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2018年10月 の投稿

ウィスコンシン渾身日記

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者  白井 青子 、 出版  幻冬舎
 31歳の若き(!)日本人女性がアメリカで語学学校に入って勉強し、苦闘する日々のブログが一冊の本にまとまったものです。著者の師は、かの高名な内田樹・神戸女学院大学教授です。
内田教授の次のコトバは、モノカキを自称する私にはぴったりでした。
モノを書くときの一番強い動機は、「それを自分が書いておかないと、誰も書かないから」だ。だから、モノを書くときの最初の想定読者は、それを読みたがっている自分自身なのだ。自分が読みたいことがあるのだけれど、誰も、それについて書いてくれない。
私は、九州から東京に出て大学生になったとき、学生セツルメント活動に出会いました。高校の先輩に誘われてのことでしたが、この誘いが私の人生の最大の幸運をもたらしました。
この学生セツルメント活動について、誰も書かないので、私が書きました。『星よ、おまえは知っているね』(花伝社)です。そして、大学2年生のときから東大闘争の渦中に没入しました。世間的には東大全共闘がもてはやされましたが、私は、クラス討論を通じて全共闘の代議員を次々に落選させる運動に挺身しました。そして、全共闘の暴力に抗し、クラスとして行動隊を結成して無事に大学解体ではなく、授業再開にこぎつけました。再開された授業には全共闘メンバーも参加しましたし、私たちは彼らを排斥しませんでした。この1年間を、私は『清冽の炎』(花伝社)1巻から5巻にまとめました。そして、全共闘に加わった学生とそれに抗して大学民主化のために身を挺した学生たちが、その後どのように生きたのか、第6、7巻にまとめました。
大学の授業が正常化したとき、1年半ほどのブランクがあったので、学生は、みな必死で勉強しました。私も、その一人として司法試験に挑戦し、在学生合格者90人の1人にもぐり込みました。それが最新刊の『司法試験』(花伝社)です。
そして、次は司法修習生です。宮本康昭裁判官(青法協)の再任拒否、坂口徳雄修習生(23期)の罷免に直面して、青法協の修習生は意気高く活動しました。その状況を『司法修習生』(花伝社)にまとめました。
弁護士になって、日弁連理事になって日弁連会長の発言を身近に接して書いたのが『がんばれ弁護士会』(花伝社)であり、日弁連副会長の1人として日弁連の運営に関与した日々を報告したのが『日弁連副会長メルマガ』(花伝社)でした。
どれもこれも売れませんでしたが、私としては誰も書いてくれないのだから、自分がお金を出して記録のためにも本にしようと思ったのです。今でも、本にして本当に良かったと思います。
旅先で遭遇した出来事をことこまかに記録するという習慣をもっていると、旅先でのトラブルを回避できる可能性が高まるという経験則が知られている。
アメリカで英語を学ぼうとしている学生たちの、いろいろなお国柄がよくあらわれています。そして、私が心を打たれたのは、何といってもメキシコ人の若い女性とコロンビア人の若い男性が、どちらも「世界平和」を、「私の夢」だと真剣な表情で書いたということでした。
いま、安倍首相は日本の平和憲法を無視して戦争する国へつくり変えようとしていますが、世界の若者は、そんな危ない国にしてはいけないと腹の底から訴えているのです。
私も、こうやってフランス語が楽々話せたらいいなと思いました。50年もやっていて、それが出来ないのですから哀れなものです。それでも、なんとか、こりずにNHKラジオ講座を欠かさず聴いて、フランス語のCDによる書き取りを毎日続けています。
(2018年6月刊。1500円+税)

