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2020年1月 の投稿

そのツイート、炎上します

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 唐澤 貴洋 、 出版  カンゼン
前に『炎上弁護士』(日本実業出版)を書いた弁護士による、SNS炎上を避けるための実践的な手引書です。
先日、私の前にあらわれた新規の相談客に、どうやって私の事務所を知ったのか尋ねたところ(毎回、欠かさない質問です)、スマホの格付が4つ星で、コメントも良いことが書かれていたこと、そして決め手は「相談料無料」とあったからという答えでした。これには驚きました。レストランが星で格付けされていること、利用した客のコメントがついていることは私も知っていましたが、法律事務所まで同じように評価され、コメントがついていることを初めて知りました。しかも、うちの支店については、係争中の相手方から悪口が書かれているのです。なお、「相談料無料」というのは正確ではありません。借金相談だけ無料にしているのです。頼んでもいないのに、いったい誰が、こんな表示をつけたのでしょうか。
悪口については、抹消請求できるほどのものとは思えないレベルでしたので、プラス・コメントを誰かに書いてもらって対抗するしかありません。本当に怖い世の中になったものです。
炎上しても気にしなければいいんだという人がいる。しかし、そういう人に限って、自分が炎上したときに、うろたえ、フツーの精神状態ではいられなくなることだろう。
なるほど、たしかにそうだろうとネット世界に生きていない私も同感です。
ツイッターのやり取りのなかでは、怒りが生まれやすい。というのは、ツイッターは切りとられた短文なので、過激で不快な印象をダイレクトに与えやすいから。
構造的な炎上は、いじめの構造と同じ。いちど悪意をもたれたら、ずっと目をつけられる。学校のいじめが、なかなか終わらないのと同じ。
いじめるほうが自発的にやめる理由は、あきる以外ない。学校でのいじめのターゲットが次々に移っていくのと同じで、対象は誰でもいいのだ。
炎上を加速させる大きな要因の一つに「まとめサイト」の存在がある。まとめサイトの広告収入で稼ごうという人が多く、まとめサイトは乱立している。
そして、一般人が炎上すると必ずあらわれるのが特定班。個人情報を暴き出す機動力のある特定班が存在し、炎上者の性格、居住地、学校、勤務先、家族構成などのプライバシーを暴き出す。
このような特定班の成果を待ち望む人々が存在する。これも人間の醜悪な一面だ。
炎上しても警察はまともに捜査しようとはしない。これは怖い。
炎上に加担する人は、孤独感のある人、寂しい人が多い。
炎上したときには、第一に次の炎上の燃料となるネタを与えない、第二に時間が経過するのを待ち、相手と同じ土俵に上らない、第三に明らかなプライバシー侵害のときには警察に相談する、第四に、インターネット上の人権侵害に明るい弁護士に相談する。
ちなみに、インターネットに詳しくない私は、この種の相談を受けたときには、すぐに専門的に対応できるインターネットに強い弁護士を紹介するようにしています。
(2019年5月刊。1400円+税)

クモのイト

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 中田 兼介 、 出版  ミシマ社
わが家のなかには、大小いろいろのクモが出没します。芥川龍之介の「くもの糸」を読んで以来、自分だけは助かりたいという思いから私は決してクモを殺すことはしません。あまりに大きなクモはホウキで外へ掃き出してしまいます。でも、その姿は少し気味悪いですよね。
セアカゴケグモはともかくとして、クモの毒は人間には効かないことを本書で知って安心しました。
クモは、成功した生物の一つ。陸上のあらゆるところに住んでいる。
クモは空を飛び、水中にすむクモだっている。
「朝のクモは殺すな」と昔から言われてきたように、昔の日本人はクモをありがたがっていた。
クモのオスは、大人になると網を張らなくなり、エサも食べずにメスを探して子づくりに全精力を注ぐ。クモは他の動物をエサにする肉食動物だが、異性に対しても猛烈な肉食性。
メスは交接相手のオスを食べてしまうことがある。うひゃあ、カマキリと同じですね・・・。
クモの魅力は、その賢さと複雑さにある。
クモの糸は直径数マイクロメートル(1ミリメートルの数百万の1)しかないにもかかわらず、自然界で最強。
クモのほとんどは孤独に生き、好き嫌いのあまりない肉食動物。
クモの糸で服をつくった。4年以上の月日と30万ポンド(4000万円強)のお金、6000人時の労力、のべ100万匹をこえるジョロウグモが使われた。
これまで16個体のクモが宇宙旅行した。日本人で宇宙を飛んだのは12人のみ。
クモの祖先が出現したのは3億8000万年前。クモの化石は3億年前のものが最古。
網を張ってエサをとるクモの種類は半分ほど。
クモの糸はタンパク質でできている。
母グモは子グモにエサを与えていて、自分が弱ると、自分の身を子グモに食べさせる。
クモが空を飛べるのは、地球の表面がマイナス電気を帯びていて、クモの糸もマイナス電気なので、お互いに反発しあって、空中に浮かぶことになる。
長生きするクモの寿命は40年というのもいる。ジョロウグモやコガネグモは1年。
クモは、からだを分解する酵素をたっぷり含んだ消化液を口から出して、哀れなエサの中に注ぎ込む。しばらく待つと、溶けてどろどろになるので、それをクモは飲む。
からだの外で消化が起こるおかげで、クモは自分よりずっと大きな動物でもエサにできる。
クモは毎日、網を張り直す。古い網は食べる。これはリサイクル。
クモは地球上に12万種いると見込まれている。150種近くが絶滅危惧になっている。
クモは、ほとんど昆虫を食べている。
世界中で4億トンから8億トンのエサを食べている。
身近なクモについての面白い話が満載の本です。
(2019年11月刊。1800円+税)

