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2017年4月 の投稿

シャクシャインの戦い

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 平山 裕人 、 出版  寿郎社
日本は単一民族ではない。アイヌ人が民族として存在しているというのは歴史的な事実だと私も思います。同じように琉球民族がいたという説もありますが、そちらには私は賛同できません。
そのアイヌ人が江戸幕府側からの迫害に抗して起ちあがったのが1669年のシャクシャインの戦いです。これを「乱」と呼ぶのは、「和人」の側に立つ論法だと私も思います。
アイヌ史上、三つの大きな戦いがある。コシャマインの戦い、シャクシャインの戦い、クナシリ・メナシの戦いである。
1600年が関ヶ原合戦の年ですよね。その1669年6月にシャクシャインの戦いが始まりました。首領のシャクシャインは1669年10月に松前藩によって騙し討ちされて殺害されましたが、戦い自体は3年のあいだ続いています。
このころ、松前は砂金を産出していて、日本中から砂金を求めて人がやってきていた。その数は3万人とも5万人とも言われた。アメリカの西部開拓時代のようなゴールドラッシュが17世紀の北海道にもあっていたのですね・・・。
シャクシャインの戦いのあと、松前藩士が商人に請け負わせ、請け負った商人がアイヌと交易する。藩士は商人から運上金をとるという形態がとられていた。交易の場所を「商場」(あきないば)とか請負場所と呼んでいた。
当時、北海道各地に居住していたアイヌの人々の生活は追い込まれていた。アイヌシモリに金掘りが入り、鷹師が入り、漁師が勝手に魚を獲り、交易は不当なものだった。それで、シャクシャインの呼びかけにアイヌ民族が広範に呼応し、松前藩を攻めた。
松前藩を滅ぼし、自由交易を復活させることが目的だった。しかし、現実には、アイヌ民族も松前藩も、互いを必要とする経済基盤をもっていたから、交易の仕組みが変わることはあっても、どちらかが滅びるしかないということにはならなかった。
シャクシャインの戦いを本格的に論じた貴重な本だと思いました。
(2016年12月刊。2500円+税)

住友銀行 暗黒史

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 有森 隆 、 出版  さくら舎
こういう本を読むと、つくづく銀行なんかに就職しないで良かったなと思います。
ノルマ競争とか出世競争というのはどんな企業にもあることでしょうが、暴力団やアングラマネーの世界との深いつきあいまでいったら、類似しているのはゼネコンくらいでしょうか。
前に『住友銀行秘史』(國重惇史)を読みましたが、この本によると、住銀、イトマン事件の真相を巧妙に避けているというのです。そして、國重の本は「住友銀行は被害者だ」というトーンで貫かれているが、著者は住友銀行は被害者ではなく、事件の共同正犯だと断言しています。
住友銀行かイトマンに融資したお金のうち6000億円もの巨額の資金の行方は、今もって謎に包まれたまま。いや、6000億円プラス3000億円という、1兆円に近い巨費が闇に沈んだ。
住友銀行は不動産投資を名目にイトマンに多額の資金を投入した。イトマンを迂回して、このカネは伊藤寿永光、許永中、さらには暴力団関係者など闇の世界に消えた。暴力団に斬り込むのは、身の安全を考えると銀行員にとってもタブーだろうが・・・。
バブルの時代、東西に二人の経済ヤクザの巨頭がいた。東に石井進・稲川会二代目会長。西が宅見勝・山口組若頭。この二人の経済ヤクザと住友銀行をつなぐフィクサーは、東が佐藤茂・川崎定徳社長、西がイトマン事件の主役・伊藤寿永光だった。
磯田一郎は、1977年に住友銀行の頭取になり、1983年に会長就任。実に13年の長きにわたってトップとして君臨し、「磯田天皇」と呼ばれた。
土地は必ず値上がりするという「土地神話」のメカニズムが作動していた。住友銀行は、担保掛け目を80%にした。そして、どうしても融資したい案件には、100%にした。
1990年3月期の住友銀行の貸し出し金利息は1兆9300億円。第一勧銀の1兆9100億円、三菱の1兆7800億円、富士の1兆8100億を上回り、トップだった。
磯田流人事は、ナンバー2を切るということ。そして、「表のカード」と「裏のカード」とを使い分けた。自ら手を汚さず、ダーティーな役回りを担わせる「汚れ役」をいかにうまく使うか。
まさしく、すまじきものは宮仕えの世界ですね。
そして実力をもつに至った「裏カード」は、いずれ疎ましくなって放り出されてしまう。
仕手集団が狙うのは、創業者以外に頼れる人材のいない会社だ。
磯田一郎会長が辞意を表明したのは、1990年10月7日。その2日前に、住友銀行の青葉台支店長・山下彰則が出資法違反で東京地検特捜部に逮捕された。株の仕手集団・光進の小谷光浩代表への融資を不正な方法で斡旋したという容疑だった。
住友銀行、イトマンの経営者のほとんど全員が地上げや株上げで巨利をむさぼっていた。いわば、バブルの共犯者である。
1994年9月、住友銀行の取締役であり名古屋支店長だった畑中和文氏が自宅マンションの廊下で射殺された。真犯人は今に至るも捕まっていない。
この本は、最後に、日経新聞やNHK記者が当事者のように行動していたことを厳しく批判しています。安倍首相と高級飲食店で食事をともにしているジャーナリストがあまりに多くて、幻滅しています。権力や財界にかかえこまれることなく、距離を置いて、あくまで国民目線で報道してほしいものです。
たしかに、國重本よりも読みごたえがありました。
(2017年2月刊。1600円+税)

