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2020年6月 の投稿

国会をみよう

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 上西 充子 、 出版 集英社
国会中継というのは、一般的にちっとも面白くありません。とくに時間的に多い与党質問とそれに対する安倍首相の答弁なんて、見るだけ時間のムダという気がしてきます。だって、ちっとも目新しい話は出て来ず、ひたすら安倍首相お得意の自画自賛のオンパレードなのですから、聞いているほうが気恥ずかしくなってくるだけですので…。
ところが、野党の質問に対する安倍首相や菅官房長官の答弁には、ときに面白いものがあります。もちろん、いつも木に棒をつぐような素っ気ない答弁の連続ではあるのですが、いかにも答えていない、話をそらしていることが見え見えだったり、ときとして答弁不能に陥って立ち往生し、沈黙の時間が続いたりするからです。
そこで、国会中継の、そんな面白い場面をそのまま街頭で再演してみたらどうか…。
思うだけならだれでもできますが、著者たちは、それを本当に実演したのです。すごいことです。本書では、その経過と苦労話が語られています。
国会パブリックビューイングの街頭上映は、夕方から始める。あたりが暗くならないと映像が見えにくいから。1時間ほどの街頭上映で、集まった人に「柿の種」を途中で配り、それをつまみながら参加してもらう。
著者は論点ずらしの答弁を「ご飯論法」と名づけたことでも有名です。福岡在住の紙谷高雪氏(先日の福岡市長選に立候補しました)と流行語大賞を共同受賞しています。「ご飯論法」とは…。
Q、朝ごはんは食べなかったんですか?
A、ご飯は食べませんでした(パンは食べましたが、それは黙っておきます)。
要するに、話をそらしてごまかす答弁です。
スクリーンの横に腕章をつけた弁護士が立っていると、かえって道行く人の足を遠ざけてしまうという指摘があり、ハッとしました。そんなこともあるんですね…。
音はむやみに大きくしない。スクリーンの前で落ち着いて聞いていられる音量に調節する。スクリーンの横に主催者は立っていない。
5分間立ちどまって見てくれることを目ざす。5分間立ちどまった人は、10分、15分と見てくれることが多い。そんな人にはうしろから近づいて説明したり、リーフレットを手渡す。
与党が強行採決しようとして、野党が抵抗する場面は、むしろ嫌悪感を招かれてしまうので、街頭での上映は適しない。
渋谷のスクランブル交差点で上映したときには、あまりに通行人が多すぎて、立ちどまって見るのは難しかった。
切り貼り編集はせず、そのままの「やりとり」を上映する。これで印象操作だという批判はかわせる。
「野党は反対ばかりしている」
「野党はだらしがない」
「野党はパフォーマンスばかりしている」
よく言われるが、それは実際の国会審議を見ていない人が言っているもの、あるいは実際の国会審議に目を向けさせないために、あえて誤って印象を与えようとしているもの。
私は、まったくそのとおりだと思います。今の政府・与党がひどすぎるのを、「どっちもどっち」などと言って、政府・与党をカバーしようという論法でしかありません。
いまの安倍政権は、6月17日までの国会の会期を延長しないことにあらわれているとおり、問題が表明化しないよう、国会そのものをできるだけ回避し、批判の材料を与えないようにしている。予備費として10兆円を計上して、それを国会で審議しないなんて、とんでもないことです。
この上映は著しく通行の妨げとなるようなものではないので、デモ行進と車道を歩くのと違って、道路使用許可をとる必要がないので、許可はとっていない。なーるほど、ですね。
みんなが、もっと国会審議をみてほしいという願いから、地道に上映活動を続けている著者たちに心からエールを送りたいと思います。
私たち国民は、もっと怒らなくてはいけないし、それを投票所に足を運ぶことを含めて、行動で示さないといけないと強く思います。
(2020年2月刊。1600円+税)

