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2018年5月 の投稿

宿命

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 原 雄一 、 出版  講談社
今から23年前(1995年)、警察庁長官が東京の高級マンションにある自宅から出勤しようとするところを狙撃され、瀕死の重傷を負いました。しかし、世界一優秀なはずの日本の警察は狙撃犯を逮捕・起訴して有罪に持ち込むことが出来ませんでした。そして、時効が成立して事件は迷宮入りとなったのです。
この本は、その捜査に従事していた幹部警察官が犯人を名指しして、真相を「解明」しています。読むと、なるほど、その人物が狙撃犯らしいと思わせるのに十分です。
では、なぜ狙撃犯は逮捕・起訴されなかったのか・・・。警察内部の公安と刑事との暗闇があり、公安優先の捜査が間違ってしまったのだと、刑事畑を歩んできた著者は繰り返し強調しています。
公安警察は、警察庁長官を狙撃して殺そうとするのはオウム真理教しかいないと盲信し(決めつけ)、オウムの信者だった警察官が犯人だと発表し、それが立証できなくなってからもオウム犯人説を記者発表したので、オウム真理教から名誉棄損で訴えられて敗訴している。
ここまで来ると、公安警察って、まともな神経をもっているのか疑わざるをえませんね・・・。
では、オウム真理教ではない一個人が20メートル離れたところから、人間の身体に3発もの命中弾を撃てるのか、誰が、どこで、そんな射撃の技能を身につけたというのか・・・。
日本人が、日本で、そんな技能を身につけるなんて、ほとんど不可能ですよね。ですから、犯人はアメリカへ頻繁に渡って射撃練習を繰り返していました。もちろん、高性能の銃もアメリカで購入しています。
歩いて移動する生身の人間に対し、射撃の素人が、21メートル離れた距離から3発の357マグナム弾を的確に撃ち込むのは不可能なこと。いかに高精度の拳銃を使おうとも、拳銃射撃はメンタルのコントロールがとても難しい。しかし、これを克服できなければ、正確に命中させることはできない。
「犯人はオウム真理教だ」(公安)、「犯人は中村泰だ」(刑事)などと罵りあって、結局、事件を解決できずに公訴時効を迎えてしまった警視庁。この捜査は迷走してしまったから、一般市民には滑稽なものとしか映らない。
警察庁長官という警察の親玉をやられて、その犯人をあげられなかったというのですから、日本の警察も「世界一」だとはもう言えないんじゃないでしょうか。
犯罪をなくすには市民連帯の力を強め、若者たちが明るく、未来をもって生きていける社会にしていくこと、これなしにはありえませんよね。それにしても、いまなお辞職しないアベ首相の見えすいたウソにはたまりませんね。ストレスがたまります。
(2018年3月刊。1600円+税)

シリアの秘密図書館

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 デルフィーヌ・ミヌーイ 、 出版  東京創元社
本が人間にとっていかに大切かを思い知らされる本です。シリアの反政府軍の人々がひそかに本を集めて地下に図書館を開設したのでした。
図書館は包囲された町の支柱の一つとなった。礼拝の日である金曜土曜を除いて、午前9時から夕方5時まで開館し、1日に平均25人の来館者がある。基本的に男だけ。
図書館を開設した若者は、実は、戦争がはじまる前は読書が好きではなかった。
戦争のなかで、本に書かれた文章は新たな感動を生みだす。すべてが消え失せる運命にあっても、時の中に残る印を刻む。知恵の、希望の、科学の、哲学の、すべての言葉、爆薬にも耐え抜くすべての言葉全体が息づいている。
棚の上に完璧に分類され、整理された言葉は確固として、勝ち誇り、勇敢で、耐久性と活現性があり、心理に刻み込んでいる。考察の手がかりやあふれるような思想と物語を、そして手の届くところに世界全体を差し出してくれる。
ダラヤの人口は、かつては25万人。それが今では1万2千人。ほとんどの住人に見捨てられた亡霊の町である。ダラヤはシリアの首都ダマスカス近郊にある。
戦争は悪であり、人間を変えてしまう。感情を殺し、苦悩と恐怖を与える。戦争をしていると、世界を違ったように見てしまう。ところが、読書はそれを終らかしてくれる。人々を生命につなぎとめてくれる。
本を読むのは、何よりもまず人間であり続けるため。読書は先在本能だ。生きるために欠くことのできない欲求なのだ。
隣の家に本が1冊あれば、それは弾をこめた鉄砲があるのと同じこと。
本、それは教育の大きな武器、圧制を揺るがす武器だ。
そもそも、ダラヤには図書館はなかった。なのに、内戦がはじまってから、地下に秘密の図書館が出来て、ひそかに運営されていた。
ダラヤの人々はフランス映画の「アメリ」を、そして「レ・ミゼラブル」を何回も何十回もみました。同じように本を読んだのです。一瞬たりとも活字なしでは生きていけない私にとっても切実なテーマでした。
シリアから、そして、朝鮮半島から内戦、戦争をなくしてほしいと切に願います。
(2018年2月刊。1600円+税)

