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2021年5月 の投稿

ストップ!! 国政の私物化

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 上脇 博之 、 阪口 徳雄 ほか 、 出版 あけび書房
アベ前首相の国政私物化はひどいものでした。森友学園、加計学園、桜を見る会、アベノマスク…。どれもこれも刑事事件とすべきレベルのひどさですが、われらが東京地検特捜部は期待を裏切り続けてしまい、どれもこれも犯罪として立件することはありませんでした。情けない限りです。国家の不正を弾劾するという検察魂(たましい)をどこかに忘れてしまったようです。悲しいです。トホホ…。
そして、スガ首相。スガの息子が登場する総務省幹部の接待、これも見過ごせないレベルなのに、「私人」なので息子の国会証言はなし。あのカゴイケ氏も私人だったんですけどね…。
文部科学省のトップ・事務次官をつとめた前川喜平氏の告発の内容を知ると、うひゃあ、ひどい、ひどすぎると思わず怒りというより溜め息がもれてきました。
スガ首相が訪米したとき並んでいたのは和泉洋人、北村滋、もう一人でしたよね。和泉洋人というのはコネクティングルームで不倫報道されたりした話題の人間ですが、かなり悪知恵が働くようです。
文部科学省の事務次官の藤原誠は、本命でもダークホースでもなく、次官レースから脱落したはずなのに、スガに気に入られて、もう事務次官を2年もつとめている。問題は、その手法。定年延長をわざわざ2回もしていたというのです。検察庁法のときの黒川弘務については失敗したやり方が文科省では、先にこっそりやられていたというのです。ひどい話です。
「なんでも官邸団」というコトバが出てきます。霞が関は、いまや何でも首相官邸の言うことを聞く官僚ばかりになっているというのです。「ご無理、ごもっとも。無理が通れば、道理が引っ込む」。これでは官僚の世界はガタガタです。ホコリも何も、あったものではないでしょう…。
人事院総裁の一宮なほみもひどかったですね。私と同期の元裁判官ですが、恥ずかしげもなく、黒川氏の定年延長問題でアベ首相におスミつきを与えてしまいました。「恥」というものを忘れてしまった、つまらない人間になり下がったとしか言いようがありません。残念です…。
いま、スガ首相の下に、加藤官房長官がいますが、前川氏は、首相もスガ、官房長官もスガ、「スガスガ政権」になっている。ちっともすがすがしくないけれど…と、最大級の皮肉を投げつけています。まったくもって同感です。忘れてはいけないことが盛りだくさんの本でした。
(2021年4月刊。税込1760円)
 日曜日、孫たちと一緒に庭でジャガイモ堀りをしました。大小さまざまのジャガイモが土の中から次々に出てきて、孫たちは大喜びでした。そばで見ていて、私までうれしくなりました。ジャガイモは失敗がありません(サツマイモは失敗します)。
 タマネギのほうも、すぐ脇に5本ほど収穫できました。新ジャガ、新タマネギをしばらく味わうことができます。

源氏物語の楽しみかた

カテゴリー:日本史(平安)

