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2021年4月 の投稿

ロッキード

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 真山 仁 、 出版 文芸春秋
1976(昭和51)年7月27日、田中角栄は迎えに来た東京地検特捜部の松田昇検事とともに車に乗り込み東京地検に出頭した。午前7時27分のこと。弁護士3年生の私は、この日、たまたま東京地裁に裁判があって行ったところ、東京地検前は黒山の人だかりでした。角栄逮捕後まもなくのタイミングで通りかかったというわけです。田中角栄を連行した松田検事は横浜修習のときの修習指導担当検事でした。
580頁もある部厚い、この本は角栄逮捕に疑問を投げかけています。ロッキード事件において、田中角栄は、本当に有罪だったのだろうか…、という疑問です。
田中角栄がアメリカの事前了解をとらずに日中国交を回復したのがアメリカ政府の逆鱗に触れたからという説が有力ですが、本当にそうなのかということです。
キッシンジャー国務長官が田中角栄を「嘘つき」だとして嫌っていたのは事実のようですが、もともとアメリカ政府の高官は、みんな、日本と日本人を属国、言いなりになる連中だと軽蔑していたわけです(残念ながら、今もです…)ので、本当にそれが理由になるものかというのは、再考の余地がありそうです。
ロッキード事件の丸紅ルートを担当した元最高裁判事(園部逸夫)は、「フワフワと現れて、フワフワと消え去った事件」だったと語った。田中角栄にまつわる被疑(告)事実は、信じられないほど、曖昧だったという。いやあ、本当にそうなんでしょうか…。
アメリカのロッキード社は自社機の売り込みのために総額30億円の賄賂(わいろ)を日本政府高官にばらまいた。そのうちの5億円を田中角栄はロッキード社の代理人である丸紅(商社)から受けとった。賄賂の金額の単位は「ピーナツ」と書かれていて、日本法にない「嘱託尋問」がアメリカで行われて有罪認定の「証拠」になるなど、異例の展開だった。
日本側の捜査に、アメリカは、司法省、SEC、そしてFBIまで、とても協力的だった。これがアメリカ側の意図をいろいろ推認させることにもなったわけです。
キッシンジャーも、田中角栄をはじめから嫌っていたのではなく、当初は、使い勝手が良い人間だとみていた。
田中角栄は日中国交回復を実現したが、熱心な中国シンパだったわけではない。
しかし、日本が独断専行したこと、これがアメリカ、キッシンジャーには許せなかった。日本は、いかなるときでも、アメリカの方針に服従(盲従)すべき存在なのだ…。キッシンジャーは怒った。
この本において、5億円というのは、角栄にとっては「はした金」でしかなかったというのが、大きな意味をもって書かれています。ええっ、5億円が「はした金」なんですか…、声も出ませんよね。
「バカッ!オレがそんなもの(5億円の賄賂)をもらうとでも思うのか。なんで一国の総理大臣が、そんな外国(アメリカ)の一私企業のために、お金をもらわなければいかんのだ」
角栄は本気で怒っていたという。5億円というのは、経団連がもってきた「総理就任祝い」でしかない。
「総理大臣の仕事は、絶対に戦争をしない、国民を飢えさせてはいけない、これに尽きる。それ以外は、些末(さまつ)なこと」
これが角栄の口癖だった。いやあ、これは立派です。アベやらスガに呑み込ませ、言わせてやりたいセリフですよね…。
5億円を角栄は4回に分けて、現金で受けとったというが、それは奇妙だ、信じられないという提起があります。でも、まあ、弁護士である私は、ちょっとおかしいけれど、完全否定の根拠としては乏しいとしか言いようがありません。世の中は不可解なことだらけなのですから…。
この本は、民間機の導入により、軍用機の売り込みのほうが本命だったのではないかと指摘しています。さもありなんですよね。P-3C、F35、ともかく、とんでもない「金喰い虫」を日本はアメリカから次々に買わされているのです。そちらで巨額のお金が動いているのは事実でしょう。そんな軍事予算偏重なので、福祉・教育予算は削られる一方なんです。この軍事予算の黒い疑惑を日本のマスコミは、ほとんどメスを入れ、報道することがありません。残念です。
