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2018年7月 の投稿

鉄路紀行

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 本林 健一郎 、 出版  偲ぶ会
これは正真正銘、ホンモノの鉄ちゃんの書いた紀行文です。全国各地の駅を踏破した様子が写真とともに語られています。
紹介する文章は、あまりに率直で、いささか自虐的です。でも、嫌味がなく、そうか、そうだったのか・・・と、鉄路の世界にひきずりこまれていきます。
鉄道マニアですから、当然のことながら九州新幹線にも乗っています。そして驚嘆するのは、各駅で降りて、駅周辺の写真まで撮って紹介するのです。岐阜羽島と並んで政治駅で有名な筑後船小屋駅、そして新大牟田駅も登場します。
旅行の思い出について、著者はキッパリ断言します。記憶に残らない思い出など忘れたほうが良いのである。いったん忘れてしまって、どんなところだっけ・・・といい加減な記憶を思い出しつつ、結局、思い出せないまま目的地を再訪したほうが新鮮に感じるもの。
旅先で食べた駅弁がまずかったら、写真つきで、「まずい!」と叫びます。これは残念ながら私にとっても本当のことも多いです。
年齢(とし)をとってくると、自分が他人の孤独に吸い寄せられていくような感覚に陥ることがある。
開門海峡を渡るとき、送電が直流から交流に変わるため、10秒ほど電灯が消える。すると、何か自分が浮海魚にでもなって、溺れていく気分になる。
「乗り鉄」(鉄ちゃん)の格言の一つは、蒸気(機関車)は見るもの、電車は乗るもの。
旅行記を読んだ弁護士から、「こんな旅をするなんて、ヒマ人だね」「ヒマ人というよりバカだね」「しかも磨きのかかったバカだね」、などという「賞賛の声」が寄せられる。
著者は、他の乗客が鉄道マニア(鉄ちゃん)かどうか、すぐに分かる。大判の時刻表を持っている。茶色系統の服を着ている。さえない風貌をしている。カメラかデジカメを携帯している。結局のところ、同じ「臭い」がするので分かる。そして、鉄道マニア同士は、お互い離れた席にすわる。
鉄道マニアは、鉄道に対する求愛行為が社会に受け入れられない、恥ずべき行為であることを十分に自覚している。そのため同業者の行為を見ると、自分も同じ恥ずべき行為をしていることを意識し、自己嫌悪に陥ってしまう。
ローカル線の普通列車で自然を満喫する、なんてプランを立てるのは、ロマンチストで空想主義である男のなせる業(わざ)である。これに対して女性は現実主義者なので、ローカル線などにロマンなんてなく、旅行はしょせん旅館の質と食事で決まることをよく知っている。
全国の隅から隅まで鉄路を求めて、ときには渋々ながらバスに乗ったりした楽しい旅行記です。
残念ながら著者は47歳の若さで突然死してしまいました。著者の父親は日弁連元会長の本林徹弁護士です。早くして亡くなった健一郎弁護士のご冥福を祈念します。A4版(大判)のすばらし追悼・紀行文でした。あったことのない故人の優しい人となりが素直ににじみ出ていて、すっと読めました。本当に惜しい人材を亡くしてしまいました。
(2018年5月刊。非売品)