(霧山昴)
著者 林 望 、 出版 祥伝社新書
源氏物語を通読したことはありません。現代語訳の通読を何回か試みましたが、いつもあえなく挫折してしまいました。どうしても平安貴族の心の世界に溶け込めなかったのです。
われらがリンボー先生は、現代語訳を刊行するほど「源氏物語」に通じていますので、この本の読みどころをフツーの一般読者に分かりやすく教えてくれます。さすがです。私と同じ団塊世代ですが、偉い人がいたものです。感服することしきり、というほかありません。
「源氏物語」は、決して、いま言う意味でのベストセラーではなかった。どの時代にも、この長さで難解な物語を自由に読める人など、限りなくゼロに近かった。ごく限られた貴族社会の人たち、すぐれた知識階級の人出が、細々と読んでいたに過ぎない。読もうと思えば努力次第で誰でも読解できるようになったのは、江戸時代前期に注釈本が出たあとのこと。なーるほど、そうなんですよね。ちゃんと読んでいない私は、これを知って、ちょっぴり安心しました。
しかし、それでも、「源氏物語」は、常に文学の王道として、千年にあまる年月を堂々と生きのびてきた。なぜか…。
この物語は、雅(みや)びだの、優雅だの、そんな生易しい観念で片づくようなものではない。そこには、いかに生々しい、いかに切実な、いかに矛盾にみちた人間世界の懊悩(おうのう)がリアルに描かれているのだ…。男と女がいる、その男女関係は、根本にある「人を愛する切実な気持ち」などは、時代や身分を超越して不易だ。うむむ、そうなんですか…。
「色好み」というのは、現代では非難されるべきもの。しかし、平安時代では違った。「色好み」の男性ほど、女に好かれる。いや、女に好かれなければ、色好みにはなれない…。
そして、色好みには、「まめ」が必要。恋のためなら、千里の道を遠しとせず、たとえ火の中、水の底、いかなる困難もいとわないというエロス的エネルギー。これこそが、色好みの男にもっともあらまほしい姿である。うむむ、これは難しい…、手に余ります。
光源氏は、「許さぬ」と決めた相手には、どこまでも冷酷にしかし表面上は親切に、押しつぶしていく。源氏という男の恐ろしさが発揮されていく。うひゃあ、そ、そうだったんですか…。
光源氏の内面には、真面目と不真面目が同居し、親切で冷酷であり、傲慢なのに謙遜らしい。源氏は、どこまでも二面性のある、いや非常に多面的な相貌をもった存在として描かれている。
ううむ、そういう話として読めるのですね…。そうなると、作者の人物創造は、かなり奥深いものがあるわけですが、いったい、パソコンもない時代に、どうやって、それを創造できたのか、いよいよ不可思議な思いにかられてしまいます。
(2020年12月刊。税込1100円)

万葉集講義

カテゴリー:日本史(奈良)

(霧山昴)
著者 上野 誠 、 出版 中公新書
万葉集についての驚きの記述にあふれた新書です。
まずタイトルです。たくさんの歌を集めた歌集というのが1970年代までの通説だった。「万」はよろずで、「葉」は言の葉なので、言葉。たくさんの歌をいう。
ところが、「万葉」とは「万世」、「万代」の意味だという有力な学説があらわれた。
そして、さらに「万世・万代」の基本義に「多くの言の葉・多くのすぐれた歌」の意味を重ねたかけことばと考えたほうがいいという説が登場してきた。
著者は、この説を基本とし、たくさんのすばらしい作品を集めた。それは、今がすばらしい世であるからできたこと、そのすばらしい作品が永代に伝わることは、良き世が永く永く続くということ。すなわち、万世に伝われという願望や祝福性を否定する必要はないとしています。なるほど、そうなんでしょうね…。
「万葉集は、素朴でおおらかな歌々を集めた歌集」という通説を著者は打ち破っています。
8世紀半中葉に成立した歌集である「万葉集」は、宮廷のなかで発達した歌々を集めたもの。すなわち、「万葉集」は宮廷文学であり、貴族文学である。
防人(さきもり)の歌についても、無名の農民たちによる国家への不服従の心を実現した抵抗詩とみるのは、明らかに誤っている。防人歌とは、むしろ、律令官人の都と地方との交流によって生まれた歌々であり、東国における宮廷文化の浸透を表象する文学である。
大伴家持の歌は、防人たちとその家族たちの痛みを想像しているものである。
「万葉集」は実は朝鮮語で書かれているというミステリー本についても、著者は誤解だとあっさり切り捨てています。私も「ミステリー本」を読んで、そうなのかなと思っていたのですが…。
多くの渡来人を古代の日本社会は受け入れているのは事実だが、すべて日本語でよまれた歌集として「万葉集」に収蔵されている。
「万葉集」についての数々の誤解を解いてくれる、小気味よく切れ味のいい新書です。
(2020年9月刊。税込968円)

