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2020年8月 の投稿

ベストセラーで読み解く現代アメリカ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 渡辺 由佳里 、 出版 亜紀書房
アメリカでベストセラーになっている本を紹介し、解説している本です。とても勉強になりました。なるほど、アメリカではこんな本が今売れているのか、その理由はこういうことなのか…、よくよく理解できました。
著者は日本でアメリカ人と知りあってアメリカに渡った日本人です。私と同じ活字中毒症だそうですが、私と違うのは、もちろん私は日本語の本ばかりですが、著者は英語の本が中心ということです。
アメリカのベストセラーを紹介しても、広告料でお金が入ってくるシステムはとっていないそうですから、このコーナーの私とまったく同じです。といっても、実は、私だって糸井重里や松岡正剛のように好きな本を読んで、その本の書評を書いていたら、お金がガッポガッポ入ってくることを夢見て久しいのですが…。残念なことに、どこからもそんな座敷にお呼びがかかりません。いったい、この書評って、毎日、何人くらい読んでいるのでしょうかね…。
 著者は、2009年から、「これを読まずして年は越せないで賞」というものを始めたとのこと。最近よんだアメリカのベストセラー本、『ザリガニの鳴くところ』も紹介されているかと思ったのですが、残念ながら本書で紹介されている65冊のなかには入っていませんでした。
 アメリカのトランプ大統領は知性がまったく感じられませんが、群集心理を察知する点では天賦の才をもっている。小学校レベルの単純なコトバだけを使ってオバマをはじめとする「敵」をけなしてきた。トランプは「繁栄に取り残された白人労働者の不満と怒り」そして「政治家への不信感」をかぎつけ、それに乗った。
日本の安倍首相と、その取り巻きの官僚たちも知性のなさでは際立っています。といっても、官僚のほうは、灘高・東大そして経産省という超エリート官僚たちではあるのですが、その「バカ」さ加減にはつける薬もありません。そして、マスコミは、いつだって「安倍首相を追い詰め切れない野党の不甲斐なさ」を強調して、安倍政権を裏から下支えするばかりです。「首相官邸記者クラブ」って、出世の野心ばかりの「無能」記者の吹きだまりなのかと苦々しく思うしかありません。
トランプ支持者の集まりに行くと、みな楽しそうだというのに驚きます。努力はしないが、馬鹿にはされたくない。そんな歪んだプライドを、無教養と貧困とともに親から受け継ぐ。彼らにとってトランプは、自分たちに分かる言葉でアメリカの問題を説明してくれた人物なので、目を輝かせ、ウキウキした口調でトランプを語る。この本で紹介された『ヒルビリー・エレジー』(光文社)は、今のアメリカで、どんな人がトランプ大統領を支持しているのかを具体的に明らかにしてくれる本です。このコーナーでも既に紹介しています。
アメリカの政治をコーク兄弟のダークマネーが動かしているという本が紹介されています。コーク兄弟って、日本ではほとんど知られていませんが、石油成金でコーク財団をつくって、ヘリテージ財団などの保守系シンクタンクを支援し、ティーパーティーなどを動かしてきた。日本でも、日本会議を動かし、支えている超金持ち集団がきっといるんでしょうね。
トランプ大統領の言動は、自己愛性パーソナリティ障害、精神病質が混ざりあったときの悪性の自己愛だと診断されています。
深刻なソシオパス(社会病質者)の多くは、社会から脱落するが、チャーミングで思いやりのあるフリができるソシオパスも存在する。そんな人は人間の操縦にたけているので、成功していることが多い。まさしくトランプにぴったりの診断です。
では、わが安倍首相はどうなんでしょうか…。コロナ禍でほとんどの国民が大変な「国難」にあっているのに、国民の前にはほとんど姿を見せず、自宅にこもって愛犬とたわむれているのが実態。それなのに右翼雑誌は「不眠不休でがんばる我が安倍首相」というタイコ持ちの記事を堂々と書きつのっています。
マティス元国防長官は、トランプ大統領は小学5年生レベルで振る舞うし、その程度の理解力しかないと言う。トランプは病的な嘘つきで、証拠は前にあっても平然と嘘をつく。
われらが安倍首相夫妻とあまり変わらないレベルだということですね、これって…。
トランプ大統領にとって、日本と安倍首相は、話題にする必要もないほど軽い存在でしかない。
そりゃあ、そうでしょうよ。だって、アベはゲタの雪なんですから。いつだって、どんなときだって、アメリカにさからうことなく、自分と取り巻きの利益しか考えていないのですから…。
ブッシュ元大統領は、オバマ大統領を一度も公の場で批判したことがない。ところが、トランプについては同じ共和党なのに、公の場で批判した。
私はヒラリー・クリントンの本もミシェル・オバマの本も読みましたが、この本で紹介されているとおり、ミシェル・オバマの本のほうが、200万部も売れるほど面白いと思いました。
ミシェルは、奴隷を先祖にもつ黒人であり、シカゴのウェストサイド地区で育ち、ついにはプリンストン大学そしてハーバードロースクールで学んだあと、シカゴのローファームでオバマに出会ったのでした。
アメリカで黒人の親は、わが子に、「おもちゃでも銃を持ってはいけない。フード付きのジャケットは着てはならない。警官にどんなに侮辱されても、言い返してはいけない」と教えなければいけない。これを守らないと、射殺されてしまう危険がある。
アメリカは、黒人をモノとして保有し、使い取引することで富と力を得た図だ。その歴史は、今なお、白人と黒人とのあいだに深い溝をつくっている。
アメリカをす知るために欠かせない本がたくさん紹介されていて、勉強になりました。
(2020年3月刊。1800円+税)

