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2017年6月 の投稿

中国経済を読み解く

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 室井 秀太郎 、 出版  文眞堂
このところ中国へ旅行していませんが、北京や上海・大連には何回か行ったことがあります。その都度、どんどん超巨大都市になっていくのを目のあたりしました。
中国共産党による一党支配下にあるにせよ、「共産中国」などと呼ぶより資本主義を謳歌している国としか見れません。
シルクロードにも行きましたが、ウルムチも大都会だと思いました。重慶や北京、西安も、いずれも日本の東京に勝るとも劣らない巨大都市です。
この本は、日経新聞の記者として中国に常駐していた体験もふまえて、中国経済をみるときに欠かせない視点を提供しています。わずか150頁ほどの薄っぺらな本ですが、いくつかの大切な欠かせない視点が盛り込まれていて勉強になりました。
日本人は、中国経済が移行経済であることを、よく認識していない。
中国にも証券取引所があるが、地方政府に上場企業の枠を割り当てたことから、地方政府は、効率の悪い地方の国有企業を救済するために株式市場を利用した。株式市場は、成長性のある企業を育てる場はなく、赤字企業を救済する手段になっている。
株式市場では個人投資家が中心で、個別株式の値動きに着目して、短期的な売買で値上り益を確保しようとする行動をとることが多い。
中国の株式市場には、うさんくささが付きまとう。中国的な市場経済とは、あくまで「社会主義」の冠がかぶせられた、資本主義国のものとは異質のものだ。
都市と農村の実質的な所得格差は5~6倍もある。東部地域の1人あたりの平均可処分所得は2万8223元、中部地域は1万8442元と、東部の65%。そして西部地域は1万6868元で、東部の60%。
業種でみると、最高の金融業と最低の農・林・牧・漁業では3.6倍の差がある。
これらの格差は固定化する傾向にある。
中国では、土地は国有であり、土地そのものを売買することはできない。しかし、土地の使用権は売買できる。そこで、地方政府は、農民から安い価格で収用した土地の使用権を不動産開発会社に高く売却して、差額を得ている。
インテリやマスコミ関係者のあいだでは共産党が求心力を失っている。
アメリカは、中国の最大の輸出先である。2015年の中国のアメリカ向け輸出は4095億ドルで、中国の輸出の18%を占めた。そして、中国のアメリカからの輸入は1487億ドルで、輸入全体の8.8%を占める。つまり、輸入額は輸出額の3分の1でしかない。
中国の外貨準備は3兆ドルを維持しており、日本の外貨準備の3倍。
外貨準備の大半はドルで運用されている。なかでも、アメリカの国債の保有額は1兆ドルを超えており、中国は世界最大のアメリカ国債保有国である。
中国にとって、ドルの価値が低下すると、外貨準備が目減りしてしまうという問題がある。中国はアメリカとの貿易で黒字をため込み、蓄積された外貨でアメリカの国債を購入してアメリカの借金を支えているという相互依存関係ができあがっている。
習近平は、毛沢東を除くと、新中国の歴史上初めての後ろ盾をもたない共産党トップである。このため習近平は、就任直後から、自らの立場を正当化する必要に迫られた。そこで習近平が実行したのは、反腐敗闘争の推進と、自らへの権力の集中と、宣伝の強化である。
北朝鮮の金正恩政権がいつまでもつのか、はなはだ疑問ですが、中国共産党による一党支配だって、その内実は危いようです。しかし、ひるがえって、わが日本はどうでしょうか。「一強多弱」と言われる安倍政権だって、もろいものだと思います。加計学園はひどいものですし、森友学園問題だって、まだまだ収拾したはずはありませんし・・・。
(2017年1月刊。1600円+税)

