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2016年12月 の投稿

トヨトミの野望

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 梶山 三郎 、 出版  講談社
小説となっていますが、トヨタ自動車の近年の動きを刻明に追いかけ、その醜い内部抗争の実情を暴露した実録ものとしか思えません。かといって、門外漢の私には、どこからフィクションなのか、まったく分かりません。
それにしても、日本を代表するトヨタのなかで、今なお創業者の一族が会社をほとんど私物化しているとしか言いようがない状況は、異常ですね。
その政治力は、財政界に強い電力会社の幹部をして、「うちの百倍はある」と悔しがらせるほど凄い。監督官庁の運輸・経産をはじめ、役所関連は東大卒の幹部候補社員を貼りつかせ、大学時代の先輩、同期、後輩から内部情報を収集する。大手銀行のMOF(財務省折衝担当)と同じく、抜群の政治力を発揮している。
プリウス開発に社運を賭け、また、アメリカそしてヨーロッパにトヨタは果敢に進出していくのでした。ところが、内部の人事では、実力派社長であっても、創業者の意向には逆らえないのです。
こんな本を読むと、サラリーマン稼業も楽ではないと、つくづく思います。社内でも群れをなして生きていくしかないのですが、自分の加わった群れのトップが冷め飯を食わされると、下のほうにまで災いは波及してくるのです。
日本航空を舞台にした小説『沈まぬ太陽』をつい思い出してしまいましたが、トヨタには、社会的な活動に目覚めた人がいるわけではありませんので、まったく抗争の質が異なると思いました。
恐らくトヨタ労連というのは、ニッサン労連と同じく連合の主力単産なのでしょうが、連合の最近の言動を見ていると、とても労働者の味方とは思えないものばかりで、残念きわまりありません。
えっ、何が、ですか・・・。だって、連合は原発再稼働に反対していないんでしょ。電力労連に気がねしているんですよね。そして、自民・公明の悪政をやめさせるのには、野党の団結が絶対に必要なのに、相変わらず共産党とは一緒にやれないんなどとダダをこねるばかりで、野党共闘を成立させないようにしているのですから・・・。
トヨタが日本社会を支える最有力の企業だというのは承知していますが、もっと日本社会全体のためになるようなことも考えてほしいものです。
(2016年11月刊。1700円+税)

黒い司法

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ブライアン・スティーヴンソン 、 出版  亜紀書房
この本を読むと、アメリカのような国になってはいけないと、つくづく思います。
アメリカは収監率が世界一高い。総受刑者数は1970年代の初めに30万人だったのに、今は230万人までふくれあがっている。執行猶予中や仮釈放中の人は600万人。
2001年にアメリカで生まれた子どもの15人に1人は、やがて刑務所に行き、今世紀中に生まれた黒人男性の3人に1人が将来投獄される計算だ。
いま死刑囚監房で刑の執行を待つ死刑囚は数千人。
25万人もの子どもたちが成人用の刑務所に送られて長期刑に服している。そのなかには12歳以下の子どもさえいる。3000人近い子どもたちが終身刑を言い渡された。
アメリカは、少年に対して仮釈放なしの終身刑を科すことのできた世界の唯一の国家だ。
薬物犯罪で刑務所に収監されている人は、1980年に4万1000人だったのが、いまでは50万人以上になっている。
アメリカの刑務所にかかるコストは、1980年に69億ドルだったのが、現在は800億ドル。そこで、民間の刑務所建設会社や施設サービス会社は、州政府や地元自治体に何百万ドルと献金して、新たな犯罪を創出し、より厳しい判決を言い渡し、塀のなかにもっと人を閉じ込めろと彼らを説得して、さらにもうけようとしている。
民間企業の利潤追求のせいで、治安を良くし、大量投獄のコストを減らし、そして何より受刑者の更生を促進するという方向に向かうべきサイクルが絶ち切られている。おかげで州政府は公共サービスや教育、医療福祉の予算を刑務所事業に割り振っている。その結果、かつてないほどの財政危機にある。
黒人の死刑囚は、そのほとんどが、全員白人かほぼ白人ばかりの陪審による評決を受けていた。黒人は陪審から排除されてきた。
アラバマ州は、すべての判事をきわめて競争の激しい党派選挙で選んでいる。このような州は、アメリカ全体で6州のみ。
海外の戦争からの帰還兵は戦争のトラウマをかかえて地元となり、刑務所行きになることが多い。1980年代半ばまで、刑務所人口の20%が戦争経験者だった。ひところは、この割合は低下していたが、イラク・アフガニスタン戦争の結果、再び上昇している。
子どもの死刑を認めている国は、アメリカのほか、いくつかしかない。
アラバマ州は、ほかのどの州よりも、世界中のどの国よりも人口あたりの少年死刑囚の割合が高い。アラバマ州では、殺人の被害者の65%が黒人であるのに対して、死刑囚の80%が白人が被害者となっている。
フロリダ州では、2010年までに、殺人ではない暴行罪で起訴された100人以上の子どもが仮釈放なしの終身刑を言い渡された。そのなかには13歳もいた。
13歳とか14歳で終身刑を受けているのは、全員が黒人かヒスパニック系。
アメリカでは、1994年から2000年にかけて子どもの人口が増加したにもかかわらず、少年の犯罪率は下がった。「スーパープレデター」(超凶暴な野獣)が到来するという予言はまったくの間違いだった。
アメリカの刑務所は、いまや精神障害者の「人間倉庫」と化している。大量投獄の主たる要因は誤った薬物政策と過重な量刑にあるが、貧困者や精神障害者をむやみに強制収容したことも、受刑者の記録的増加を招いた原因になっている。
2002年、連邦最高裁は知的障害者に対する死刑を禁止した。知的障害をもつ死刑囚は全国で100人。
2005年、連邦最高裁は子どもの死刑を禁じたが、そのとき死刑囚監房にいた子どもの既決囚は75人ほど。
アメリカでは、女性囚人が1980年から2010年まで646%も増えた。これは男性の増加率の1.5倍。全国で20万人もの女性が収容されており、100万人以上の女性が監視・管理下に置かれている。これらの女性受刑者の3分の2は、ドラッグや窃盗などの軽罪で入っている。女性受刑者の80%近くに未成年の子どもがいる。母親が収監されると、子どもたちは暮らしにくくなる。
いやはや、大変な国ですよね、アメリカという国は・・・。過度の重罰化は、こういう状況を生み出すわけです。寒々とした光景ですが、この本は、そのなかでも果敢にたたかっている弁護士によって書かれていますので、そこに救いがあります。
(2016年10月刊。2600円+税)

