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2019年5月 の投稿

経済学者の勉強術

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  根井 雅弘 、 出版  人文書院
たくさん本を読み、たくさん書評を書いている人のようですが、申し訳ないことに、私はまったく知らない人でした。私もたくさんの本を読み(この30年間、年間500冊を下回ったことはありません)、たくさんの書評(この20年近く、1日1冊の書評も欠かしていません)を書いていますので、大いに共感するところがある本でした。
読書は、自分の好きな本を読めばよい。
時間は、30分でも1時間でもよいから、無理してでも作ったほうがよい。30分でも、毎日、継続的に読書に励めば、1年、5年、10年とたつうちに大きな力となるだろう。
30分でも、長年実践していると、新書1冊ぐらいは読めるようになる。私も電車のなかで、たいていの新書は30分で1冊読んでしまいます。専門書でも、30分で1章ほどは読めるようになる。継続が大事である。
私が著者に絶対かなわないのは、専門書のなかに英文も含まれているということです。私は法律書(もちろん日本文)なら、それなりに早く読めますが、英語もフランス語も、まるでダメです。
本は買って読む。自分の所有物なら、どこに線を引こうと書き込みをしようと自由である。
文章は理路の通ったものであるだけでなく、魅力ある生きた文章を書きたいもの。あまり平板な文章が続くと、読者がついていけない。
いやはや、本当にそのとおりなのです。その点も、私の永年の課題です。分かりやすく書けるようにはなったつもりなのですが、味わい深さがまだまだです。
書評は読んだ本の悪口は書かない。欠陥の多い本なら取りあげなければいいだけのこと。本当にそのとおりです。私は読んだ本の7割を書評として紹介するようにしています。それも、なるべく本の内容を紹介するのを主体としています。忙しい読者に、ほら、こんな内容なんですよ。もっと読みたくなったでしょ。ぜひ、手にとって、あなたも読んでごらんなさい。そう呼びかけています。
「私が」とか「我々は」、「彼らは」といった主語は、日本語の文章では省略されるもの。ただし、学術雑誌は違う。英文では、必ず主語が必要だ。
自分の稼いだお金で本を買い続けることが大切だ。自分の蔵書が少しずつ確実に増えていくことは「知的生活」のために必須だ。
私もこれを永らく実践してきましたが、70歳になって、一大決心し、蔵書の2割を捨てて、本箱は背表紙が見える状態に整えることにしました。この10連休に、かなり達成しました。すると、今までの読書遍歴をたどることも出来て、なんとなく豊かな気分に浸ることができました。
(2019年1月刊。1800円+税)

動物園から未来を変える

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 川端 裕人、本田 公夫、 出版  亜紀書房
アメリカはニューヨークのブロンクス動物園で働いている日本人がいるのですね。その本田さんを川端さんが取材して一冊の本になっています。
私も旭山動物園には二回行きましたが、なるほど行動展示というのはこういうものなのかと感動しました。自然の生態系に近い場所に動物たちがいて、それを間近で観察しているという実感をもてるのです。
ニューヨーク市内に4つの動物園と1つの水族館があるそうです。すごいですね。いったい東京には、いくつの動物園と水族館があるのでしょうか・・・。この5施設は、野生生物保全協会(WCS)が運営しています。
いま、動物園は絶滅危惧種を保全するセンターになっている。いわば種の方舟(はこぶね)だ。しかし、野生動物を飼育しながら繁殖させるのは、家畜の繁殖とは根本的に異なる。まず何より、その発想が違っている。遺伝的な多様性をできるかぎり維持するのが動物園。家畜はなるべくたくさん繁殖してくれたらいい。動物園の目標は、100年ないし10世代以上にわたって遺伝的多様性を90%より高く維持すること。
「アフリカの草原」では、ライオンとウシ科の草食動物ニャラが同じ平原で共存しているのかのように見える。しかし、実は、見えないところに濠があって、ライオンはそれを飛び越せないようになっている。
いま、アフリカで密漁しているグループは、ハイテクの赤外線カメラやGPSをもって、マシンガンで武装している。その背後には、国際的犯罪組織、マフィアとかテロ組織がいる。麻薬や武器を扱っている組織がアフリカの野生生物を喰いものにしている。
欧米では、ゴリラは群れ飼育されているので、繁殖は普通のこと。しかし、日本の動物園ではゴリラ飼育は残念な結末をやがて迎えようとしている。日本のゴリラ個体数の減少に歯止めをかけようとしたときには、時すでに遅し、だった。
うひゃあ、そうなんですか、残念ですね。なんとかなりませんでしょうか・・・。
子どもが小さいときには、私も近くの動物園によく行きました。私自身にも楽しいひとときでした。子どもが大きくなって動物園には縁が遠くなりました。今では孫と一緒に動物園に行くのを楽しみにしています。
最近の動物園の意欲的なさまざまな取り組みを知って、動物園にまた行きたくなりました。そう言えば、大牟田の動物園をテーマとした映画がつくられていますよね。武田鉄矢も登場しているようです。ぜひ、みんなでみにいきましょう。
(2019年3月刊。2000円+税)