戦慄の記録・インパール

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 NHKスペシャル取材班 、 出版  岩波書店
インパール作戦に参加した日本軍将兵は9万人、その3分の1の3万人が亡くなりました。悪名高い、日本軍による無謀な戦役をNHKが特集したものが本になりました。
1944年3月に始まり、本格的な雨期の到来する前にインパールを攻略するとしていた。川幅600メートル、2000メートル級の山と深い谷の連なる密林地帯で、貧弱な道しかない。
悪路のため、武器・弾薬も背負って運ぶため、携行できる食糧は、わずか3週間分。
第15軍司令官の牟田口廉也(れんや)中将は、少し前は「実行困難」として反対していたのに、いつのまにか積極策に転じていた。
東條英機首相は、ガダルカナルでの敗退をインド侵攻で逆転させようとしていた。
ビルマでのインパール作戦は、インド侵攻作戦の一環だった。
東條英機は、インドの独立運動家のチャンドラ・ボースを支援していた。
この作戦は補給等の点から無謀だと参謀の多くが反対したが、彼らはことごとく他へ転出させられていった。
インパール作戦が中止になったのは、発動から4ヶ月後のこと。そして、撤退中に多くの日本軍将兵が命を落とした。インパールに向けて進撃中に戦死した人よりも、撤退するさなかに亡くなった人のほうが多かった。NHK取材班は地図の上でそれを明らかにしています。戦没者名簿にのっている1万3千人余の死者のうち、6割の人々が作戦が中止された7月以降に亡くなっている。そのほとんどは「病死」だが、実は餓死が多数ふくまれている。
日本軍が攻略目標としていたインパールには、イギリス軍20万人が駐留していた。たっぷりの武器・弾薬が備蓄されていて、飛行機も戦車もあった。イギリス軍はビルマを日本から取り戻すつもりでのぞんでいた。にもかかわらず日本軍はイギリス軍を甘く見くびっていた。インパール作戦中止後の撤退中に、イギリス軍の飛行機から日本軍は散々な目にあった。
牟田口中将は早々にビルマから日本に舞い戻り、陸軍予科士官学校長に任命されている。日本軍の無責任体制も、ここまでするか・・・というほどのひどさです。ノモンハン事件でもそうでしたが、責任ある軍トップは誰も責任追及されず、かえって栄転・出世していくのです。こんな日本軍の実体を知ると、「昔は良かった」なんて言って欲しくないと、つくづく思います。
NHKも、いい番組をつくりますね。がんばってください。
(2018年9月刊。2000円+税)

ノモレ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 国分 拓 、 出版  新潮社
前の『ヤノマミ』も、すごい本でしたが、アマゾン奥地には、まだ知られざる人々がいるようですね。そして、それらの人々が下手に「文明人」と接触してしまうと、免疫力がないので、たちまち病気で死に絶えると言います。
そうでなくても、アマゾン奥地を開発しようとする人々に追い立てられ、殺されて絶滅の危機にあるのです。そして、それに拍車をかけている「悪者」のなかに日本企業がどっかと大きな顔をしているのです。恥ずかしい限りです。
アマゾンの流域には、イゾラドと呼ばれる先住民がいる。単一の部族を指すのではなく、文明社会と未接触の先住民を言いあらわす総称だ。文明社会と接触したことかないか、あっても偶発的なものに限る先住民のこと。
イゾラドが生きる森は、ブラジル国内に58ケ所。すべてアマゾンの深い森の中で、推定人口は300人から5000人。
ペルーでは、正確な調査は一度も行われていない。
集落には道路がなく、「道」とは川のこと。川は、いくつもの支流や小川に枝分かれしている。船さえあれば、川をつたってどこにだって行くことができる。アスファルトの道とちがって、魚や水などの恵みも授けてくれる。川に勝る「道」はない。
アマゾンのほとんどに先住民は、ハンモックではなく、テントを使う。
話しかけられたら、ただ、「ノモレ」とだけ答える。「ノモレ」とだけ言えば、大きな問題は絶対に起きない。「ノモレ」とは友だち、という意味だ。とても大切な言葉なのだ。
落ち着いて行動する。急な動作は慎む。大声で話さない。笑みを絶やさない。相手が触ってきたら、抵抗せずに、気がすむまで触れさせる。
先住民の社会では、弓矢をもっていないということは、敵ではないと認識している証(あかし)だ。先住民は、信頼できない相手と会うとき、けっして女や子どもを連れてこない。
先住民たちが欲しがったのは、バナナと紐。不思議なことにマチェーテ(刀)も欲しがらなかった。
森の入口に一匹の蛙が木の上から吊るされていた。これは、多くの先住民社会に共通する隠語だ。ここから先は入ってくるな、という警告だ。
先住民たちは本名を名乗ることはない。本名を教えると、精霊の力によって呪いをかけられると信じているからだ。
かつて日本でも、江戸時代には名前をもっていても、そう簡単には本名を他人には明かしませんでした。それで、江戸時代の庶民は名前をもっていないと誤解されていました。同じことがアマゾンの先住民の習慣でもあったことに驚かされます。
この本を読むと、アマゾンの先住民の人々の生存を脅かしているのは、「文明人」の私たちだということがよく分かります。生き方の多様性を認めないのはまずいと思います。そして、アマゾンを乱開発してはいけないとつくづく思います。
アマゾンの密林を切り拓いて牧場にして、牛肉を増産してマックの原材料にするなんて、とんでもない暴挙です。「文明人」がどうあるべきか、原発をかかえてその後始末をきちんと考えない人の多い日本人に大きな反省を迫る本でもあると私は思いました。
NHKスペシャル(2016年8月7日放送)を本にしたもののようです。残念ながら私はテレビ番組は見ていません。ただ、先日、ドローンの映像がユーチューブで流れていました。そっとしておきたいものです。
(2018年6月刊。1600円+税)

