(霧山昴)
著者 帚木 蓬生 、 出版 新潮社
九州で四代、百年続く「医者の家」が描かれている本です。
「町医者」がぼくの家の天職だった。オビにこう書かれています。でも、戦争はそんな「町医者」を戦場にひっぱり出します。
軍医にもいくつかのコースがあったのですね、知りませんでした。
赤紙で招集される医師には相当な苦労が待っていた。まず二等兵で入営するから、ビンタなどの苛酷な軍隊生活を覚悟しなければならない。医師だからといって手加減されない。
ところが、軍医補充制度というものがあって、衛生上等兵となり、1ヶ月の軍人教育が終わると、衛生伍長として陸軍病院で軍人医学を学び、修了したら衛生軍曹になる。
主人公は、再招集されて衛生軍曹から軍医見習士官となった。そして、フィリピンに派遣された。ルソン島の陸軍病院で働いていると、レイテ島への異動命令が出た。ところが、それは困ると上司がかけあってルソン島にとどまった。レイテ島に行った将兵は全滅した。運良く助かったというわけ。
ルソン島では薬剤もなく、食糧も尽きてしまって、多くの日本軍将兵の患者は栄養失調のなかで死んでいった。運よく日本に帰国できたので、戦病死した上司の軍医中尉の遺族宅へ行き、当時の実情を報告した。
現代の「町医者」の活動を紹介するところには、ギャンブル依存症を扱う精神科医に講演してもらったという記述もあり、著者が自分のことをさらりと紹介しています。
また、コロナ禍に「町医者」がふりまわされている状況を描写するなかでは、例の「アベのマスク」に対する批判など、政府の対策の拙劣され対しても厳しく批判しています。
「町医者」を四代も続けるということが、いかに大変なことなのか、少しばかり実感できる本でもありました。
著者は、次はペンネームの由来である「源氏物語」の作者である紫式部の一生に挑戦すると予告しています。楽しみです。
(2022年6月刊。税込1980円)
2022年8月21日