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2022年7月 の投稿

1966年、早大、学費闘争の記録

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 編纂委員会 、 出版 花伝社
本格的な学園闘争のはしり、とも言うべきワセダの学費値上げ反対闘争について、当時、闘争をになった人たちが振り返ってまとめた総括本です。
ときは私が大学に入る前年、1966年1月から6月までのこと。150日間もの早大学生ストライキが敢行されました。当局の決めた学費値上げは、入学金3万円を5万円に、授業料5万円(理・教育は8万円)を8万円(同12万円)にするというもの。このころ、国立大学は授業料(文系)1万2千円(月1千円)、大卒初任給2万4900円、自給70円、日給560円、公営住宅(2DK)の賃料7600円でした。学生が怒るのも当然です。ただ、今は、国立大学だって何十万円(正確には、いくらでしょうか…)、私立大学は3桁になっていますよね…。
ヨーロッパのように、学費は無料化すべきです。アメリカから不要不急の超高額の戦闘機や武器を何兆円も買っているのをやめたら、すぐに実現できるのです。人間への「投資」こそ、日本という国が生きのびる最大の保証だと私は思います。この本に、学費の現状と本質的な問題点の指摘がないのが、私には残念でした。せっかくの総括本なので、現時点の学費問題も一言くらい掘り下げてほしいところでした。
それはともかくとして、当時の早大生が、学費闘争の経験を今も自分のなかの「宝」として持ち続けているのを知ることができたのは、大いなる喜びでした。学費値上げを阻止できなかった、残念だったという「総括」は、どこにもありません。
当時のワセダの学生のなかには、靴が壊れても買い換えられず、「新聞紙を靴のように形作り黒マジックを塗って履いていた」人もいたとのこと。私も、革靴の底に穴があいていたのをしばらく履いていたことを思い出しました。それを知った姉が靴代を送金してくれました。
あの早大闘争のなかで学んだのは、民衆の力で、社会や歴史は変えられるという積極的な確信。私も1968年に始まった東大闘争の渦中に身を置いて、同じような思いを抱いています。その点、最近の若者が、同じような体験をしていないことが気の毒だと考えています。
何百人もの早大生が真冬のさなか、大学、つまり教室に泊まりこんだこと、そのとき、朝まで暖房がきいていて、それは職員が風邪をひかないように徹夜でボイラーを焚いてくれたからだったというのには心が打たれました。単なるバリケード封鎖のための泊まり込みではなかったからです。
坂下セツルメントで活動していた学生もいます。一番の収穫は、活動の節目に集団で総括し、成果と問題点を明らかにして、今後の教訓とすることが身についたこと、そして、活動を通じて自己変革したこと。これは、川崎セツルメントに3年あまり所属していた私とまったく同じです。
「民主主義」とは、大変難しく、根気のいることだと思った。まじめに「暴力的なこと」を批判すると、恫喝されてクラス討論にも出席しなくなる学生がいた。すると、暴力的な人たちの思うとおりになってしまった。
このころは、まだゲバルト、むきだしの暴力は少なかったようです。2年後の東大闘争では、途中から、ヘルメット・ゲバ棒が白昼に公然と横行するようになりました。その暴力を賛美する外野もいて、それを克服するのに、大変な苦労をさせられました。
私は、全共闘の暴力賛美だけは、ぜひぜひやめてほしいと今も心から願っています。暴力の賛美は人間性を破壊するものでしかありません。
いま、ほとんどの大学に学生自治会なるものがなく、あってもその存在は希薄であり、形骸化しているようです。本当に残念です。民主主義の実践を体験する貴重な機会だと思うのですが…。
私も知る広田次男弁護士(福島で活躍中)や矢野ゆたか・元狛江市長(4期16年)も当事者として一文を寄せています。
(2022年3月刊。税込1980円)
 日曜日、庭のブルーベリーを収穫しました。それほどでもないかと思っていましたが、皿に一杯ありました。食後のデザートになりました。アスパラガスが今年は細いのばかりでしたので、掘りあげて整地して新しいアスパラガスを植えつけられるように準備しました。
 アサギマダラ(チョウチョ)の大好物のフジバカマ(植物)がぐんぐん大きくなっています。秋の来訪を楽しみにしています。
 先々週の庭仕事で腰を痛めましたが、なんとかフツーになりました。
 久留米は連日700人もの感染者が出ていて、コロナ禍は一向に収束しません。2年ぶりの東京では、行き帰りとも、飛行機は満席でしたが、居酒屋も満員盛況でした。本当に心配ですよね。まあ、ロシアの戦争のほうが、もっと心配ではありますが…。

君は「七人の侍」を見たか?

