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2017年6月 の投稿

フランスの美しい村・愛らしい町

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 上野 美千代 、 出版  米村推古書院
フランスには、「もっとも美しい村」と認定された村々があります。私も、そのうちのいくつかに行ったことがありますが、たしかに「もっとも美しい村」だと名乗っていいところだと思いました。
フランスが日本と違うところは(私がそう思うのは)、日本のように派手な広告・看板・ネオンサインがなく(少なく)、昔の外観を残して(内装は近代化しても)いることです。ですから、そこに行くと、心が本当に落ち着くのです。
そして、人々はテラス席、つまり店内よりも店の外のテーブルで飲食し、談笑し、のんびりと時を過ごしています。それは、、なぜか不思議なのですが、蚊やハエがいない(少ない)ことにもよります。日本だったら、蚊取り線香やらハエ取り紙をそこらじゅうに置いておかなければいけないのに、フランスは夜になっても外で食事をしても虫が寄ってこないのです。本当に不思議です。
そして、南フランスだと、夏に雨が降ることはなく、夜の8時まで昼間のように明るいのです。ああ、こんなことを思い出すと、またぜひフランスに行ってみたくなります・・・。
毎年のようにフランスに行っていたのですが、このところ残念なことにフランスに行っていません。それでも、フランス語のほうは日夜話せるように勉強し、努力しています。
この本の著者は英語オンリーでフランス中をまわったようですが、やはりフランスではフランス語を話せるのにこしたことはありません。私のフランス語力はたいしたことはありません(残念なことに・・・)が、それでもフランスで旅行するのには困らない程度のレベルではあるのです。なにしろ、弁護士になって以来、つまり40年以上、NHKのラジオ講座を聞き、仏検を受験しているのですから・・・。
フランスの美しい村、愛らしい町として本書に登場してくる場所のいくつかは、私も訪れたことがあります。南フランスのエクサンプロヴァンスには2回も行ってきました。初めは40代のとき、「独身」と詐称して妻子を置いて4週間も学生寮に入り、外国人向けの夏期集中講座に参加したのです。私は、これでフランスで暮らしていけるという自信がつきました。
日本にも、たくさんの美しい村や愛らしい町があります。いま私は、そんな町や村になんとかして残らず行ってみたいという「野望」に燃えています。
フランスの地方の良さがコンパクトに凝集された写真で、一見の価値があります。お値段も手頃です。著者の女性は、なんと福岡県は門司港近くでカフェを営んでいるとのこと。ぜひ、ご挨拶したいものです。
(2017年3月刊。1780円+税)

キッチハイク

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 山本 雅也 、 出版  集英社
世界の人々が、家庭料理として、どんなものを毎日食べているのか、やはり知りたいですよね。
東京生まれの32歳。早稲田大学を卒業して博報堂に入社した著者が、退社して、「80日間、世界一周」ならぬ、「450日かけて世界一周」、キッチンヒッチハイクしてまわった偉大というか画期的な記録です。
まあ、一読というか、一見の価値があります。よほどお腹が丈夫なのでしょうね。わずか一回だけトイレにこもったという失敗談が紹介されるだけです。
著者がキッチハイクを始めたのは、2013年6月のこと。マレーシアを皮切りにシンガポールへ向かった。
アジアの国々、南北アメリカ、北アフリカそしてヨーロッパ、よくぞまわりましたね。韓国にも台湾にも行っています。
家庭料理をつくっている場面の写真、そして出来あがった料理を前にポーズを決める人物写真など、眺めているだけでも楽しくなってきます。
この本は、世界中でキッチンをヒッチハイクした男の食卓交遊録であると同時に、人を訪ねてごはんを食べる時代の始まりを告げる本である。
なーるほど、そうも言えるのですね・・・。
そして、今、昔は、この趣旨でWebサービスを展開しているそうです。
それにしても、家庭のなか、それも台所にまで入り込んで、食事をともにするとは、大胆かつ勇気ある行動ですね。若くなければ、絶対に出来ませんよね。
(2017年4月刊。1600円+税)