宇宙から帰ってきた日本人

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 稲泉 連 、 出版  文芸春秋
ずいぶん前に、このコーナーでアメリカの宇宙飛行士たちは実際には月面着陸していないという本(いわゆるトンデモ本)を紹介して、叱られたことがあります。トンデモ本を真に受けてしまったわけです。9.11についても陰謀論があるようで、フェイクニュースが横行する世の中ですので、なかなか真実を見抜くのは大変です。
宇宙に飛び出した人類は、今では国際ステーションをつくって長期滞在していますし、日本人も、そのなかで頑張っているのですよね・・・。でも、私は、例のチャレンジャー爆発事故を「目撃」して以来、宇宙旅行なんて、ますます怖いと思うばかりです。
その点、ロシア(旧ソ連)の宇宙船ソユーズ号は大変な安心感があります。
ソユーズは、1957年のスプートニク1号の打ち上げに使われたR-7Aを改良したもの。ソユーズは2000回近くの打ち上げに使用されており、その成功率は97%をこえる。現在も年間10機以上が打ち上げられるほど、信頼性には定評がある。ただし、2018年10月に打ち上げに失敗し、発射直後に緊急着陸するという事故も起こしている。
ソ連時代に爆発事故を起こして公表されなかったという事故もあるようですので、手放しで安全だと評価できないのかもしれませんが、この分野ではアメリカよりソ連時代をふくめてロシアのほうが宇宙船の安全性は確保されているようです。
それにしても、宇宙から地球の公害による汚染がはっきり見えるという指摘には、そんなにひどいのかと驚きました。なにしろ、ベトナム戦争のとき、地上の戦火まで見えたというのですから、宇宙船から地球は驚くほど、よく見えるのですよね・・・。
1990年にソ連の宇宙船ソユーズに乗って日本人として初めて宇宙旅行した秋山豊寛氏は、地球の青さというのは、地球自体は青いのではなく、地球と宇宙との境目の美しさを指していると語っています。
このとき、TBSはソ連に50億円支払ったとのこと。まさにバブル現象でした。1986年にチャレンジャー爆発事故が起きて、毛利衛氏が日本人初の宇宙飛行士になるはずだったのが、順番が入れかわったのです。秋山氏は、ひどい宇宙酔いに悩まされたとのこと。
地球に帰還した直後は、動力酔いに悩まされる。これは筋力が弱ったのではなく、三半規管によるバランス感覚がなくなり、まっすぐ歩けない、ふらふらと千鳥足になってしまう現象が起きる。
宇宙船内では、上下の概念がなくなってしまう。それに慣れた人が、地球に戻ってくると、危ない目にあってしまう。
宇宙船のなかでは、無動状態なので、ニュートンの作用、反作用の法則、つまり押せば押されるという法則を身体で実感・理解できる。
毛利衛氏は、私と同じ団塊世代。1992年にスペースシャトルで宇宙に行った。このときの地球の人口は55億人。2度目は2000年、NASA宇宙飛行士として行ったとき、地球人口は61億人。そして今や77億人。2050年には100億人になると予測されている。はたして、地球は人間をそんなにかかえこめるのか・・・。
(2019年11月刊。1650円+税)

