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2019年4月 の投稿

そこにあった江戸

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 上条 真埜介 、 出版  求龍堂
幕末から明治初めにかけての日本を外国人が撮影した写真が集められています。当時の日本人の膚黒さを実感させられます。白黒写真だったのを彩色して、カラー写真のように見える写真集です。
もちろん自動車なんて走っていないわけですが、それにしても住還道路が幅広いことに驚かされます。両側にワラぶきの民家が建ち並び、道路の真ん中を排水溝が走っています。ほこりっぽいけれど、清潔な町だったのですね。
子どもたちの姿は、ほんの少ししか写真にとらえられていません。子育てするのも子ども、とりわけ娘でした。子だくさんだったようです。
幕末に来日した西洋人たちは物にとらわれない日本人の暮らしぶり、清らかな目をしている日本人の子どもたち、そして満面に屈託のない笑みをたたえる農村の子どもらに心が打たれたようです。
「犬が向こうからやって来た。私は威嚇するように屈んで小石を拾った。犬は気にせず歩いてくる。私は、それに驚き、慌てて手の中の石を犬のほうに投げた。どこの国でも、犬は石を拾おうとする人影を見ただけで他所へ行く。しかし、日本では違う。その犬は、どうしたことか、足元に転がる石を見て首を傾けると、近くに寄ってきた。犬の顔は優しかった。こんな国があるのか、オーマイ」
子どもだけでなく、犬にまで驚いたのでした。
妻籠(つまご)とか大内宿(しゅく)など、江戸情緒をたっぷり残しているところありますよね。ぜひ行ってみたいです。九州にも、島原とか知覧に武家屋敷が一部残っています。実際に居住すると不便なことも多いでしょうが、観光資源ともなりますし、昔の人の生活をしのぶ格好の学習資材としてぜひ保存・活用してほしいものです。
大判の写真集ですし、4500円もしますので、ぜひ図書館で手にとって眺めてみてください。きっと江戸時代のイメージが豊かになりますよ・・・。
(2018年11月刊。4500円+税)

横田空域

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 吉田 敏浩 、 出版  角川新書
実に腹の立つ本です。途中で、あまりにバカバカしくなって何度も読むのをやめたくなりました。いえ、著者の悪口ではなく、この本をけなしているわけでもありません。
日本の空をアメリカが支配していて、アベ政権は文句のひとつも言おうとしないバカさかげんに腹を立てたのです。まったく、これでは恥ずかしくて日本は独立国家とはとても言えません。ドイツやイタリアはアメリカに言うべきことをきちんと言っているのに、日本だけがアメリカの言いなり、アメリカに隷従しているのです。例の思いやり予算と同じです。アメリカにはほんの少しだってたてつけないというのですから、今のアベ政権なんて、売国奴政権みたいなものです。なさけない限りです。
横田空域とは、正式には横田進入管制区といい、「横田ラフコン」と略される。南北で最長300キロ、東西で最長120キロ、首都圏から関東・中部地方にかける地域の上空をすっぽり覆っている。高度2450メートルから7000メートルまで、6段階に設置され、日本列島の中央をさえぎる巨大な「空の壁」となっている。
横田基地のアメリカ軍が横田空域の航空管制を握っているため、羽田空港や成田空港に出入りする民間機は、アメリカ軍の許可がなければ横田空域内を通過できない。そのため迂回を強いられる。
日本の空の主権がアメリカ軍によって侵害されている。世界的にも異例な、独立国としてあるまじき状態が長く続いている。
そして、この横田空域でアメリカ軍は、低空飛行訓練、対地攻撃訓練、パラシュート降下訓練にフルに利用している。まさしく軍事空域である。事故率が高く、欠陥機とも呼ばれているオスプレイも何の制約も受けずに首都圏の空を飛び回っている。
この横田空域には、実は国内法上の法的根拠は何もない。日米地位協定にも明文の規定はない。日米合同委員会の密約があるだけ。
一国の首都の中心部にフェンスで囲まれ、銃で武装した警備員がいて、外国の軍事高官や将校、政府要人に加えて、情報部隊の諜報員までが出入りする外国軍基地が存在している。尋常ではない。ここは事実上の治外法権ゾーンになっている。
2017年11月、トランプ大統領は、大統領専用機を羽田でも成田でもなく、横田基地に乗りつけた。そこから米軍ヘリで六本木のヘリポート基地に飛んでくる。これは日本を独立国家とみていないことを示しています。
横田基地から出入りしているアメリカ人は出入国管理局の対象とはならず、出入国の記録もないと聞いています。アメリカの裏庭の感覚で出入りしているのです。許せません。
イラク戦争に従軍したアメリカ軍パイロットは、日本の空で操縦・攻撃の技能、戦技を磨いて、イラクの戦場へ行って激しい空爆を繰り返した。つまり、アメリカのイラク侵略戦争を日本は直接的に支えたのです。
在日米軍基地は、アメリカ軍の海外での戦争の出撃拠点となっている。日本の防衛のためにアメリカ軍がいるわけではありません。そんな戦争のための基地の維持費など、アメリカ軍の経費を年に6000~7000億円も日本は税金で負担している。
うっ、うっ、ホント許せません。海外でのアメリカ軍の人殺し作戦を私たちが税金で支えるなんて・・・。
アメリカ軍だって、アメリカ本土では、ほとんど人の住んでいない広大な砂漠地帯などで低空飛行訓練をしているのです。なのに、日本では都市の上を我が物顔で低空飛行を続けています。そして、ときに学校の校庭に不時着したり、部品を空から落とすのです。なんということでしょうか・・・。
ドイツやイタリアにできたことが、日本にもできないはずはありません。要は政府のやる気です。そして、それを後押しする国民の監視の目なのです。
わすか280頁ほどのちっぽけな新書ですが、独立国家とは言えない恥ずかしい日本の実体をあますところなく明らかにした怒りの本です。ぜひ、あなたも最後まで読んでください。
(2019年2月刊。840円+税)