ロッキード事件の陰にかくれてしまった重大なことがあるという著者の指摘は、今なお莫大な軍事予算がアメリカがらみで増大中でもあり、大いに共感できます。
(2020年2月刊。税込2475円)

「弁護士の平成(会報30号)」

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 会報編集室 、 出版 福岡県弁護士会
福岡県弁護士会の会報30号が発刊されました。A4サイズで470頁もある大作ですので、なかなか手にとって読んでみようという気にならないかもしれませんので、読みどころを少し紹介します。今回は、民事裁判の現状と克服の方向です。
民事裁判の現状…座談会
第3部の座談会で民事裁判の実情が紹介されています。裁判官が記録を読んでいないのではないか、また積極的に争点整理をしてくれないという不満の声があがっています。
「松本 裁判官が最初から決め打ちしているというケース、これはこういうもんなんだよという感じで、争点整理そのものに行き着かない。争点整理もいいのだけど、主張立証責任の所在で困るところがいっぱいあった。どちらがどのレベルで立証できるのかを深めてやれば、事件はもっと単純に解決できるのではないでしょうか。主張書面もさることながら、それに付随して出す陳述書がやたら攻撃的になっていって和解の機運を失う、裁判所もそれを見ていながら何もしないということがあります。
 神田 争点整理に行き着く前の段階で、そもそも裁判官が記録を読んでいないのではないかなと思うことがあります。そういう裁判官は争点整理を積極的にやってくれないという印象です。また、争点整理自体ではありませんが、弁論や弁論準備の期日に依頼者が同席するケースもあります。期日で、裁判官が記録を確認していなかったり、提出された書面を見ていないということが依頼者に分かってしまうと、その後に和解案が出されたとしても、依頼者が担当裁判官を信頼できず、和解案にも納得してもらえないことになります。和解案自体は妥当なのに、争点整理の前提自体がどうなのかなと思う事件がありました。
・・・・
 小倉 相手側代理人が、こちらの書面の枝葉末節に噛みついて、何が争点なのかぼやけてきて、裁判官もまとめきれなくなり、事件は漂流するケースがありました。積極的に争点整理しましょうと言う裁判官は、小倉支部ではそう多くない印象です。記録を読んでいないのではないかと強く疑われる裁判官も実際にいます。争点整理がされないまま、双方が   自由に主張を出し合って、判決を受け取った段階で初めて『えっ、ここが争点だったの』という判決もありました。私は初めて控訴状で『争点整理の仕方が間違っている』と控訴理由に書きました。高裁の裁判官から『違うのですか』と訊かれて『絶対違います』と返答しましたが、思い込みも含めて勝手に争点整理されると怖いです」(354頁)
裁判官が記録を読んでいないのではないかと当事者が不信感をもったら、まとまる話もまとまらなくなります。また、裁判官が積極的にリードしてくれなかったので、当事者間の感情的対立が高まって困ったという話も出ています。
「染谷 裁判所側の問題としては、個々の裁判官の資質かもしれませんが、明らかに記録を読み込んでいない様子で、何となく期日を重ねて当事者に主張させたあと、それぞれの主張を足して二で割ったような和解案をポンと出して、『あとは当事者でやってください』という対応があります。これは争点整理の仕方がまずかったというよりは、そもそも争点整理がされていないという問題である気もします。争点整理に取り組む認識のある代理人や裁判所に当たったときには、争点整理自体が問題だなと感じたことはありません。
 石本 相続関係の民事訴訟でしたが、相手方代理人の訴訟活動で困った点として、要件事実ではないいわゆる事情(親族間の長年にわたる恨みつらみ)を厖大に主張された結果、結論に影響しない対立点が増えてしまったことがありました。そして、裁判所の訴訟指導で困った点として、要件事実との関連性を確認することなく、『では、反論を』と放置されたことがありました。その結果、争点整理がどんどん漂流してしまうとともに、当事者間の感情的対立が高まって、和解の機運を逃してしまったことがありました」(353頁)
