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2022年10月 の投稿

昆虫食スタディーズ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 水野 壮 、 出版 同人選書
 地球環境を守るため、昆虫を食べよう。そんな呼びかけをしている本です。
 昆虫はこれまでの家畜と同じく栄養価が高く、かつ、地球環境免荷を軽減できるエース級の動物タンパク源だ。
 2050年までに世界の人口は90億人に達する。そして、2010年から2050年にかけて、肉と牛乳の消費量は58%も増加する。すると、肥料の需要が増加し、牛・豚・鶏肉の価格は30%以上あがる。そのうえ、地球温暖化を促進してしまう。
 家畜に代わる代替タンパク質として期待されているのが昆虫。
 実は、古くから昆虫は人類の食料として利用されてきた。現在でも、世界で20億人以上が昆虫を食べ、2000種もの食用昆虫がある。
 昆虫のタンパク質含量は乾燥重量あたり40~75%。これは牛肉・豚肉に匹敵いやそれ以上の豊富なタンパク源。しかもタンパク質を構成する必須アミノ酸の組成も悪くない。
 昆虫は、とくにビタミンB群を豊富にふくむ種が多い。
 昆虫の炭水化物は、表皮を構成するキチンが大半。キチンは機能性食物繊維としての活用が期待できる。キチンやそこから生成されるキトサンはコレステロールの体内への吸収を低下させる作用がある。昆虫由来のキチンは、カルシウム含量が少ないので、精製が容易。また、加水分解されやすいので、さまざまな用途への活用が期待できる。
 昆虫の温室効果ガス排出量は非常に低い。それはメタンガスをほとんど生成しないことのほか、変温動物のため代謝量が低いため。
 たとえば、イエバエとアメリカミズアブを養殖したら、1ヘクタールの土地で年間150トンのタンパク質が生産できる。しかも、高密度で飼育でき、発育スピードも非常に速い。さらに、昆虫の水分摂取量は非常に少ない。また、少ない餌で効率よく育つ。
 廃棄物を昆虫が食べて育つことで、廃棄物はタンパク質に変わる。
 イエバエは卵から成虫になるまで35度で1週間。アメリカミズアブは、卵から蛹まで1ヶ月。コオロギもイナゴも日本では昔から食べてきた。ハチノコも年間数キログラムが消費されている。
 昆虫食ビジネスが注目されている。そこまでは理解できます。でも、その昆虫のなかに、ゴキブリまで対象となっていると聞くと、うえーとなりそうです。だけど、そこを乗りこえないとビジネスにはならないのでしょうね、きっと…。
(2022年2月刊。税込1870円)

きのこの自然誌

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 小川 真 、 出版 山と渓谷社
 私が好きなきのこはシイタケとマイタケです。焼き鳥屋で肉厚のシイタケを焼いてもらって食べると最高ですよね。マイタケは、やっぱり天プラですね。
 マツタケなんて、何年も食べたことがありません。わざわざ超高価なマツタケを食べようとは思いません。それ以外のきのこは、毒きのこのイメージが強くて、とても手が出ません。毒をもつフグなら、ちゃんとした店で調理したものに限ります。
 フランス料理の珍味の一つのトリュフ。ブタが、このきのこの匂いにもっとも敏感。だけどブタはともかく頑固で、人間の言うことを聞かずに、見つけたトリュフをさっさと自分で食べてしまう。なので、ブタをつかってトリュフを探すのは困難すぎる。
 イタリアには、トリュフ狩り用のイヌの訓練校があるとのこと。トリュフの匂いに敏感なハエがいて、それでトリュフを探す。というか、トリュフの匂いは、このハエを招き寄せるためのもののようだ。トリュフは有史以前、ギリシャ、ローマ時代に、既に珍味中の珍味になっていた。
 トリュフは日本ではほとんど採れない。日本は土壌が酸性で、かつ雨量が多い。しかし、トリュフは湿った場所を嫌い、アルカリ性の土だけを好む。石ころ混じりの腐植の多いアルカリ性の土地を好む。年間雨量が600から900ミリの地帯にのみ発現する。このように、トリュフの栽培は、マツタケと同じように難しい。
 きのこの縄張りは、広がったり、食われたり、入れ替わったりと目まぐるしい。10年もすると、すっかり種類が変わってしまうほど。それぞれの種が、それぞれの暮らし方にしたがって、縄張りをつくり、互いに競争しながら精一杯生きている。
 マツの老齢林でマツタケが見る間に出なくなるのは、若いマツの根が少なくなり、落葉が厚くなって、地表に敵がふえ、シロが次々に攻められ、マツタケがきのこ戦争に敗れるためだと考えられている。関西では、昔からマツタケの出る場所をシロと呼びならわしている。
 マツタケの生えるマツ林にうかつに近づくと、「泥棒っ」と怒鳴られてしまう。
 マツタケのない地方では、山への出入りは勝手放題だし、人の心ものどかだ…。なーるほど、ですね。
 人を殺すほどの猛毒をもっているのは、タマゴテングダケとドクツルタケ。
 『今昔物語』に出てくるきのこは、「オオワライタケ中毒の症状」とそっくりだという。
 さすが、キノコを長年研究したことがこうやってまとめれているのです。すごいきのこ図鑑(文庫本)です。
(2022年2月刊。税込1188円)