日米安保体制史

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 吉次 公介 、 出版  岩波新書
辺野古の埋立を安倍政権が今なお強引にすすめていることに怒りと大いなる疑問を感じています。いったい、主権者たる日本国民(この場合は、直接の当事者である沖縄県民)の明確な意思に反して行政がすすめられてよいものでしょうか・・・。
県民投票で7割の埋立反対の意思表示を踏みにじっていいという根拠は何なのでしょうか。それほど、日本はアメリカに奉仕しなければいけないことになっているのですか。アメリカは日本を守るつもりなんてないと本人(アメリカ政府当局)が何度も明言しているのに、漠然とイザとなったらアメリカは日本を守ってくれるはずだという幻想に多くの日本人が今なおしがみついているようにしか見えないのはどうしたことでしょう・・・。
日米安保条約があるから日本の平和は守られているなんて、単なる幻想でしかないと私は考えています。この本は、日米安保条約とそれにもとづく安保体制の変遷を明らかにしています。
かつて沖縄には1000発以上の核兵器が配置されていた。1950年代に、アメリカ軍にとって沖縄は海兵隊と核兵器の拠点だった。
アメリカによるベトナム侵略戦争のときには、B52戦略爆撃機が嘉手納基地から直接ベトナムへ出撃していった。毎月350回も出撃した。
ところが、その後、アメリカの核戦略が変わり、地上配備型核兵器から、潜水艦搭載型核兵器へ重心が移り、沖縄から核兵器を撤去した。しかし、いったん有事の際には核兵器を自由に持ち込めるように佐藤首相とニクソン大統領は「沖縄核密約」をかわした。にもかかわらず、佐藤首相は表向きは核抜き返還をアメリカから勝ちとったなどと宣伝し、ノーベル平和賞まで受賞するに至った。日本の首相は今のアベと同じく昔からとんでもない大嘘つきだったのです。
日本に駐留しているアメリカ軍は日本政府から至れり尽くせりの厚遇を受けている。高速道路だって無料ですよね。その典型が悪名高い「思いやり予算」です。当初は、一時的なものだと説明され、年に62億円でした。しかし、恒常的なものとなり、今では年間5000億円ものアメリカ軍駐留経費を負担しています。
日本って、本当にお金持ち国家なんですね。これだけのお金を大学生や司法修習生の奨学金にまわしたら、日本の将来も前途洋々たるものになると思いますよ・・・。
いま、アベ首相はアメリカに追従するだけで、韓国や中国とますます冷たい関係にあります。北朝鮮ともろくに話し合いもしていないため、拉致問題の関係も遠のくばかりです。
著者は、アメリカ軍の権益と日本の対米協力の拡大を追求するだけの安保体制のあり方は考え直す必要があると提言しています。まったく同感です。
辺野古の埋立をどんなに強引にしたって普天間基地がなくなることなんてない、このことを私たちはきちんと認識すべきです。そして、そろそろ安保条約そのものをなくすべきではないでしょうか・・・。
(2018年10月刊。860円+税)