灰緑色の戦史

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 大木 毅 、 出版  作品社
ドイツ国防軍の実体に迫った本です。ドイツ国防軍神話が見事なまでに覆されています。
そして、ロンメル将軍が等身大で描かれているところも、私にとっては新鮮な衝撃でした。
ドイツ国防軍の神話とは、ヒトラーの無知と無謀な戦争指導が、伝統あるドイツ国防軍参謀本部の優れた作戦を台無しにしてしまったのだというもの。それは、ヒトラーの妨害さえなければ、ドイツ国防軍は戦争に勝っていたというイメージを広めている。その神話をつくったのは、戦略をめぐってヒトラーと対立し、参謀総長の職を逐(お)われたフランツ・ハルダー上級大将たちのグループ。
冷戦に直面し、ドイツ軍が豊富に有していたソ連軍との戦闘体験を活用したいというアメリカ陸軍がハルダー将軍たちの研究報告書を普及した。ハルダー史観によって、神話が定着した。しかし、冷戦の終結によって、ソ連が押収していたドイツ軍の文書が明るみに出たことによって、このハルダー史観ドイツ国防軍神話は覆されていった。たとえば、ダンケルク撤退を止められなかったのはヒトラーにのみ責任があったのではない・・・。
イギリス上空の制空権をめぐる一連の空中戦(バトル・オブ・ブリテン)において、見かけほどには、ドイツ空軍は無敵の存在ではなかった。ドイツ空軍は陸軍への支援を第一目的としてつくられた戦術空軍だった。主力のメッサーシュミットは、航続距離が短く、イギリス本土空襲にあたっては南イングランドをカバーできるだけ。戦闘機の航続距離が足りないため、爆撃隊が単独で侵攻しなければならない。この裸の爆撃隊にレーダー管制を受けたイギリス戦闘機隊が襲いかかる。したがって、ドイツ空軍の損害は甚大だった。
そして、ヒトラーが爆撃目標を空軍基地から都市に変えたことによって、民間人の被害が増大して戦意が高揚し、イギリス空軍は一息ついて、戦闘機隊を再編することができた。その結果、ますますドイツ空軍にとっての脅威が増大した。
ロンメル将軍は、貴族ではない、プロイセンのユンカー出身でもない。軍人の家庭に生まれておらず、幼年学校を出ていない。
ドイツ将校団では貴族が圧倒的に有利だった。貴族、それもユンカー、軍人の家柄で、幼年学校を出ていることが出世の条件だった。ロンメルは、この4つのどれも満たしていない。ロンメルが昇進するには、実戦で手腕を見せるしかなかった。
ヒトラーは、ロンメルを総統護衛部隊の長に任命した。しかし、ロンメルには、戦略的な能力がなかった。戦術的に有利な情勢だけに気をとられ、それが戦略的にどのような影響を支えるかを配慮できない人物だった。
ロンメル将軍の長所とされているものの多くは、下級司令官の美徳である。前線を恐れない、陣頭に立つ・・・。しかし、軍司令官が前線視察に出かけて行方不明になってしまったら、軍はどうするのか・・・。
陸上自衛隊幹部学校で講師をつとめているだけあって、大変専門的で詳しく、並みの軍事史にはない深さに感銘を受けました。
(2017年5月刊。2800円+税)