 7割の事件で、争点整理によって裁判官は心証をとっているのではないか、この後藤裕弁護士の問いかけに対しては肯定的な反応です。
 「後藤 『争点整理で7割決まる』というのが、全体の7割ぐらいの事件では裁判所の心証が争点整理の段階でほぼ決まっているという意味ではどうでしょうか。
  染谷 私も『争点整理で7割決まる』というのは、実感とそう離れていません。多くの裁判官もだいたい証人尋問前にはほとんど心証が固まっていて、よほどのことがないと尋問結果で心証が変わることはない、と色々なところで聴きます。もっと言えば、これは私の勝手な印象ですが、訴訟と答弁書の段階でかなり心証を取っているのではないかと感じます。
  裁判官としても最初に出てくる訴状と答弁書、それの裏付けとして出されている基本証書と呼ばれるもの、その内容を見れば大体この事件はどういう事件なのか概要をつかんで、この事件はこういう心理の仕方、これはどう頑張っても判決の事件だ、あるいはこれがどこかで和解はできるかもしれない、そこまでシビアにやらなくて良いかもしれないと、方向性を決めてやるのではないかという印象を持っています。もちろんその後の主張、立証によって心証が変わることもあるとは思うのですが、ファーストインプレッションという言葉があるように、第一印象、最初に持たれた事件の印象を後から大きく覆すのはかなり難しいと感じます。
   石本 私も同じ感覚です。人証で結論が決まるような事案だと、そもそも訴訟を回避して何とか交渉でまとめることも一定数あると思うので、証拠調べ前に7割方心証が固まるのは、おかしなことではないと思います。
   小倉 たまに争点整理しても結論が分からない、悩ましいという裁判官もいます」(361頁)
裁判利用者の18%しか満足していない
 民事裁判の現状については、次のように紹介されています(214頁)
   「本人尋問や証人尋問をしない裁判が薬3000件増え、検証と鑑定は10年間で約3分の1に激減している。
第2に、訴訟代理人から、『裁判所が証人調べをしない、強引な和解がある、判決の理由が乏しくなっている、高裁の1回結審が増えている』などの不満が出ている(東京弁護士会の1997(平成9)年の調査)。また、第1回期日について被告代理人の変更申請を認めず、原告とだけで裁判をするという例が増えている。
第3に、裁判利用者で今の訴訟制度に満足した人は、わずか18%しかいない』。
集中審理、陳述書の活用はいいとしても、陳述書に本来ありえないはずの事実上の証拠力が認められることがあるのが実情であり、これは弊害と言うほかない。
判決に事実認定の緻密さが欠けてきているという批判を裁判官経験者がしている。『紛争発生後に当事者等が作成する陳述書は、当事者側のストーリーが入りがちで、紛争発生前から存在する客観的証拠との照合が欠かせないが、紛争発生前から存在する証拠はしばしば断片的であるため、客観的であるにもかかわらず、無視されがちである』
また、急ぐあまり審理の適正・充実がおろそかにされていないか。高裁での1回結審の原則的運用には当事者双方から大きな不満の声があがっている。
『日本の裁判官は、事件を早く終わらせたいのか、事実発見、真相究明よりも、効率的且つ迅速な裁判遂行を優先させ、人証の採用に消極的で、人数を制限するだけでなく、主尋問、反対尋問の時間まで制限する。じっくり時間をかけて、重要証人の尋問を聞こうとする耳を持たず、その意欲もなければ、余裕も全くない』という指摘は悲しいかな、今なお日本の裁判官の現状ではないか」(214頁)
裁判官おまかせ主義の弁護士
 ところが、裁判所の側から弁護士の訴訟活動について手厳しい批判の声があることも紹介されています。「裁判所依存」、「裁判官おまかせ主義」の弁護士の存在です。
   「弁護士任官で裁判官になった田川和幸弁護士は法廷の裁判官席からみた弁護士の実情を次のように手厳しく批判した。
   『現実の法廷では、ほとんど証拠の収集をせず、本人尋問だけに頼る弁護士が少なくないので、閉口してしまう。ろくに訴訟準備もしない、適切な主張もしない、ちゃんとした尋問もしない』