戦争と文学(日中戦争)

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 火野 葦平 ・ 石川 達三 ・ 五味川 純平 ほか 、 出版 集英社文庫
 戦前は、「日中戦争」とは呼ばれなかった。「支那事変」と呼ばれた。というのも、戦時国際法は、戦争を始めるとき、最後通牒の提示と、宣戦の布告を定めていたが、日中間一連の武力衝突は、それら国際法上の義務を欠いていた。なので、「戦争」ではなく、「事変」と呼んだ。
 日本は、この「事変」に35個師団と、のべ200万にのぼる大兵力を動員し、40万人以上の戦死者を出した。
 日本軍は、どんな奥地にも慰安所を設置した。これは軍そのものが管理した。民間人が勝手に設置することが許されるはずはなかった。
 兵隊たちは、奥地で設置された場所にいる中国人の女か、また別の、ちがった場所にいる朝鮮人の女たちのところへ通うようになっていた。その朝鮮娘たちも、みんな国防婦人会にはいっていて、天長節そのほかの記念日や、祭日には、洋服を着たり、和服姿で、肩に「国防婦人会○○支部」と黒く染めぬいた白いタスキをかけ、同じ服装をした芸奴たちと並んだ。
 討伐(とうばつ)という言葉は好きでない。ウサギ狩りのように、何か簡単に掃蕩(そうとう
)ができるものと思われがち。しかし、華々しくはない。討伐ほど困難で苦労の多い戦闘はない。これまでの経験では、討伐のほうが、かえって苦戦し、多くの犠牲を出している。敵は堅固な陣地を構築し、機関銃や迫撃砲を有している。討伐戦では常に壮烈な激戦が行われる。
 兵士たちは、「今度のチャンコロは馬鹿にすると、ひどい目にあうぜ」と、差別語まる出しで、恐怖心をあおりたてた。
 いやはや…。でも、今でも右翼雑誌が堂々と書いて宣伝していますよね。たとえば、国葬反対の国民世論を操作しているのは左翼弁護士だ。また、国葬反対運動のバックには共産党がいる…などです。こんなインチキに惑わされて信じ込む人がいるのも残念ながら現実です。
 戦争をあおりたて、戦争を美化して戦争の現実から国民の目をそらさせようとしていた戦前の日本社会を振り返ってみました。700頁という部厚い文庫本の大作です。
(2019年11月刊。税込1870円)