レストラン「ドイツ亭」

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 アネッテ・ヘス 、 出版 河出書房新社
ドイツ・フランクフルトで1963年にアウシュヴィッツ裁判が始まったことを舞台とした小説です。主人公は通訳として裁判の渦中にいるのですが、検事長は、かのフリッツ・バウアー。
戦後十数年たって、ドイツでは「古傷には触れるな」という風潮が根強かった。それを乗りこえてナチスの犯罪を裁く裁判がすすめられていったわけですが、通訳となった24歳の独身女性は自分が戦争中に何が起きたのか何も知らなかったこと、そして、実は自分の家族も強制収容所生活に何かしら関わっていたのではないか…と疑いはじめるのです。
法廷で、辛じて生きのびた元収容所が証言しても、収容所の副所長以下は、「そんなことはいっさいしていない」、「人違いだろう」、「無実です」などと、白ばっくれるばかり。勇気を奮って証言した証人は、絶望のあまり裁判所からの帰りに自動車に衝突して死亡する。
「どうして何もしなかったの?すべてのナチス将校の食事に毒を入れてやれば良かったのに…」
「そんなことをしたら、殺されていたわ」
「そんなことをしても、きっと無意味だった。かわりに新しい誰かが来て、それでおしまいだ。ナチスのやつらがどれだけたくさんいたか、信じられないだろう。ほんとうに、そこらじゅうにいたんだ…」
「人を殺してはいないかもしれないけど、それを許したんでしょ。どちらがひどいことなの、ねえ、教えて、どちらがひどいことなの?」
ドイツは、ゲーテやベートーヴェンを生んだ国だし、奇跡的な経済復興をなし遂げたことを誇りにしている。ところが、ドイツは、もういっぽうで、ヒトラーやアイヒマンや、彼らの多数の共犯者や追随者を生んだ国でもある。
「一日に昼と夜があるように、いかなる民族の歴史にも光と影の部分がある。ドイツの若い世代は、親たちが克服しがたいと感じたすべての歴史と真実を知る準備があると信じている」
これはフリッツ・バウアー検事長の言葉です。今の日本ではなかなか聞けないセリフになっているのが残念です。
著者は1967年生まれの女性脚本家です。この本はベストセラー小説になって、世界22ヶ国で翻訳されたとのこと。
アウシュヴィッツ絶滅収容所で実際に何が起きていたのか…。ガス室での大量虐殺、ナチス親衛隊員による拷問や虐待が法廷で語られ、ドイツの人々は初めて具体的かつ詳細な真実を知らされた。それまでは、収容所で人体を焼却する臭いと煙は体感して知っていたものの、それ以上ではなかった…。
日本軍が中国大陸で731部隊や南京大虐殺のとき何をしたのかが日本国内で具体的に身近な人たちに語られることがなかったことから、「南京虐殺の幻(まぼろし)」などの「トンデモ歴史本」を生み出し、今でも皇軍(日本軍)は中国人を助けていたと思い込んでいる日本人が少なくないのが残念でなりません。これは、東京裁判がアメリカの思惑から中途半端に終わったことも、今に尾を引いているのだと思います。
ナチス・ドイツの家庭に育った子どもたちが戦後にたどった道としても読める小説でもあります。ずっしり重たい、380頁近い本でした。
(2021年1月刊。税込3190円)

「弁護士の平成」(会報第30号)

