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2017年1月 の投稿

車いす弁護士奮闘記

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 髙田 知己 、 出版  金融財政事情研究会
著者は茨城県弁護士会に所属する新60期の弁護士です。
高校を卒業してまもなく交通事故を起こし、そのために車いす生活となり、紆余曲折のあと司法試験を目ざして、法科大学院を経て弁護士を開業(即独)しましたが、今では弁護士6人、事務職員7人の法律事務所の所長としてがんばっています。
水戸地裁土浦支部のすぐ隣に事務所を構えていますが、いわゆる町弁(まちべん)です。一般民事、交通事故、労働問題、家事事件、借金問題、そして刑事事件を取り扱っています。恐らく土浦には大企業がないのでしょう。企業間の交渉や買収など、企業法務は掲げられていません。
弁護士の仕事は、人々が人生最大の危機にあるとき、その人の人生や生活に深く入って、一緒に考える仕事。とても大変で労力がいるけれど、その人の新たな出発の手伝いができるところにやりがいを感じる。
仕事だから辛いと思うことも少なくはない。でも、これほどやりがいのある仕事はないと思うくらい、夢中で打ち込める仕事だ。
弁護士は、なんといっても自由な仕事であり、どんな人でも、その個性を生かすことのできる職業だ。
この本では、車いす生活に慣れるまでの状況、そして司法試験を目ざしてからの生活ぶりが紹介されていて、司法試験へ向けてのガイドブックにもなっています。
さらに、車いす生活者からみた現代日本社会のさまざまな不便、問題点が具体的に指摘されています。たとえば、駅の自動改札口は幅が狭くて車いすの人は通れないというのを初めて知りました。
車いすというハンディキャップにめげることなく初志を貫徹して町弁の弁護士として地方都市で明るく元気に活躍している著者の姿には心うたれるものがあります。
この本を読んで、一人でも多くの若者(障がいをもつ人を含みます)が弁護士を目ざしてほしいと念じます。
(2017年1月刊。1500円+税)

企業内法務の交渉術

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  北島 敦之 、 出版  中央経済社
 弁護士にとって交渉をうまくすすめるのは大切な仕事のひとつです。でも、これがなかなか難しいのです。経験年数としては超ベテランに入るはずの私も、相手方と交渉するときは、とても緊張します。
 この本は、社内で信頼される法務部員になるためにとして書かれていますので、弁護士向けではありませんが、弁護士が読んでも大変役に立つ本として、少し紹介します。
 ビジネスにおける交渉は、まずビジネスとは何かを理解する必要がある。ビジネスは戦争ではなく、最後にはちゃんと仲直りができる「ケンカ」のようなもの。ビジネスは、信頼をベースにした合意によって形成されていくのであり、交渉は当事者間の主張を出しあうことで、お互いに合意できる着地点を見出すためのプロセスだ。
 交渉には陣取り合戦の意味もある。最終的にこちらの欲しい条件が得られたらよし、相手に何も残らないような交渉は無理がある。それは、時間がかかり、感情的なしこりが残って、よろしくない。
そうなんですよね。ゼロか100か、ではない、感情的なしこりの残らないほうがいいのです。
この交渉は誰のためにするのか、交渉相手方は誰なのかを、しっかり認識しておくこと。
 合意すべき相手側の心が、かたくなになるような雰囲気に追い込むのは得策ではない。
交渉する前に、きちんとしたシナリオをつくる。実際にはシナリオどおりに事はすすまないことは多い。それでも、シナリオを書きながら、交渉のシミュレーションをしている感覚になって、想定外の事態が起きても柔軟に対応できる。作成したシナリオは、交渉チーム全員で共有しておく。
交渉するときには、相手方の了解を得て録音する。ただし、無断で録音されている可能性があることを常に念頭においておく。
基本的に、相手側にはできるだけ話をさせる。これが交渉をスムーズにすすめるために欠かせない。忍耐を必要とするが、相手側が何を考え、何について心配し、どのように交渉を持ってきたいと考えているのかを理解することができる。そこからビジネスの合意形成に向けての交渉は始まる。
 当方に契約不履行の事実があることが明らかになったときには、交渉に入る前にきちんと謝罪することが欠かせない。文書を作成するときには、その内容・表現ともに、万一公開されたとしても非難の対象とならないよう、関係部署の確認を得ておくなど、慎重に対応する。
 弁護士に相談するときには、もし訴訟になったら、裁判所はどう判断するのか知見をもっている人に相談する。それをもっていない弁護士に相談しても意味がない。
交渉を上手にすすめるためには次の四つが大切。
 ①ごまかさない。②相手をミスリードしない。③交渉を楽しむ。④相手も楽しませる。
 交渉は人間が行うものであり、人間の心の動き、気持ちといったものについての理解を深めるほうが交渉を楽しむことができる。交渉力をあげることは、世間の出来事や事象に興味をもち、人に対する愛情や信頼を醸成していくこと尽きる。
 長く総合商社につとめ、法務部で活動してきた体験をふまえていますので、説得力があります。そして、文章が平易で読みやすいのです。一気に読めました。交渉力をつけたいと願う弁護士にとって、大いに読まれるべき本です。
(2017年1月刊。2500円+税)

