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2018年1月 の投稿

粉飾決算VS会計基準

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  細野 祐二 、 出版  日経BP社
 この本を読むと、大企業の経理って、本当にいいかげんなものだと思いました。また、大手の監査法人も大企業の言いなり、その召使でしかない存在だと痛感します。これじゃあ真面目に税務申告して税金を払っているのがバカらしくなってきます。まあ、国税庁の長官が例の佐川ですから、「アベ友」優先の税務行政はひどくなるばかりでしょうね・・・。それにしても、公認会計士って、実に哀れな職業なんですね。みんな何のために苦労して資格をとったんだろうかと信じられない思いがしました。
 360頁もある大作ですし、会計学のことは分かっていませんので、誤解しているところも多々あるかもしれませんが、ともかく最後まで読んでみました。
 公正なる会計慣行は常に二つ以上ありうる。アメリカに上場している日本の大企業は、日本の会計基準ではなく、アメリカの会計基準にしたがった財務諸表を作成して開示している。目的による優劣に差のある複数の公正なる会計慣行のなかで、さらに目的により優劣に差のある複数の会計処理の方法が並存可能であり、それは会計の常識であって、社会はこれを許容している。ところが、日本の裁判所は最高裁も含めて、「公正なる会計慣行は唯一だ」としている。これは、そもそも前提が間違っている。
税法基準とは、税務上損金処理できるものが計上されてさえいれば、あとは何をやってもいいということで、このようなふざけた会計慣行が、当時の大蔵省銀行統一経理基準において、公正なる会計慣行として立派に認められていた。
 粉飾決算とは、事実と異なる重要な財務情報を悪意をもって財務諸表に表示する決算行為をいう。悪意がなければ、たとえ重要な虚偽表示があろうと、それを粉飾決算とは言わない。悪意が経営者にあったかどうかは、経営者の心の中の問題である。外形的かつ客観的にこれを判別することはできない。会計基準の錯誤は、故意を阻却する。
監査報告書の製品差別化ができない監査業界において、監査法人が営業努力により新規の監査契約をとるのは難しい。しかし、監査法人がいったんとった監査契約を解約するのは、それ以上に難しい。上場会社の監査契約は適正意見を暗黙の前提として継続されるというのが社会的通念となっている。監査法人が交代するというのは、世間には言えないのっぴきならない事情があると考えられる。監査法人により不正会計処理が発見されるのは、監査法人が交代したあとの、新しい監査法人による新年度監査のときが圧倒的に多い。
 日本の4大監査法人のうち最大級の2監査法人(あずさと新日本)がこのざまでは、他の監査法人も推し知るべしで、社会は粉飾決算の発見防止機能について、もはや何の選択の余地も残されていない。日本の公認会計士監査制度については、抜本的な検討がおこなわれるべきだ。
ほとんどの日本の監査法人は、監査調書のドキュメンテーションと、有価証券報告書の作成補助に汲々としており、会社の内部統制から独立した会計監査などできもしなければ、事実としてやっていない。日本社会は、この現実を直視すべきである。
東芝は、監査法人にとってまことに良い顧客で、結果として何の意味もなかった例年の監査において、新日本監査法人に10億円、EYに17億円という、美味しい監査報酬を支払っていた。しかも、粉飾への共謀が明らかとなった2016年3月期には、粉飾訂正のためという口実で、新日本監査法人に53億円、EYに26億円、合計79億円の報酬を支払っている。ちなみに金融庁が、東芝の粉飾決算に対する監査について新日本監査法人に課した課徴金は21億円あまり。これでは新日本監査法人は焼け太りで、金融庁の課徴金など、たいた意味をもたない。
 今では公認会計士ではない著書の一連の鋭い指摘について、公認会計士側からの反論があれば、それもぜひ読んでみたいと思いました。
(2017年10月刊。2400円+税)

