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2017年9月 の投稿

在日米軍

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 梅林 宏道 、 出版  岩波新書
首都東京に巨大な外国軍の基地があって、アメリカ人が自由気ままに入出国しているなんて、まるで日本はアメリカの植民地です。しかも、その外国軍たるや日本を守るためにいるわけではありません。すべてはアメリカ本土の命令に従うだけです。
なんで、こんな巨大な外国軍が戦後70年以上も日本に居すわっているのか・・・。要するに、日本が至れり尽くせりの優遇をしているからです。例の「思いやり予算」です。日本の高速道路だって、アメリカ軍人はタダで走っているとのこと。ひどい話です。
諸外国では兵力を半減しているのに、日本は相変わらず、24万人の将兵をかかえています。そして、軍事予算が安倍政権になってから増え続け、今では5兆円を軽く超えています。例の北朝鮮ミサイルうち上げの「効果」です。
日本の高額支援のおかげで、アメリカ軍を配備するのに、日本はアメリカ国内まで含めて世界でもっとも安上がりの場所だ。
日本のアメリカ軍の駐留経費の負担率は74%をこえ、同盟国のうちでトップ。ドイツの32.6%、韓国の40%、イタリアの41%を大きく上回っている。
在日アメリカ軍は5万人で、海軍と海兵隊が、それぞれ2万人ずついる。
在韓アメリカ軍は3万人弱。
沖縄は、海兵隊の練度を退化させる。沖縄は利用できる訓練区域はとても少なく、スペースが小さい。地域の政治問題があるので、実弾砲弾射撃は許されていない。訓練の必要性をみたさないので、アメリカ本土で身につけた技術は徐々に退化してしまう。
アメリカ軍がアジアにいる結果、中国や北朝鮮の軍拡を推進してきたという側面は大きい。
横須賀を母港とする原子力空母、ジョージ・ワシントンは加圧水型軽水炉2基で動力をまかなっている。東京湾に原発が浮かんでいることのリスクは、きわめて大きい。
ロナルド・レーガンは3.11のあと「トモダチ作戦」に従事したが、多くの乗組員が被曝し、アメリカの裁判所で裁判が始まっている。
2001年(平成13年)の9.11のあと、根拠もなくイラク戦争に走ったアメリカは、国際法も無視した無法国家そのものだった。
日本にいるアメリカ軍が日米安保条約の取りきめにしたがって、日本を守るなんてことは絶対にありえないし、起こりえるはずもありません。
兵士の精神状態、士気を維持し、向上させるためには、使命感と特権意識を植えつける必要がある。なるほど、戦前、大坂で起きた「ゴー・ストップ事件」で、それが認められます。
トランプ大統領のSNSをみていると、アメリカこそ世界最大の「ならずもの国家」ではないかという気がしてなりません。あんな大統領が核のボタンを持っていることを考えると、北朝鮮なんて、まだかわいいと思えてしまうほどです。
そして、日本ではアベ首相がもっとも危険人物と考えるべきではないでしょうか・・・。
(2017年6月刊。880円+税)

ボコ・ハラム

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 白戸 圭一 、 出版  新潮社
2014年4月16日、アフリカのナイジェリアの中高一貫制女子高の寄宿舎を武装集団が襲撃し、女子生徒300人近くを連れ去ったというニュースは、私にとっても衝撃的でした。被害者の年齢は16歳から18歳で、今なお、その行方は判明していません。自爆テロ要員になっているのではないかという報道もあり、私も及ばずながら心を痛めています。
犯人とされるボコ・ハラムは、この事件で一躍、全世界に知られるようになりました。
ボコ・ハラムのボコとは、ナイジェリア北部で広く話されているハウサ語で「西洋の知、西洋の教育システム」を意味し、ハラムはアラビア語で禁忌・禁止を意味する。
つまり、西洋に源流をもつ価値・技術を否定し、イスラム国家の樹立を目指す集団だ。
ボコ・ハラムが2014年に殺害した民間人は6644人。これは、ISのテロによる民間人犠牲者6073人を上回る。
この本は、ボコ・ハラムとは何か、なぜ生まれたのかを追跡しています。そのためには、ナイジェリアという国を知る必要があります。
ナイジェリアは、北部アフリカ随一の経済大国。石油産業が支えている。ナイジェリアの石油生産能力は1日最大250万バレルで、アフリカ最大。ナイジェリアは人口大国でもある。日本の2.5倍の国土に、総人口1億8220万人、世界で7番目に多い。ナイジェリアの政情は安定せず、これまで軍事クーデタが7回も起きている。
ボコ・ハラムは、単なる「反キリスト教」の組織ではない。ボコ・ハラムの犠牲者の多くは、同じ北部のイスラム教徒なのだ。
ボコ・ハラムは一枚岩の組織ではなく、2014年4月時点で、6つの派閥があった。ボコ・ハラムは、確たる指揮と統制を有したことがない。
ナイジェリアでは、現場の兵士や警察官の士気は著しく低い。ボコ・ハラムとの戦闘をサボタージュするケースも多発している。
少女による自爆テロが頻発している。これは、ボコ・ハラムから強要されているから殺害されていると言ったほうが実態に即している。
政府と官僚組織がこわれてしまうと、国家の体裁をなさなくなるのですね・・・。
(2017年7月刊。1300円+税)