軍が警察に勝った日

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 山田 邦紀 、 出版  現代書館
昭和8年、大阪でゴーストップ事件が起きました。ほんのささいな交通違反が、みるまに大事件になってしまったのです。そして、それは、日本を軍人(軍隊)がのさばる暗い世の中に変えるのを加速しました。オビのセリフを私なりに改変すると、次のようになります。
戦争は軍人の怒声ではなく、正論の沈黙で始まった。もの言わぬ多数の日本人は、戦争へひきずられていき、それを後悔する前に死んでいった。大阪の交差点での信号機無視をめぐる兵士と警官の口論は、日本を戦争に導いていくターニング・ポイントになった。
ことは昭和8年(1933年)6月17日(土)午前11時半ころ、大阪市内の「天六」(てんろく)交差点で起きた。1人の一等兵(22歳)が制服姿で赤信号を無視して市電の軌道を横断した。通行人が警察官に注意を促したので、巡査(27歳)がメガホンで注意した。しかし、一等兵が無視したので、巡査は一等兵の襟首をつかまえて近く(10メートルしか離れていない)の天六巡出所へ連行した。
やがて憲兵が出てきて、一等兵を連れて帰った。その間に、巡出所内で暴行があった、どちらが仕掛けたのか、一方は抵抗しなかったのか、いろいろ調べられた。
ところが、この件が警察対憲兵隊、そして大阪師団(第四師団)対大阪府庁(警察)の対立となり、ついには陸軍省対内務省のメンツをかけた争いにまで発展した。事件がこのように拡大した最大の要因は、軍(第四師団)が徹底的に横車を押したことにある。
最終的には天皇のツルの一声でようやく和解が成立した。その和解の内容は今なお公表されていない。しかし、結局のところ警察が軍に譲歩した。軍が力で警察をねじ伏せた。
軍が勝ったころから、もはや日本国内に軍の意向に逆らうものはいなくなってしまった。官僚もマスコミも軍の言いなり、軍に従う存在と化してしまった。それが戦争への道に直結した。
こうなると、いまのアベ政権のやっていることをますます軽視できなくなるわけです。言うべきときに反対の声をあげておかないと、あのとき反対しておけばよかったと悔やんでも遅いのです。
その意味で84年も前の日本で起きてきたことですが、十分に今日的意義のある本だと思いました。
なぜ、「ゴー・ストップ」というのか・・・。
まだ信号機が設置されてまもなかったのです。ですから、戦争のため中国などの外地(外国)へ遅られて日本に帰ってきた兵士たちは信号無視するのも当然でした。要するに、信号に従うとか、信号の色の意味するところを理解していなかったのです・・・。
そして、この巡査は、実は、ほんの少し前までは兵士で、しかも下士官(伍長)だったのでした。年齢(とし)下の一等兵が自分の注意をきかないのにカチンときたに違いありません。
警察の側で対応した粟屋(あわや)は、東京帝大法学部卒業のエリートコースに乗っていた人物(40歳)で、腹のすわった人物だった。のちに広島市長として原爆で亡くなった。だから、軍隊が陛下の軍隊なら、警察官も陛下の警察官だと言い放ったのです。この言葉によって、軍はますます態度を硬化させました。
それでも、昭和天皇が、あの件はどうなっているかと尋ねたことから和解へ進みます。そして、結局のところ、警察が軍部に屈服させられるのでした。
昭和8年というのは、もはや後戻りできなくなった年で、その分水嶺となったのがゴー・ストップ事件。軍部は、この事件で公務外の「統帥権」も確立し、暴走に拍車がかかった。
大阪の一軍人のささいな交通違反をきっかけに軍部全体が「赤信号」を無視し、やがて日中戦争から太平洋戦争になだれ込んでいく。
ファシズムは、ある日いきなり私たちを襲ってくるわけではない。何気ない日常生活のあちこちでポツリ・ポツリと芽吹き、放置しておくと、あっというまに手に負えなくなる。ばかばかしさの裏に制御機能が外れた軍部の不気味さ、危険性をはらんでいることを新聞はもっと早い段階で警告すべきだった。
首相の機関紙を自認するようになったヨミウリはともかくとして、NHKをふくめたマスコミにはもっと権力を監視する任務があることを自覚してほしいものです。タイムリーな本です。
(2017年5月刊。2200円+税)