   『弁護士が、いい加減に主張立証しただけで、その役割をすませたような顔をされているのをみると、腹立たしくなる。しかも、若い弁護士にこのような方が少なくない。未熟さ故というには、あまりに熱意が窺われず、無責任さばかり感じられて、依頼者が可哀想に思えてしまうこともある。同様な弁護士が増えていくと、裁判所に寄せる国民の期待を裏切ることになると、大上段に構えたくなるが、かかる弁護士が自由競争で淘汰されるのを待つしかないのであろうか。弁護士の倫理の高揚と弁護士会の研修に期待するところが大きい』
   『弁護士の訴訟における裁判所依存である。みずから適正な訴訟活動をしないで、真実を発見して判決したいと考えている裁判官の思いに乗っかって、報酬を稼ぐ弁護士。判事室では、この種の弁護士の話が満ち溢れている』
   『裁判所依存、さらにステレオ・タイプ化して言うと、「裁判官おまかせ主義」の弁護士の数が少なくないことに驚いた。そのような弁護士には、弁護士会が倫理性と研鑽を求める必要がある』
   これはなかなか耳の痛い批判であり、弁護士はこのようなことを言われないよう主体性をもて不断に研鑽に務める必要がある」(218頁)
現状を克服するには…
 現状をそのままにしておくわけにはいきません。心ある人はともかく声をあげ、気がついたところから実践していくしかありません。
   「ながく裁判官をつとめ、弁護士8年目の金馬健二弁護士は医療関係訴訟において弁護士のほうで積極的に働きかけ、裁判官を育てるつもりで審理を動かしていくことをすすめている。
    『裁判官が記録をきちっと読んで、身を乗り出して当事者の言い分に耳を傾け、洞察力をもって、事案を的確に把握し、できるだけ当事者に負担をかけないような合理的審理を図り、解明すべき点についての必要十分な資料の提出を当事者双方に平衡に配慮して促し、適時の和解勧告をして公正な解決を図り、鑑定が必要な場合でも鑑定人に丸投げせず、自らの判断の補助(本来の鑑定)とするように工夫を凝らし、また、直接的な証拠の中身に拘泥せず、自らの頭で洞察力を働かせて推理し、的確な推認による批判に耐えうる事実認定をする方向で、謙虚に審理を進めてくれれば、医療関係訴訟は迅速適正な解決に向かいます。しかし、そのような審理のできる裁判官は少ないことが分かってきました。そうであるなら、訴訟進行を裁判官に委ねることなく、当事者の方でイニシアチブをとって、裁判官を育てるつもりで、裁判官に積極的に働きかけ、私たちが求める方向に審理を動かしてゆくしかないとの思いを強くしています』」(218頁)
 ぜひ、会報30号の現物にチャレンジしてみてください。得られるものは、きっと大きいはずです。
 

ぼくがアメリカ人をやめたワケ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 ロジャー・パルバース 、 出版 集英社
著者は1967年9月に日本にやってきました。私が、その年の4月に福岡から上京して大学生としての生活を始めたころになります。私は6人部屋での寮生活をはじめて、人間の社会というのを少しずつ分かっていきました。
著者は1944年生まれですから、私より4歳だけ年長です。21歳のとき、アメリカを離れて自分探しの旅に出たのです。日本で宮沢賢治に出会い、人生における意味と目的を発見したのでした。
著者がこの本で言いたいことは、みんなが自分なりにグレイト(great)な人生を送ることができる。それは、「情け心、ミンナニデクノボートヨバレテモとホメラレナクテモ」という気持ちにあふれた人生をさす。そうなんですよね…。
著者はユダヤ人です。ユダヤ人の天職は三つ。医師、弁護士そして公認会計士。
なるほど、アメリカの有力法曹にはユダヤ人が多いようです。
ところが、著者は、三つのいずれにもなりませんでした。
著者は、謝る理由なんかないと確信していても気前よく謝罪しようとする性格だそうで、それが「根拠のない謝罪」をする国である日本での長年の暮らしで役に立ち、日本文化に同化するための助けとなったのだろうとしています。
うむむ、残念ながらあたっていますよね…、と書いて、いやいや日本の首相は違うぞと、思い直しました。前のアベ首相は妻を「私人」だと言いはり、今のスガ首相は長男について「完全に別人格」と開き直って、苦しい弁解も謝罪もせずに強行突破を図ったのでした(ています)。日本人を代表しているはずの首相がそうだとしたら、ちょっとばかり認識を変える必要がありますよね…。