天地に燦たり

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者 川越 宗一 、 出版  文芸春秋
大変なスケールの話であり、著者の博識に圧倒されてしまいました。
舞台は秀吉による朝鮮侵攻戦です。それに従事する島津家の重臣が主人公の一人。対する朝鮮にも、もう一人の主人公がいます。両班(ヤンバン)の師匠をもつ白丁(ペクチョン)ですが、戦乱のドサクサで両班だと詐称します。さらに、もう一人は琉球国の密偵です。
それぞれの国情がきめ細やかに描かれ、話がからみあいながら進行していく様子は、さすが職業作家の筆力は違います。自称モノカキの私ですが、桁違いの博識には唸るばかりでした。
朝鮮の両班の話は、先に両班の日記の復刻版を紹介しましたが、著者も、それを読んでいたのかなと、つい思ってしまいました。日本からの侵略軍が来る前後に、朝鮮国では科挙の試験が実施されていたのです。文を尊び、武を軽んじていたこと。両班たちを含め、上層部で党派抗争が激しかったことなどもきちんと紹介されています。
そして、琉球国です。島津と日本との関係をどうするか、いや、その前に中国との関係をどうするのか・・・。ついに島津軍が沖縄に上陸し、琉球国も戦わざるをえません。しかし、歴戦の兵士ぞろいの島津軍の前に、あえなく敗退・・・。
島津軍は、朝鮮で明の大軍に攻められながらも、ついに撃破してしまいます。どうして、そんなことが可能だったのか・・・。
「人にして礼なければ、よく言うといえども、また禽獣の心ならずや」(『礼記』らいき)
さすが松本清張賞をとっただけのことはある、時代小説でした。
(2018年7月刊。1500円+税)

ほんまにオレはアホやろか

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 水木 しげる 、 出版  新潮文庫
米子に行ったとき、足をのばして境港にある水木しげる記念館で買った文庫本です。
「ゲ・ゲ・ゲの鬼太郎」は、私の中学、高校生のころ、テレビでもやっていました。高校1年の文化祭のとき、紙粘土で大きな鬼太郎をつくったのを覚えています。
生い立ちから、兵隊にとられて南方の島へ行って片手をなくしてしまう話まで出てきます。
著者はラバウルでアメリカの飛行機が落した爆弾で腕を切断されてしまいました。マラリアにかかって、小屋のなかに20日間じっとしていたら、若さと生来の頑丈さで直った。便秘になっていたのを無理して木片で削るようにして掘り出した。
野戦病院にいるとき、土人と仲良くなった。土人たちの生活は精神的に豊かで充実していた。午前中に3時間ばかり畑仕事をするだけ。それだけで、自然の神々は腹を満たしてくれる。冷蔵庫に貯えておく必要なんかない。いるだけつくって、いるだけ食べればいいのだ。自然の神は、心まで豊かにしてくれる。
そして、戦後、著者が漫画家として成功したあと、その南の島に行き、前に世話になった土人たちと再会します。感動的な場面です。
土人たちは年齢なんか気にしない。生き物には、生きるか死んでいるかの2種類しかない。
「急ぐことは死につながり、ゆるやかに進むことは生を豊かにする」(アフリカのピグミーの言葉)
土人たちは、自然のリズムに従って生活しているから、こんなに楽しく生きている。この大地の中に、木の霊、草の霊、山の霊と、この踊りさえあれば、何もいらない、そんな感じだ。
土人たちは、ゆっくり働く。自然の法(のり)をこえないことをモットーにしているようだ。だから、朝、畑に行って、穴をほってペケペケ(糞)をして、埋めて、その日の食料をもって帰るだけ。
月の夜は、みんな寝そべって話をしている。だから、家族間、部族間のコミュニケーションもうまくいくらしく、あまりケンカはない。のびやかに暮らしている。
子どもたちも、こんなに笑っていいのかなと心配になるぐらい、のびやかに笑う。
いやあ、いい話ですね。今どきは「土人」なんて言ったらいけないと思うのですが、なにしろ40年前に刊行された本なのです。
(2010年9月刊。460円+税)

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