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 会報編集室 、 出版 福岡県弁護士会
法曹養成制度
 法曹養成制度については、この分野に一貫して関与してきた牟田哲朗弁護士が改革の歩みと今後の課題を紹介しています。
 法科大学院は失敗だった、失敗したと簡単に決めつけてすむ問題ではありません。新しく「法曹コース」が始まるとのことですので、次世代の法曹をどのように養成していくのか、現状をきちんと認識したうえで大いに議論したいものです。あわせて、予備試験というバイパスのあり方についても再考すべきではないでしょうか・・・。
法科大学院
 「2004(平成16)年4月に68校、翌年に6校の合計74校の法科大学院が24都道府県に開校した。2004(平成16)年の入学者数合計は5767人(定員5590人)であり、そのうち、未修者が3417人(59.3%)、非法学部卒業者が1988人(34.5%)、社会人が2792人(48.8%)で、医師や公認会計士等の有資格者も入学していた。
 福岡では九州大学、福岡大学、西南学院大学、久留米大学の4校、九弁連管内では熊本大学、鹿児島大学、琉球大学の3校が開校し、2004(平成16)年の7校の総定員は330人(福岡240人)、入学者数は314人(福岡219人)であった」(112頁)
新司法試験の合格者
 「2006(平成18)年から新司法試験が始まった。初年度は、既修者のみ2091人が受験して合格者1009人(合格率48.25%)、翌2007(平成19)年は未修者も受験して4607人が受験し、合格者1851人(合格率40.18%)であった。
 2008(平成20)年から合格者は2000人台になった。・・・・2010年からの司法試験合格者3000人は見送られ、2014(平成26)年からは1800人台、2016(平成28)年からは1500人台に減少され、また、2012(平成24)年からは予備試験合格者も司法試験受験をするようになったので、法科大学院終了者の司法試験合格率は2009(平成21)年から20%台になった。
 そのためか、法科大学院への入学志望者数も4万人台から1万人台になり、入学者も2006(平成18)年の最大5784人が2011(平成23)年には3620人に減少した。他方、予備試験受験者は、2011年の6477人が2014年からは1万人を超え、予備試験合格者の司法試験合格者も2012(平成22)年の58人が2014年には163人、2016年には235人と増えていき、2018(平成30)年には336人、2019(平成31)年には315人になった」(112頁)
合格率
 「2005(平成17)年から2014(平成26)年度までの直近10年間の修了者は3万8771人、合格者は1万9745人なので、この10年間の修了者の累積合格率は50.9%。また、直近の2014年修了者の累積合格率は、57.4%。そのうち、既修者は、70.0%であるが、未修者
41.1%である。
 したがって、司法試験の合格率に関しては、既修者は審議会意見書が基本点とした約7~8割を実現しているので目標達成である」(114頁)
 「予備試験が、法科大学院を中核とする『プロセス』による法曹養成のバイパスとなったため、司法試験予備校は盛況である。予備試験合格者の司法試験合格率が80%前後であるのに対し、予備試験自体の合格率は4%前後と抑制されている」(114頁)
新しい「法曹コース」
 「2020(令和2)年から『法曹コース』を開始し、2023(令和5)年から『法科大学院在学中受験』を実施することとした。
 これは、法曹資格を得るには、現状では、大学4年、法科大学院既修2年、司法修習1年で、最短でも7年8カ月を要するので、これを6年に短縮して時間的・経済的負担を軽減して、法曹志望者を増やし、予備試験志向者を法科大学院に入学させようとするものである。
 『法曹コース』は、法学部を設置する大学が法科大学院と連携して、法科大学院既修者コースと一貫的に接続する教育課程『法曹コース』を編成し、学部3年終了時に早期卒業して法科大学院既修者コースに入学する『3+2』の精度である」(114頁)
ロースクール生と九弁連
 「九弁連管内弁護士会に登録した新60~62期生274人中の100人(36.4%)が管内法科大学院修了生であり、同100人は弁護士登録した管内法科大学院修了生127人の78.7%である。・・・・2015(平成27)年から久留米、鹿児島、熊本、西南学院大学法科大学院が、順次、募集停止になった」(118頁)
弁護士会の責務
 「審議会意見書から20年、法大学院設立から17年経過したが、法科大学院を中核とした『プロセルによる法曹養成』は未だ完成せず、『点のみによる選抜』から脱却できずに多くの課題を抱えている。
 しかし、弁護士会・弁護士が、あるべき次世代の弁護士・法曹を養成することは、弁護士・弁護士会の当然の責務である。したがって、福岡県弁護士会においても、法曹養成を法務省や最高裁に一任することなく、日弁連にも一任することなく、地域の弁護士・弁護士会の責務として、地域のために、また地域から全国に広がる有意な法曹を養成していく道を見付けていく必要があり、そのことが法曹の多様性の拡大につながると考える」(120頁)

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