崩れた原発「経済神話」

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 新潟日報原発問題取材班 、 出版  明石書店
世の中には不思議な、信じられないような現象が多々ありますが、今なお「原発」がなければ日本経済は成り立たないと信じ込んでいる(信じ込まされている)人が少なくないのには驚き、かつ呆れてしまいます。
3.11のあと、「福一」の原子炉は今なおまったく手つかずで放射能を出し続けていて、人間が近づくのを許しません。たまる一方の放射能廃棄物は地下に埋めようもないのです。
原発をつくるときには地元は景気が良かった。しかし、その恩恵は一過性にすぎなかった。原発が出来ても、思ったほど人口は増えなかった。原発は装置産業なので、装置をつくってしまえば、その後は保守管理に関わる雇用しか生まれない。原発誘致で地域経済が活性化するというのは幻想だ。
大都市に原発は今もない。なぜか・・・。大量の冷却水を得られるような海岸地域に未開発地はほとんどない。要は、事故が起きたとき、大都会の住民に補償なんてとても出来ないからだ。つまりは、原発の危険性を電力会社も国も承知のうえなのです。知らない(知らされていない)のは、「田舎」の住民だけ。
3.11福島事故で東電が被災者に支払った賠償額は、5年間で6兆円をこえた。でも、自分の家に住めないときに、たとえ1000万円もらってもどうしようもありませんよね。それが何十万円だったら話にもなりません。
そして、日本は原発に頼る必要はないのです。火力発電所では、LNGが52%、石炭が37%、石油が8%。LNGの中東依存度は29%でしかない。LNGの輸入先は、オーストラリア、マレーシア、インドネシアと分散している。アメリカ産シェールガス由来のLNGも日本は輸入しはじめている。
ひとたび事故がおきたら人間の手の及ばない原発は経済的に見合わない。
私は、一刻も早く、ドイツのように政府は脱原発宣言をして、全面的廃炉に向けて着実に手をうつべきだと思います。
東電の柏崎刈羽原発をかかえる地元新聞社として、原発「神話」に真正面から取り組んだ力作です。
(2017年6月刊。2000円+税)