96歳、元海軍兵の「遺言」

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 瀧本 邦慶 、 出版  朝日新聞出版
他国から攻められたら、どうする。よく、そう聞かれる。そうならんように努力するのが政府やないか。それが政府の仕事やろと言いますねん。そのために、びっくりするような給料をもろとるんやろ。戦争さけるために大臣やっとんのやろ、攻められたらどうすると、のんきんなこと言うとる暇ないやろ。やることやれ。そんなに国を守りたいのなら、そんなに国がだいじなら、まずは、おまえが行け。そう言いますね。
戦争にならんためには、どうすればいいのか。とにかく大きな声をあげないけません。沈黙は国をほろぼします。
戦争に行って何度も死線をくぐり抜けた96歳の元海軍兵の心底からの叫びです。
著者が海軍に志願したのは、17歳のとき、1939年(昭和14年)だった。佐世保の海兵団に四等水兵として入団した。
海軍に入ったその日から、すべてが競争の日々。新兵の仕事は、なぐられること。面白半分に上官から殴られる。海軍では、下っ端の兵卒は人間ではなく、物。そこらへんの備品あつかい。死んでもいくらでも補充できる物。
著者は真珠湾攻撃にも参加しています。ただし、著者の乗った「飛龍」は真珠湾から300キロ以上も離れていて、攻撃の様子はまったく分からなかった。ペリリュー島に行き、ミッドウェー海戦にも参加します。このとき日本軍は大敗北したのに、大本営発表は勝ったかのような内容でした。命からから助かった著者たちは口封じのため南方戦線に追いやられるのです。
こうして下っぱの軍人をだましていたんやなと気づかされた。国民をだますにもほどがある。ときの政府、ときの軍隊は嘘をつくんだな、そう思った。
著者たちはトラック諸島に追いやられた。ここでは毎日のように死者が出た。ほとんどが栄養失調。多くの兵が餓死した。栄養失調がすすんで身体に浮腫(むくみ)が出た。
下っぱの兵士が木の葉っぱを食べているときに、士官は銀飯(お米)を食べていた。いざとなったら、国は兵士を見殺しにする。見殺しは朝飯前(あさめしまえ)。
ここで死ぬことが、なんで国のためか。こんな馬鹿な話があるか。こんな死にかたがあるか。なにが国のためじゃ。なんぼ戦争じゃいうても、こんな、みんなが餓死するような死にかたに得心できるものか。敵とたたかって死ぬなら分かる。のたれ死にのどこが国のためか。
ここで考えが180度変わった。これは国にだまされたと気がついた。わたしが一番なさけないのは、だまされておったこと。いつまでもくやしいですやん。
日本軍に見捨てられて南方の孤島で餓死寸前までいたった著者は戦争はしてはいけない、国にだまされるなと叫んでいます。苛酷な戦場を体験したことにもとづく叫びですので、強い説得力があります。
(2018年12月刊。1400円+税)

歌う鳥のキモチ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 石塚 徹 、 出版  山と渓谷社
朝早くから澄んだ鳥の鳴き声を聞くと、心も洗われる爽快な気分に浸ることができます。
では、いったい鳴いている鳥たちは、いかなる気分なのでしょうか・・・。そんなの、分かるはずがない。そう決めつけてしまっては身も蓋(ふた)もありません。そこを追求して解明するのが学者なのです。ええっ、でも、どうやって鳥の気持ちを測るの・・・。
鳥は、一見すると夫婦仲良くけなげに子育てしているようだが、実は非常に浮気者。世界に1万種ほどいる鳥の9割は一夫一妻だが、調べると、鳥の浮気はすぐに発覚する。そうなんです。DNAを調べると、子の父親がいろいろ違っていることが判明するのです。
歌っているのは、ほとんどオスの鳥だ。
鳥の胸のなかには、人間にはない「鳴管」というのが呼吸器官とは別にあるので、呼吸とは別に、あるいは同時に、空気を震わせて音を出すことができる。
鳥は、命にかけてもパートナーが欲しい。だから、自分の居場所が分かるような声のトーンで歌う。タカなどが出現したときの警戒の地鳴きは「ヒー」とか「ツィー」とか、高周波の声で、それは居所がつかみにくい。
メスが産卵するのは、ふつう早朝であり、メスが出てくるのは産卵直後だ。そして、産卵直後に行う交尾が翌日に産む卵の受精にもっとも効果がある。
アオガラは、メスが夜明けになわばりを離れ、質の高いオスとの婚外交尾(浮気)を求めて出歩く。夜明けに早く歌いはじめ、長いこと歌うオスほど、多くのメスを射止め、婚外交尾にも成功する。歌いはじめの早いオスは、年長のオスに多い。
いかにも夫婦仲の良さそうなツバメやモズクでも、5,6羽の子どもたちのなかに1羽くらい父親の違う子がまじっている。
高山にすむイワヒバリやカヤクグリは、メスが積極的にオスを誘惑して交尾を誘う。メスがグループ内の複数のオスに交尾を迫るのは、オスの全員に、子の父親のような気にさせるという利点がある。つまり、オスたちから、より多くの労働力を引き出そうという、メスの戦略なのである。
箱根のクロツグミには、一羽ずつ、しっかりしたレパートリーがあり、それを順ぐりに歌っている。歌は数節からなり、その第一節は、一羽がせいぜい十数類のレパートリーだ。
そして、ツグミは、独身と既婚とでは、歌い方がまるで異なる。既婚者なのに、独身のふりをしたくなるのがオスの本音なのだ。
メスは、何日もかけて、しっかりオスの品定めをする。
複数のメスを同時に獲得した3羽のオスは、つぶやき声のレパートリーがずば抜けて多いオスだった。つぶやき声は、「勝負音」であり、オスの質のバロメーターになっている。目の前に来たメスに対して出す勝負音は、大声である必要はない。むしろ、小声にして、「あなただけに歌ってますよ」という情報に切り替えている。
鳥の鳴き声を録音して可視化し、個体識別に励んでいる学者の姿を想像すると、思わず拍手したくなります。
(2017年11月刊。1400円+税)