少女だった私に起きた、電車のなかでのすべてについて

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 佐々木 くみ 、 出版 イースト・プレス
12歳の少女クミは、通学する山手線で6年間も痴漢被害にあい続けた。チカンはいれかわり立ちかわって続いた。
ところが、母親は、「あなたも悪いのよ。分かってる?」と、救いを求めた少女をはねつけた。教師も…。無理解な大人たちが少女の絶望を加速させる。
チカンというのは、カラオケ、テンプラ、そしてツナミと同じように国際的通用するコトバになっているとのこと。驚きました。
山手線というか、東京の電車内でのチカンは毎日、頻発しているようです。
ところが、100件のチカン摘発のうち、5件は冤罪の可能性があるという、チカン事件で無罪判決をかちとった弁護士の体験談もあります。満員電車を利用していますので、間違われる人も少なくないというわけです。
チカンにあった12歳の少女が自宅に戻って母親に報告したとき、母親はこう言った。
「あなたも悪いのよ。分かってる?だいたい、あなたは不用心なんだから…。……あなたの態度が男の人を無意識にでも惹きつけるのかもしれないわよ。これからは、もっと用心しなさい」
30歳になって母親に読んでもらったとき、母親は泣いた。母親は、スカートの上から一瞬、軽くなでるだけくらいと考えていたのだ…。
満員電車の中で、他の誰もが気がつかないなかで、痴漢は、9年間も、少女の胸を、背中やお尻を絶えず触り続けた。ところが、次の駅に到着すると、ぱっと何事もなかったように他の乗客にまぎれて降りていった。その顔を見ることはなかった。
母から怒られて、痴漢が自分を狙ったのは、自分のせいだと思った。こんな目にあわないように、自分が気をつけていなければならない。自分が悪いせいで被害にあっても、母からは怒られるだけだ…。
くみの通う学校は、とても保守的で、制服に関して厳しかった。ひざ下までの長いスカート、三つ折り靴下、こんな昔ながらの制服は、日本の痴漢にとって、別の時代から来た虚弱な天使に見えたことだろう…。
そして、くみは、力の乏しい、個性に欠けた外見の少女だった。きっとこの子なら、多少触ったところで、そんなに激しく抵抗もしないだろうと、多くの痴漢たちが思ったのだろう。
なるほど、この分析はあたっているように、私も思います。痴漢はきっとターゲットの少女をしぼっているはずです。
くみは、たくさんの痴漢にありながら、男性の外見から、どれが痴漢で、どれが痴漢ではないか、まったく見分けがつかなかった。痴漢の多くは、スーツにネクタイのサラリーマンだが、もっとカジュアルな服装をしている男性もいる。なかには、とてもおしゃれな人もいる。かっこいい人もいれば、普通の人もいる。10代くらいの若い人もいれば、老人もいる。30代から50代、一家の父親見える人たちもいる。親戚や友人に似ている人もいる。要するに、どんな人もいるのだ。
フランスで本になって話題になったものが、日本で刊行されたのです。残念ながら、一読に値する本だと思いました。
(2019年12月刊。1600円+税)