ハンターキラー(上・下)

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ジョージ・ウォーレス、ドン・キース 、 出版  ハヤカワ文庫
原子力潜水艦同士の息づまる戦いが詳細に描写されていて、頁をめくるのももどかしいほどです。上下2冊の文庫本です。それぞれ400頁をこす部厚さですが、車中で3日かけて読み通しました。こんな速さで読めたのも、ゴールデンウィークの途中にこの本を原作とする映画をみたからでもあります。潜水艦の構造などは、やはり映画をみないと視覚的イメージがつかめないのですが、話のディテール(詳細)は文庫本のほうがはるかに勝っています。
文庫本のほうは、株式取引という金もうけの話と連動した陰謀、そしてクーデターが進行していきますが、映画のほうは経済的な側面は全面カットされ、ひたすら原潜同士そして駆逐艦との戦いに焦点があてられています。
それにしても、ロシアで軍部がクーデターを起こし、アメリカとの全面戦争をのぞむという筋書きで話は進行していきますが、同じことはアメリカでだって、そして、わが日本でだって起こりうるのではないかと、私はひそかに恐れました。
そして、アメリカの原潜には女性兵士が乗り込んでいるのにも驚きました。いくら男女同権といっても、女性兵士は考えものです。しかも、潜水艦という狭い密室のなかに、大勢の若い男の兵士のなかに女性兵士が何人かいるって、あまりにも危険ではないのか・・・と、ついつい「余計な」心配をしてしまいました。
訳者あとがきは大変参考になりましたので、少し紹介します。
第二次世界大戦のころは、潜水艦は、「海にも潜れる水上艦」だった。エンジンや技術の制約上、潜航できる時間が短かったので、ここぞというとき以外は、水上を航行していた。それが、原子が潜水艦の登場によって状況は一変した。ほぼ無限の重力と電源、そして空気を得られたことで、乗組員の体力と食糧が尽きないかぎり、半永久的に潜航できるようになった。
探知されることなく、速力よりむしろ静かに潜航すること、つまり静粛性が緊要だ。このため、世界の海軍をもつ国は、潜水艦を重視し、静粛性を高めることと、敵の潜水艦を探知する技術を磨くことにしのぎを削っている。潜水艦には窓がなく、周囲の音だけを頼りに漆黒の暗闇を航行する。光の届かない、鋼鉄に囲われた狭い密閉空間で長時間生活することから、乗組員のストレスは大変なものがあるだろう。このため、潜水艦の乗組員には、高い能力もさることながら、高い協調性が求められる。誰でもなれるというものではない。
いやあ、閉所恐怖症の私なんかとても、いえ絶対に潜水艦で何ヶ月も生活するなんて、ご免蒙るしかありません。超近代的なはずの原子力潜水艦は、実は超古典的なしろものなのです。海中での潜水艦の働きもよく分かる本でした。
ロシアもアメリカも、そして日本だって軍部独走にならないよう、しっかりと国民が声を上げる必要があると実感させられました。
(2019年3月刊。900円+税)

海底に眠る蒙古襲来

カテゴリー:日本史(鎌倉)

(霧山昴)
著者 池田 栄史 、 出版  吉川弘文館
伊万里湾は蒙古襲来(元寇)のとき、弘安4年(1281年)に総数4400艘とされる元軍船の多くが暴風雨によって沈没したとされる。
その沈んだ元軍船を海中で発見し、その保有をすすめている学者のレポートです。
4400艘も沈没したのなら、海底には船体がたくさんあってもよいのに、発見されるのは、ごくわずか、今のところ、1号船と2号船だけのようです。なぜ、そんなに少ないのか・・・。
要するにフナクイムシが元軍船を蚕食(さんしょく)したからのようです。船体の木材をフナクイムシが文字どおり食べ尽くしたのでした。
伊万里湾の海底に大量の元軍船が累々と折り重なった状態で沈んだ。この船体の木材がフナクイムシの格好の餌食(えじき)となった。通常ではありえない膨大な量の木材が一夜にして海底に沈んだ伊万里湾では、フナクイムシにとって空前のバブル期が到来したような環境となった。フナクイムシが大量に発生し、海底に沈んだ元軍船の船体を次々に蚕食していった。
ところが、海底堆積層深く潜り込んだ元軍船の船体や木製椗(いかり)はフナクイムシの蚕食から免れ、辛うじて現在まで残った。
フナクイムシは酸素を必要とするので、下手に残った元軍船をそのような状態に置かないような配慮が求められます。そして、引き上げて保存するには莫大な費用がかかります。どうして、さっさと海上に引き上げて保存しないのか不思議に思っていましたが、技術的な問題とあわせて相当額の資金の手当が必要なことを知り、納得しました。
元軍船団のうちの江南軍は伊万里湾の鷹島に移動して集結のための待機中、7月30日夜に暴風雨に見舞われ、壊滅状態になった。元軍主力は帰国することにしたが、鷹島周辺に置き去りにされた元軍の残兵は鎌倉幕府軍による掃討戦にさらされて全滅した。このときの戦闘の様子は有名な竹崎李長の『蒙古襲来絵詞』に描かれている。
捕虜となった3万人ほどは博多へ連行され、蒙古兵、高麗兵、女真兵は斬首され、旧南宋兵は助命されたあと、奴隷(下人)となった。
海底の元軍船を探すのに使われるのは、光でも慈破でも電波でもなく、音波なのだ。
 光波は水中で屈曲し、磁波や電波は生物への影響を考えて、容易に使用できない。
 音波は水温が8度Cだと1秒間に1438メートル伝わり、空気中より4倍以上の速さとなる。音波は空中より水中のほうが伝わる速度が速い。
ええっ、そ、そうでしたっけ・・・。
1回の潜水時間は、人体の安全管理からすると水深30メートルでは45分ほど。
そんな大変ななかで元軍の沈没船を2つも見つけ出したのですから、たいしたものです。
F35のような超高価(1機113億円)の欠陥戦闘機をアメリカから147機(1兆円以上)も買うより、このような調査研究にこそ私たちの税金を投入すべきだと痛感させられる本でもありました。
(2018年12月刊。1800円+税)

