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2018年11月 の投稿

財は友なり

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 髙岡 正美 、 出版  浪速社
現代日本では残念なことに労働組合というものの存在がほとんど見えない状況です。過労死・過労自殺そしてブラック企業の横行、さらにはパワハラ・セクハラが止まない職場・・・。いったい、労働基準法・労働組合法はどこにいってしまったんだろうかと心配します。
この本を読むと、労働組合は労働者の生活と権利のために欠かせないものなんだということを改めて教えてくれます。そして、労働者の生活を守るためには、労働組合が会社経営に関与することもあるし、労働組合の幹部が会社の取締役になることだってあるのだと著者は力説するのです。
これは単純な労使協調路線ではありません。資本に労組のダラ幹が抱き込まれ、懐柔されるとは少しばかり違うのです。だって、目の前には工場閉鎖・企業倒産が迫ってくるときの話なのですから・・・。
もちろん、お金をもらえるだけもらって、そんな会社とは見切りをつけてさっさと辞めてしまうほうがいい場合もあるでしょう。でも、他に職を探すのも容易ではありませんし、少しでも会社再建の可能性があるなら、それに賭けてみようという気にもなりますよね。
この本のなかでは、著者が関わったものとして、無責任な旧経営陣を退陣させて、労組が会社を管理し、新しい社長には労組幹部が就任したり、既に引退していた有能な元社長をひっぱってきて社長にすわってもらって見事に企業を再建した例も紹介されています。たいしたものです。
著者のたたかいは、なによりも企業を存続させて労働者の雇用を確保しようとするものだった。そのため、企業を敵視せず、企業再建のためには、労使が一緒になって取り組むことを著者は求めた。これは、使用者言いなりの「労使協調路線」ではなく、労働組合が自ら方針を立て、主体的に経営にかかわり、合意に達しなければ、裁判闘争・労働委員会闘争などの法的手続をとることも辞さない。
著者は、頭の良さに加えて、持って生まれたエネルギーの量と負けん気、手を抜かない自己に厳しい姿勢と努力でこのような力を身につけ、難局にあたってきた。
著者は紙パルプ労連の中央執行委員をつとめ、各地の労働争議に関わってきました。
労働組合のなかには、組合費を基本給の3%にしているところもあるそうです。その高さに驚かされます。3%の組合費を払うだけのメリットがあると一般組合員が受けとめているからこそ続いているのでしょうが、すごいことです。実に素晴らしいです。別のところでは、1人月1万8千円という高い組合費のところもあるとのこと、信じられません。
著者は大阪府地労委の労働者委員となり、4年間に審査事件84件、調査事件50件を担当しました。相手にした企業は91 社。結果は命令交付が25件、和解等で解決したのが23件、訴訟になったのが18件だった。いやはや、大変だったでしょうね。
大商社の伊藤忠を相手にした大阪工作所事件では、残った組合員はわずか18人。ところが、まいたビラは1日4万枚、トータルで100万枚をこえ、2千人からの労働者による抗議行動が御堂筋で展開するという華々しい活動を展開した。その成果として、労組が億単位の解決金に加えて、土地や技術を譲り受け、会社の経営権を握って見事に再建することができた。今も、この会社は存続しているというのです。たまげましたね・・・。
読んでいるうちに、そうか労働組合って、こんなことも出来るのか、やれば出来るんだねと勇気が湧いてきて、心がぽっぽと温まってくる本です。大阪の大川真郎弁護士より贈っていただきました。いい本を紹介していただいてあつく、お礼を申し上げます。
(2018年10月刊。1667円+税)

