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2019年9月 の投稿

ふるさとって呼んでもいいですか

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 ナディ 、 出版  大月書店
1991年8月、イラン人の両親と3人の子どもがイランから日本に「出稼ぎ」にやってきた。子どもは6歳(長女)、5歳(長男)、1歳(次男)。3人とも日本語は話せず、ビザもなし。一家は強制送還されることもなく、子どもたちは34歳、33歳、29歳となった。
そして長女の著者は、こう書いています。
「イラン生まれで日本育ち、中身はほぼ日本人。これが私。イラン系の日本人なんだ」
2015年に著者が結婚した相手の男性は、日本とパラグアイのハーフで、生まれはボリビア。日本国籍。著者はイスラム教徒。今も豚肉は食べず、お酒も飲まない。夫君はキリスト教徒。
この本は、漢字すべてルビ(振りがな)がふってあります。漢字が読めない人にも読んでほしいという配慮なのでしょう。
一家が入国するとき、なんと手続に6時間もかかりました。そして、それから、目的地まで日本語も読めず、話せないなかで電車・バスに乗って、3人の幼い子どもを連れて目的地になんとかたどり着いたのです。
イラン人の両親は、なんとか工場で働けるようになった。すると、子どもたち3人は自宅で留守番。おおっぴらに外で遊ぶことはできない・・・。
言葉が通じない子どもたちは、笑顔とおじぎをまず覚えた。人に会ったら、とりあえずニコッと笑顔を見せ、次にペコリとおじぎをする。すると相手も笑顔になってくれる。
人がいないのを見はからって、子ども3人で、向かいの公園で遊ぶ。人目を避けていたつもりだが、実は、外国人の3人姉弟は近所でかなり目立っていた。
子どもたちはもらったテレビを自宅で見ているうちに、半年でそれなりの日本語を話せるようになった。イラン人の両親は働いているばかりで、テレビも見ないため、なかなか日本語は話せないまま・・・。
子ども同士で遊んでいると、「外国人とは遊んじゃだめよ」という日本人の親にも出会った。それでも、仲良しの子の母親が字を教えてくれた。そして、いじめっ子の家には、母親が乗り込み、著者が通訳した。いじめっ子の父親が、きちんと対応してお詫びしてくれた。
在留外国人は270万人。しかし、日本国籍をもつ人も含めると400万人と推定されている。
強制送還される外国人は、1990年代には毎年5万人もいた。最近では、1万人以下となっている。
「在留資格なし」でも、小学校に入ることができた。ところが、算数についていけない。漢字は強敵だ。
ケガすると、健康保険がつかえないので、自費。足首を痛めただけで1回4000円。これでは医者にはかかれない。ケガできない。
ブルマや水着はイスラム教の教えに反する。
ようやく在留特別許可がおりて、不法滞在ではなくなった。
400万人もの人々が、日本の文化と「たたかい」ながら、必死に生きている姿を想像できる本でした。それにしてもイランの6歳の女の子が弟2人の面倒をみながら、日本で立派に育っていく姿を本人が自信をもって語っているのに圧倒され、思わず心の中で拍手をしてしまいました。ちょっと疲れ気味のあなたに活力補強材として一読をおすすめします。そんな、いい本なんです。
(2019年8月刊。1600円+税)