作家と魔女の集まっちゃった思い出

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 角野 栄子 、 出版  角川書店
著者の『魔女の宅急便』は良かったですね。舞台で演じられ、実写映画にもなったそうですが、私はアニメでみました。もちろん、本も読みました。
ホウキにまたがった魔女が宅急便の荷物を運ぶなんて、すごい発想ですよね。
この本を読むと、著者がものすごいバイタリティーの持ち主でもあることがよく分かります。なにしろ、24歳のときブラジルに渡り、2年間、そこで暮らしたというのです。そのとき知りあった母と子の話が本書で紹介されますが、子のほうは作家としてのデビュー作のネタになったのでした。
『魔女の宅急便』の原点は、著者の12歳の娘が描いた魔女の絵だったそうです。ほうきの柄にトランジスタラジオがぶらさがり、ビートルズの音楽でも聞きながら飛んでいるようで、魔女の周囲を音符が踊っている。そんな絵だったのです。それを見て、ひらめいたのでした。
魔女のキキには、あり得ないことと、あり得ることを飛んでつなげてもらう。そしたら物語は面白くなりそう。そのなかでキキは次第に自分の場所を見つけていく。こうやって自分の楽しみも広がっていった。
主人公の名前は、そこから物語の世界が始まるといってもいいくらい大切なもの。1ヶ月ほどして、魔女の女の子はキキという名前に決まった。モノカキを自称する私も、主人公そして登場人物の名前は苦労していますし、工夫しています。
言葉の意味にばかり頼りすぎると物語は次第に貧弱になっていく気がする。
言葉の意味よりも、言葉のときめきを大切にしたい。
ときめきは、形ある風景として立ち上がってくる。そこを読み手といっしょに歩いていく。そしたら、どんなに楽しいことか・・・。
84歳の作家は、いつまでも幼い少女のようなういういしさを失っていないようです。うらやましい限りですね・・・。
(2019年9月刊。1400円+税)

深海―極限の世界

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 藤倉 克則・木村 純一 、 出版  講談社ブルーバックス新書
太陽光のうち赤っぽい光は水深3メートルまでにその大半が吸収され、それより深くには届かない。短い波長の光も水深200メートルまでに吸収されて、ほとんど人間の目で見えなくなる。ただ450ミリメートル前後の波長の青色領域の光のみが水深1000メートル付近の中層まで達している。水深1000メートルより深い海は暗黒の世界であり、自ら光を発する生物(発光生物)以外に光を見ることはない。
深海では、光が届かなくなるうえ、水圧が上昇する。
今では、海底下2.5キロメートルにまで微生物が存在していることが判明している。
地球表面の7割は海、水深200メートルより深い海が深海、海の平均深さは3800メートル。水深200メートルの水中には、植物プランクトンや動物プランクトンの死骸、生物の排泄物が凝縮し、埃(ホコリ)のかたまりのようになって沈降する「マリンスノー」が見える。このマリンスノーは、深海に降り注ぎ、深海生態系を支える食物となる。
深海の暗闇では、発光は生存に有効。発光の役割は、エサをおびき寄せるため、捕食者に襲われたときの威嚇、同種間のコミュニケーション、カウンターイルミネーションで姿を消して捕食者から見つかりにくくするため・・・と考えられている。
深海は水圧が高いため、100度以上になっても海水は沸騰せず、水深1000メートルでの沸点は300度以上になる。
深海では有機物の量が少ないため、一般に生物群の生息密度は低く、生物の種の多様性は高い。
海底にある湧水域はプレートの沈み込み帯で、沈み込むプレートの上側のプレート上に存在する。
世界中の海底の95%は太陽の光が届かい深度にあり、温度は4度以下、圧力は数十気圧から100気圧になる。そして、酸素がないところがほとんど。大気中に放出された二酸化炭素は、2分の1が大気中に残り、4分の1は陸上の森林が吸収する。最終的に残った4分の1は海洋に吸収される。
海中のプラスチックが海洋生物にどのように影響しているのか、少しずつ究明されている。しかし、マイクロプラスチックが深海に堆積していることの研究は遅れている。
プラスチックは大変便利なものなので、私もずっと使ってきましたし、使っています。ところが、生態系に大きな悪影響を与えていることを知り、なんとかしなくては・・・と思いはじめました。
深海にうごめく生物に光をあてた貴重な新書です。私が大学生のころは、まだプレートテクトニクス現象について、そんな馬鹿なと一笑に付されていました。今では、大陸が動くものだというのは完全に定説になっています。これで世の中の見方が私のなかでも、すっかり変わってしまいました。
「しんかい6500」に乗ったら水深6500メートルまで潜航できるそうですが、暗黒な闇のなかにずっといたら気が変になってしまいそうです。学者はえらいですね。
(2019年5月刊。1100円+税)

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