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 西村 雄一郎 、 出版 ヒカルランド
コロナウィルスで厭世(えんせい)観漂う時期…、こんなときにこそ見たい映画が「七人の侍」(1954年)だ。
まったく異論がありません。私は、中洲の映画館でリバイバル上映されたときに早起きして見に行きました。圧倒的な大画面のド迫力に息を詰めて、ときのたつのを忘れてしまいました。「七人の侍」をみたことのない人は、それだけで世の中の幸せをまだもう一つ味わっていないことになります。私は、このように自信をもって断言します。
「七人の侍」をご馳走(ちそう)にたとえると…。うなぎ丼の上にカツレツ乗っけて、その上にハンバーガーなんか乗っけて、さらにカレーをぶっかける、みたいなご馳走。いやはや、なんと貪欲(どんよく)な料理でしょうか…。
黒澤明監督は、シナリオ構成を音楽にたとえる。「七人の侍」は、それぞれ個性豊かな俳優の顔を見る映画。いやあ、ホントなんですよね、これって…。みんな、それぞれに、いい顔をしています。三船敏郎ももちろんいいのですが、志村喬(たかし)の勘兵衛は、まさにリーダーとして、はまり役です。侍大将ほどの器量をもつ男。でも、負け戦(いくさ)ばかりが続いた不運な男。そのため、どこか諦観を全身に秘めた風情(ふぜい)もあわせもつ。
「七人の侍」のオリジナル完成版は、なんと3時間27分とのこと。私はぜひみてみたいです。海外版は2時間49分。私が中洲の映画館で見たのは、きっと、この海外版なんでしょうね。残念です。
「七人の侍」は、1954年のゴールデンウィークに上映され、11万人近くの観客を集め、2億9000万円を稼ぎ出した。それを上回ったのが松竹の「君の名は、第三部」だった。
「七人の侍」の製作費は2億1000万円。これは、フツーの作品が7本もつくれるという金額。いやあ、すごい、すごい、すごすぎますよね、これって…。
ジョージ・ルーカスもフランシス・コッポラというアメリカの大監督たちも、この「七人の侍」を何度もみたというのです。「スター・ウォーズ」だって、「七人の侍」の影響を受けているというのです。
そして、この本が面白いのは、著者が佐賀大学で映画論を教えていて、学生たちに授業として見せたときの感想が紹介されているところです。
学生たちは録音が悪いこともあって、昔の難しい語句の意味が理解できない。しかも、3時間30分は、いくらなんでも長すぎる。ユーチューブの10分の映像だって早送りしてみているのに…。早送りなんて、「七人の侍」にかぎって、とんでもありませんよ。
学生たちの人気ベストワンは、なんといっても三船敏郎の「菊千代」。その菊千代が途中で死ぬことに驚いた学生が少なくない。
実は、この本は、「七人の侍」だけでなく、世界のクロサワ監督の映画を次々に紹介していくのです。
「生きる」の主人公は胃がんで余命いくばくもない市役所の課長(志村喬)の話。中国でもっとも人気のあるクロサワ作品だとのこと。アメリカでも玄人向けしている。
主役の志村喬は、自分が「がんだ、がんだ」と思って演じていたら、本当に胃が悪くなって胃炎にかかったという。いやはや、それだけ真に迫った演技でしたよ…。
「椿三十郎」の殺陣シーンの衝撃度も忘れられません。なにしろ、決闘シーンでは斬られたサムライの胸から水道管が破裂したように血が噴き出してくるのですから。そのうえ、殺陣に音が入るのです。その効果音がリアルすぎるのです。鶏を買ってきて、羽をむしった丸々のやつを、柳刃包丁で、斬ったり突いたりした。鶏のなかに割りばしを何本か入れておくと、包丁が固いものに当たって、人を斬った音のように聞こえる。雑巾みたいなものをたたいて作ったザブッ!パシャッ!という音を合成してつくる。すると、水っぽくなく、血の出るような音になる。
いやはや、開拓者というのは、とんでもない苦労をしたのですね…。
私のような映画好きには、たまらない本です。
(2022年3月刊。税込2200円)

