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2018年10月 の投稿

取調べのビデオ録画

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 牧野 茂 ・ 小池 振一郎 、 出版  成文堂
今市(いまいち)事件の判決には驚かされました。裁判員をふくむ裁判所が録画されたビデオ映像を見て、被疑者の様子から有罪の心証を得たというのです。
これは、とんでもないことです。いったい、何のために取調過程を録音・録画するのか・・・。それは取調過程の透明化、つまり、密室での取調べのとき、被疑者に対して不当な追及、違法なことが行われないように監視するためのものなのです。
ところが、実質証拠として機能してビデオ映像が使われ、有罪の証拠になりました。そうなると、調書を証拠採用して判断するという、いわば調書裁判を強化する方向へ、取調室を法廷としかねない方向に行ってしまいます。
ビデオ録画するときには、本来の目的からするならば、むしろ取調にあたっている捜査官の態度・表情こそ録画の対象とすべきです。せめて、取調室を横からビデオ録画して、被疑者がウソを言ってるのかどうかなど、見た人が考えられないようにしたほうがいいのです。
お隣の韓国では、ビデオ録画は実質証拠として利用することを禁止している。また、弁護士は取調での際に被疑者のそばに立ち会える。
ところが、日本では依然として弁護士立会は認められていません。
ビデオ録画が実質証拠に使われると、皮肉なことに、公判中心主義ではなく捜査取調べ中心主義になってしまう恐れがある。
先進国で弁護人立会権の保障がないのは日本だけ。有罪無罪の判断のためには、悪性格証拠は使わないようにとルール化されている。ビデオ映像をみたら錯覚はまちがいなく起きる。この影響を与える可能性を完全に払拭することはできないが、この危険性を減少させるためのものが、せめて横から操るという方法なのである。
なるほど、そうだったのかと思わず、うなってしましました。まさしくタイムリーな本です。
(2018年8月刊。2000円+税)

前川喜平が語る、考える

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 前川 喜平 ・ 山田 洋次 ・ 堀尾 輝久ほか 、 出版  本の泉社
世の中のことを、真面目に深く考えている人がこんなにたくさんいることを知ると、思わず私の身体も底から熱くなってきます。
山田洋次監督が夜間中学を舞台とした映画『学校』をつくりましたよね。本当にいい映画でした。
昼間の生徒たちは勉強するのがうれしくない。でも、夜の教室に行くと、みんなうれしくてしょうがないという顔をして勉強している。そして教員室も明るい。ちょうど劇団の事務所みたいに、生き生きとしている。
夜間中学では、生活基本漢字381文字を重点として教える。とりあえず大人の日常生活に必要な漢字を身につけさせる。
寅さん映画を見て厚労省に勤める人が山田洋次監督に次のような手紙を書いた。
「寅さんは、どうして健康保険に入ってないんですか。寅さんでも入れます。住所不定なら、さくらさんの住所にすればいいんです。私たちの仕事は一人残らず健康保険に入ってもらう。これが国民皆保険の思想ですから、ぜひ寅さんも入れてやってください」
この手紙は厚労省の本当に心ある公務員は、日本に暮らす人々の暮らしをちゃんと守りたいという気持ちを、強く持っていることを示している。
うむむ、なかなか感動的な手紙ですよね、これって・・・。
同じように、日本の法曹界にしても、まだまだあきらめてはいけない。前川さんのような人が、まだいるかもしれない。だめな人もいっぱいいるのかもしれないけれども、ちゃんと話の分かる人が、これじゃあ良くないと思いながら、悩んでいる人たちもたくさんいるんじゃないか、そう思った・・・。そうであってほしいと、私も切に願います。
教育学の堀尾輝久名誉教授の授業を前川さんは法学部でありながら、教育学部で「もぐり」で受講していたとのこと。私も教養課程のとき聴いた覚えがありますが、人間性を大切にする教育の真髄を教えられ、ズシンと来るものがありました。
いまの教員は忙しすぎて、子どものことを考えられない。マニュアルにしたがってやれば楽だし、文句も言われない。多くの教師が流されていて、労働組合も弱体化している。
右翼が「日教組、撲滅」と叫ぶほどに日教組の力は強くないというのは世間で公知の事実ではないでしょうか・・・。
前川さんも、私と同じようにテレビ『ひょっこりひょうたん島』をみていたそうです。私の旅行仲間の愛称が「ひょうたん島」です。
そこで勉強の歌がうたわれる。
子どもたちが、「勉強なさい、勉強なさい、大人は子どもに命令するよ、そんなの聞きあきた」と歌う。これに対して、先生が「いいえ、いい大人になるためよ。人間らしい人間、そうよ人間になるために、さあ勉強なさい」と歌う。
小学5年生の前川さんは、それで、「そうか人間になるために勉強するのか」、そう思ったとのこと。
学習することが、すべての人間らしい生き方のベースなんだ。人間にとって学ぶことの意味、自分らしく生きることの大切さ、個人の尊厳を大切にする多様性のある社会の必要性、そしてそれらを圧殺しようとする権力の危険性、これをずっと一貫して考えてきた・・・。
教育とは何か、その本質に迫る対談集でした。
大変勉強になると同時に、元気の出る本です。ぜひ、ご一読ください。
(2018年9月刊。1500円+税)