アロハで猟師、はじめました

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 近藤 康太郎 、 出版 河出書房新社
東京は渋谷の生まれ、夏はいつでもアロハ姿の新聞記者が、どこをどう間違ったのか、九州は長崎・諫早そして大分・日田で仕事をしながら、百姓として米づくりに挑戦し、さらに猟師になり、罠師になったという抱(捧)腹絶倒の展開です。
まずは農業。朝の1時間だけで、自分1人が1年間に食べるお米をつくるという計画を立てた。田起こし、代(しろ)かき、田植え、稲刈り、脱穀、そのすべてを人力でやってみせよう。男1人の1年分のお米なら、2畝(せ)あれば十分。2畝は1反の5分の1なので、25メートルプールの4分の3ほど。2畝の田だと、田起こしはテーラーを使えば30分ですんでしまう。でも、人力だけでやるとなると、毎朝1時間なら、9日間かかる計算だ。それにしても大変な重労働だ。
私も庭にジャガイモやサツマイモを植えたりしていますから分かりますが、まず腰をやられてしまいますよね…。土いじりは楽しいものですが、ともかく身体がすぐ悲鳴を上げてしまうほど大変なんです。
そして田植え。人力田植えとは、「触覚、視覚、聴覚、味覚を動員する感性の力作業」。
ともかく農作業は腰がやられます。私の父も、百姓をしたくなかったのは、腰を痛めるからだと言っていました。まったく同感です。
そして、著者は次に鴨撃ちのために銃猟の免許をとったのです。鴨は耳のいい動物。軽トラが停車しただけで、はや警戒レベルはマックスになる。
鴨は、メスが撃たれると、コガモのオスは戻ってくる。逆はない。
鴨撃ちに上達するつもりなら、ノートにとって記録しておくべき。日付、天候、場所、逃げていった飛行コースなど…。
安心しきっている鴨にこっそり近づき、逃げるコースをつぶして撃つ。これが堤での鴨の猟だ。撃っても回収できないような場所では、そもそも撃つべきではない。回収しない、食べない猟師は、下の下。
鴨は勇敢な動物。いち早く危険を察知し、敵を発見する。発見したら逡巡せず、すぐに回避行動に移る。
動物は「死」を知らない。「死」という概念がない。
鴨猟は、鴨がこちらを見つけるのか、こちらが鴨を見つけるのか、どちらが早いかで勝負は決まる。高速で飛来する鴨を撃ち落とすのがまず至難の技だが、せっかく撃ち落としたとしても、その鴨を探しあてるのは、弾を当てるよりもずっと難しい。鴨を撃つ場所となる堤を探すのが猟の入口で、出口は「精肉」。探し出した獲物を、きれにさばいて、おいしく料理して、骨の髄まで残らずいただく。大切なのは、なるべく水で洗わない。こまめに布巾で血をふき取る。猟場にカラ薬莢を残さず、羽をむしるなんてこともしない。
罠にかけて猪をとる。猪は運動能力が高く、強い。そして、賢くて、きわめて用心深い。猪は地面の臭いに敏感なので、罠師はシャンプーを使わず、長靴も履き替える。タバコを吸うなんて、もってのほか。
うまい肉をとるための三大ポイント。血抜き、はら抜き、熱抜き。肉のくささは血の臭い。血抜きは重要。茶わん2杯分の血を出す。はら(内臓)抜きを手早くすませて、内臓が熱をもって発酵しないようにする。
いやはや、まさしくとんでもない変人ですが、これで現役の新聞記者としてつとまるというのですから、世の中は意外なことばかりで、面白いのです。
(2020年5月刊。1600円+税)