イスラーム国の黒旗のもとに

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 サーミー・ムバイヤド 、 出版  青土社
2014年夏、ISISがシリアとイラクの広大な領土を制圧したとき、大半の人はこれが短期的な現象で、そのうち消え去ると考えた。しかし、このテロリスト集団は支配を強化し、2014年9月以来のアメリカ主導の大規模な空爆作戦下で生きのびている。
ISISは、裁判制度や機能的な警察部隊、強い軍隊、洗練された諜報機関、国歌そしてアルカイダの黒い幕を基にした国旗といった、国家としての象徴をもうけることで政府を完成させた。石油収入により国庫を満たし、一国家にふさわしい機能を完成させている。
ワッハーブ主義の存在なしにサウジアラビアは誕生しなかったし、ISISが今日、シリアの町ラッカを支配することもなかった。
「サウジアラビアは、依然として、アルカイダや他のテロリスト集団にとって決定的な財政援助の拠点である」(2009年12月、アメリカのヒラリー・クリントン国務長官)
2014年半ばにアブー・バクル・バグダーディーが一躍有名になった背景には、そもそもアラブ世界のスンニー派共同体に傑出した指導者がいないことによる。スンニー派の世界には、自分たちが弱体化し、リーダーもおらず、犠牲となり、見放されたのだという雰囲気がある。
今日、シリアで活動しているジハード主義のグループは、決して新興の勢力などではない。彼らの思想的なルーツは、1940年代半ばに設立されたムスリム同胞国シリア支部にさかのぼることができる。
2011年に戦争が始まったとき、反体制運動を起こした若者の多くは、1982年に犠牲となった人々の子どもや孫たちである。
シリア政府としては、アメリカ軍を標的とする限りにおいて、ジハード主義者がイラクに渡航することにやぶさかではなく、むしろこれを奨励した。このとき、シリア政府は、フセイン政権の崩壊10年後に、ジハード戦士たちが自国を戦場にして戻ってくるとは想像していなかった。
ヌスラ戦線が兵士に支払っていた給料は最大で月400米ドル。これに対してISISは800ドルを支給した。2013年半ばまでに、ヌスラ戦線の兵士の7割がISISに移った。
ISISは、2015年半ば、シリアとイラクに3万5千人から5万人の兵士をかかえ、9万平方キロの領土と600万人を支配している。これはイギリスと同等の領土の所有、フィンランドやデンマークの人口よりも多い。
2010年5月、バグダーディーは、39歳にしてイスラーム国の新しい元首となった。
2011年初めまでに、旧バース党出身者は、バグダーディーの勢力の上位25人の司令官のうち3分の1を占めた。旧バース党の将校は、戦争、コミュニケーション、規律の点で経験を積んだ兵士であった。
ISISが支配する領土では、ヌスラ戦線以上に苛酷だった。
ISISの戦略は、テロリストの戦略と正規軍の歩兵作戦とを結合させた、高度に多角化したものだった。
キリスト教の文化と違って、ISISにとって黒は死や喪服ではない。黒は日常の色である。
ISISの警察の重要な職務は、パン屋が十分に営業し、日々の小麦を供給されているか、ということを確かめることにある。そして、DVDはISISにより厳しく禁止されている。公共の場での刑罰と斬首はISISの領土では一般的である。
ISISの旗の下に、シリアの戦場へ来た外国人は2万5千人前後。外国人戦闘員の平均年齢は25歳。60%が到着時には独身だった。生活基盤ができてから、地元社会の者と結婚する。ヨーロッパ人戦闘員は、シリアのジハードに多数参加している。1万6千人と見積もられている。ISISに参加する若者が週平均5人はいる。
ISISには女性もやって来る。全員がジハードを経験するために、戦うために来たのではない。その多くは、だまされて、やって来ている。多くは、結婚して子どもをうむために来た。
これらの人々がISISに参加した理由は、単にお金のためや、アブー・バクル・バグダーディーの長い剣の脅しのためではなかった。以前の社会がバラバラになって、彼らを振るい落し、腐敗した貧困と無知になかに放置しておいたために参加した。
ISIS(イスラーム国)の実態に迫った本です。とても参考になりました。著者はシリア人です。
(2016年10月刊。2600円+税)