誰のために法は生まれた

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 木庭 顕 、 出版  朝日出版社
ローマ法を専門とする東大名誉教授が桐蔭学園の中学・高校生30人と語りあったゼミ形式の授業の記録です。
午前中に映画をみて、午後から教授の問いかけに生徒たちが答えていくようにして進んでいくのですが、その問答の奥深さには思わずのけぞりそうになります。
まず映画がすごいです。溝口健二監督の『近松物語』は1954年制作です。役者は長谷川一夫と香川京子ですから、まさしく美男美女。この二人は最後のシーンでは市中引き回しのうえ処刑されるわけですが、それに至る過程を丹念に拾って議論していく様子は、心が震えます。私が高校生だったら、とてもついていけなかったでしょう。
最後の市中引きまわしのときの晴れ晴れとした香川京子の笑顔は衝撃的ですが、その解釈が見事なのです。
江戸時代、姦通したら死刑にするというルールがあった。ましてや主人の妻と奉公人の男性の姦通なら、即死罪だったでしょう。そこで、法とはいったい何なのかが問われるのです。
名誉教授は、法は追い詰められた人のためにあると言います。
グルになった集団に抵抗するために法はある。こういう集団を完璧に解体するためにある。こう言われても、私には、よく分かりませんでした。ぴんと来ないのです。
法学部にいくと、第一にものすごい眠気が起きる。次に言いようのない虚(むな)しさが漂う。この点は、私も司法試験の受験勉強をはじめる前は、たしかにそうでした。しかし、目的のための手段だと割り切れば、それなりのものではありました。論理的思考力が身につきましたからね。
次の映画は1948年のイタリア映画『自転車泥棒』です。昔、私も一度だけは観たような気がします。この映画を素材として議論が展開します。それが、すごいんです。
そこでは、泥棒の何がいけないのかも問われます。だって、メシが食えない状況に置かれているのです。そして、男の子と父親の関係も微妙です。自転車を盗まれて仕事ができなくなり、切羽詰まった父親が息子に知られないようにして他人の自転車を泥棒して、見つかってしまう。あやうく群衆にリンチにされそうになったときに息子が出てきて助かるのですが、その意義はどこにあるのか・・・。
さらにギリシア悲劇を素材にしたあと、最高裁の昭和40年判決まで議論の対象となります。名誉教授の博識とすご腕には圧倒されました。といっても、私より年下だというのが、悔しい事実でもあります。
いやはや、とんでもない授業でした。もちろん、そんなハイレベルの授業に脱帽という意味です。もっとも、この授業に参加した生徒たちが法学を勉強してみようと思うようになったのか、私にはやや疑問なしとしませんでしたが・・・。
(2018年8月刊。1850円+税)

憲法が生きる市民社会へ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 内田 樹 ・ 石川 康宏 ・ 冨田 宏治 、 出版  日本機関紙出版センター
いまの日本社会をどう考えたらよいのか、アベ流改憲の恐ろしさの本質はどこにあるのか、深く思い至ることのできるブックレットでした。80頁あまりの薄さで、値段も800円です。ぜひ、あなたも手にとって読んでみてください。
カナダはGDPが日本の3分の1、兵力で日本の4分の1だけど、国際社会から敬意と共感を得ている点は、日本を圧倒している。
まことに、そのとおりです。日本なんて、アメリカの属国だと国際社会ではみられていると思います。日本国内のいたるところにアメリカ軍の基地があり、治外法権みたいな状況で、莫大なお金を貢いでいる残念な現実がそれを裏付けています。
自民党には、今では1800万票しか票が入らない。投票所に足を運ばない人が2000万人もいる。
どうせ選挙に行ってもムダだ、変わらないと考えている人が自民党政権を支えているわけです。
いまの日本の政治が劣化した最大の原因は「語るべきビジョンがない」ことにある。アベ首相たちが語る「戦前回帰」、軍事力信仰、そして「日本はすごい」キャンペーンは、日本の未来に見るべき希望がなくなった人たちが過去の栄光を妄想的につくり出して、それを崇拝するという、苦しまぎれのソリューションだ。つまり、未来に何も期待できないので、妄想的に「美しい過去」を脳のなかで構成して、そこに回帰しようとしている。彼らは、20年後、30年後の日本について語ることが出来ない。
そうなんですよね、戦前の日本は良かっただなんて、とんでもないことです。
いまの天皇が護憲派であることはアベ首相もよく分かっている。なので、天皇の退位宣言以降、天皇に対する激しい嫌がらせをしている。アベ首相が集めた「有識者」会議には、天皇を平然と罵倒する人物もいた。「天皇は黙って祈っていればいいんだ」と彼らは言う。天皇崇敬の念は彼らに感じられない。現実の天皇が何を考え、何を願っているか、なんて彼らは何の興味もない。
でも、私たちは希望を捨てることなく、新しい日本の姿を展望しつつ、一歩一歩たしかに前進していきたいものです。沖縄の県知事選挙、那覇市長選挙の勝利は、それが可能だということを証明しているのですから・・・。
(2018年5月刊。800円+税)