明るい失敗

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 原 和良 、 出版  クロスメディア・パブリッシング
 いい本です。読んでいるときから、気持ちが軽くなっていき、読み終わったときには、さっぱりした気持ちになって、さあ、あすはどんなあしたが待っているかなと期待できるようになります。軽い本です。200頁の本に明日から明るく生きていくヒントが満載です。そうか、そういうことだったのか、自分を振り返ることができます。
 忙しいとは、心をなくすと書く。充実した人生を送ろうとすると、人生は本当に時間がない。人は、世の中で大切にされていない、と感じたとき、やり甲斐や充実感を失い、同時に自分の生きている時間を奪われていると感じ、忙しいという感情をもってしまう。
忙しい人に仕事が集中する。なぜか・・・。本当に忙しい人は、短時間で質の良い仕事を仕上げる努力をする。
 忙しい人が忙しいなかで、長期にわたって効率的に仕事を続けるには必要条件がある。それは心身の健康状態を常に最高レベルに保つこと。
 忙しいと思うときこそ、適当なリフレッシュや休息が必要。
 ビジネスで一番大事なのは、貯金ではなく、他者からの信頼の貯金である。
 大なり小なり、人生には思いがけない災難がふりかかってくる。どんな災難がふってかかろうとも、前進するためには、いったんその災難を受け入れ、そこから前に進むしかない。
 他人(ひと)に助けを求めることが必要なときもある。しかし、自分自身に乗り越える覚悟がなければ、他人は助けようがない。
 弁護士である著者は、離婚事件を見ていて、何が幸福かを決めるのは、社会や他人ではなく、その当事者本人であることをつくづく感じると言います。私も、それは同感です。
 そしてまた、著者は弁護士として、たくさんの逆境を見てきた。弁護士の仕事は逆境を引き受け業とも言える、と言います。
逆境は永遠に続くものではない。どんな嵐も時間の経過とともに過ぎ去っていき、乗り越えることができる。
 まったく私も同感です。私は、付け加えると、辛い思いをした依頼者には、しばらく旅に出たらどうですかと進めています。時と場所を変えてみると、なあんだ・・・、なんで、あんなに苦しんでいたのだろう・・・と、自分を客観的にとらえ直すきっかけをつくってくれることがあるのです。
 失敗したときこそ笑いましょう。著者のこの呼び替えに私は大賛成です。人生には笑いが必要です。辛さや悔しさを乗り越えるためには、笑い飛ばす力が欠かせません。
 佐賀県出身で、東京で大活躍している弁護士の本です。映画『それでもボクはやっていない』のモデル事件となった痴漢冤罪事件の弁護人でもありました。一読を強くおすすめします。
(2017年10月刊。1380円+税)

いくさの底

カテゴリー:ヨーロッパ / 日本史(戦後)

(霧山昴)
著者 古処 誠二 、 出版  角川書店
 福岡県に生まれ、自衛隊にもいた若手の作家です。前に『中尉』という本を書いていて、私はその描写の迫力に圧倒されました。それなりに戦記物を読んでいる私ですが、存在感あふれる細やかな描写のなかに、忍び寄ってくる不気味さに心が震えてしまったのでした。
 『中尉』の紹介文は、こう書かれています。「敗戦間近のビルマ戦線にペスト囲い込みのため派遣された軍医・伊与田中尉。護衛の任に就いたわたしは、風采のあからぬ怠惰な軍医に苛立ちを隠せずにいた。しかし、駐屯する部落では若者の脱走と中尉の誘拐事件が起こるに及んで事情は一変する。誰かスパイと通じていたのか。あの男は、いったい何者だったのか・・・」
 今度の部隊も、ビルマルートを東へ外れた山の中。中国・重慶軍の侵入が見られる一帯というのですから、日本軍は中共軍ではなく、国民党軍と戦っていたわけです。そして、山の中の小さな村に駐屯します。村長が出てきて、それなりに愛想よく応対しますが、村人は冷淡です。そして、日本軍の隊長がある晩に殺されます。現地の人が使う刀によって、音もなく死んだのでした。犯人は分かりません。日本兵かもしれません。
 そして、次の殺人事件の被害者は、なんと村長。同じ手口です。
 戦場ミステリーとしても、本当によく出来ていると感嘆しながら一気に読みあげました。だって、結末を知らないでは、安心して眠ることなんか出来ませんからね・・・。
(2017年11月刊。1600円+税)