「男はつらいよ」全作品ガイド

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 町 あかり 、 出版 青土社
1991年うまれのシンガーソングライターの著者は映画館で『男はつらいよ』をみたことはないようですが、全作品を繰り返しみたとのこと。寅さんの映画のすばらしさと感動を素直な文章で紹介しています。
『男はつらいよ』を大学生時代、そして苦しい司法試験の受験勉強の息抜きとして深夜に東京は新宿の映画館でみていた私、さらに弁護士になり、結婚して子どもができてからは、お正月映画として子どもたちを引きつれて映画館で大笑いして楽しんでいました。
私の人生と映画『男はつらいよ』を切り離すことは絶対にできません。
「男だけが辛いとでも思ってるのかい?笑わせないでよ!」
いやあー、す、すんません。
「いくら心の中で思っていても、それが相手に伝わらなかったら、それを愛情って言えるのかしら?」
「幸せにしてある?大きなお世話だ。女が幸せになるには男の力を借りなければいけないと思っているのかい?笑わせないでよ」
他者に左右されない幸せ…。
寅さんは、こう言ってなぐさめる。
「月日がたちゃ、どんどん忘れていくもんなんだよ。忘れるってのは、本当に良いことだなあ」
ホント、そうですよね。忘れられなかったら、すぐにも病気になってしまいますよ。
「人間っているもんはな、ここぞというときには、全身のエネルギーをこめて、命をかけてぶつかっていかなきゃいけない。それが出来ないようでは、あんた幸せになられへんわ!」
失敗を恐れず、思いきり自由に生きたいものです。
著者は、映画館で声を出しながらみる昭和時代のスタイルに憧れているといいます。私は、子どものころから、それを体験しています。子どものころ、映画館にいて、嵐寛寿郎の「くらま天狗」が馬を疾走させて杉作(すぎさく)少年を悪漢から救出させる場面になると、館内の大人はみんな総立ち、手に汗にぎる思いで、みんなで声をからして声援するのです。まさしくスクリーンと館内とが一体化していました。そして、『男はつらいよ』を有楽町の映画館と大井町の映画館でみたとき、こんなに観客のリアクションが違うのか、と驚きました。
やっぱり「寅さん」映画は下町・場末(ばすえ)の映画館で、掛け声や心おきない笑い声とともにみて楽しむものなのです。子どもたちと一緒にみるときも、声を出して大笑いして楽しみました。こんなガイドブックを読んだら、次はぜひ全作品をDVDでみてほしいものです。手引書です。
(2022年4月刊。税込1760円)

山本周五郎、人情ものがたり(武家篇)

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 山本 周五郎 、 出版 本の泉社
いやあ、しびれます。久しぶりの周五郎の2冊目です。短編ですので、毎晩、寝る前に2編ずつ読み、幸せな気分で安らかに寝入ることができました。
町人の人情話もいい(えがった)のですが、武士と女性たちの話も、胸にストーンと落ちて泣けてきます。
自分の暮らしさえ満足でないのに、いつも他人のことを心配したり、他人の不幸に心から泣いたり、わずかな物を惜しみもなく分けたり…、ほかの世間の人たちとはまるで違って、哀しいほど思いやりの深い、温かな人たちばかりでした…。
貧しい者は、お互いが頼りですから、自分の欲を張っては生きにくいというわけだろう。
他人を押しつけず、他人の席を奪わず、貧しいけれど真実な方たちに混って、機会さえあれば、みんなに喜びや望みをお与えなさるあなたも御立派です…。
人を狂気にさせるほどの恋も、いつかは冷えるときが来る。恋を冷えないままにしておくような薪(たきぎ)はない。友達を憎むことで、いっとき愛情をかきたてた。しかし、それも長くは続かなかった。憎悪という感情のなかには、人間は長く住めないもののようだ。
あやまちのない人生というやつは味気のないもの。心になんの傷ももたない人間がつまらないように、生きている以上、つまずいたり転んだり、失敗をくり返したりするのが自然。そうして人間らしく成長していく。でも、しなくてすむあやまち、取返しのつかないあやまちは避けるほうがいい。どんなに重大だと思うことも、時がたってみると、それほどではなくなるものだ。
いやあ、しびれるようなセリフのオンパレードです。俗世間にまみれた心がきれいさっぱりと洗い流される気分に浸ることができます。
そして、この本の究極のセリフは次です。
「もし、およろしかったら、お泊りあそばしませぬか。久方ぶりで、下手なお料理を差し上げましょう。そして、若かったころのことを語り明かしとうございますけれど…」
わけあって遠くに行ってしまった初恋の女性に久しぶりに会ったとき、その女性からかけられた言葉です。ああ、なんという幸せ…。これぞ、まさしく小説を読む醍醐味というものです。
(2022年4月刊。税込1320円)