気骨、ある刑事裁判官の足跡

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 石松 竹雄 、 出版  日本評論社
著者は裁判官懇話会の世話人の人でした。裁判官懇話会は宮本康昭さん(13期)の再任拒否があった昭和46年(1971年)に発足しました。私が司法試験を受けて合格した年のことです。そして、平成18年の20回懇話会で幕を閉じています。
懇話会の内容は判例時報に詳しく紹介されていますし、本にもなっています。
多いときには、現職の裁判官が全国から300人も参加していましたが、20回目には、42人の参加しかありませんでした。
なぜ、懇話会が衰退してしまったのか、著者はいくつか理由をあげています。若い裁判官を獲得できなかったし、意識的な勧誘を怠ったことによるとしています。
裁判官志望の修習生や判事補に対して徹底的な骨抜き教育が行われた。分からないときには、先輩裁判官や裁判長の言うとおりにしておけ、判例があれば何も考えずにそれに従っておけ、令状で判断に困ったら検察官の主張に従っておけば間違いはない・・・。
そして、思想・信条を理由としか考えられない新任判事補の任官拒否が相次いだ。
裁判官懇話会が分科会に重点を置く、いわゆる実務路線をとり、ほとんど司法当局に抵抗らしい抵抗をすることをしなかったのは失敗だった。
裁判官は、真面目に事件だけをやっていればよいという風潮が裁判所を支配してしまった。
裁判官、裁判の独立というのは、結局、裁判官個々人が孤立していたのでは、決して守れるものではない。ドイツなど、ヨーロッパでは、裁判官連盟のような、裁判官の組合的な組織がある。日本に、そのような組織がないのは問題だ・・・。
現実の裁判官のなかには、「裁判官・検察官同一体の原則」とでもいうような検察官との一体感をもっている人がいた。
いえ、これは今でも少なからずあるのではないでしょうか・・・。私はそう考えています。
著者は裁判官を退官して弁護士になり、大阪弁護士会に登録しています。そして、大阪弁護士会で九条の会の代表呼びかけ人にもなっています。
著者は学徒動員とか兵役を経験したことから、平和運動にも関心をもち、行動しているのです。これまた、すごいことですね。
気骨のある裁判官が本当に少なくなったと思います。やる気の感じられない、行政追随しかしない裁判官があまりに増えてしまいました。もっと、自分の足で大地に立って、司法当局なにするものぞと声を大いにして呼んでほしいものです。
気骨ある裁判官の勇気ある歩みに接して、我が身を握り返り、思わず襟を正してしまいました。一読を強くおすすめします。
(2016年9月刊。1400円+税)