君たちが知っておくべきこと

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 佐藤 優 、 出版  新潮社
かの有名な佐藤優が灘高校の生徒たちと3年にわたって(それぞれ別人)対話した記録集です。生徒会の主催する先輩訪問行事の一環だったそうです。とてもいい企画だと私は思いました。
同じような本として、『それでも日本人は戦争を選んだ』(加藤陽子)というのがあります。東大教授が高校生を相手に講義したもので、大変刺激的な本でした。このコーナーでも前に取り上げました。
著者は受験勉強は非常に役立つものだと再三強調しています。実は、私も同感なのです。何のために勉強しているのか、受験勉強なんて何の役にも立たないんじゃないか・・・、そう考えたこともありましたが、それから40年以上たつと、いやいやそんなことはないと痛感します。
ただし、そのためには、大学に入ったあと、受験勉強で頭に詰め込んで記憶した物事をきちんと見つめ直して、なぜ、どんなカラクリでその答えにたどり着くのかというプロセスを丁寧に理解しておく必要がある。
受験勉強に意味がない、嫌いだと思っていると、人間は長期間記憶することが出来ない。
東大医学部(理Ⅲ)、慶応の医学部は、特別な記憶力と反射神経の良さにおいて才能が必要とされる。また、東京芸術大学と日本体育大学は、特殊な才能が必要とされる。それ以外の入試は、いかに合理的に勉強して知識を正確に定着させ、それをもとにちょっとした運用をできるようにすること、これが基本。これを守って勉強すれば、司法試験にだって合格できる。
この点についても、私は著者と同意見です。
現在、安倍首相のブレーンになっている兼原信克という人物の本の誤りが厳しく指弾されていますが、本当に呆れる内容です。信じられないレベルの低さなのですが、外務省の超出世頭だというので、まさにびっくりポンです。
良い小説を読んで、さまざまな状況を疑似体験し、代理経験を重ねることで自分を客観視できるし、いろんなタイプの人間を知ることができる。他人の気持ちになって考える訓練が必要だ。
これも、まったく同感です。小説を読んで涙を流すのは心を豊かにしてくれます。
著者は日本の弁護士って、つまらないと切り捨てています。
弁護士は基本的に金持ちの味方だ。怪しげな会社の顧問をやって、脱税をいかにして適法にするかを仕事にしている。
これには大いに異論があります。著者の交際している弁護士は、そのような人ばかりかもしれませんが、金持ちの味方という弁護士ばかりではありません。地道に弱者の権利を守ってがんばっている弁護士は多いし、私をふくめて、そのことにやり甲斐を感じているものです。
弁護士の仕事の面白さが若者によく伝わっていない気はしています・・・。反省です。
著者の読書範囲の広さと深さには脱帽です。大変な知的刺激を受けました。
(2016年11月刊。1300円+税)