ジハード大陸

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 服部 正法 、 出版  白水社
アルシャバブやボコ・ハラムなど、アフリカのあちこちで凄惨なテロを敢行しているジハーディストに肉迫したルポルタージュです。
イスラム過激派がアフリカ各地で猛威をふるっている背景には、若者たちに職がなく、貧富の格差がますます激しくなっている深刻な現実状況があります。ですから、武力で制圧したり、テロリストのリーダーをドローンで暗殺しても何の解決にもなりません。第二、第三のリーダーが次々に生まれてくるだけなのです。
どの国に行っても、一般のイスラム教徒はテロを支持していないし、共感もしていない。イスラム圏の伝統文化がしっかり根づいている地域のほうが、イスラムの教えにもとづくモラハ社会規範がしっかりしているため、ほかの宗教が多数派の地域と比べても、むしろ治安がいい。
アルシャバブとは、アラビア語で若者を意味する。ふつうのソマリ系住民、ふつうのイスラム教徒は、アルシャバブを支持しておらず、両者は同一視できない。
アルシャバブの活動資金は、砂糖や木炭の密輸である。
アフリカへの進出が著しいのが中国だ。中国はアフリカに積極的に投融資をしている。中国はその見返りとして、アンゴラの石油を得た。アンゴラは、中国への最大の原油供給国となっている。アンゴラの経済成長率は15%にもなり、首都ルアンダのホテルは1泊400ドル(4万円)もする。
ジハーディストというテロ集団は、南アフリカの正規のパスポートを利用・横流ししている。
ジハーディストが若者を勧誘するときの決め手は二つ。一つは、洗脳だ。大義のために死ぬことの崇高さ、そして、死後にはたいへんな幸福が待っていると説教する。そして、もうひとつがカネ。リクルーターには成功すれば10万円がもらえる。新規メンバーは8万円もらえる。
ソマリアへ旅行にやってきた外国人が簡単に殺されるのは、事件が世界各地に放映されて、ソマリアは危険で、まだ安定していないというイメージをつくりたいからだ。
ジハーディストたちの資金源として大きいものに誘拐による身代金というものがある。身代金の総額は累計で1億2100万ドルにもなっている。
ジハーディストたちは、こう叫ぶ。
ヨーロッパは、これまでアフリカから資源などを盗んできた。アフリカ人は、今、それを取り返そうとしているだけなのだ。
これは、まさしく、本当にそのとおりなんですよね。
著者は1989年、大学1年生のとき、19歳のときに、アフリカ各地を一人で旅行してまわったとのことです。今となっては、古き良き時代だったと言うしかありません。現代アフリカでは考えられません。
(2018年2月刊。2200円+税)
梅雨入り前の五月晴れの日曜日でした。午後からジャガイモを掘りあげました。少し早いかなと心配しつつ2月に植えました。5月に白い花が咲き、葉や茎が黄色く枯れた状態になりましたので、梅雨入り前に掘りあげることにしたのです。畳2枚分くらいの広さに4つのウネをつくっていました。掘り上げると、ごろごろ大小のジャガイモが姿をあらわしてくれました。
  つるんと細長いメークイン、ごつごつしたジャガイモ顔のダンシャク、ダンシャクに似て丸っこいけれど、ところどころに紅いしみのようなものを身につけているキタアカリの3種類です。
 幸い、これまでジャガイモ栽培で失敗したことはありません。植えたあとは雑草とりをしたくらいで、美しいジャガイモを食べることができました。
 次々に掘り上げ、ザルが足りなくなりました。2人では多すぎるし、かといって配って歩くには少なすぎる量でした。暗室保存がいいとのことですので、ダンボール箱に入れて、階段下の物置きに保管することにしました。
 とりあえず小さいジャガイモをオーブンで焼いて、バターの香りとともに札幌の街角で売られているジャガバタを思い出しながら、食べました。 あとは、コロッケそしてポテトサラダでいただきたいものです。
 夜8時近くになり暗くなってきましたので、恒例のホタル見物に出かけました。歩いて5分のところにある小川にたくさんのホタルが今年も元気よく、フワリフワリと音もなく飛んでいました。
 小川のそばにガードレールがあり、そこで2度も転びそうになったので、今年は十分気をつけました。
 ここのホタルはこぶりです。ゲンジボタルと聞いていますが、ヘイケボタルかもしれません。フワリフワリとすぐ近くも飛んでいますので、手のひらに乗せてみます。あわてる様子もなく、手のひらに乗ってじっとしています。息を吹きかけると、またフワリフワリと飛んでいきます。
 一斉明滅を繰り返す夢幻の里が近くにある暮らしっていいものです。