蜂と蟻に刺されてみた

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ジャスティン・O・シュミット 、 出版  白揚社
ハチとアリに刺されると、どれくらい痛いのか、その痛さに等級をつけてみた。自分の身体を提供してのこと。いやはや、とんだ商売ですね、学者って・・・。
等級はレベル1からレベル4までの4段階。セイヨウミツバチに1回刺されたときの痛みの強さをレベル2とし、これを評価の基準とする。ミツバチは世界中にいて、ミツバチに刺された人は多いので、評価の基準にしやすい。
ミツバチに鼻や唇を刺されると、本当に痛い。しかも、唇を刺されると、必ず腫れあがる。
ミツバチの毒液は、昆虫の毒液のなかで最高レベルの殺傷力をもっているうえ、分泌される量も多い。コロニーとしての殺傷能力は非常に高く、全体を集めたら、10人あまりの人間の生命を脅かすのに十分だ。
ゾウを追い払うため、アフリカでは畑の周囲にミツバチの巣をかけておく。ミツバチは、ゾウの弱点である眼と胴の腹側を狙って刺針攻撃をしかける。ゾウはたまらず逃げ出し、もう近づいてはこない。
ミツバチはNASAの実験で1982年と1984年の2回、宇宙を旅行している。無重力の環境下でもミツバチは六角柱の並んだ正常な巣をつくった。無重力空間でも、方向や位置をミツバチが間違えることはなかった。
アマゾン川の流域では、アリに刺されて、その痛みを我慢できるのか成人になる通過儀式となっているところがあるそうです。男の子のほうが強い痛みに耐えなければいけませんが、女の子には少しレベルを落として痛みをガマンすることが求められるといいます。いやはや・・・。
日本にもヒアリが侵入しようとしていますが、北米ではヒアリが相当侵食しているようです。
ヒアリ退治のつもりで空から有毒な殺虫剤を大量にまいたところ、逆効果だったそうです。ヒアリ以外のアリが殺虫剤でやられてしまい、肝心なヒアリは生きのび、かえって競争相手のいなくなった草原に展開していった。
ヒアリを殺すには、10リットルの湯を沸かして、蟻塚の真ん中に熱湯をゆっくり流し込む。これで、幼虫だけでなく、女王までも殺すことができる。
庭仕事をしていると、ときに痛い目にあいます。ダニかなと思っていましたが、この本を読んで、ひょっとしてアリだったかもしれないと思い、はっとしました。
ハチとアリと人間の生活との関わりを考えた、とてもユニークな生物の本です。でも、まねして刺されてみようなんては、ちっとも思いませんでした。
(2018年7月刊。2500円+税)

「資本論」

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 マルクス 、 出版  講談社
講談社が、まんが学術文庫なるものを創刊したのですね、知りませんでした。
マルクス『資本論』には、少なくとも3度は挑戦しています。学生時代に1度、弁護士になってから1度。それぞれ分からないながらも、なんとか読み通したつもりです。そして、もう1回、時期は忘れましたが、挑戦したように思います。
『資本論』は、部分的には分かるところもありましたが、全体としての経済理論は、ついによく理解できないままでした。大学1年のときには、有名なサムエルソンの『経済学』も読みましたが、こちらも、さっぱり訳が分かりませんでした。要するに、この人は何が言いたいんだろうか・・・、そんな疑問が私をとらえて離しませんでした。経済学って難しいというか、まるでピンと来ませんでした。それより、法理論のほうが、よほど私の性分にもあい、理解できました。
そこでマンガで『資本論』を語ると、どんな展開になるのか・・・。ストーリーがあります。『資本論』の記述の説明マンガではありません。
19世紀イギリスの現実社会のなかでもがく若者たちが、パン屋から起業してスーパーを展開し、土地を所有して地代を稼ぐ地主階級を没落させていくというストーリーです。なかでは労働者階級の悲惨な状況も描かれていて、なかなか読ませ、考えさせる展開になっています。
ははーん、こうやって労働者を搾取する支配階級がつくられていくんだな・・・。マンガですから、当然、視覚的な分かりやすい展開です。
しっかり『資本論』を勉強した気分になるのは、さすがです。
(2018年4月刊。680円+税)

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