野生動物カメラマン

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 岩合 光昭、 出版  集英社新書ヴィジュアル版
ライオンとハイエナ。どちらが強いか・・・。2頭のハイエナを12頭のライオンが襲いかかったとき、ハイエナはライオンに殺されてしまった。
5頭のハイエナがエサを食べているところに1頭のライオンがやってきたら、ハイエナに追い払われてしまった。
獲物の横取りが得意なのは、ハイエナよりも、むしろライオンのほう。ライオンの狩りが成功するのは10回に1回ほど。決して狩り名人とは言えない。
ハイエナは獲物の肉や内臓だけでなく、骨もかみ砕いて食べる。胃腸は大丈夫なので消化ができ、カルシウムだけが残るので、糞は白い。
ライオンは軟らかくておいしい肉を食べるから糞は軟らかく、非常に臭い。
ザトウクジラは、暖かい海で子どもを産んで育てる。子育てのあいだ、親(メス)は何も食べない。南の暖かい海にはクジラの食べるものは何もない。
なぜクジラは海面を出てジャンプするのか、その理由は分かっていない。
ペンギンのヒナは夏が終わって産毛がすっかり落ちてしまうまで、海で泳げない。産毛が残っていると、海水がしみ込んでしまうからだ。
地獄谷のサルにとっては、人間にはちょっと熱めの42度くらいが一番心地よいようだ。
野生動物をよく見ていると、彼らもまたこちらをよく見ていることに気がつく。そして、あいつは危害を加えるものではないとして、警戒心を解いてくれる。そうすると、ライオンが狩りを見せてくれることもある。ええっ、それでも怖いですよね。
いわごうさんの写真は、どれも動物が生きています。生命の躍動感がありますよね。
(2015年12月刊。1200円+税)
フランス語の口頭試問を受けました。
3分前にペーパーが渡されます。一問目は天皇の生前退位をどう考えるかというものです。これは、日本語でも難しい問題ですからフランス語で話せる自信はなく、すぐにパス。二問目は子どもの虐待が日本で増えていることをどう考えるかというものでした。暴力とネグレクトの2種類あると話したのはいいのですが、親自身がその親から愛情たっぷりに育てられていないことも原因だと言いたかったのですが、フランス語になりませんでした。トホホ・・・。
3分間スピーチには、いつも苦労しています。

ラーゲリのフランス人

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ジャック・ロッシ、ミシェル・サルド 、 出版 恵雅堂出版
スターリン時代のソ連の収容所に24年間も入れられていたフランス人がいただなんて、知りませんでした。『ラーゲリ(強制収容所)註解事典』を書いた人物です。
ジャック・ロッシは、ソ連のたどってきた道、あまりに多くの犠牲について、その原因はレーニンの路線にあったと明確に指摘する。
スターリンの間違いではなく、レーニンの路線が間違っていたというのですね・・・。
大学生のころ、レーニンの歯切れのよい文章を一生けん命に読んで、なるほど、そうなのかと何度も思った身としては、いくらか違うような気もするのですが・・・。
ジャック・ロッシは、自分のグラーグでの苦難は、自分の選んだ主義、理論、行為の代償であって、当然の報いだとしている。
ヒトラーのナチズムと、レーニンのボリシェヴィキのいずれの責任が大きいのかという問いかけは、虎と狼のどっちが恐ろしいかというのと同じで、その問いかけには意味がないとする。
ジャックの母親はフランス人で、母親はポーランド人の貴族と再婚した。ジャックは16歳のときに非合法のポーランド共産党に入党したが、すぐに逮捕された。出獄すると、コミンテルンの秘密謀報員になった。スペイン戦争のときは、共和国軍のために働いた。このとき、モスクワに召喚されて逮捕された。28歳から、スターリンの死後まで20年間、ジャックはグラーグ(収容所)に入れられた。
グラーグとは、オーゲーペーウーの強制収容所のこと。グラーグの囚人をゼックとも呼ぶ。
ソ連の刑罰のシステムは、ヤクザが他の囚人を手荒く扱うことを奨励していた。もっとも強力なヤクザは、グラーグで支配的な階層をつくって、それを自慢していた。その階級的利害は、ソビエト権力のそれと混じりあっていた。
語学に堪能だったジャックはソ連の刑務当局から日本人の政治犯が入っていた監房に入れられた。そこには、近衛首相の長男の近衛文隆もいた。ジャックは、ここで内藤操(内村剛介)と、親しくなった。
すさまじいラーゲリの内情が静かに語られている本です。繰り返してほしくない歴史です。
(2004年9月刊。3000円+税)

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