最高裁に告ぐ

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 岡口 基一 、 出版  岩波書店
タイトルがいかにも挑戦的なので、どんなに過激な本なのか、思わず手にしたくなる本でしたが、読んでみると、しごく穏当な主張が冷静なタッチで展開されています。その意味では、タイトルはいささか独走している気がしました。
むしろ、このまま今の最高裁に日本の司法をまかせて大丈夫なのか、「王様」化した最高裁は世の中の要請にこたえていないのではないのか、そんな趣旨のタイトルにしたらどうか、ついそう思ったことでした。
著者は「バッシングを畏れて世間に迎合する判決を下すようになったら司法は終わりである」としています。本当にそのとおりなのですが、正確には迎合する先は「世間」ではなくて、安倍内閣を先頭とする権力ではないでしょうか・・・。
原発裁判もはじめとして、あまりにも権力(自公政権と電力会社・原子力ムラ)べったりの司法判断が続いていて、嫌になってしまいます。
全国裁判官懇話会が開かれていたのは2007年までのこと。もう10年以上も裁判官の自主的な集まりはない。そして、1970年代以降、最高裁判事は官僚派の裁判官(そのほとんどは裁判実務をしていない)が大勢を占め、社会秩序重視の判決が多くなっている。
日本国民は司法にあまり関心をもっていない。その理由として、最高裁は本当の意味で国家の基本に関わるような判断をしないこと、国民生活に広く影響を与えるような問題について積極的な判断を行うこともあまりないことがあげられる。そうなんですよね、司法の存在感は薄いし、ますます薄れています。
著者は最高裁があまりに多くの事件をかかえて超多忙だという実情を指摘していますが、それにしても最近の最高裁判決の質が劣化していることを鋭く糾弾しています。要するに、憲法違反としながら、憲法の条文を明記せずに「明らか」という強調語で逃げていたり、集会の自由や表現の自由が問題となったケースの判決で従来の最高裁判例との整合性があるのか、また判決文に理由が明示がされていないということなどです。
東京高裁の林道晴長官、そして同高裁の吉崎佳弥事務局長は、二人して著者に対して脅迫・強要行為を東京高裁長官室で50分にわたって続けた。これらはパワハラにも該当する。
このように著者は指摘しています。
また、最高裁は今回、著者を戒告処分に付したわけですが、そのとき、著者が過去に厳重注意処分を受けたことも理由としてあげていることも大きな問題です。著者も、その弁護団も、この点について大いに問題にしています。つまり、「前科」ではないのに「前科」があるかのように不利益判断したわけで、これは最高裁が著者と弁護団からの釈明申立を認めず、事実上「1回結審」したことの問題点でもあります。
民事訴訟の裁判官が「王様」になるには、次の3つの方法がある。その1、当事者のした主張に答えない。その2、そもそも当事者に主張をさせない。その3、当事者がした主張にデタラメな理由をもって答える。
著者は、下級審の民事裁判官は、この3つの方法のいずれも実行できないとしています。本当でしょうか・・・。私は、福岡地裁でも福岡高裁でも、この3つをいずれも経験して、煮え湯を飲まされました。よほど、担当裁判官(まだ若い人です)を忌避してやりたいと思いましたが、あと一歩のところで思いとどまりました。それが良かったのか、本人のためにも忌避すべきだったのではないか、今も迷っています。
司法の現実を知るうえで、弁護士はもちろんのこと、司法に少しでも関心のある人にはぜひ読んでほしい本です。
(2019年4月刊。1700円+税)