秋田に土着して半世紀

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 沼田 敏明 、 出版 秋田中央法律事務所
最近の司法修習生の7割は東京・大阪。そして多くが企業法務かテレビCMなどで全国展開する大手事務所を志向している。
若者の大都会志向が強まっていることに加えて、その主たる理由の一つが、東京のほうがいろんな事件を扱えて勉強になると若者たちが考えていることにあると聞きました。
ええーっ、東京より地方のほうが、千差万別、多種多様な事件に触れる機会が多く、勉強になると思うのですが…。きっと、地方の弁護士が、どんなことを実際にしているのか、してきたのか若い人に伝わっていないのですよね。
私も、最近、自分の扱ってきた事件を『弁護士のしごと』(花伝社)としてまとめ出版しました。田舎の弁護士の実際の仕事ぶりを若い人に伝えたいと思ったからです。
この本は、北海道出身の著者が秋田での50年間の弁護士としての活動を振り返ったものです。第22期の司法修習生ですから、私より先輩にあたりますが、本当にいい仕事をし、世の中に大きく貢献してきたこと、また、私生活では40歳から山登りを楽しむなど、悔いない人生を歩んできたことが実感として伝わってきます。
130頁ほどの小冊子で、フツーの本の格好ではありませんので、少し読みにくいところもありますが、内容は、ぐぐっと濃いもので、後進の弁護士にとって、大いに勉強になります。
なかでも秋田県が「塩サバ事件」と名づけた、生活保護をめぐる加藤人権裁判はその勝利判決は全国にもいい意味で、大きな影響を与えました。
リューマチにかかり重度の障害者になった加藤さんは、一匹の塩サバを小さく切って何日ものおかずにして節約し、付き添い看護費用に充てるため預金したのです。その預金が73万円になったのを知った秋田県が収入認定し、墓と葬儀費用以外に使ってはいけないという「指導・指示」処分をしたのでした。しかし、加藤さんは、すでに墓は確保してあり、献体を約束しているので、葬儀費用は不要なのです。生活保護費を切り詰め、付き添い看護費用に充てるための預金を収入認定するというのは、あまり人間性を無視した冷酷・無比の行政です。さすがに秋田地裁は、加藤さん側の圧勝。被告の秋田県知事は控訴もできず、福祉事務所所長は、加藤さん宅を訪問して謝罪したのでした。
このほか、国保税裁判では憲法87条違反(一審)、それに加えて憲法92条違反(二審)を判決で明示するという画期的判決を勝ちとっています。秋田市は、最高裁でも負けたら、年間50億円もの国保税収入を5年前にさかのぼって市民に返還しなければならなくなることから、「和解」を申し出て、「申請減免制度」がつくられたとのこと。すごいです。
大王製紙誘致反対の裁判でも、秋田県440億円の補助のうち240億円の支出をしてはならないという。地方公営企業法違反による差止判決を得ています。この結果、大王製紙は進出を中止したのでした。
著者は、法廷において主導権を確保することが大切だと力説しています。まったく同感です。
法廷で、裁判所から質問されたり、相手方から釈明を求められたりして、なんとなく回を重ねているというのは、大変まずいこと。そういう雰囲気にならないよう、毎回、必ず声を出し、こちら側から相手に説明を求めていく。そうやって、法廷で被告行政の側がおかしいことをしているというムードをつくりあげていくことが大切だ。本当に、そのとおりです。
著者がまだ40代の若手弁護士のころ、弁護士会の会長や副会長がボス(長老)弁護士の談合で決められているのを透明化していったということも語られています。福岡でも、かつてはそうでした。そもそも選挙規定すらきちんとしていなかったのです。全会員の投票による会長選挙が実現するまで、容易ならざる困難がありました。弁護士会館には、福岡部会以外の副会長は机すらなかったのです。
とても読みごたえのある在職50年のあゆみです。引き続きのご活躍を心より祈念しています。
(2022年6月刊。非売品)

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