ヒルビリー・エレジー

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 J・D・ヴァンス 、 出版  光文社
なぜトランプ大統領が誕生したのか。アメリカという国の内実はいったいどうなっているのか・・・。そんな疑問を真正面から解き明かした本です。それも、外から観察したのではなくて、自ら体験した事実をもとにしていますので、説得力があります。
ヒルビリーって、私は何のことやらさっぱり見当もつきませんでした。要するに、田舎者ということのようです。社会の底辺にいる白人労働者のことを、ヒルビリー(田舎者)、レッドネック(首すじが赤く日焼けした白人労働者)、ホワイト・トラッシュ(白いゴミ)と呼ぶ。貧困は、代々伝わる伝統になっている。
オハイオ州で生まれ育った著者は、ラストベルト(さびついた工業地帯)と呼ばれる一帯に位置する鉄鋼業の町で、貧しい子ども時代を過ごした。母親は薬物依存症、父親は家を出ていって著者を捨てた。著者を愛情をもって育てた祖父母はどちらも高校も卒業していない。大学を出た親戚は誰もいない。将来に望みをかけない子どもとして、著者も育った。
アメリカでもっとも悲観主義傾向の強い社会集団は、白人労働者階級だ。社会階層間を移動する人は少ない。ここでは貧困、離婚、薬物依存症がはびこっている。
白人労働者の42%が親の世代よりも自分たちのほうが貧しくなっていると考えている。
努力が実を結ぶと分かっていればがんばれるが、やってもいい結果に結びつかいないと思っていたら、誰も努力しない。彼らは、敗者であるのは、自分の責任でなく、政府のせいだと考えている。白人の労働者階層は、自分たちの問題を政府や社会のせいにする傾向が強く、しかも、それは日増しに強まっている。
社会制度そのものに根強い不信感をもっている。仕事はない、何も信じられず、社会に貢献することもない。
彼らは報道機関をほとんど信用していない。白人保守層の3分の1は、オバマ前大統領について、イスラム教徒であり、外国生れであり、アメリカ人であることを疑っている。
オバマのようなエリート大学を卒業し、なまりのない美しいアクセントで英語を話す人間とは、共通点がまったくないと感じている。
ヒルビリーの家庭では、ののしりあって叫び散らし、ときに取っ組み合いのけんかをするのは日常茶飯事だった。しかし、それも慣れたら気にならなくなる。
著者にとって、子どものころに辛いことはたくさんあったが、きわめつけは父親役が次々に変わっていったこと。そのため、姉も著者も、男性とはどのように女性に接するべきものなのかを学ぶことが出来なかった。
どこの家庭も混沌をきわめている。子どもは勉強しないし、親も子どもに勉強をさせない。
白人労働者階級の平均寿命は低下している。料理はほとんどしない。朝はシナモンロール、昼はタコベル、夜はマクドナルド。
ミドルタウンではショッピングセンターもさびれている。営業している店はとても少ない。
1970年に白人の子どもの25%が貧困率10%以上の地域に住んでいた。これが2000年には40%に増加した。移動できるだけの経済的余裕のある人々は去っていくので、最貧層の人々だけが取り残される。
ミドルタウンの市街地再生の取り組みは、いつだって失敗した。それは、消費者を雇用するだけの仕事がないからだ。
ミドルタウンでは、公立高校に入学した生徒の20%は中退する。大学を卒業する人はほとんどいない。彼らは将来に対して期待をもてない世界に住んでいる。自分ではどうしようもないという感覚を深く植えつけられてきた。これは学習性無力感と呼ばれている。
著者は優しい祖父母と海兵隊のおかげで、やがて自分に自信をもち、ついにはイエール大学のロースクールに入り、弁護士になりました。そして、そこで、アメリカの上流知識階層と自分の育った階層との違いを深く自覚するのでした。
すさまじい親子の葛藤が詳細に紹介されていて、そこから脱却していく過程にも興味深いものがあります。今日のアメリカ社会の真実を知るために大いに役に立つ本だと思いました。
(2017年5月刊。1800円+税)

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