弁護士研修ノート

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 原 和良 、 出版  第一法規
初版が出てから、もう6年にもなるそうです。改訂版が出たので早速注文したところ、本屋から届いた翌日に著者からも贈呈本が届きました。
とても実践的な本ですので、若手弁護士に役に立つことは間違いありませんが、私のような「ベテラン」弁護士にとっても知らないこともあり、大変役に立つ内容でした。
著者は佐賀県出身で、今は東京で大活躍中の弁護士(47期)です。
弁護士が相談を受けるとき、「お地蔵さん」になってはいけない。極度に緊張した相談者とは、ときに子どもや孫のこと、仕事の話など、事件に関係のない、自慢話を聴くのは距離感を縮めるうえで役に立つ。また、弁護士自身のことも少し話したらいいことも多い。
相談者の話に共感はしても同化してはいけない。「私も同じ気持ちです」となっては、弁護士ではない。こちらは解決のためのプロフェッショナルだから。弁護士が相談者と一緒になって、浮いたり沈んだりしていたら、相談者は不安を覚えて相談など出来ない。
相談を受けるときは、要件事実を意識しながら言葉のキャッチボールをする。
頭ごなしに、「それは間違い」「あんたが悪い」と叱りつけてしまうのが一番悪い相談態度だ。
相談を受けたとき、分からないことは分からない、調査をしますと答えたほうが良い。誠実な態度をとって依頼を断られたら、これはどうせ先々で依頼者と大きなトラブルになる可能性があった相談だと考え直して、むしろラッキーだと思ったほうが良い。
これには、私も、まったく同感です。
解決策を選ぶのは依頼者であり、弁護士は、本人の選択した人生をお手伝いする、そのガイドしかできない。
私は、これに賛成しつつ、弁護士は、いくつかのプランを示しつつ、私はこのうちこのプラン(方針)を勧めると、までは言うべきだと考えています。もちろん、押しつけにならないような注意(配慮)は必要です。いくつかのプランを併列的にならべて、「はい、このなかから勝手に選んでください」というのでは、あまりに不親切だと考えています。
そして、受任率が低い若手弁護士には、笑顔を見せて相談者を安心させる、大きな声で自信たっぷりに言うといった役者を演じることも弁護士には必要なんだと、そうアドバイスしています。
弁護士にとって、準備書面とは、裁判官に向けたラブレターだ。読んでもらわないといけない。そして、読んでこちらに好意をもってもらわないといけない。そのためには、魅力的かつ説得的な法律論を分かりやすく展開しなければいけない。大切なこと、注目してほしいことは繰り返し述べて裁判官の印象に残るようにする。
論理的緻密さと日本語としての分かりやすさは、不可欠の要素だ。
最終準備書面は、尋問の終わった当日に、少なくとも要点のメモくらいは残しておく。証言調書ができあがってからでは遅すぎるし、忘れてしまって時間の浪費だ。
著者は依頼者の期待を裏切ることをすすめています。ええっ、なんという、とんでもないことを著者は言っている・・・、と思ったら、まっとうなことを著者は言っているのでした。つまり、依頼者(お客)の固定観念を裏切ることをすすめているのです。たとえば、依頼者の自宅を訪問するとか、事件が終了して3ヶ月後に電話を入れて、様子を聞いてみるとか、気楽に出張相談をしてみるとか・・・。なーるほど、ですね。
著者は大学生と交流会をしたとき、今まで一番つらかった事件は何ですかと問われて、「忘れました」と答えたそうです。素晴らしい答えです。そういえば、私も、いやなことは「忘れました」という感じで70歳になるまで生きてきましたし、生きています。
引き受けたくない人は、どんな人ですかという問いに対しては、「できるだけ安く依頼しようと考えている人」と著者は回答しました。まったく同感です。弁護士は典型的な頭脳労働ですから、あまりに値切ってほしくないと従前より考えてきましたし、実行しています。
二つのアンバランスに陥らないようにする。自分のやりたいこと、社会貢献活動にばかり時間と労力をとられて、日常業務に支障をきたしてはまずい。逆に、日常業務に迫られて、人権活動などがおろそかになってもいけない。
私にとっても、永遠の課題です。
実務・雑務を一人でかかえこまない。ストレスフルな弁護士生活を乗り切るには、仕事のことをまったく忘れることのできる自分の時間と趣味をもち、自分自身が煮詰まらないように自己管理することが大切。
いやはや、とてもとても実践的な本なので、一気に読了しました。弁護士としてのスキルアップを考えている人に超おすすめの本です。小型本なので、カバンのなかに入れてスキ間時間に読んでみてください。
(2019年8月刊。1800円+税)

星をかすめる風

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 イ・ジョンミョン 、 出版  論創社
この小説の主人公と言うべき詩人の尹東柱は、1917年に中国東北部(旧満州)に生まれた。中学生のころから詩を書いていて、ソウルの延世大学(当時は延嬉専門学校)文学部に進学し、日本に留学して立教大学そして同志社大学で学んだ。同志社大学の学生のとき治安維持法違反で逮捕され、福岡刑務所に収監中、1945年に27歳の若さで獄死した。戦後、詩集は韓国でベストセラーとなり、全詩集『空と風と星と詩』が出版されている。
この小説は福岡刑務所の残忍な検閲官として活動している杉山という看守とともに働く若い看守兵の目を通した形で進行する。なかなか凝った仕掛けの多い小説になっています。
刑務所は、あらゆる人間群像の集合場所だ。囚人は思想犯だったり、暗殺者、詐欺師、逃亡者だった。
彼らの目には絶望が、そうでなければ陰謀が漂っていた。彼らは互いに騙し騙され、その二つを同時にやったりした。唯一の共通点は、みな潔白を主張することだ。もちろん、それは嘘だった。
刑務所も人が生きる場所で、人が生きる場所には、どこでも往来があるものだ。まともな商売人は、死さえも売り買いするものだ。
どうせ片方にゆだねるのなら、希望に賭けろ。絶望に賭けても、残るものは、もっと大きな絶望だ。商売は、うまくいくだろうという側に賭けるほうが、利益が多く残るものだ。
言葉と文章という手綱を両手に握り、検閲の刃物を避け、囚人たちの切々たる思いを乗せて文章にした。
ある本を読んだ人は、その本を読む前の人ではない。文章は、一人の人間を根こそぎ変化させる不治の病だ。文章は骨に刻まれ、細胞の中に染み込み、子音と母音はウィルスのように血管のなかを流れ、読む人に感染する。そして、本や文章なしに生きられない中毒者で、依存症になる。
いやはや、まったく私のことですね、これって・・・。
いちばん大事なのは、最初の文章。最初の文章がうまく書けたら、最後の文章まで書くことができる。たしかに、書き出しの文章には、いつも頭を悩まします。
星をかぞえる夜
季節の移りゆく空は
いま 秋たけなわです。
わたしは なんの憂い(うれい)もなく
秋の星々をひとつ残らずかぞえられそうです。
胸にひとつふたつと刻まれる星を
今すべてかぞえきれないのは
すぐに朝がくるからで、明日の夜が残っているからで、
まだわたしの青春が終わってないからです。
星ひとつに 追憶と
星ひとつに 愛と
星ひとつに 寂しさと
星ひとつに 憧れと
星ひとつに 詩と
星ひとつに 母さん、母さん
(2018年12月刊。2200円+税)

