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2019年2月 の投稿

「ふたりのトトロ」

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 木原 浩勝 、 出版  講談社
『となりのトトロ』って、本当にいい映画でしたよね。子どもたちと一緒にみましたが、大人も十分に楽しめました。その『トトロ』の制作過程が手にとるように分かる本です。
宮崎駿監督と一緒に『トトロ』づくりに関わった著者は当時26歳。若さバリバリで、宮崎監督から「俗物の木原君」とからかわれていました。それでも著者は宮崎監督の近くにいて一緒にアニメ映画をつくれる楽しさを思う存分に味わったのでした。
子どもがみて楽しいと思う映画をつくるのだから、つくる人たちだって楽しまなければいけない。さすがですね、宮崎監督の考えは深いですね。
この本は『もう一つのバルス』に続く本として、一日に一気に読み上げました。というか、途中でやめると他の仕事が気が散って集中できなくなりますので、早く読了することにしたのです。読んでる最中は、こちらまで楽しい雰囲気が伝わってきて、心が温まりました。
動画などの制作現場は女性が多く、明るい笑い声が絶えなかったようです。やはり、みんな子どもたちに楽しんでもらえるいい映画づくりに関わっているという喜びを味わいながら仕事していたのですよね、胸が熱くなります。
この本には、制作過程でボツになった絵が何枚も紹介されています。一本一本の線、そして色あいまで丁寧に丁寧に考え抜かれているということがよく分かります。
『となりのトトロ』の目ざすものは、幸せな心温まる映画。楽しい、清々しい心で家路をたどれる映画。恋人たちはいとおしさを募らせ、親たちはしみじみと子ども時代を想い出し、子どもたちはトトロに会いたくて、神社の裏を探検したり樹のぼりを始める。そんな映画だ。
1980年代の日本のアニメは、1に美少女、2にメカニック、3に爆発。この3つがヒットの3要素で、華(はな)だと言われていた。『トトロ』には、この3要素がどれも含まれていない。
舞台は日本。日常の生活の描写や女の子の芝居を、より繊細な線で楽しんで書くことが基本だ。
誰かが楽しいのではなく、誰もが楽しい、つまりスタジオ全体が楽しくなる。こんなスタジオの雰囲気そのものを作品にも反映させたい。これが宮崎監督の作風だ。
宮崎監督は常にスタジオ内の自分の机に向かっている。監督は、作品を監督するだけではない。常に作品をつくる現場を監督しているから監督なんだ。宮崎監督は、愚直なまでに監督として徹底した。
また『トトロ』をみたくなりました。あの、ほのぼのとしたテーマソングもいいですよね。
(2018年9月刊。1500円+税)

江戸東京の明治維新

カテゴリー:日本史(明治)

(霧山昴)
著者 横山 百合子 、 出版  岩波新書
眼が大きく開かされる思いのする本です。知らないことだらけで、明治の庶民の毎日の生活を始めて実感できた気がしました。
明治初年の東京には、町方人口の7~8割が、その日稼ぎの人々だった。
下層民とは、①畳や建具はもっているが、三度の食事のうち二度が粥(かゆ)である「上」、②カマドと湯釜、タンスなどは持っているが、サツマイモや粥を日に二度食べるのがやっとの「中」、③畳、建具もカマドもない「下」。
そして、江戸から明治になって物もらい(窮民)が大量に発生した。品川、千住、四ッ谷、板橋そして本所海辺あたりに散在している物もらいや無宿非人が1万余人もいた。
路上には床店(とこみせ)が立ち並んでいた。間口が一間から二間ほどの小さな家とも小屋ともつかない建物。この床店から上がる利益をめぐって、幕府一町、請負人一床所地主(家守層)一床商人という重層的な分配構造が形づくられていた。やがて路上から追われた床商人たちは、明治10年代になると、共同で付近の店舗を借り受け、密集した商いの場をつくり出していった。
新吉原遊廓では遊女たちによる放火が多かった。遊女の処遇が過酷だったから。1849年に起きた放火事件は、遊女16人によるもので、すぐに発見されるよう表通りからも目に着く2階の格子に放火し、直ちに名主の下に自首して抱え主の非道を告発したものだった。
明治になって解放令が出たあと、遊女かしくと竹次郎の連名による嘆願書が紹介されています。そこでは、7歳で身売りして新吉原の遊女になったかしくが、「遊女いやだ申候」として、解放のうえ結婚することを認めてほしいと東京府に願い出たのでした。口頭指示で却下されたようですが、それでも、このような書面が残っていたこと自体が驚きです。
江戸が明治に変わったころ、下層市民はどのように生きていたのかを知ることのできる貴重な労作です。この本は、明治初めに生きていた市民の生活の実情を知るため、広く読まれてほしいと思いました。
(2018年11月刊。780円+税)