ゴーン・ショック

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 朝日新聞取材班 、 出版 幻冬舎
カルロス・ゴーンとはいったい何者だったのか。日産(ニッサン)という自動車会社はどんな会社なのか、取材班が綿密な調査を遂げて明らかにしています。
ニッサンはトヨタと違って、モノづくりで突出したものはなく、またカンバン方式という独特のトヨタ生産方式もない会社だ。
少し前までニッサンは塩路一郎という労組委員長に会社全体が牛耳られていた。ニッサンの入社式で塩路は社長の次に挨拶し、社長をボロくそにけなした。塩路は恐怖によってニッサン労組そして会社を統治・支配した。カルロス・ゴーンも同じ手法をつかった。
カルロス・ゴーンは、1954年にアマゾンの奥地の町で生まれた。その父親は通貨偽造・神父殺害で逮捕されたらしい。
ゴーンは6歳のとき、父親から離れ、母・姉とともに母の生国のレバノンに移り住んだ。レバノンでフランス式の教育を受け、17歳で単身パリに渡った。そして、エリート養成のグランゼコルの一つに入学した。ここでは成績優秀で、卒業後、ミシュランに入社した。そして、ブラジルに派遣され現地の会社の再建に成功。その次は、アメリカでも、見事に会社を再建させた。そのあとミシュランからルノーに移った。
ゴーンがニッサンのCOOに就任したのは1999年6月のこと。
コスト・カッターの異名をとるゴーンの絶頂期は2006年ころまでのこと。倒産寸前だったニッサンが、ウソのように業績が好転し、2006年3月期決算まで、6期連続で過去最高益を更新した。
ところが、やがてゴーンの周辺から経営幹部たちが一人、二人と距離を置くようになった。
ゴーンが良かったのは2006年ころまでで、その後は、明らかに変な人事が増えていった。ゴーンのご機嫌とりの人間が重用されるようになり、かつて熱狂的に崇拝していた「神」への信仰が揺らぐのは意外に早かった。
2008年9月、リーマン・ブラザーズが破綻した。このとき、ゴーンも巨額の損失を出したようです。ニッサンの売上高は前年比で2兆円以上も減り、純損益は9年ぶりに赤字転落した。
2015年、ゴーンはリタ夫人と離婚し、翌16年に今のキャロル夫人と再婚した。この結婚披露宴がベルサイユ宮殿で開かれ、その費用をニッサンの負担にしたのです。
ゴーンの生活は非常に派手になり、「家庭中心、自分の財産中心」となった。
ゴーンは東京に来るのは1ヶ月のうち、せいぜい1週間ほどで、来日しても仕事を2日したら、あとはキャロル夫人と一緒に遊んでいた。
そして、ゴーンを脅かすような部下は放逐し、帝国の拡大を目ざした。
ゴーンはルノー本社の社長も兼ねていたが、ルノーはフランス政府が出資している会社でもある。そして、ゴーンは、フランスの若き大統領のマクロンと折りあいがもともと悪く、年収20億円のゴーンの強欲さをマクロンは苦々しく思っていた。
当初のゴーンの逮捕容疑は8年間の合計91億円もの巨額の報酬を有価証券報告書に記載せずに隠していたという金融商品取引法違反。そして、続いて、ニッサンのお金を私的に流用したという特別背任罪。こちらも50億円とか、信じられないほど巨額だ。
ゴーンが逮捕される前、2018年春ころから、ゴーンの不正についてニッサンの社内調査が始まっていて、10月にニッサン幹部と検察(特捜部)が協議を始め、やがて司法取引の合意が成立して、重要書類を検察が取得し、11月19日にゴーン逮捕に至ったという経過のようです。ニッサンの西川(さいかわ)社長はゴーン寄りと見られていたため、ゴーン逮捕の1ヶ月前に知らされました。
ゴーンが釈放されたあと、日本をプライベート・ジェット機で脱出したことが今ではルートをふくめて明らかになっていますが、そんな逃亡を助けるプロがいることも初めて知りました。
独裁者は永遠でないことを痛感しますが、その追放までの長い期間の犠牲者が受けた苦難をしのぶ必要もあると思いながら、読みすすめました。ニッサンの製造現場に働く人々、そしてニッサン車を販売し、保守点検・整備する人たちのことを考えたら、何十億円もの巨額のお金をマネーゲームにつぎ込み、その損を会社に埋めあわせさせようとするというのは許せないと思ったことでした(ゴーンさん、本当に無実なのですか…)。
400頁をこえる長編力作なので、私も勢いをつけて一日で読了しました。
(2020年5月刊。1800円+税)

内戦の日本古代史

カテゴリー:日本史(古代史)