守柔・・・現代の護民官を志して

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 守屋 克彦 、 出版 日本評論社
守柔って、いったい何だろうと思いました。老子52章に「守柔曰強」という表現があるとのこと。「柔を守るを強という」、つまり、柔弱の道を守るのは、かえって剛強の道であると解釈されている。
著者は東北大学出身で判官になり、青法協の熱心な会員となります。それは、まだ司法反動の嵐が吹き荒れていない、のどかな時代を過ごします。東京地裁にいたとき、青法協会員の裁判官の集まりとして「J・J会」をつくって研究会活動を始めてもいます。
東京J・J会が始まったとき101人、最終的には240人の会員を擁していた。
信じられない人数です。ところが、その会報に会員の異動をのせていたところ、それが「敵」の手にわたり、「裁判所の共産党員」とデッチ上げられてしまうのでした。
東北大学生として司法試験には現役での合格ですが、9人いたとのことです。著者は実質8ヶ月間の勉強で合格しています。
病気のため1年間療養して、12期として司法研修所に入った。あとで再任拒否された宮本康昭氏も同期。のちに最高裁長官となった町田顕裁判官は、司法修習生のときから青法協会員として活発に活動していて、東京J・J会にも当初から入会するという、熱心な青法協会員だった。
平賀書簡という地裁所長による裁判干渉事件が起きたとき、福島重雄裁判官から著者は真っ先に相談を受けた。
「正面から問題にしようと言っている福島さんを孤立させるわけにはいかないという決断には時間はかからなかった。しかし、裁判所のなかで、多分ただではすまないだろうなという不安はあった」
「父親から、何かあると黒星判事と言われて、地方回りをさせられるそうだと聞かされていたことを思い出した」
著者は所長からの事情聴取を3回うけた。青法協からの脱会の意思の有無を問われ、「会にとどまって事態を収拾したい」と答えた。
著者は最高裁による再任拒否者の筆頭とみられていた。ところが、著者ではなく、宮本康昭氏が拒否された。
全国裁判官懇話会が始まったのは昭和46年10月のこと。昭和47年2月、大阪で開かれたときには全国から255人もの裁判官が参集した。
14期では再任拒否は出なかった。
そして、1999年11月の懇話会に矢口洪一・最高裁元長官を招いて講演してもらった。
矢口洪一は、全然反省していない。矢口のなかでは宮本氏の首を切ったことも、懇話会に出て話すことも、まったく矛盾していないと思われる。
著者自身は肯定的に評価しているけれど、「矢口を呼んだのは絶対に間違いだ」と言う人も少なくない。
私の同期の元裁判官もその一人です。当時、わざわざ席をはずしたとのことです。
その結果、裁判所はどうなったか。上の方ばかり見ている、いわゆるヒラメ裁判官が多くなり、裁判所の活気が低下していく気配が生まれた。矢口長官のご機嫌をうかがうような人たちが矢口長官の意向を先取りして(忖度して)締め付けをした。これは官僚組織の通弊だ。
宮本氏の再任拒否に対して、東京の裁判所では要望書を集めることは出来なかった。
やがて、最高裁の局付判事補10数名が青法協会員だったところ、集団で脱退した。その先頭を切ったのが町田顕だった。
青法協には、東大のセツルメント出身の人が多かった。町田顕もその一人だった。
本当によい裁判をしようと思っていた人間の集まりがJ・J会だった。
自分がすすんで加入した会に対する退会の意思を内容証明郵便で出して、司法行政の管理職に報告するところまで追い込まれた行動を転向にはあたらないと言えるものなのか、疑問を感じる。
脱会しないで残った方にしても、余計な不利益は避けたいという自己規制が働くことになる。全体として、組織の活性化には大変なマイナスになったことは否定できない。
このような雰囲気に失望して辞めていた裁判官の仲間が多かったし、優れた人材が新任拒否で裁判所に入れなかったりして、日本の司法にとって取り返しのつかない損失がもたらされた時代だった。
どうでしょうか、今も、日本の裁判所のなかはその「損失」が拡大再生産されたまま、活気に乏しいままのような気がしてなりません。本書は決して過去の話ではなく、現代に生きている深刻な問いかけをなしていると思います。
聞き書きが本になっていますので、大変わかりやすい読みものとなっています。「司法の危機」に関心のある人には欠かせない本だと思います。一読を強くおすすめします。
なお、最新の判例時報に宮本康昭氏が連載をはじめました。心ある裁判官には社会から課せられた重い任務から、逃げずに誠実に遂行してほしいと心から願っています。
(2017年5月刊。1400円+税)