裁判官が答える裁判のギモン

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 日本裁判官ネットワーク 、 出版  岩波ブックレット
現職裁判官の自主的組織である裁判官ネットワークがフツーの人の裁判に関する疑問について、とても分かりやすく解説したブックレットです。わずか100頁ほどの小冊子ですが、市民の誰でもが抱いている疑問が28問とりあげられています。そのなかには、裁判官の日常生活や最近話題のSNSに関する質問もあって、興味をそそられます。
私が弁護士になる前の司法修習生のころには「宅調」といって、裁判官が裁判所に出ないで自宅で判決を書く日が認められていました。たしか週に2日は認められていたと思います。最近では「宅調」という制度は廃止されたと思っていたら、この冊子では「最近は減ってきたよう」だとありますので、制度としてはまだ存続しているのでしょうか・・・。
それから夏休みです。正しくは「夏期休廷期間」というようですが、3週間とれることになっています。実際には、この期間を難事件の判決起案日にあてることが多くて、完全な休みにはならないとのこと。私も、そうだろうと思います。
岡口基一仙台高裁判事(その前は東京高裁判事)のツィッターが有名で、最高裁判所は戒告処分に付しました。私は、この戒告処分には賛成できません。裁判官の市民的自由はもっと大切にされていいと考えているからです。
それに何より、もっとひどいことをしている裁判官は他にたくさんいる現実がありますので、岡口判事のしたツィッター程度で目くじらをたてるなら、ほかにも懲戒免職相当という判事は多数いると思うのです。その典型がもう故人ではありますが、元最高裁長官の田中耕太郎です。私もいつも呼び捨てにします。だって、最高裁での審理状況を実質当事者であるアメリカ政府、その代表者ともいうべき大使に報告し、その指示を仰いでいたという、とんでもない男なんですよ。まさしく元長官の名誉を剥奪すべき人物です。ところが、そのことが客観的事実として判明してなお、最高裁は何もしていなのです。こんなひどい話はありません。プンプンプンです。
ネットワーク会員の竹内浩史大阪高裁判事はブログ「弁護士任官どどいつ集」を発信しています。権力に向って平気でモノを言うような、型破りの判事がもっと増えてほしいです。
裁判官は本当に合議しているのか、裁判長が結論を決めているのではないか、裁判長の意見を忖度(そんたく)しているのではないか、私をふくめて多くの人が疑問を抱いています。この本では、最近は、活発に自分の意見を述べる左陪席(若手)裁判官が増えているとしています。
これが本当なら、喜ばしいことですが、本当に大丈夫でしょうか・・・。
刑事裁判で裁判員裁判が始まって、刑事裁判は少しはいい方向に向かっているという積極評価がなされています。私も同じ意見です。とは言っても、残念ながら裁判員裁判を担当したことはありません。殺人罪で逮捕された被疑者が嘱託殺人罪で起訴されたからです。
痴漢していないのに犯人に間違われそうになったとき、逮捕されないように現場を立ち去るのがいいかどうかは、刑事専門の弁護士でも意見が分かれているとのことです。私は、できるだけ足早に遠ざかるのがいいと考えていますが、それすら困難なときは、周囲を見わたして、自分の無実を証明するための協力を呼びかけるのがいいというアイデアが紹介されています。単純に逃げたほうがいいというのは誤りだし、走って逃げだすのはもってのほかだと書かれています。なるほど、そうだろうなと思います。でも、現実は難しいでしょうね・・・。
裁判所と裁判官が、もっと国民に開けた存在であるためには、かつての青法協裁判官部会のような自主的組織が必要だと思いますし、裁判官ネットワークの会員がどんどん増え、この冊子のような情報発信を国民にむかってするべきだと思います。
あなたもぜひ手にとってお読みください。
(2019年4月刊。660円+税)

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