北斎漫画3

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 葛飾 北斎 、 出版  青幻舎
「奇想天外」編です。よくも、これだけの絵が描けたものです。まさしく北斎は天才画家というほかありません。
ところが、この本の解説によると、北斎は同時代の江戸の人々からは、それほど高い評価を受けていませんでした。日本では、北斎は「卑しい絵描きだ」と言われ続けてきた。「六大浮世絵師」のランクでは、上から鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿、東州斉写楽、歌川広重そして葛飾北斎だった。
浮世絵師が評価されていなかったって、意外ですよね。今では、北斎は、「東洋のレオナルド・ダ・ヴィンチ」だと評価されています・・・。
北斎は、75歳を過ぎてからは、いわゆる浮世絵師ではなくなっている。
北斎は、とにかくありとあらゆるものを描こうとしていた。目には見えない、幽霊や鬼や化け物も描いている。
北斎は、ある意味、日本人離れしている。
北斎は、模倣の天才だったし、真似ることそれ自体が創作活動だった。自分自身も模写している。
北斎は、90歳で死の床に就いたとき、神様に「あと10年ください」と命乞いをしている。「宇宙の真理をつかんで、真の画家になるために、もう少し長生きさせて下さい。10年が無理なら、せめて5年でもいいから・・・」
この3巻のテーマは「奇想天外」なので、宗教的画題、幽霊、妖怪などがふんだんに登場しています。そのひとつひとつに豊かな表情があるので、見ていて飽きることがありません。やはり北斎は天才としか言いようがないことを、ひしひしと実感するのです。
(2017年11月刊。500円+税)

松本零士、無限創造軌道

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  松本 零士  、 出版  小学館
私にとって、松本零士といえば、あのスリーナイン(999)の銀河鉄道より、男おいどんの四畳半の世界を描いたマンガのほうが強烈な印象を残しています。なにしろ、四畳半の押し入れには汚れたサルマタ(パンツ)の山が押し込まれていて、そこにサルマタケというきのこが生えてきて、それを食べるのです。それもゲテモノ喰いというのではなく、お金がなくて食べるものがないので、仕方なく生きのびるために食べるという生活を送っているのです。
この本を読むと、著者とほぼ同年齢のちばてつや(この人も私の大好きなマンガ家の一人です)に、そのきのこを食べさせたといい、実話にもとづいているのです。驚きました。
このきのこの正式名称はマグソタケといって、食べられないわけではない、毒性はないきのこだというのです。しかし、もちろん著者もこのきのこを食べていて、いい味だったなんて、信じられません・・・。
そんな「男おいどん」の世界を描くかと思うと、ヌード姿の美女を妖艶に描きあげるのですから、そのペン先の魔法には魅入られるばかりです。
そして、「銀河鉄道999(スリーナイン)」です。その底知れぬ発想力を絵に結実させる力をもつ恐るべき異才の人だと改めて感服しました。
手塚治虫もすごかったし、先日、境港まで行って見てきた水木しげるも恐ろしい才能をもつ人でしたが、著者の絵もまた負けず劣らずすごい、と思います。
永久保存版と銘打つだけの価値のある大判の本です。少し値が張りますので、ぜひ、あなたも、せめて図書館で手にとって眺めてください。
(2018年3月刊。2500円+税)

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