テレジン収容所の小さな画家・詩人たち

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 野村 路子 、 出版  ルック
アウシュヴィッツに消えた1万5000人の小さな生命(いのち)というサブタイトルのついた絵本です。
アウシュヴィッツをはじめとする絶滅収容所で殺された子どもは1万5000人どころか、150万人といわれている。そんな子どもたちの怒り、悲しみ、夢、祈り、そして、生きたいという叫び・・・。生命のメッセージが伝わってくる。
ユダヤ人の子どもたちは、学校へ行くことを禁じられ、遊園地やプールからも締め出された。もちろん、これはヒトラーが叫び、権力を握って推進した政策ですが、それを支援したドイツ人大衆がいたわけです。いまの日本で、ヘイトスピーチをし、それに沈黙して、実は手を貸しているという人たちが少なくないことを考えると、おかしいことを権力者がしていると思ったら、すぐに抗議の声を上げないと大変なことになるということです。
いまの日本のアベ首相の手口はあまりにも恐ろしいと私は思うのですが、不思議なことに、年金を切り下げられている年寄りに支持する人がいて、非正規でしか働けず、明日への希望を失っている人が解雇の自由を促進しているアベ政権を支持しています。まさしく矛盾です。
収容所の食事。朝はコーヒーと呼ばれる茶色い水が1杯だけ。昼はピンポン球くらいの大きさの小麦粉の団子の入った、うすい塩味のスープ。夜は、同じスープと小さな腐りかけのジャガイモが一つか、かたいパンが1かけ。それが子どもたちの食事だった。
テレジン収容所の「子どもの家」にいた10歳から15歳までの子どもたち1万5000人のうち、戦後まで生き残っていたのは、わずか100人だけだった。
12歳の男の子の描いた絵があります。首を吊られた男性が描かれています。その男性の胸にはユダヤ人の印であるダビデの星が色濃く描かれています。
どうしてなのか、幼い彼にはその理由は理解できなかった。でも、胸にこの黄色い星のマークをつけさせられた日から、辛いこと、悲しいことが多くなったことだけは分かっていた。
この絵は、少年の大好きな父親が処刑される場面だったのかもしれない・・・。
テレジン収容所が1945年5月8日に解放されたとき、ドイツ軍が自分たちの蛮行を証明する書類を焼却していった焼け残りの書類の下に、子どもたちの絵があった。それを見つけた人が、トランク2つに詰めてプラハへ持ち帰った。子どもたちの絵が4000枚、詩が数十編・・・。それは、子どもたちがこの世に生きていた証だ。
今も、プラハの博物館に残されているそうです。ぜひ、現物をじっくり見てみたいと思いました。年齢(とし)とって涙もろくなった私は、涙なしには絵を見ることも、詩を読むことも出来ませんでした。私たちみんな、この事実を忘れてはいけないと何度も思ったのです。ヘイトスピーチなんて、許せません。
(1997年6月刊。2200円+税)
 土曜日は午前中のフランス語教室を終えて、午後から天神の映画館でフランス映画『アルジェの戦い』をみました。「アタンシオン、アタンシオン」(注意して下さい、注意)という有名なフランス語のセリフが流れてきます。アルジェリアが戦後、フランスから独立するまでにおきたテロや暴動、そしてフランス軍による拷問、弾圧を生々しく再現した映画です。
 実は、私は1967年(昭和42年)4月、渋谷の大きな映画館でこの映画をみたのです。大学に入ってすぐのことです。それまで九州の片田舎に住んでいて大東京に出て、何もかも目新しい生活を始めたとき、世界ではこんなことが起きているのかと、目を大きく見開かされました。
 この映画は前年(1966年)にベネチア国際映画祭でグランプリを受賞したのですが、「反仏映画」だという批判も受けました。フランス軍による活動家への拷問シーンはたしかに凄惨です。
 そして、昨年のパリ同時多発テロを思い出させる映画でもあります。相次ぐ爆弾テロ、車から連射して路上の罪なき市民を倒していくシーンなど、50年前の出来事が今よみがえってきます。
 暴力に暴力で対処してはダメなんだと独立運動の指導者の一人が語ります。革命を始めるより、続けることが難しいし、成功したあとが、さらに難しいともいます。アルジェリアは独立後、実際にそのような経過をたどります。 
 一見に値する貴重な映画です。ぜひ、時間の都合がつけば、ご覧ください。

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