じゃがいも父さん

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 日色 ともゑ 、 出版  文芸春秋
宇野重吉一座、最後の旅日記というサブタイトルがついています。劇団民芸とは別に、宇野重吉が地方巡行したときの模様が熱く語られていて、読んでいる私の胸まで熱くなりました。1986年(昭和61年)9月の第一次巡業はじめから、翌1987年10月までの第五次巡業まで、全国をまわりました。福岡にも八女や福岡に来ています。そして沖縄にも・・・。
行く先々で大変な歓迎を受け、舞台は大いに受けて、大笑いと大拍手、そしておひねりが舞台に飛んできました。おひねりは、すぐに受け取らなければいけないものだそうです。米倉斉加年は、セリフを話しながら、上手に拾っていったとのこと。
宇野重吉は肺ガンが発見され、体重は40キロ台にまで落ち、点滴を受けながら舞台に立ったといいます。すごいですね、まさしく神業(かみわざ)です。
演ずる劇は「おんにょろ盛衰記」と「三年寝太郎」の二つ。宇野重吉は三年寝太郎役です。舞台の本番の前、著者は1時間かけてたっぷりストレッチ体操をし、楽屋入りしたら1時間は発声練習。開演1時間前にメーキャップにとりかかる。この手順をきちんと守る。まだ40歳台の著者が老婆役を演じるのです。
福井出身の宇野重吉は、なんでも福井のものが「日本一」なんだそうです。酒・魚・越前ガニ・ソバそして青くび大根・米・・・。イカ大根を宇野重吉が料理し、好んでいたというのも初めて知りました。
宇野重吉は演出家でもある。
大学の応援団のように、台詞(セリフ)をがなっていてはダメなんだ。
舞台の様子を録音しておいて、テープを聴きながら、勉強会をする。どういう声で、どういうしゃべり方をしているか、自覚すること・・・。
「台詞が一面的で、自分の演じる人物のキャラクターの個性がない。台詞の音の高低、強弱、遅い、速い、ということがはっきりせず、前の日との台詞にひっぱられてしまっている」
「同じことばかり言われているのに、台詞の調子が変わらないのは、どういうことか。台本をよく読んで、どこがどう足りないのか、注意深く読みとること。人間のうらのうら、一人ひとりの意識、そのたぐいとりが足りない。今からでも遅くはないから勉強しなさい。そうすれば、ましな役者になるでしょう。貧乏しても役者をやっていようと思うでしょう」
「芝居というのは、90%が台詞術で、あとの10%が動き。一にも二にも台詞、そして声」
福岡では嘉穂劇場でも演じています。福岡の昼食は「多め勢」のおそば。そして、夕食は「まめ丹」。今もある店なのでしょうか・・・。
若い著者がおばあさんになるには、メイク、かつら、着付けと40分はかかる。開演の15分前には舞台袖にスタンバイして気持ちを整えておきたい・・・。
宇野重吉は、毎日毎日、台本を読んで、毎日毎日、工夫している。台詞の言い方、間のとり方、緩急が毎日ちがう。幕開きにしても、寝ころんでいたり、障子によりかかっていたり、いろいろな工夫がされている。
宇野重吉が亡くなって30年がたちました。私は、残念ながら舞台でみたことはありません。テレビと映画だけです。滝沢修とあわせて、とても存在感のある役者でした。
宇野重吉の息子が寺尾聡です。
昭和63年5月刊行のこの本を五月の連休中に読んだのは、不要本を一掃する大片付けをしているとき、たまたま発見して、宇野重吉一座の地方巡業ってどんな様子だったのかなと気になったからです。いい本でした。今では、日色ともゑも本物のお婆さんになりましたね・・・。
(1988年5月刊。1200円)

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