遊ぶ鉄工所

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 山本 昌作 、 出版  ダイヤモンド社
いやあ、思わず、ウソでしょ、そんなことありえないでしょ、と叫びたくなる破天荒きわまりない鉄工所の話です。しかも、書いたのはその鉄工所の副社長で、外部のライターではありません。
この鉄工所の、何がすごいのか、というと・・・、実はたくさんあるのです。
まず第一に、トヨタや日立のような超大企業の下請ではない。取引先の1社の占める比重は3割をこえないようにしていて、多品種少量生産ですから、製造原価を叩かれることがない。
第二に、工場内はフラットな空間で間仕切りがなく、大きな食堂ではゆったり美味しく食べられる。ついでにいうと、トイレも大変きれいだそうです。
第三に、残業なしで、モノづくりは24時間、無人加工。
第四に、新卒採用には入社二年目の社員をふくめて総あたりで取り組み、社員のモチベーションを大切にする・・・。
すごいですよね。なにしろ、見学する人が年間2000人といいます。
楽しくなければ、仕事じゃない。
自分たちにしか出来ない仕事で勝負する。
社員食堂こそが、社員を活性化し、会社を大きく変える。
1個の受注が68%、2個の受注が10.7%。両方あわせると、80%が、1個か2個の生産を受注している。これを無人化して、こなしている。ええっ、そんなので会社が成りたつのかしらん・・・。でも、見事に成り立っています。それどころか、年々、取引先は増えているとのことです。
取引先は3000社をこえ、アメリカにも支社がある。その取引先には、ディズニーやNASAもふくまれている。いやはや、すごい会社です。社員も工場内も見事にカラーで、気持ちよく働けそうな雰囲気です。ここで働いている人がうらやましい。
モノづくり、人間育成のポイントをしっかえいおさえた明るい見通しがもて、元気が出る、勇気百倍になる本です。
(2018年7月刊。1500円+税)

コンビニオーナーになってはいけない

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 コンビニ加盟ユニオン・北 健一 、 出版  旬報社
私は原則としてコンビニは利用しないことにしています。もちろん、この原則には例外があります。旅行先ではコンビニを利用するしかありませんので、ためらわずに利用します。でも、ふだんは事務所の隣にコンビニがありますが、どうしても仕方がないときにしか店にははいりません。ですから、コンビニを利用するのは月に1回くらいです。
コンビニのオーナー(店主)は本当に現代の奴隷そのものだと思います。一家だんらんの場と時間が奪われてしまって、何のための人生でしょうか・・・。
そもそも、24時間営業というのが、私には、あまりに非人間的だとしか思えません。
暗くなったら寝て、身体を休めたほうが絶対にいいと思います。そんなぜいたくなこと言うなと反発を感じる人も少なくないと思うのですが、本当に夜寝たらいけないのでしょうか・・・。
病院とか介護施設なら、そうだと思います。でも、三交代勤務というのは本当に必要なのですか。これだけ技術が発達しているのに、人間まで寝ずに働く必要があるのですか。ましてや、単に商品を売るだけなのに、24時間、店を開けておくなんて、私には、その必要性が理解できません。身体をこわしてまで便利さを追求するなんて、本末転倒ではありませんか・・・。
セブン・イレブンに加盟するには、最低250万円が必要。開店すると、一気に300万円の借金を背負う。通常は700万円になる。これは、発注した商品の仕入代金が借金となるため。
本部から、1日に2万円以上の廃棄を出してくれと求められる。これは、「機会ロス」を防ぐためだし、本部にとって有利になる会計上の理由もある。
人気商品ファストフード(おでん、コロッケ、から揚げなど)は、原価50%で一般商品よりも安いのでオーナーはもうかるはずだけど、実は、もうかるのは本部ばかりで、オーナーには利益が出ない。
24時間営業をやめると、店の売上高は3割減ると本部はみている。つまり、本部は、オーナーの健康より、売上が減ることだけを心配している。
オーナーの死亡率・傷病率は異常なほど高い。
そりゃあ、そうだろうと私も思います。強いストレスに毎日さらされていれば、健康をそこなうのは必要ですよね。
店のスタッフ(アルバイト)の人件費は、本部が支払うという仕組みのようですが、おかしなことです。直接の雇い主であるオーナーが支払うのが自然です。
「オーナーや従業員(スタッフ)が死のうとケガしようと、本部には関係ないこと。オーナーが働けなくなったら、ほかから連れてくるから問題ない」
いやはや、なんという言い草でしょうか。オーナーって、独立した自営業者なのではなくて、単なる奴隷のような存在にすぎないと本部はみているのですね、ひどいものです。
コンビニは、売上金の全額を毎日、本部に送金する仕組みです。でも、これっておかしいですよね。売上から経費を差引いて粗利(荒利)のなかからロイヤリティーを送金するのが当然だと思いますが、そうはなっていません。そうすると、本部には、毎日、莫大な現金が集中することになります。セブンの場合、1日に125億円といいますから、絶えず数千億円もの巨額のお金を手にしているわけです。これは本部だけが肥え太る仕組みとしか言いようがありません。
今や、日本中、どこもかしこもコンビニだらけ・・・。
本当にそんな社会であっていいのでしょうか・・・。
コンビニ愛好者の人には、ぜひ読んでほしい本です。
(2018年9月刊。1200円+税)

