法律相談センター検索 弁護士検索
2019年12月 の投稿

裁判官失格

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 高橋 隆一 、 出版  SB新書
元裁判官が31年間の裁判官生活を振り返って書いた本なので、タイトルにあるように失敗談のオンパレードかと思うと、決してそうではありません。むしろ、裁判官だって人の子、いろんな裁判官がいるし、事件もさまざまという、裁判を取り巻く実情を率直に語っています。
ですから、まったくタイトルどおりの本ではありません。
人間として立派な先輩裁判官が著者の身近にいて、そのためかえって煙たがられていて、残念だった。犯罪をおこした人の気持ちを理解して、その更生のための手助けをしようとする熱心な裁判官たちが裁判所のなかで意外に冷遇されているのを見た。
この尊敬すべき先輩裁判官は青法協(青年法律家協会)に入っていたため、上から目をつけられて、どの裁判所に行っても合議裁判に入れてもえないという差別を受け続けた。
信念を貫き、人間の更生そして人権擁護に熱心な裁判官が冷遇されるのを身近に見ると、多くの裁判官は委縮してしまい、モノを言わなくなってしまいます。今の裁判所は、まさに、そんなモノ言わない裁判官ばかりが多数で大手を振っています。ところが、彼らは権力への忖度を無意識のうちにしているので、権力に迎合しているという自覚すらないことがほとんどです。
このことは、原発差止を認めた樋口英明・元裁判官の講演を聞いて、ますます確信しています。もちろん、それって残念なことです。青法協会員裁判官の「退治」(ブルーパージ)は、もう30年以上も前に起きたことですが、今に尾を引いているのです。
裁判官のなかには、パチンコ好きの夫婦で、月に10万円以上もつぎこむ人がいるし、酒好きで、朝からコップ酒をあおり、酔ったまま法廷に出る裁判官もいた。妻子ある身で行きつけのスナックのママと無理心中した裁判官がいるという話もある。
昔、熊本地裁玉名支部に大石さんという裁判官(故人)がいました。私は個人的には大好きでしたが、朝の法廷で酒の臭いをプンプンさせているというので、新聞沙汰になったことがあります。
女性の裁判官が増えていて、判事補のなかの女性の比率は2005年には24.4%だったが、2015年には35.6%にまで伸びている。
国の重大な決定に裁判官が逆らうことができるのか、これは実に悩ましい問題だ。つまり、権力(首相官邸)との癒着があり、忖度があるというのが現実です。
著者は、国の重大な決定に背く判決を書けるのか、そんな勇気を裁判官は果たしてもてるのか、司法権の独立が試されている、そう書いていますが、権力をもつ人間(そして金持ちも)に対して逆らう判決・決定を書くのは大変な勇気があると刺激的な文章でしめています。
ぜひ、あなたもお読みください。
(2019年12月刊。830円+税)

マイ・ストーリー

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ミシェル・オバマ 、 出版  集英社
オバマが「チェンジ」を唱えてアメリカ大統領に当選したときは、私も大いに期待しました。これで、アメリカという国も少しはまともな民主国家に変わっていくのかな・・・、と思ったのです。
そして、オバマ大統領のプラハでの演説にも拍手を送りました。
しかし、残念なことにアメリカという国の内外からの圧力・抵抗にあって、オバマ改革はあまりみるべき成果をあげることなく退陣していき、その反対極のトランプというとんでもない男が大統領となって、金持ち優先のひどい政治が続いています。
それはともかくとして、本書はオバマ大統領の妻ミシェル・オバマの自伝ですが、意外に面白くて一気に読了しました。
黒人の世界からプリンストン、ハーバードという超有名な大学を出て、シカゴの大ローファームに入り、そのままいたらパートナー昇格まちがいないという状況から、シカゴ市政にかかわるように転身するのです。そして、教育担当として受けもったのが若きオバマ弁護士でした。この二人の出会いと、その後の活動あたりが本書のヤマ場だと思います。
もちろん、夫のオバマが大統領選にうって出て、家族を巻き込みながら、怒涛の日々を過ごしていく様子も面白いのですが・・・。
ミシェル・オバマはプリンストン大学のとき、白人の友人はほとんどいなかった。いつも身構えしていたから・・・。大学では、いつも勉強していた。自分は、どんな困難でも乗りこえられるという自信がついた。時間をたっぷりかけ、必要なときには助けを求め、やるべきことを先送りせず、きちんとこなしていれば、ハンディのすべてを帳消しにできると思えた。
ハーバードで3年間、憲法を学んだが、強い情勢は沸いてこなかった。
シカゴの一流法律事務所に入り、エリートの仲間入りをした。25歳にしてアシスタントがつき、両親が稼いだことのない額を稼ぐようになった。親切な同僚はみな高学歴で、ほとんどが白人。アルマーニのスーツを着て、ワインの定期便を申し込んだ。仕事が終わるとエアロビクスの教室に通い、余裕があるから、車はサーブ。
もう十分かな?そう、十分だと自問自答していた。
そんなとき、オバマ青年が目の前にあらわれた。バラク・オバマは初日から遅刻した。ときにこれといった印象はなかった。オバマは28歳、ミシェルは25歳だった。
オバマは白人でも黒人でもあり、アフリカ人でもアメリカ人でもあった。
オバマにとって、本は神聖なものであり、心の安定剤だった。
この点だけは私にも共通しています。
オバマは、自分の弱みや恐れを見せることを怖がらず、何ごとにも真摯であることを大切にしていた。
オバマは、「ハーバード・ロー・レビュー」の編集長になった。103年の歴史のなかで初めてのアフリカ系アメリカ人編集長だった。ところが、オバマは企業法務は自分の価値観にはあわないと考えた。
オバマは大統領になってから、アメリカ中の有権者から届く1日に1万5000通のなかから通信担当スタッフが選んだものを毎日10通ずつ読んだ。そして返事を書いて送った。
いやあ、これは実にいいことですよね・・・。
ただ、私は、オバマ大統領の最大の失策の一つがオサマ・ビン・ラディン暗殺を指示したことです。テロリスト集団を根絶やしにするには、そのトップを暗殺すればいいというのではいけません。テロリスト集団のトップなるものは、代わりがいくらでもいるのです。
なぜ人々がテロリストに走るのか、その根源を考え、そこにメスを入れるべきです。
中村哲氏のように、あくまで平和的手段でしか真の平和は長い目で見たとき実現しないと思います。
オバマ大統領による暗殺指令はノーベル平和賞が泣いてしまいました。残念です。
(2019年11月刊。2300円+税)