復讐者マレルバ

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ジュセッペ・グラッソネッリ、カルメーロ・サルド 、 出版  早川書房
イタリアのマフィアに挑んで生き残ったグループのリーダーであり、ヒットマンの青年の回想記です。ときは、検察官が公道上で爆殺されたころの話です。
1992年、27歳で逮捕された著者(本名がグラッソネッリで、本書ではアントニオ・ブラッソ)は終身刑4回と懲役30年の判決によって、現在も服役中。すでに20年をこえているが、妨害的終身刑なので、外出許可は認められない。つまり、普通終身刑なら20年間服役したあとは、1日、2日単位の外出許可を申請して認められることがあるけれど、妨害的終身刑の囚人は、塀の中で死ぬ運命にある
妨害的終身刑とはマフィアの抗争がらみの殺人を犯した者だけを対象とする刑だ。ちなみに、イタリアは日本と違って死刑は廃止されている。
著者は、3年間の昼間単独室処遇のあと、15年間の厳重拘禁措置がとられ、現在は、「高度に危険な囚人』扱いとなっている。ところが、著者は小学校しか出ていなかったが、塀の中で中学・高校の卒業資格をとり、ナポリ大学の特別講義も所内で受講し、ついに2013年、48歳で、文学・哲学科を満点評価で卒業した。
ですから、この著者が書いた回想録なのです。迫真性にみちみちているのは、そのためです。殺人場面など、下手な小説どころではありません。
著者は司法取引を拒否しています。いわゆる「改悛者」になると、かつての仲間たちからは裏切り者とされ、家族をすくめて報復の恐れがあるからです。
逮捕され、裁判になってから著者は多くの真実を知りました。
敵と味方どちらの陣営にも、ありとあらゆる卑劣な行為と裏切りがあった。していたことは、まったく気高くもなければ、名誉のかけらもない戦いだった。殺しにしても身勝手な理由、都合よくねじ曲げた理由で命じられたものばかりで、ひどいものだった。
それなりに崇高で明確な目的のために殺していたつもりだった。だけど、あんなに単純な理由で仲間を殺す人間がこんなに多いとは思わなかった。ヤクの代金を払いたくなかったとか、借金を返したくなかったとか、妻の愛人らしいとか・・・。
そして、どんな殺しにも偉大な理想の衣装を着せることが何より大切だった。
恐ろしい悪行の数々がこうして正当化された。
著者はシチリア(シシリー島)に1965年に生まれ、幼いころからワルで、盗みを重ね、少年ギャング団の頭となり、ついにはドイツへ逃亡し、ハンブルグでいかさまギャンブラーになって、生計を立てていた。それが、1986年夏、21歳のとき、シチリアに里帰りしていたとき、マフィアによって祖父たちが虐殺されたことから大暗転した。その報復を目ざして、ついに4年後に地元マフィアのボスたちの暗殺に成功した。
暴力とギャンブルそしてセックスがらみの放蕩の青春時代が生々しく描かれています。大薮春彦の小説顔負けです。
殺人は報復の連鎖を生むという実例でもあります。
ひるがえって日本の暴力団は、公共事業を安定的財源としていることは世間公知の事実ですが、なぜか警察はその点を一向に究明しようとしません。
いくら集会やデモ(パレード)で暴力追放を叫んでも、その点にメスを入れないと暴力団の資金源を断つことは出来ないと私は思います。イタリアのマフィアに関心のある人には強く一読をおすすめします。
(2017年6月刊。2200円+税)

山と河が僕の仕事場2

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 牧 浩之 、 出版  フライの雑誌社
神奈川県川崎市で生まれ育った都会っ子が宮崎県高原町で山の生活を謳歌しているという、読んで、また見て楽しい、写真たっぷりの体験記(レポート)です。
フライフッシングの毛鉤(けばり)づくりの仕事に始まり、山でシカやイノシシそしてカモなどを捕まえる猟師となり、果てはシイタケ栽培やら農業にまで手を広げていくのです。
毎日が、生き物を相手としていますので、予定が狂わされることも多いようですが、次第にネットワークが広がっていく様子は頼もしくもあります。
著者はよほど器用な人なのでしょうね。
フライフッシング用の毛鉤をつくっていく過程が写真でも紹介されていますし、シカやイノシシを解体・精肉化していく様子も見事です。
九州は宮崎の山の中で住むのって、虫やら蛇やらいて、大変じゃないかと思いますが、地元出身の気丈夫な奥様とうまく折りあっていきながら、毎日、楽しそうです。
マガモの尻に生えている羽はCDC(フランス語です)と呼ばれる特別の羽。フライフィッシングにはもってこいの羽だ。
罠にかかったメスジカは最後まで逃げようとするが、オスジカは、意を決すると、角で人間に向かってくる。ええって、こんな違いがあるのですね・・・。
シカと同じようにイノシシも罠にかかっても危険なようです。うかつに近づくと踏み倒されそうです。
霧島山麓には、1平方キロメートルに50頭ものシカが生息するとみられている。
シカやイノシシが村人の畑を襲い、日常的に被害を与えているのです。ですから、人間と共存するためには、一定の駆除は必要だとのことです。現実は、単純に野生動物を保護しましょうとはいかないのですね・・・。
著者は猟師になってからアルコールを絶っているとのこと(なぜなのか、理由は書いてありません)。代わりに奥様がビール党としてがんばっているようです。
読んで楽しい、大自然の中で楽しく生きているという素晴らしいレポートです。前の本とあわせて、一読をおすすめします。
(2017年2月刊。1600円+税)

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