戦前の日本

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 武田 知広 、 出版 彩図社
 教科書には載っていない、戦前の日本の現実が紹介されている興味深い文庫本です。
 現代日本の国会にもヤクザ出身ないしヤクザまがいの議員がいました(います)よね。でも、戦前は、まさしく本物のヤクザの親分が議員としていたようです。
 その一人が、「九州一の大親分」とまで言われた吉田磯吉。北九州に君臨した親分です。20年ものあいだ国会議員をつとめ、二・二六事件の起きた1936(昭和11)年に70歳で亡くなったとき、葬儀に2万人が参加したとのこと。安倍国葬をはるかに上回りますよね…。
 次は小泉純一郎元首相の祖父の小泉又次郎。こちらは横須賀の大親分で、「倶利伽羅紋々」のすごい親分だった。
 この本に登場する衝撃的な出来事の一つに、1927(昭和2)年の山形県立高等女学校の生徒200人がポルノ写真のモデルになったというものがあります。写真屋で、女生徒が全裸のほか、コスプレ写真も撮らせて、モデル料30円(今なら10万円)もらっていたとのこと。全校生徒750人のうち200人というのには、圧倒されます。こんな話、今まで聞いたことがありませんでした。本当でしょうか。いったい、なぜ、そんなことが可能だったのでしょうか。この事件の顛末(てんまつ)をまとめた本があったら、ぜひ教えてください。
 日弁連の人権擁護大会で旭川に行きましたが、旭川は戦前に有名なスタルヒン投手の育ったところで、今も「スタルヒン球場」があるそうです。スタルヒンは元ロシア貴族の出身で、中国(満州)のハルビン経由で北海道・旭川に住みついて父親はダンスホールを経営していたとのこと。
 戦前の日本はアジアの革命輸出基地になっていた。たとえば、昭和初期に中国人留学生が5000人以上、日本にいた。そのなかには、周恩来や魯迅(ろじん)もいた。
 戦前の日本には、徴兵制度がありました。韓国には今もあり、BTSが入隊するのが免除されるかどうかが、大いなる話題になっているのが徴兵制度。日本でも韓国でも、ホンネでは、みんな兵隊になんかなりたくないのです。
 250頁ほどの文庫本ですが、中味はぎっしり、ずっしりと重たいのです。一読の価値があると思います。どうぞ、ご一読してみてください。
(2016年9月刊。税込712円)

わたしの心のレンズ

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 大石 芳野 、 出版 インターナショナル新書
高名な写真家である著者が50年に及ぶ取材生活を振り返った新書です。
まだ駆け出しのころ、「女流カメラマン」と呼ばれたとき、著者は「私は流れていません」と反発した。すると、「かわいくないねー」と嫌味を言われた。なるほど、そういう時代があったでしょうね・・・。
 まずはパプアニューギニアへの取材旅行を紹介します。1971年、まだ著者が20代の娘だったころのことです。そんなところに若い女性が一人で行くなんて、とんでもないと周囲から何度も止められた。もちろん止めるでしょうね。それでも著者は出かけました。
 パプア人とは、縮れ毛の人という意味。ここでは、一夫多妻の習慣をもつ部族が多い。でも、ひとりの母親は3人の子までしかもたない。なぜか・・・。「森が壊れてしまうから」。 人口が増大すると森が壊れ、結局、打撃を受けるのは自分たちだと、みんなが考えている。
 著者は、山中の村に長く滞在し、ロパという女性と親しくなった。現地の言葉も話せるようになったのでしょうね。女性は特殊な草を食べて避妊していた。
 そして長く村に滞在していると、著者を「見に来る人」が増えて、「人気者」になったとのこと。ノートにメモをとっていると、その一挙手一投足まで皆がじっと注目し見つめる。そこで著者が、「私は動物園のサルではない」と訴えた。それに対して返ってきた言葉は、「サルより面白い」というもの。なーるほど、そうなんでしょうね。明治初期に東北地方から北海道まで日本人の従者一人を連れて旅行したイギリス人女性(イザベラ・バード)が、まさにそうだったようです。
 ここでは、男女ともに、自分たちの祖先はワニだと信じていたる。そして、男性はワニと同じように強くなるための苦行を経なければいけない。村人、とりわけ女性を守るのは勇敢な男性なので、そのために男性は心身を鍛えなければならない。ワニの化身になった男性の肌にはワニ柄が彫られている。これを、男女とも、みんなが「美しい、たくましい」と言ってあがめる。
 背中にカミソリをあて、傷口に黄色い粘土をすりこんでいく。とても痛いらしい。それをじっと耐える。この背中の傷がいえるまでに、少なくとも1ヵ月はかかる。いやはや、「勇敢な男」になるのも大変なんですね・・・。
 世界各地のドキュメンタリー写真をとってきた著者はベトナム、カンボジアを含めて、世界各地に足を運んでいて、鋭く問題提起をしていて考えさせられる新書です。
(2022年6月刊。税込1089円)

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