(霧山昴)
著者  倉本 一宏 、 出版  講談社現代新書
 古代日本は対外戦争の経験がきわめて少なかった。古代に海外で実際に戦争したのは、4世紀末から5世紀にかけての対高句麗(こうくり)戦と、7世紀後半の白村江(はくそんこう)の戦の2回のみ。その後も、16世紀の豊臣秀吉の朝鮮半島侵攻だけ。そして、内戦のほうも少なく、かつ、その規模は小さかった。
壬申(じんしん)の乱は、『日本書紀』のいうほど大規模であったとは考えられない。保元の乱で平清盛が動かした兵は300人ほど。川中島の戦いも、実際の戦闘があったのは2回だけ。関ヶ原の戦いは、数時間で決着がついている。日本は昔から、なんと平和な国だったろう…。
日本では、王権そのものに対して戦闘をしかけた例はほとんどない。
邪馬台国とは、中国の三国のうちの魏(ぎ)王朝と外交関係をもった、およそ「30国」から成る連合体の盟主として中国の資料に残されている一つの「国」にすぎない。邪馬台国が日本列島における最有力の、ましてや唯一の権力であったというのではない。
著者は、邪馬台国を筑後平野の南部に存在していたと考えています。オッシ、オッシ、これはいい。邪馬台国は八女か瀬高にあったといいうことなのでしょうね。すばらしい!
邪馬台(やまと)国連合の時代以来、北部九州の勢力と倭(わ)王権とは対峙(たいじ)しつづけていた。九州勢力の自立性は、その後も、在地において保持されていた。
八女を基盤とする磐井(いわい)の勢力範囲は九州北部のすべてに及んでいた。筑後川や有明海の支配とともに、東は周防灘(すおうなだ)や豊予海峡の瀬戸内海への、北は福岡平野から玄界灘に達する陸上交通の要衝(ようしょう)をおさえる、まさしく筑紫の大首長だった。対抗勢力を殲滅せずに温存するという、あいまいな決着方式が日本の歴史を見るうえでの特色だった。
東北地方で「38年戦争」が始まったのは宝亀5年(774年)のこと。蝦夷(えみし)が奈良・京都の都にたてついた。桓武天皇のとき、794年(延歴13年)に平安京となったが、延歴21年(802年)4月に蝦夷の族長である阿弖流為(あてるい)と母礼(もれ)が降伏した。田村麻呂はこれを受け入れ、京都へ連行し、二人は騙しうちのようにして公開処刑された。
弘仁2年(811年)、最後の征夷がおこなわれた。結局、双方とも決定的な勝利を得られないまま、38年にわたる「征夷」を終結した。
古代史の内戦の通史みたいな本で、改めて勉強になりました。
(2018年12月刊。920円+税)

サル化する世界

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 内田 樹 、 出版 文芸春秋
思想家であり武道家である著者が日本社会を鋭く切りつけています。
著者は団塊世代の最後の世代です(1950年生まれ)。東大仏文を卒業しています。フランス文学を専攻するというより、フランス語に書かれているものなら、何でも対象としていたとのこと。おおらかな時代だったようです。カミュも研究対象でした。今、コロナ・ウィルスのおかげで、カミュの『ベスト』が注目されています。私にはやはり『異邦人』です。
私は、弁護士になって以来、ずっとフランス語を勉強しています。ちっともうまく話せませんが、私には、フランス語を通して、世界へ門戸を開いておきたいという強い願望があります。それが、毎日毎朝、フランス語の書きとりにいそしむ根拠です。
安倍晋三は、日本の過去20年間の政治文化の劣化の「果実」だ。彼を見て、私たちは深く反省すべき。彼を生み出し、表舞台に押し上げたのは、私たちだ。彼を支持する人が今も4割もいる。そんな支持する人たちに「キミたちも、いろいろ辛いんだよね」と語りかけなければいけない。
彼らの言い分をきちんと聞き、自由な論議の場で、彼らの欲求を部分的にでも受け入れ、部分的にでも実現していく。そうしないと、これまでも今も安倍晋三やら維新を支持している市民たちの支持は得られない。非常に辛いことだし、うっとうしい。でも、これをやるしかない。「あんたら、頭おかしいよ」、なんて言っても何も始まらない。
アメリカ合衆国憲法は、そもそも常備軍の存在を認めていない。うひゃあ、ちっとも知りませんでした…。常備軍は、必ず為政者に従い、抵抗権をふるう市民に敵対することをアメリカ市民は経験的知っていたからだ。このように常備軍をもたないことを規定した憲法をもちながら、アメリカは世界最大の軍事力を誇っている。
フランスは、戦勝国として終戦を迎えてしまったため、敗戦を総括する義務を免除された代わりに、もっと始末におえないトラウマをかかえこんだ。
イタリアは、文化的には戦勝国であり、1945年7月に日本に宣戦布告したフランスはド・ゴールというカリスマがいたが、イタリアには、カリスマがいなかった。
 凡庸(ぼんよう)な知性においては、常識や思い込みが論理の飛躍を妨害する。例外的知者の例外的である所以(ゆえん)はその跳躍力にある。
 本当に大切なのは、「心と直感」ではなく、「心と直感にしたがう勇気」なのだ。そのとおりです。この「勇気」こそが、最後に求められるものなのです。
 成熟するとは、変化すること。3日前とは別人になること。
 いつもながらの鋭い指摘に出会うと、胸の奥深くまで短刀を突き刺されて、ハッとする気分を味わうことができます。
(2020年3月刊。1500円+税)
 ジャガイモを掘りあげたあと、今度はサツマイモを植えようと思い、いったん深く掘り起こして、コンポストに入れていた枯れ葉や生ゴミを埋めました。クワとシャベルを使っての久しぶりの力仕事なので、腰が痛くなりました。今は午後7時まで明るいので、7時にやめて風呂場に直行しました。
 庭のアスパラガスは、そろそろ終わりのようです。カンナの黄色い花が咲いて夏の訪れを実感しました。