分かちあう心の進化

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 松沢 哲郎 、 出版  岩波書店
有名なチンパンジーのアイをパートナーとして40年以上も研究をしている学者の本ですから、面白くないはずがありません。しかも、NHKのラジオ放送をもとにしていますので、分かりやすく語りかけていて、最初から最後まで知的好奇心をすっかり満足させてくれました。2017年10月から12月にかけて、13回にわたって、毎回40分間、1万字ほどの原稿をもとに話したのです。それにさらに手を加えていますので、充実した内容は文句なしです。
研究の狙いは、人間とそれ以外の動物の心を操ることで、「人間とは何か?」という問いを自らに投げかけて考察することにある。
人間とチンパンジーのゲノムは98,8%が共通していて、違いはわずか12%。
チンパンジーには人間とりも優れた記憶能力がある。一瞬に数字を記憶することができる。
チンパンジーには石器を使う文化がある。
チンパンジーは、目の前にない物に思いをはせることは苦手。ことばの学習もむずかしい。
チンパンジーは、人間と同じように色が見えている。視力は両眼で1,5。
逆さま顔写真の認識は、人間は苦手だが、チンパンジーには簡単。
チンパンジーは、人間と目と目を合わせるし、物のやりとりができる。
霊長類学は日本が世界のなかで常に先頭を走ってきた。今も先頭集団にいて、その拠点が京都大学。山極寿一・京都大学総長もゴリラ研究の権威者である。
チンパンジーにも利き手があり、3人に2人(チンパンジーは1頭とは言いません)は右利き。
チンパンジーは、石器をつかうほか、アリを木の枝で釣って食べる。
アフリカの村では、チンパンジーは祖先とあがめる信仰の対象であり、恐ろしい生き物だ。チンパンジーは村のパパイヤの木にのぼって、パパイヤの実をもぎとる。2個を両手にして持ち去ると、うちの1個は必ず女性(チンパンジー)にあげる。相手は母親か、お尻がピンク色に腫れた魅力的な女性(チンパンジー)。
チンパンジーの平均寿命は50年。女性の初潮は8歳で、子どもを産みはじめるのは13歳前後。出産間隔は5年。
野生のチンパンジーは、女性全員が無事に赤ん坊を産んで母親になる。野生だと、日々の暮らしのなかで、出産や子育てを見たり、参加したりしている。
チンパンジーは、235日で赤ん坊が生まれる。そして、赤ん坊が母親にしがみつくので、母親は赤ん坊を抱き、母性が発動する。
チンパンジーには、おばあさんはいない。女性は生涯、現役で子どもを産み続ける。
チンパンジーの赤ん坊は、決して夜泣きをしない。する必要がない。なぜなら、母親はいつもそばにいるから。
サルは真似をしない。「サル真似」というコトバは事実と違う。サルは教え込まれた動作しかしない。
チンパンジーは、鏡にうつった像が自分だと分かる。人間がする動作を見ただけで真似ることも、ある程度はできる。でも、何でもできるというのではない。
チンパンジーでは、互恵的な利他性が成立するのは難しい。つまり、お互いに相手のために働くのは難しい。
チンパンジーは、子どもに教えることはしない。教えない教育、見習う学習がある。
チンパンジーは、うなずくこともしない。子どもをほめることもしない。
チンパンジーも笑う。しかし、身体的な接触がないと、笑い声をたてることはない。
チンパンジーは薬草を利用している。下痢をしたときだけに食べる葉(ボンレー)がある。
チンパンジーになく、人間にあるのが想像するちから、そして希望をもつこと。その想像するちからによって、人間は心に愛を育んできた。
200頁あまりの本ですが、人間にとって大切なことがぎっしり詰まっていると思いました。ご一読を強くおすすめします。
(2018年8月刊。1800円+税)

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