重力波で見える宇宙のはじまり

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者  ピエール・ヒネトリュイ 、 出版  講談社ブルーバックス新書
 フランスの理論物理学者による解説書です。よく分からないなりに、宇宙のなりたちを知りたくて読んでみました。手にとって軽い新書だからといって、内容まで軽いとは限りません。
これまで人類が宇宙を観測してきたのは、まずは可視光のおかげであり、次にはあらゆる波長帯の電磁波のおかげだ。
重力波は、質量の大きな物体が、すばやく動くときに発生する。重力波は、観測可能な宇宙の大きさほどの脅威的な長距離を伝わる。重力波は非常に弱い力のため、重力波が途中にある物質に乱されることはほとんどなく、宇宙全体に届く。そのため、重力波は重力を起因する現象(ブラックホール)や重力波によって支配されている宇宙全体を観測する非常に有効な手段となる。
この重力波を検出するのは難しく、重力波を直接検出するまでに100年もの年月がかかった。重力波も光速で移動する。
合体した二つのブラックホールの質量を調べてみると、太陽の29個分と、36個分だったのが、合体したのだから、65個分のはずだったけれど、実際には62個分しかない。
重力波は、基本的な力のなかでも、最も弱いものだったが、今ではシンデレラのように主役におどり出ている。
重力波という、つかまえどころのないテーマを分かりやすく(実際には難しすぎたと反省しています)解説してくれる著者に感謝します。
たまには俗世間の憂さを忘れて星空でもながめないと毎日やっていけませんよね。
(2017年10月刊。1200円+税)

「主権なき平和国家」

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 伊勢崎賢治・布施祐仁   出版  集英社
東チモールやアフガニスタンで国連代表として武装解除の仕事をしてきた伊勢崎氏は日本が真の主権国家であるなら、憲法を改定するかどうかの議論の前に日米地位協定を改定すべきだと主張しています。
これには私もまったく同感です。沖縄でアメリカがどんなにひどいことをしても、日本政府(アベ政権)は文句の一つも言わず、ただただ大金を差し出して臣下のように尽くすばかりです。これで「愛国心」教育を言いたてるのですから、あまりに情けなくて涙が出てきます。
現在の日本は、形式的には「独立国」でも、日米地位協定によって主権が大きく損なわれている。主権とは、国家が他国からの干渉を受けずに独自の意思決定を行う権利のこと。それは当然に、アメリカ人が日本国内で犯罪をおかしたら、直ちに逮捕して裁判にかけることができるはずです。
しかし、現実には、アメリカ軍の関係者はほとんど逮捕されず、訴追されることもなく、アメリカ本土へまんまと逃げ帰っています。これって、悔しくないですか・・・。まるで、日本は植民地、治外法権じゃありませんか。
強姦容疑で摘発されたアメリカ兵35人のうち、8割の30人は逮捕されていない。殺人などの凶悪犯として摘発されたアメリカ兵118人のうち半数の58人は拘束されないまま終わっている。
8年間で、アメリカ軍関係者の起訴率は17.5%でしかない。これは、日本全体の起訴率48・6%の半分以下。
しかも日本はドイツなどと違って、アメリカ軍に雇傭されているわけではない、単にアメリカ軍が契約しているだけの民間業者とその従業員(コントラクター)についてまで特別扱いをしている。
アメリカ軍は、日本全国どこにでも好きなところに基地を設定することができる(全土基地方式)。これは、アメリカが実力支配してきたアフガニスタンにもないもの。
日本が負担しているアメリカ軍の関係経費は2016年度に7642億円。このうち、いわゆる思いやり予算は、1920億円。1978年度に62億円でスタートしたものが、15年間で30倍にもふくれあがった。
たとえば、アメリカ軍の家族住宅の建設費は2900万円。これに対して自衛隊の家族用官舎は1000万円でしかない。日本が負担する在日アメリカ軍(軍人・軍属あわせて4万人)の光熱水費は247億円。これに対して、自衛隊(自衛官だけで5倍以上の22万5千人)の光熱水費は329億円。アメリカ軍はまさしく王侯貴族のように湯水のごとく使っていて、私たち日本人は税金で負担しているわけです。
そもそも、アメリカ軍は日本を防衛するために日本に駐留しているのではありません。あくまでアメリカの防衛戦略の一環として日本全国に基地を置いているだけなのに、あたかも支配者のように好き勝手に行動しているのです。
私は何もアメリカと国交断絶しろ、なんて叫ぶつもりはありません。そうではなくて、この本の著者たちが主張しているように、アメリカと対等の立場で交渉すべきだと言いたいのです。
(2017年11月刊。1500円+税)

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