用したり裏切らせたりしています。さすが・・・です。
 著者は50歳のとき帰国し、1982年に76歳で亡くなっています。
ソ連のラーゲリで12年も生き抜いた囚人が生き抜く心得を三つあげた。その一つは、できるだけ働かないこと。殺人的なノルマをこなそうとしたら、その代償は死。その二は、犬(スパイ)に気をつけること。犬はどこでもいる。地位の維持、保身のため、つくり話を当局にたれこむ。その三は、人とはケンカをしないこと。人を殺すのなんか、なんとも思わない囚人が少なくない。
 ラーゲリの食事は、1日300グラムの黒パンと、わずかばかりの豌豆(えんどう)スープだけ。ソ連は、日本軍元兵士だけでなく、満州国の官吏、満鉄の職員、そしてフツーの市民までスパイ容疑でシベリアへ連行し、強制労働に従事させた。
 シベリアのラーゲリに収容されると、虚脱状態になって、元兵士たちを指導するなんて、とてもできない師団長や参謀たちがいた。それに対して、著者は敗戦の虚脱状態から抜け出させて、軍記厳正、志気旺盛の兵隊に戻そうとしたのです。
なかなか迫力満点の体験記でした。ご一読ください。
(2022年8月刊。税込4400円)

刑期なき殺人犯

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 ミキータ・ブロットマン 、 出版 亜紀書房
 司法精神病院の「塀の中」で、というサブタイトルがついている本です。
 両親を射殺した殺人犯は、責任能力がないとして刑務所ではなく、精神病院に収容される。すると、そこは、刑務所のような明確な刑期というものがない。精神科医の判断と刑務所当局の都合によって、刑期のない、いつ終わるか分からない生活を余儀なくされる。
両親を殺害したブライアンはショットガンと銃弾を購入した。ブライアンは妄想に浸り、眠れないなか、父親の背中をショットガンで撃ち、また、母親の身体を撃った。その瞬間、ブライアンは、これが現実だと分かり、その場から逃げた。やがて、警察署に自首した。
 アメリカでは、年300件以上の親殺しの殺人事件が起きている。統計によると、両親を殺した子どもが再び殺人を犯すことは、ほとんどない。彼らの恐怖や怒りの対象はもう死んだから。親殺しは、子どもが追いつめられ、押しつぶされ、絶望したり、どうしていいか分からなくなったりして限界を超えたときに起こることが多い。とても耐えきれないような状況に対する絶望の末の反応なのだ。
 ブライアンは司法精神病院に収容された。ここでは、患者の平均入院期間は6年以上。犯罪に関して「責任能力がない」とみなされるのは、「無罪」になるのと同じではない。「無罪」は、無実の罪が晴らされたことを意味している。しかし、「責任能力がない」というのは、ほかの意味では犯罪に責任があるとしている。
 女性患者は男性患者よりもトラブルが多い。
武器や自殺の道具に使われる可能性があるものはすべて禁止。ベルト、バスタオルなど・・・。そしてケータイ、パソコン、ハンドバッグ、財布も禁止。カフェインの入ったコーヒーや紅茶も禁止。
 精神病の人の診断は、担当した臨床医の判断による。精神科医には、強大な力がある。違う医師に診察を受けると、診断名がどんどん増えていくことがある。
ブライアンにとって、病院スタッフの大半が自分のことを思ってくれているのではないことは分かっていた。事なかれ主義だ。
病院の食事にも頼れない。スタミナを取り戻すためには、週に一度のテイクアウトの食事を利用し、エクササイズを再開するしかない。ブライアンはそう考えて、実行した。
 大半の患者にとって、一番の助けになったのは、他人と接する環境にいること。
ブライアンは、「チーク」もした。薬を飲んだふりをしてほほの内側に隠し、あとでトイレに吐き出す。コツがあり、一度覚えてしまえば簡単だ。チークすることで、自尊心は少し回復した。
 精神科医の一人が、妄想型統合失調症だということが、かなりたってから判明した。うひゃあ、そういうこともあるんですね・・・。
この病院の患者は、インターネットにアクセスすることができず、法律書もなく、タイプライターもコピー機も使えないので、申立書は全部手書きするしかない。しかも、副本は8本も必要なことがある。
 パーキンスは病院だと思われているが、刑務所よりたちが悪い。精神病院には、刑務所と同じくらい、法律に関して玄人はだしの収容者がいる。精神疾患は必ずしも見えて分かるものではない。外見に騙されないよう、弁護人として注意する必要がある。
 ブライアンは、犯行の時点では重度の精神病だった。これは本人も認めている。27年後、自分の病気は20年前より寛解していて、もはや妄想型統合失調症ではないと信じている。そして、まだ慢性の精神障害ではなく、決して危険でもない。
加害者を措置入院させるのは、本人を治療するためなのか、社会から隔離するためなのか、親族の都合なのか・・・。そもそも精神病院とはどういうものなのか。医師にとっては目に見えるように確かなものなのか。投薬を主としている現在の治療の傾向は正しいのか。身体の病気のように全快することはありうるのか・・・。ブライアンは事件から30年たった今もなお精神病院に入っている。
いろいろ深く考えさせられる本でした。
(2022年8月刊。税込2640円)