本の読み方

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 平野 啓一郎 、 出版  PHP文庫
スロー・リーディングの実践を提唱している文庫本です。
工夫次第で、読書は何倍にも楽しくなる。
オビの言葉に私もまったく同感です。といっても、私はスロー・リーディング派ではなく速読派の人間です。少なくともこの20年来、年間500冊以上の本を読んでいます。もちろん、これは単行本です。雑誌もいくつか読んでいますし、新聞は毎日5紙は読みます。FBでの情報入手にも努めていますので、スロー・リーディングというわけにはいきません。そんな私ですが、著者のすすめるスロー・リーディングの考え方には大いに心が惹かれます。
それほどまでに疲れる世の中だからこそ、私たちにはゆったりとした読書時間が必要なのである。
本当の読書は、単に表面的な知識で人を飾り立てるのではなく、内面から人を変え、思慮深さと賢明さをもたらし、人間性に深みを与えるものである。何より、ゆっくり時間をかけさえすれば、読書は楽しい。
速読家の知識は、単なる脂肪である。速読とは、「明日のための読書」である。これに対して、スロー・リーディングは、「5年後、10年後のための読書」である。
読書は、読み終わったときにこそ本当に始まる。
読書は、コミュニケーションのための準備である。
速読の一番の問題点は、助詞、助動詞をおろそかにしてしまうことだ。
分からない言葉が出てきたら、煩を厭わず(はんをいとわず)、立ち止まって必ず辞書を引くこと。
私は、これが出来ていません。反省させられます。
スロー・リーディングに最適なのは、黙読である。文章のリズムは、黙読のほうが正確に感じとることができる。気になる箇所に線を引いたり、印をつけたりする習慣をつけておくと、内容の理解が一段と深まる。
私が速読なのは、知りたいこと、情感に浸りたいことが次から次に出てくるので、それにつきあうには早く読むしかないからです。そして、一気に読んだあと、赤エンピツで印をつけたところを振り返って引用しながら書評を書いて自分のものとし、そして忘れてしまうのです。
(2019年7月刊。680円+税)

物流危機は終わらない

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 首藤 若菜 、 出版  岩波新書
日本のトラック業界には、200万人が働いている。
私も宅急便には大変お世話になっています。東京への出張は日帰りせず、必ず一泊出張とし、最低でも6冊は読み上げることにしています。そして、行きはなるべくかさばる本を読み、読み終わったら宅急便で自宅へ送ります。1回1500円もかかりませんので、私にとっては安くて便利なものです。東京の弁護士会館の地下にある本屋で、読むべき本、必要な本を仕入れますが、これはいくら重くても持ち帰るしかありません。ともかく、便利な宅急便は私にとって必須不可欠で、いかに地球環境を破壊していると言われても、やめられないのです。
佐川急便は、2013年にアマゾンジャパンの運送をとりやめた。
ヤマト運輸は、2006年から2016年の10年間で、取扱個数が1.54倍、6億700万個も増えた。そして、いま日本を流れる宅配便の半数を握っていて、「ヤマト一人勝ち」の状況にある。
トラック運転手には、労働時間の短縮より、収入の増加を求める声が少なくない。
「ドライバーズ・ダイレクト」は、ドライバーの労働条件を悪化させる要因の一つ。
ヤマト運輸は、グループ全体で20万人の従業員をかかえる巨大企業だ。
ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の3社でシェアの9割以上を占める。
高速道路料金は、荷主から支払われない。
深夜の運転は睡魔とのたたかい。ドライバーたちは、常に時間に追われている。
パレットを使うと、積載効率が下がる。
長距離ドライバーの労働現場では、連続運転時間も、拘束時間も、休息時間も、国の基準がことごとく守られていないという現実がある、ドライバーは、1週間で10時間、1ヶ月で40時間、年間で460時間も長く働いている。つまり、1週間あたり、平均より1日も多く働いている。
トラック業界は、一手に非効率を引き受けてきた。現代社会は、無駄に車両を走らせる物流を基礎として、便利で効率的な仕事や暮らしを獲得していった。
日本郵便は本業(中核)である郵便事業について、赤字が続いている。
働く人々の高学歴化は、ドライバーのなり手不足に拍車をかけた。
かつては、トラック運転手は、「きついけど、稼げる」仕事だった。ところが、今ではきついうえに、稼げない仕事になってしまっています。
ネット通販が急激に拡大するなかで日本の物流が危機的状況にあることがひしひしと伝わってくる新書でした。
(2018年12月刊。820円+税)

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