アメリカでは偽善の上に二つのアメリカが成り立っている。表向きの上品ぶったアメリカと、裏の悪徳だらけのアメリカ。
そうですね、トランプ前大統領はその二つを見事に結合させていましたね。
著者は生前の井上ひさしと親交があり、小沢昭一とも面識がありました。
ソ連の偉大なスパイだったゾルゲを助けた尾崎秀実(ほつみ)について、祖国を愛するあまり、祖国がアジア太平洋地域で無数の人々を犠牲にするのを許せなかった英雄として、現代日本人は大いに讃えるべきだと強調しています。私も大賛成です。
あまりにも多くの罪なき日本人を死に至らしめた人間こそ「売国奴」と言うべきですから、死刑となった東条英機を見直す前に尾崎秀実こそ英雄として見直さなければなりません。売国奴なんて、とんでもありません。
ベアテ・シロタのことも紹介されています。日本国憲法に人権条項を盛り込むことに功績のあるユダヤ系アメリカ人です。この「シロタ」というのは、孤児を意味していて、ユダヤ系の名前としては珍しくないということを始めて知りました。
著者は、日本人と暮らしてみて、度を越した謙遜はうぬぼれの印だということもあることが分かったといいます。ヘイトスピーチに走る日本人は、まさしくうぬぼれに溺れたかっているのでしょうね。日頃、職場で認められていない自分を鼓舞するため、他人をおとしめてヘイトスピーチをして、自分を高くもちあげようというのです。まさしく、さもしい根性です。
日本とは、どんな国なのか、アメリカを対比させながら考えている貴重なヒント満載の本でした。
(2020年11月刊。1800円+税)

スマホ脳

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 アンデシュ・ハンセン 、 出版 新潮新書
私は依然としてスマホを持たず、ガラケーのみ。それも、常時カバン在中で、1日1回も使えばいいほうです。なので、スマホの使いすぎなんて、自分のことではありません。
孫たちの脳が、スマ時代でおかしくなってしまわないか、それが心配なので、読んでみました。なるほど、それは心配だと思わせる記述のオンパレードです。かといって、孫たちからスマホを取りあげるわけにはいかないでしょう。では、いったいどうしたらよいのでしょうか…。
スティーブ・ジョブズを筆頭に、IT業界のトップは、我が子にスマホを与えていないとのこと。その危険性を熟知しているからですよね。著者はスウェーデン生まれの精神科医です。
人間の脳はデジタル社会に適応していない。
現在、大人は1日に4時間スマホに費やしている。
コロナ禍によって実際に集まる会議が減って、ズーム形式の会議がほとんどになりました。先週、昼から2時間、午後3時からと夕方の5時から各1時間、合計4時間も画面を見ていましたら、帰宅したころには首と肩が異常にコチコチと固まっていて、頭までボーっとしてきました。たまに発言しようと身を乗りだした格好を4時間もしていたのですから、そのひずみ(反動)がないわけはありません。
精神的不調で受診する大人がますます増えている。
決断を下すとき、最後に人間を支配するのは感情。
やはり、好きか嫌いかは、司法の世界でも大きいです。
ストレスのシステムは、私たちが正常に機能するためにも大切だ。うつを引き起こす原因としていちばん多いのは長期のストレスだ。
私たちは1日に2600回以上もスマホを触り、平均して10分に1度、スマホを手にとっている。
スマホが及ぼす最大の影響は、「時間を奪うこと」にある。睡眠を十分にとる時間がなくなることだ。ところが、この睡眠時に、昼間こわれたタンパク質が老廃物として脳から除去される。老廃物は1日に何グラムにもなり、1年間にすると、脳と同じ重さの、「ゴミ」が捨てられることになる。夜、眠っているうちに、短期記憶から長期記憶へ移動してしまう。
つまり、睡眠は記憶の保存に重要な役割を果たしている。ところが、スマホが若者の睡眠不足を招いている。
電子書籍を読んだ人たちは、電子書籍を読むと、メラトニン合成がひどくなる。
ヒトの祖先は、毎日、1万8000歩、あるいていた。今の私たちは、1日5000歩にも満たない。
教室でスマホは禁止。でないと、学習能力が低下する。