通州事件

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 広中 一成 、 出版  星海社新書
通州事件が起きたのは、1937年7月29日。通州は北京市の東側にある。
通州に駐屯していた保安隊が反乱を起こし、日本軍通州守備隊の動きを封じたうえで、逃げまどう日本居留民を次々に捕まえて殺害した。通州事件で亡くなった日本居留民は日本人114人、朝鮮人111人のあわせて225人。
通州事件発生の一報はすぐに日本に伝わり、日中戦争の緒戦の勝利に熱狂していた日本国民に大きな衝撃を与えた。
この通州事件の起きる3週間前の1937年7月7日、北京市郊外の盧溝橋で日中両軍が軍事衝突を起こした。この戦いをきっかけとして、日本軍は本格的に中国侵略を開始し、1945年8月まで、8年に及ぶ泥沼の日中戦争に突入した。
通州は、日本のカイライ政権である冀東(冀東)防共自治政府が支配していた都市であり、その治安維持部隊である保安隊が日本軍に反乱して日本人居留民の多くを殺害したわけですので、ショックが多かったのは当然です。
では、なぜ保安隊は反乱を起こしたのか。そして、兵隊ではない日本人居留民を200人以上も殺害したのか・・・・。
この通州事件というのは、私はこの本を読むまで詳細を知りませんでしたが、漫画家の小林よしのりが1998年に『戦争論』で通州事件を描いたことから広く知られるようになったものです。
小林よしのりは、この事件によって、日本国内の中国に対する怒りの世論がまきおこり、戦争支持の国内世論を形成したと論じた。
通州は、今では北京市通州区となっていて、多くのマンションや商店の立ち並ぶベッドタウンである。北京市の中心から東へ20キロのところにある。
日本軍の通州守備隊に反旗を翻したのは、保守隊7000人だった。事件を起こしたのは保安隊であり、通州の中国人住民は日本居留民の殺害に加わってはいない。
通州事件は周到な準備のうえに実行された。その背景には、保安隊員がもともと抱いていた抗日意識、そして軍統や中国共産党による謀略工作が大きく影響したと考えられる。
通州事件のあと、日本軍に救出された居留民は、日本人73人、朝鮮人58人の、あわせて131人だった。つまり、通州にいた日本居留民の半数以上が通州事件によって亡くなった。これら日本居留民は、密輸品や麻薬などの禁制品を取り扱う者が少なくなかった。ヘロインを取り扱っていた日本居留民が通州には存在していた。
日本軍が中国でヘロインの密売買に手を出して、大もうけしていたことが今では判明しています。日中戦争は高級軍人たちの金もうけに利用されてもいたのです。となれば、ヘロインを取り扱う日本居留民とそれを公認している日本軍に対して怒りを燃やす中国人がいても不思議ではなくなります。
つまり、日本軍と日本人が事件のタネをまいていたことになるのではないでしょうか・・・。
(2016年12月刊。880円+税)