徴用工問題とは何か?

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 戸塚 悦朗 、 出版  明石書店
安部首相は徴用工問題について、日本は何も悪くない、完全解決ずみのことを蒸しかえしている韓国が悪いと高言し、日本のマスコミのほとんどはその尻馬に乗って大合唱しています。そのおかげで日韓双方に悪感情が生まれ、観光客は大激減して、日本経済は観光地だけでなく大打撃を受けています。しかし、日本は悪くない、悪いのは韓国だというのは本当なのでしょうか・・・。
韓国大法院(日本の最高裁に相当します)は、「原告らの損害賠償請求権は、日本政府の韓半島に対する不法な植民支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権」であるとしています。
戦時の徴用工の被害実態は、非人道的な処遇でした。これが現代に生きる私たちが認めたくない現実なのです。現在の外国人技能実習生の置かれている処遇とは比べものにならないほど劣悪だったことは間違いありません。
そのうえで、韓国大法院は、日韓請求権協定では強制動員による慰謝料請求権は放棄されていないとしました。これは、実は日本政府も繰り返し認めているところなのです。
つまり、日韓請求権協定では強制動員被害者の問題は解決していない。また、請求権協定が解決の妨げになるものでもない。被害者の人権回復、日本による植民地支配の反省から解決を目ざすべきだ。
著者はこのように述べていますが、まことにもっともな指摘です。
安部首相の頭のなかには、日本は韓国を植民地支配をしたが、それは韓国の近代化に大いに貢献した、むしろ感謝されて当然という考えがあるようです。この論理は、奴隷の所有者が奴隷に向かって毎日、飢えることもなく安心して過ごせるのはオレ様のおかげなんだ、ありがたく思えというのとまったく変わりません。
加害者は自分のしたことをすぐに忘れるし、忘れるのは簡単です。しかし、被害者は被害にあったことを簡単に忘れるものではありません。それは二代、三代と世代が変わっても記憶されるものです。
著者は国際人権法の専門家ですので、大変勉強になりました。
(2019年10月刊。2200円+税)