邪馬台国時代のクニの都・吉野ヶ里遺跡

カテゴリー:日本史(古代史)

(霧山昴)
著者 七田 忠昭 、 出版  新泉社
 私は遠くから福岡に来た人には吉野ヶ里遺跡に行くようにいつも強くすすめています。青森の三内(さんない)丸山遺跡にも二度行きましたが、日本の古代国家をイメージするのには、なんといっても吉野ヶ里遺跡を抜きに語れません。行くたびに整備されていて、新しい発見があります。
この冊子は、その吉野ヶ里遺跡の意義を写真とともに分かりやすく解説してくれます。吉野ヶ里遺跡は、筑紫平野に位置します。佐賀市からは遠くありません。
 1989年2月に全国デビューを果たした。発掘が始まったのは1986年5月のこと。
 1988年9月、日本初の巴形(ともえがた)銅器の鋳型が発見された。
 1989年3月、朱塗りの甕棺から、類例まれな把頭飾付き有柄銅剣とあざやかに輝く青色のガラス管玉(くだだま)が発見された。これによって工業団地として造成がすすんでいた吉野ヶ里が遺跡として保全されることになった。売れるかどうかも分からない工業団地より遺跡として保全されたことを日本人の一人として素直に喜びたいと思います。
吉野ヶ里遺跡は、縄文時代そして弥生時代から始まる。そして、稲作を始めていた。
甕棺墓は、高さ1メートル以上の素焼きの巨大な土器を棺としている。大型は成人用、中型は女性と小児用、小型は乳幼児用。全帯で1300基の甕棺墓が確認されている。いくつかの家族の墓地が集まっているとみられる。
墳墓の副葬品からは、沖縄や奄美産の貝殻(イモガイ)製腕輪も発見されている。そして絹布(けんぷ)や大麻(たいま)布も見つかっていて、日本茜(あかね)や貝紫で染めたものもあった。つまり、袖のある華やかな衣装をまとった人がいたことを示している。
 300人分以上の人骨も出土していて、成人男性の平均身長は162.4センチと高身長。私は165センチですから、たしかに昔では高身長ですよね。高身長・高顔の渡来系人骨ということです。
甕棺のなかの人骨には、石鏃(せきぞく)。弓の矢先が突き刺さっていたり、頭骨のないもの、刃傷があるものなどもあり、その大半が戦いの犠牲者だと考えられる。
 女性の人骨は、左腕に11個、右腕に25個のイモガイ製の腕輪を装着していた。司祭者ではないか・・・。
 そして、吉野ヶ里遺跡から、銅鐸(どうたく)も発見されている。
 結局、邪馬台国時代に吉野ヶ里集落内で多くの人々が活発に生活していたことが証明されたのです。ということは、やっぱり邪馬台国は九州にあったということになりますよね・・。
 吉野ヶ里にまだ行っていないという人は、必ず一度は行くべきです。邪馬台国論争が加わりたいなら、まずは吉野ヶ里の遺跡に立ってみてください。奈良は、ずっとずっとあとなんですよ・・・。
(2017年13月刊。1600円+税)