国境なき助産師が行く

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 小島 毬奈 、 出版  ちくまプリマ―新書
「国境なき医師団」って、すごいですね、心から尊敬します。先日は女性看護師の活動を紹介しましたが、今回は、同じく日本人女性ですが、助産師です。
2014年から、6ヶ国で8回も出動しているそうです。本当に大変そうな仕事を著者が生き生きとやっている様子に心を打たれます。中村哲医師が活動しているパキスタンのペシャワールに著者も助産師として出動しました。
パキスタンの女性は、とにかく多産。最高記録は16人。5人目、6人目の出産はあたりまえ。女性が人として価値を認めてもらえるためには、出産して多くの子どもをもつこと。それだけ・・・。
トイレがない、汚い、そんな状況にあわせるため鍛えあげられた著者の肛門はウォシュレット不要になっているとのこと。いやあ、信じられない訓練です・・・。
日記を書いて、思ったことを吐き出す。そして、ウクレレをひいて楽しむ。さすが、です。
MSFに入る前は年収600万円をこえていたのに、月給手取り11万円のNGOスタッフの身分。いやはや、すごい覚悟ですね・・・。
現地スタッフと折り合いをつけるのも容易なことではないようです。それはそうだろうと私も思います。だって、生まれ育った環境がまったく違うわけですから、日本からちょっと出かけて簡単に仲良くなれるはずはありません。スタッフに何かというとお菓子を配って、ごきげんとりをするメンバーもいたようです。もちろん、悪いことではありませんが、次の人が困ることもありますよね、それって・・・。
レバノンの難民キャンプに行ったとき、この国で謙虚な人はつぶされる。日本では謙虚な人が高く評価されるけれど、レバノンではまずは自己主張が必要。どんな人と知りあいで、どれだけの資産をもって、持ち家があるか、どれだけの高級車に乗っているのかによって、人としての価値が大きく左右される。
レバノンでは、治療費だって交渉して負けてもらう。半額から4分の1ほどに・・・。医療もビジネスという精神が定着している。
2016年から2017年にかけて、8000人近い難民がリビアからイタリアに向けて地中海を渡る途中で亡くなっている。大変なことですよね、これって・・・。
船上で出会った妊婦の半分以上は、売春やレイプからの妊娠。
生まれてホヤホヤの新生児を抱いている母親は、本当にいい顔をしている。新生児を抱いているときにしか出ない、何とも言えない柔らかい表情が最高。
母体死亡の理由の多くは出血。多児の出産は、産後多量出血になることが多く、一度出血すると、水道の蛇口をひねったようにとめどなく続いてしまう。
南スーダンの非難区域にある病院の現地スタッフは500人。みな生き生きと働いている。仕事があること、自分が求められている存在であることは、たとえどんな環境にいても生き甲斐になる。
日本人も、海外で、こうやって献身的に人道支援活動をしていることを知ると、うれしくなります。アベ首相がしているような「軍事の爆買い」なんかやめて、日本政府も本格的な人道支援こそやるべきです。
(2018年10月刊。840円+税)

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