記憶力や集中力といった知能がスマホのせいで低下している。毎日、スクリーンの前で4時間も過ごしていると、子どもや若者は遊んだり、「本当の」社会的接触をもったりする暇がなくなる。
スマホを使いすぎると、気が散り、よく眠れなくなり、ストレスを感じる。毎日2時間はスマホをオフにしよう。
スマホの表示はモノクロにすること。色のない画面のほうが、ドーパミンの放出量は少ない。
集中力が必要な作業をするときには、スマホを手元に置かず、隣の部屋に置いておく。
スマホを寝室には置かない。寝る直前に仕事のメールは開かない。
スマホに関する、とても実践的なアドバイスもたくさんある新書です。気をつけましょう、暗い夜道と便利なスマホ。
(2021年3月刊。税込1078円)

ちょっとケニアに行ってくる

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 池田 正夫 、 出版 彩流社
団塊世代より少し上の著者がフランス経由でアフリカに渡って、ケニアでオーナー・シェフとして活躍する話です。日本人男性も捨てたものではありません。最近の日本人の若者も料理の世界でがんばってるよね、感心だなと思っていると、そんな日本人男子は昔からいたのですね…。
著者はケニア人女性と結婚して、ケニアで無国籍料理(フュージョン料理)で人気のフランス料理店「シェ・ラミ(友だちの家)」をはじめた。2009年にケニアの内乱のため営業不可能となって閉店して日本に帰国し、今もコックとして活躍しているとのことです。
静岡の中学校を卒業して上京し、芝大門の精養軒での修行を皮切りに国内でコック見習いを始めた。そして、海外に行きたくて、まずはフランスへ。
パリの屋根裏部屋(7階)に日本人の若者3人で住む。家賃は1ヶ月900フラン。フランス語学校の学費は1ヶ月40フラン。日本食レストランのアルバイトは1ヶ月600フラン。1フランは70円。1968年のパリ「五月危機」のころのこと。
パリの次は南フランスのエクサンプロヴァンス。ここは私も2回訪れたことがあります。1回目は40代前半で、学生寮に3週間泊まりました。外国人向けのフランス語集中講座を受講したのです。今思えば夢のような毎日でした。2回目は、還暦前祝い記念旅行で2泊3日しました。ともかく夏の南フランスは最高です。夜は8時まで昼間と同じく明るく、雨は降らない。そのうえ、食べもの、飲みものが美味しくて、たまりません。著者はフォアグラの美味しさに魅せられたようです。そして、フランスの生クリームの味…。
そして、ついにアフリカへ…。コンゴ、アルジェリア、サハラ砂漠。羊の丸焼きは4時間ほどかけて焼く。柔らかい。ただただ、焼いた羊を手づかみで食べる。肉をはぎ取って、「熱い、熱い」と言って、手で食べる。うむむ…、そんな食べ方、したことがありません。
ケニアに、日本人向けのスワヒリ語学院を開設した人がいるのですね。星野芳樹という1909年生まれの人です。戦前の活動家で、戦後は撰議院議員も1期つとめ、1974年アフリカ・ケニアに移住したのでした。
著者の営むレストラン「シェ・ラミ」では野生の肉も供したとのこと。シマウマのフィレ肉が一番柔らかかった。ダチョウの肉も柔らかいが、シマウマにはかなわない。
店の庭の隅にバーベキュー小屋をつくった。ゲームミート(野生の肉類)専用のバーベキュー。インランド(鹿の一種)、シマウマ、キリン、ヌー、ガゼル、そしてダチョウとワニ。欧米人の客が好んだ。フォンデュ鍋にゲームミートを入れて、6種類のソースをつけて食べるのは、フランス人に大好評だった。
ワニ肉料理は、ムニエルにする。ワニの肉質はチキンと同じで、匂いもなく、黙っていたらワニ肉とは分からない。ワニの焼き鳥風は、鶏肉の焼き鳥を食べている感じ…。
著者は、各国をまわって、郷に入れば郷に従えを実践したとのこと。そうですよね、大切なことですよね。そして、フランス語、英語、スワヒリ語を話せたのが人々と交流するうえで欠かせなかった。語学は大切だ、と強調しています。なので、私は、今もフランス語を毎日、勉強しているのです。
とても面白い本でした。読んで元気が湧いてきます。ますますの活躍を祈念します。
(2020年8月刊。税込1980円)

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