シャルロッテ

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ダヴィド・フェンキノス 、 出版 白水社
頁をめくると、そこには普通の文章ではなく、詩のような文章が並んでいました。あれ、あれ、これは何なんだ…。
訳者あとがきによると、著者は、一文、一行書くたびに息をつく必要があったからで、これ以上の書き方はできなかったという。
詩と映画のシナリオを織り交ぜたような一行一文という形式でストーリーが展開していく。
内容は、もちろん重たい。ナチに若い命を奪われたユダヤ系ドイツ人の画家シャルロッテ・ザ・ロモンの生涯が描かれている。
シャルロッテの家族には、何人もの自殺した人々がいる。
そして、シャルロッテは、自殺しようとする祖母に対して、こう言った。
輝く太陽、咲き誇る花々の美しさ、人生の喜びを謳う。自殺しようとする力があるのなら、その力を自分の人生を表現するために使ってはどうか…。
そうなんですよね。いま私は、46年間の弁護士生活を振り返って『弁護士のしごと』シリーズを2巻まで刊行し、近く3巻を世に送り出します。続いて、4巻目の原稿もかなり書きすすめていて、年内には出せるものと思います。この作業があるかぎり、まだまだくたばるわけにはいきません。
シャルロッテは、悲劇的と呼べる人生を送ったにもかかわらず、深く人を愛し、芸術を愛し、人生を愛した。シャルロッテの生に対する情熱に訳者は強く胸を打たれたという。
よく分かります…。
シャルロッテはドイツのユダヤ人画家で、妊娠中に、26歳の若さでナチスによって殺された。そして、1961年にシャルロッテの絵が公開され、その独創性によって人々を魅了した。型にはまらない、まったくのオリジナリティー。それと視線を惹きつける暖かい色づかい。
どんな絵なのか、見てみたいです。
(2020年5月刊。2900円+税)

グラフィック版・アンネの日記

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 アリ・フォルマン、デイビッド・ポロンスキー 、 出版 あすなろ書房
アンネ・フランクは私より20歳だけ年長です。なので、いま生きていたら92歳。まだまだ日本には同じ年齢で元気なおばあさんがいますよね。
アンネは1942年、13歳の誕生日にプレゼントとしてもらった日記帳を「キティ―」と呼んで、そこに自分の気持ちを率直につづり始めたのでした。
マンガ版というと叱られるのかもしれませんが、人物と情景の描写がとてもよく出来ていて、実写フィルムを見ている錯覚にとらわれます。
1944年6月、連合軍のノルマンディー上陸作戦が始まり、米英軍がドイツをめざして進攻作戦をすすめ、アンナたちは大いなる希望をかきたてられます。そして、7月21日にはヒトラー暗殺計画(ワルキューレ計画)も実行されるのです。残念ながら失敗してしまいますが…。
1944年8月4日の午前10時すぎ、ナチス親衛隊がやってきた。誰かが密告したのだ。アンネをふくむユダヤ人8人が連行された。そして彼らの潜伏生活を助けた2人も連行された。助けた2人は2人とも戦後まで生きのびたが、ユダヤ人のほうはアンネの父親一人だけが助かった。
アンネと姉マルゴーの2人は1945年2月末から3月初めにチフスで亡くなった。その1ヶ月後にイギリス軍が強制収容所を解放した。本当にもう少しだったのですね。残念なことです。アンネの「恋人」のペーターは、1945年5月5日、収容所がアメリカ軍に解放される3日前に死亡している。これもまた残年無念なことです。
アンネは、良くできる姉と比較されるのがとても嫌だったようです。
3年近くになるアンネたちの潜伏生活が、このように視覚的にとらえられるというのは実にすばらしいことだと思いました。マンガ、恐るべし、です。
(2020年5月刊。2000円+税)

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