家裁調査官 庵原かのん

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  乃南アサ、 出版  新潮社
 福岡家裁北九州支部の少年調査官を主人公とした小説です。実は、実際にあるのは小倉支部であって、北九州支部ではありません。著者は、もちろん知ったうえで、全国版の小説として北九州支部にしたのでしょうね。
 少年とあっても、これには女子も含まれます。少年・少女という男女の使い分けはしません。
 調査官は、まず読み、次に聴き、最後に書く。そのとおりです。少年本人や家族に会って話を聴く前に、関係の書面をまず読まなければいけません。そこで、いわば一定の「予断」を抱くことになりますが、それは手続的に仕方のないことだと思います。
 話を聴くといっても、少年と1対1で話がスムースに進行するとは限りません。親が同席して、介入することは多々あります。逆に、親との対話が難しかったり、本人がなかなか本心を言わないということも多いことでしょう。
 そして、調査官の所見(意見)を書かなくてはいけません。私の経験では、調査官の意見を完全に無視した裁判官に出会ったことはありません。むしろ、調査官の意見に盲従するタイプの裁判官のほうが多かったように思います。
 少年たちの多くが、強烈な人間不信に陥っている。そして、ほめられたり、無条件で愛された経験をもたないため、自尊感情がとても低い。自分には何の価値もないと思っているので自暴自棄になりやすい。自分のしたことの何が悪いのかなど考えもしなかったり、規則を守ることの意味も分からなかったり…。ガマンしたり、自分を律する訓練を受けていない、また自分の気持ちを明確にできないし、他人の思いをくみとることもできない。
 そんな人、いますよね…。ああ、この人は威張りちらすばかりだから、きっとこれまで大切にされたという実感がないんだな…と思うことはよくあります。
 弁護士(私のことです)に向かって威張りちらす人が、多くはありませんが、少なからずいます。弁護士の話の揚げ足とりをする人もいます。親や周囲から愛されたという実感をもたない、淋しい人生をおくってきた人なんだろうなと、いつも実感しています。
 家庭裁判所の補導委託先となっている人は大変だと思います。本当に頭が下がります。少年たちは、初め、大人をさまざまに試す。わざと怒られるようなことをしてみたり、嘘をついたりして、委託先の大人を「やっぱり信じられない」と決めつけようとする。
 なので、委託先の人たちは、少年を叱りつつ、根気強く諭(さと)すことを欠かさず、徹底的に話し相手になる、ほめるところはほめ、ときに共にふざけあったりして、少年が心を開いていくのを辛抱強く待つ。そのためには、少年を指図するだけでなく、率先して汗をかき、働く姿を見せる。
委託先の人たちは、「ガッカリ」させられることを積み重ねる。それが、運命だと割り切る。いやあ大変ですね…。
 外国人家庭の子の場合、日本語ができるのか、親との意思疎通をどうしているのか…。「援助交際」にはまった女の子の場合、家庭に居所がそもそもなかったり、むしろ親から逃げだしたほうがいいケースもあったりします。私も、最近、親との関係で一刻も早く家を出たほうがいいと思われるケースを担当しました。しかし、それでも先立つものが必要になりますので、その加減がむずかしいということは多々あります。
 いろいろ考えさせられるケースが提示されていて、弁護士として身につまされる本でした。
                         (2022年8月刊。1800円+税)

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