ジャングルの極限レースを走った犬

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ミカエル・リンドノード 、 出版  早川書房
この本のタイトルを読んだとき、私の頭の中には、いくつものハテナマーク?が明滅しました。ジャングルの極限レースって、何なの? 北極の氷のなかを走る耐久レースじゃないの? いったい、どこを走るっていうの? それに、レースに犬が加わるって、何? まさかカナダの犬ぞりレースじゃないんでしょ?
ですから、犬派の私としては、何の話なのか、突きとめなくてはなりません。
場所は中南米のエクアドル。700キロのレースだ。158キロをトレッキング・登山・懸垂下降
で、412キロをサイクリングで、それから128キロをカヤックで進む。ゴールまでの標準時間は110時間から190時間。昼夜8日間にわたるレース。標高4000メートル地点からスタートし、ゴールは海抜ゼロ地点。それまで2度にわたって2000メートル地点まで下り、2度にわたって再度4000メートル地点へ登る。有毒のクモやヘビ、モンスーン氷、ジャングル、急流が行手にある。
4人一組で53チームが参加する。ルールでは睡眠は1時間単位でとることになっている。たとえ数分でも時間を過ぎたら、次の1時間になるまで出発できない。もっとも木々が密集し、もっとも人里離れたジャングル地帯。そこを通過するためには、GPSナビゲーションの使用が認められていた。GPSなしでそのエリアを進むのはほぼ不可能。
著者は途中で、泥だらけの、ぼろぼろの目をした犬を見つけた。その犬は実に平然としていた。威厳があり、その穏やかな様子に惹きつけられた。その犬は、ゆっくり近づいてきた。温まったミートボールを差し出し、「はい、どうぞ」と言うと、ほとんど一口で平らげてしまった。
「きみ、お腹が空いていたんだね」
そして、著者たちは出発する。すると、犬がついて来ている。
「きみも一緒に来るかい?」
その犬は、顔を上げ、目を見開いて見つめた。ヘッドランプの光で、その瞳が琥珀色をしていて、茶色い線に囲まれているのか分かった。
著者たちは道に迷った。
「ここは、きみの国だろ。道を教えてくれないかな」
犬は先頭に立って歩きはじめた。しかし、やがて、犬も迷っていることが分かった。カヌーに乗り込むと、犬は泳いで必死にうしろを尾いてきた。
結局、著者たちのチームは146時間でゴールにたどり着いた。12位。悪くはない。だけど、すばらしくもない。そして、この、レースに途中から参加した犬、アーサーと名づけた犬をスウェーデンに連れ帰るのです。アーサー(犬)が極限レースをどうやって乗り切ったかも興味深いところです。連れ帰るための苦労は並たいていのものではありませんでした。なにしろ、ジャングルで出会っただけの野良犬なんです。検疫に手間と時間がかかるのも当然です。しかし、それを忍耐強くやりきったのです。
それにしても、なんと賢い犬なんでしょうね。犬って、すごいですね。世界には、こんな極限レースがあること、そして、途中からチームに参加した犬の賢さ、それを受け入れた人々の心の温かさに読んでる私の心まで、じんわり、ほっこり温まりました。
犬好きのあなたなら、絶対に見のがせない本ですよ。
(2017年4月刊。1800円+税)

読んじゃいなよ!

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 高橋 源一郎 、 出版  岩波新書
著者による人生相談の回答は、いつも感嘆・驚嘆・敬服しています。人生とは何かについての深い洞察をふまえた的確な回答には胸のすく思いがします。
著者は、学生時代は全共闘のメンバーとして暴れまわって、結局、大学は卒業していません。私は当時、アンチ全共闘でしたし、暴力賛美は間違いだと当時も今も考えていますが、著者は、その間違いを自ら克服し、人間としての幅と深みをしっかり身につけています。同世代として、うらやましい限りです。
そして、自らは大学を卒業していないのに、今では大学教授として学生を指導する身です。著者から教えられている学生は幸せです。私だってもっと若ければ、著者の教室にもぐり込んで、聴講生になりたいくらいです。
そんな著者のゼミに哲学者と憲法学者と詩人を招いて学生たちが質疑・応答をするのです。読んでいると、世界が広がる気がしてきます。学生の自由な発想にもつづくやりとりが面白くて、350頁もある分厚い新書ですが一気読みしてしまいました。
大学って、一体、何を学ぶところなんだろうと疑問に思っている若い人にはぜひ読んでほしいと思いました。
ちなみに私の場合には、学生セツルメント活動に3年あまりも没頭して、そこで学んだことが大学生活のほとんどすべてです。ですから、今、そこで十分でなかったこと、学び足りなかったこととしてフランス語を学び続け、本を大量に読んでいるわけです。
(2016年11月刊。980円+税)

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