プーチンの世界

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 フィオナ・ヒル・クリフォード・G・ガディ 、 出版  新潮社
 ロシアのプーチンとは何者なのか・・・。それが知りたくて読んでみました。この本は決してプーチン賛美のキワモノではありません。手ごたえ十分の本です。
 現代の著名人のなかで、プーチンはもっとも謎多き人物だ。プーチンの妻や子どもがメディアで紹介されることもないし、プーチンの個人資産も明らかにされていない。
 プーチンという人間を単純な言葉で説明したり、たった一つのレッテルを貼りつけたりできると考える人は間違っている。プーチンは非常に複雑な人間である。
プーチンが世界のほかの指導者ともっとも異なる点は、その個人的な経歴として諜報機関で訓練を受けたプロの工作員であるということにある。
 プーチンは、ソ連崩壊後に形成された現在の世界政治と安全保障秩序は、ロシアの「特別な役割」を否定するだけでなく、主権国家としての存続を脅かすほどロシアを不利な立場に置くものと考えている。そのため、プーチンは、現在の秩序を変えることを自らの責務としている。
 西側諸国の多くの人々はプーチンを見くびりすぎている。プーチンは目標実現のためなら、どれだけの時間や労力、汚い手段をも惜しまない人間だ。使える手段は何でも利用し、残酷になることもできる。
プーチンは戦士であり、サバイバリストである。決してあきらめないし、勝つためには汚い手も使う。だからプーチンの言葉は常に真剣に受けとめなければならない。
プーチンは嘘の約束や脅しはしない。プーチンが何かをすると言えば、いったん準備がととのったら、あらゆる手を尽くして、その実行方法を見つける。
国内・国外対策の両方において、相手よりも優位に立つことがプーチンの主たる戦術である。
プーチンがもっとも重視するのは経済だ。プーチンが大統領になってからの10年間に、ロシアは世界でもっとも急成長を遂げた国の一つになった。それは、石油と天然ガスの価格高騰によってもたらされた。この10年間にせっせと外資準備を築きあげたおかげで、ロシア国家とプーチンは、2008~2010年の世界金融危機を乗り切ることができた。
 プーチンは、側近たちを資産とみている。だから、プーチンのチームは常に少人数だ。人材を見つけ、側近グループへ勧誘し、その動きを管理する人物は自分だけ。それがプーチンの考えだ。プーチンの企業モデルは、少人数のグループの上に成り立つもの。
「株式会社ロシア」の上層部の人間関係は、すべてプーチンとの関係によって成り立っている。
 プーチンの源泉を知った気にさせる本格的なプーチン解説書です。
(2017年3月刊。3200円+税)

青春の柩

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 岡村 治信 、 出版  光人社
 あまりにも過酷な戦争体験記です。よくぞ戦後まで生きのびたものだと驚嘆せざるをえません。戦後は裁判官として活躍しました。
 この本で印象に残った言葉をいくつか紹介します。まずは艦長の言葉です。
 「主計長(著者のことです)は司法官だそうだね。そして一人息子か。ご両親は、きみのことを本当に心配しているだろうね。戦争が終わったら、立派な仕事につけるのは、うらやましい。せいぜい命を大切にするんだね」
これが海軍の将校(川井大佐)の言葉なのです。いかにも命が粗末に扱われる戦場(海域)での言葉ですから、重味があります。
 次は著者の言葉です。
 「いのちの家である『木曽』(著者の乗っている巡洋艦)は、いったい、いつここを脱出できるだろうか。なるものなら、ぶじに故国の土を踏みたい。そして、もう二度と、こんなラバウルになど来るものか、という、いわば厭戦的な気持ちなのである。こういう気持ちは開戦いらい抱いたことはなかったのに、こんどの作戦中だけは終始、ぬぐうことができなかった。なぜであるか、自分でも分からない。おそらく、戦中2年に近い海上生活に疲れたのだろう。そんな弱いことでどうするのだと、心に苛責を感じながらも、やはり生きたいのであろう。結局は、捨てきれぬ小さな命にひきずられて思い迷う自分なのである。
 そうだ、この現実がある以上、私はなお生き続けなければならない。この抜きがたい刻印が胸の中にいっぱいに醗酵しながら、私に厳然と命令する、お前は生き続けなければならない。絶対に彼らの様に負傷したり、死んだりしてはならないと」
 著者は駆遂艦「追風」の庶務主任、巡洋艦「木曽」の主計長として、いくつもの海上作戦に参加しました。南洋のウェーク島占領作戦、ラバウル・ソロモン海戦、ガダルカナル救援作戦、そして北方のアッツ島攻略作戦、キスカ撤収作戦などです。まさに歴戦の海軍将校でした。生きのびたのは不思議、奇跡としか言いようがありません。
 もともと軍艦における死傷の様の残酷なことは、陸戦の場合とは比較にならない。艦上は四周みな鉄であって、一個の爆弾の破裂によって、そのことごとくが、同時に、残酷、凶悪の化身となって飛散する。その断片、鉄片がひとたび人体に振れれば、たちまち肉を裂き、骨を砕き、文字どおりの肝脳地にまみれしめねばやまない。
 海軍主計中佐だった著者は、戦後裁判官になり、東京高裁の判事をつとめました。前に紹介した原田國男元判事の著書(『裁判の非情と人情』)に紹介されていたので、ネットで注文して読んだ本です。その記憶力のすごさにも感嘆させられます。相当詳しい日記をつけていたのでしょうね。
(昭和54年12月刊。980円+税)
金・土・日と桜の花が満開でした。例年より一週間ほど遅れましたが、ちょうど入学式に間にあって喜んだ家族も多かったと思います。わが家の庭のチューリップもようやく全開となりました。朝、雨戸を開けるのが楽しみです。赤や黄そして白など、その華やかさは心を浮きたたせます。ハナズオウの小さな豆粒のような紫色の花も咲きました。アイリスの花が出番を待っているのに気がつきました。春、本番です。

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