私の少女マンガ講義

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 萩尾 望都 、 出版  新潮社
福岡県大牟田市出身の、今では世界的にも有名なマンガ家です。
私自身は直接には著者と面識ありませんが、母親同士が親しく交際していて、私の記憶に残る著者の母親は、まさしく著者そっくりです。ところが、著者と母親とのあいだには、大変厳しい葛藤があったようです。要するに、いつもマンガを描いている娘を母親は認めることが出来なかったのです。まあ、無理もないことでしょうね・・・。
さすがに少女マンガの第一人者ですから、著者の話は大変説得力があります。
この本は、著者がイタリアの大学で講演したときの話と質疑応答をまとめたものが主となっていますので、大変読みやすく、また、読者の知りたいことを明らかにしていて読みごたえがあります。
少女マンガとは、少女の、少女による、少女のためのメディア。
30年以上も続いている少女マンガの作品がある。読者も大きくなっていくけれど、少女マンガを読むときには、心が少女に戻る。男は、いくつになっても少年の心を持っているというけれど、女も、いくつになっても少女の心を持っているのだ。
「リボンの騎士」を描いた手塚治虫は、かけがえのない贈り物を作品として少女たちに手渡した。それは、女の子にも自由はある、ということ。
著者は高校2年生のとき、手塚治虫の「新撰組」というマンガを読んで大変なショックを受けた。そして、こんなにショックを受けたのだから自分も誰かにショックを返したいと思い、それでマンガ家になると決心した。
今いる場所がすべてではないと考えると、脳が活性化する。
ふだん、気になっていることをずっとずっと考えているうちに、ある日突然、ストーリーがぱっと浮かぶ。
マンガ家の世界では、気が合う人、作品が好きな人同士で、おつきあいをする。
三度の出会いがあった。デビューできたこと、描ける場があったこと、よい編集担当に出会ったこと。
あっ、これが運だ。そう思ったときに、それを逃さないようにキャッチする。これが大切だ。
すごく面白いマンガには、コマのリズム、構図のリズム、台詞(セリフ)のリズムが三位一体となって感情を動かしてくる。
マンガのオーソドックスの基本を描いているのは、横山光輝、手塚治虫、そしてちばてつやの三人。この3人の技法をおさえておけば、マンガの基本は描ける。
「ポーの一族」、「11人いる!」はその発想に圧倒されました。「残酷な神が支配する」には、私の想像できない世界を見て、言葉が出ませんでした。とても同世代とは思えない思考の深さに感嘆します。
(2018年4月刊。1500円+税)

13・67

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 陳 浩基 、 出版  文芸春秋
妙ちきりんなタイトルの本です。13とは2013年のこと。香港の雨傘革命前夜です。67は1967年、香港で反中ではなく反英暴動が勃発した年です。関係ないけど、私が大学に入った年でもあります。
いわゆる警察小説です。腐敗した警察官を内部にかかえる香港警察のなかにいて、事件の犯人を推理していくところは本格派の推理小説です。したがって、グリコのように一粒が二度おいしい本になっています。
どんな悪事でも、賄賂さえ払えば、警察官は片目をつぶった。非合法の賭場や売春、薬物販売などを警察が捜査・摘発したときも、それは悪を一掃するためではなく、マフィアから金を得るためだった。警察にお金を払えば、期限付き許可証を買ったも同然で、しばらくは警察が邪魔することはないという仕掛けだ。
犯罪者は、買収した捜査員が上司に顔向けできるように刑務所に行ってもよいという仲間を定期的に差し出し、身代わりにする。こうやって暴かれる麻薬取引や賭博行為が実際に行われているものの氷山の一角なのは言うまでもない。
最前線の取締りが出来レースなのだから、警察上層部はまったく目隠しされた状態で治安が悪化しているなど、つゆ知らず、むしろ部下たちががんばって犯人をひとり挙げたと喜ぶ始末だ。警察に入れば、その一員となる、すると、どんな真正直な人間でも、まっすぐ胸をはって生きていくことはできない。
どんなに自分の力を買いかぶった自信家であろうと、いったん「船」を押しとどめようとすると、あっという間にいびられ、爪はじきにされ、警察組織で孤立無援となって、その先に出世のチャンスはない。
あまりに面白くて、車中で夢中になって読みふけってしまいました。
(2017年9月刊。1850円+税)

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