カラスは飼えるか

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 松原 始 、 出版 新潮社
カラスを飼おうなんて、もちろん私は一度も思ったことはありません。真黒くて、不気味で、ゴミあさりをして道路を汚してしまう…。そんな悪いイメージしかカラスにはありません。
この本で著者は結論として、うっかりカラスを飼ってはいけないとしています。
なにしろ、カラスって、40年以上も長生きすることがあるというのです。せいぜい15年ほどのイヌやネコとは違うのです。
カラスは、人間には簡単になつくことはない。
カラスは、いたずら好き。気になるものは、すべてつつく。とにかくつついて、ぶっ壊す。それからもち去り、隠す。
カラスは絶望的にしつこい。ケージの留め金を外すくらいは朝飯前。
そんなカラスを飼うのは、やめときなさいというのが著者のご託宣です。分かりました。そうします…。
カラスは、三原色に加えて紫外線も見えている。石けんとかゴルフボールを持ち去る習性は、それと関係があるのか…。
カラスの肉は食えるが、あまりおいしそうでもない。カラスの肉は高タンパク質低カロリー。タウリンや鉄分を大量に含んでいる。
南アメリカには、過去も現在もカラスが分布していない。
うひゃあ、な、なぜでしょうか…。
カラスは仲間が死んだら、その周囲で大騒ぎする。これをカラスの葬式という。
若いカラスの群れには、はっきりした順位がある。上位のオスはよくモテるし、上位のオスをめぐって、メス同士も争うことがある。
カササギは、わが家の周囲にフツーにいる鳥です。毎年、電柱の高いところに立派な巣をつくっています。毎年、九電が巣を撤去しますが、子育てが終わってからのようです。このカササギの巣は丸いボール状の構造ですが、横向きに出入口があるとのこと。いつも巣は見ていますが、初めて知りました。
カササギは九州だけでなく、最近は北海道の室蘭や苫小牧付近でも繁殖している。これは、ロシアの貨物船から来たと思われる。
カササギは、カチ(勝ち)ガラスともいいますが、これは韓国語由来だそうです。韓国では、カササギのことをカッチと呼び、大変人気がある。カッチというカラスっぽい鳥としてカチガラスと呼んだのだろう。
これが著者の意見です。著者には『カラスの教科書』などもあり、まさにカラス博士です。
(2020年3月刊。1400円+税)
 アベノマスクが5月末になってようやく届きました。郵便ポストに投げ込まれていたのです。もうマスクは町中どこでも売っていますので、どこか必要なところへ寄付するつもりです。それにしてもつくって配るのに468億円かけ、また38億円かけて追加するなんて信じられません。政権中枢に近い会社がもうかり、配ったゆうちょが助かっただけではありませんか…。
 また、持続化給付金のほうも電通と竹中平蔵のパソナが濡れ手のアワのボロもうけをするとのこと。国民の不幸を喰いものにして金もうけに走るアベ政権にはほとほと愛想が尽きます。50代、60代の女性のアベ首相の支持率が2割未満だという世論調査が出ていますが、それも当然です。ここで怒らないと、いつ怒りますか。政治が生活と直結していることを身をもって知らされている今、世の男どもはいったい何を考えているのでしょうか…。

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