「賄賂」のある暮らし

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 岡 奈津子 、 出版  白水社
とても興味深い話のオンパレードです。
カザフスタンは元はソ連でした。国土は乾燥した草原と砂漠、そして山脈からなる。その国土面積は世界第9位で、日本の7倍をこえる。カスピ海に面した西部地域は世界有数の埋蔵量を誇る油田地帯。
宇宙基地として有名なバイコヌルはカザフスタンの南部。
核実験場だったセミパラチンスクは、カザフスタン北東部。
人口1800人のカザフスタンのうち、主要民族は日本人とよく似た風貌の人が多い。しかし、もともと遊牧民のカザフ人の開放的で大らかな民族性は日本人とはかなり異なる。
ソ連時代に比べて、格差が拡大している。
カザフスタンの人々は、カネとコネを駆使し、使い分け、あるいは組み合わせている。
この実態をインタビューなどによって、赤裸々に明らかにしていますので、最後まで興味深く読み通しました。著者のインタビューに応じたカザフスタンの人々の動機は、怒りだけでなく、当然のこと、公然の秘密だということ。自分たちが腐敗の一方的な被害者ではなく、参加者でもあることを自覚している。
今や、カザフスタンではカネを払わなければ人が動かない。
賄賂と贈り物とのあいだの境界線はあいまいで、両者をはっきり区別するのは困難だ。
賄賂で文句なしの第1位は交通警察。税関も警察と並んで悪名高い。司法の公平性の原則が、賄賂や縁故でゆがめられている。教育・保育も似ている。診療所と病院は生命・身体にかかわるので、国民の不満は大きい。
ソ連社会では、100ルーブルより100人の友をもてという金言があった。コネが生きる社会だということ。
賄賂の額を決めるとき、コミュニケーション能力も大きい。
「カザフ人には親戚が多い」
カザフ人は、民族意識とともに、父系出自にもとづく氏族への帰属意識をもっている。強いコネをもっている人ほど、カネを効果的に使うことができる。
カネで問題を解決できるのは、警察も裁判所も同じ。
「全体の9割の裁判官の目的はカネもうけ。ビジネスのように、訴訟でカネを稼ぐ。うまみのない裁判は適当にすませてしまう」
 ソ連時代には例外とされていた収賄が、いまはむしろルール化されている。多くの大学や学校では、成績や試験の点数、学位論文をカネやコネで手に入れる行為が横行している。
 いまの若者は、あらゆるものが売り買いされるのを見ながら育った。賄賂をあたりまえのこととして受け入れ、世の中はカネしだいだと思える。
 国民がもっとも強い怒りを表明したのは医療分野と腐敗だ。
 日本との違いは、カザフスタンでは、しばしば心付けの範囲をこえ、事実上のゆすりが行われている。
賄賂なしには何事も動かない。というのは想像の産物かと思うと、まさしく悲痛の叫びをあげざるをえません。
それにしても病院、そして裁判所までもがそうなっているというのですから、これはとても深刻な話ですよね・・・。よくぞ調べてくれました。感謝します。
(2019年11月刊。2200円+税)

昨日の世界

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 島崎 康 、 出版  毎日新聞出版
元検事長の回想小説というタイトルに惹かれて手にしました。実は、まったく期待することなく読みはじめたのですが、どうしてどうして、とても中身の濃いサスペンスタッチの小説でした。
「ある殺人事件の捜査担当検事が最後に行きついた人間の真実とは・・・時代に翻弄される人々の生き様を描く意欲作」というのが本のオビにありますが、このオビの文章を決して裏切ることのない大変な力作です。東京から帰る飛行機のなかで読みはじめ、家に帰りつくまでに読了しました。あっという間でした。
実は、私は目下、「弁護士会殺人事件」なるものに挑戦中なのです。犯行の手口はそれなりにイメージできて書けるのですが、犯行動機の点でハタと行き詰まっています。人を殺すほどの動機が利権の乏しい弁護士会にあるとは思えず、考えつかなくて困っているのです。
そこを、暴力団がらみの殺人事件が起きた本書で、どのように工夫をし構成しているのか、知りたくて読みすすめましたが、最後まで、ぐいぐいと惹きつけられました。
最後に参考資料として、 侠客・ヤクザはともかくとして、満蒙開拓団・学生運動・浦上四番崩れがあげられています。それがうまく(解説がくどいという部分もありますが・・・)、動機部分と人物描写に組み込まれていて、ストーリーに深みをもたせています。ここも類書にない特長です。
警察の検察への事前相談は、法律上の根拠はない。いわば、官庁間の根回しに類するもの。警察は、その事件の帰趨が社会的に注目されている場合には、事件の送致前に検察に「事前相談」し、事実や法律問題を詰め、勾留の可否、起訴の可能性などを探る慣行がある。
警察が「もうちょっとがんばります」というのは、検察に無理難題を押しつけるときの常套文句だ。
検察は、何事をするにも上司の決裁を必要とする。検事の日常は、この上司への報告・決裁に向けて毎日を過ごしているようなもの。検事のなかには、「上司の意向を忖度(そんたく)し、それにあわせて捜査し、処理しようとする者、捜査や後半より報告書づくりに精力を傾ける者がいる。
嘘をつくというのは、普通の人間にとって、並大抵でない緊張を強いる。それが取調べであれば、なおさらだ。
人は、いったん嘘をつくと、これを合理化するために、さらに嘘をつかねばならない。そのうえ、取調官が、どこまでの材料をもっているのかを推測する。身柄拘束されていたら、これに密室妄想的要素が加わり、さまざまな想像をめぐらせる。そして、四六時中、そのような想念にとりつかれているうちに、自らの嘘で自縄自縛になり、あらぬ話を捏造し、ついには墓穴を掘る羽目に追い込まれる。取調べの早い段階で、相手方に好きなだけ嘘をつかせることも尋問技術のひとつだ。
著者は検察官を長くつとめ、検事長にまでなったというだけあって、検察庁内部の人間模様と警察との関係などは、さすがに真に迫っていて、想像とはとても思えない迫力があります。
今年最後に読む一冊として、一読をおすすめします。
(2019年1月刊。2300円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.