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2016年8月 の投稿

姉・米原万理

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  井上 ユリ 、 出版  文芸春秋
 私は米原万里のファンです。彼女の本のすべてとは言いませんが、かなり読みました。
 毒舌に近い、舌鋒鋭い文章に何度となくしびれました。私よりいくらか年下ですが、尊敬していました。まだ56歳という若さでなくなってしまったのが残念でなりません。本人も本当に心残りだったと思います。
 ロシア語通訳として「荒稼ぎ」もして、「グラスノチス御殿」を建てて鎌倉にすんでいたようです。結婚願望がなかったわけでないようですが、「終生、ヒトのオスは飼わな」かったというのも、男の一人としてなんとなく分かる気がしています。
 妹から見た姉・万里の実像が惜しげもなく紹介されていますので、読みごたえがありました。父親の米原いたるは鳥取の素封家に生まれ、共産党の代議士にもなった大人物です。 
両親とともにチェコに渡って苦労した話から始まります。両親は、どちらもかなりおおらかな人柄で、娘たちを伸び伸び、自由奔放に育てたようです。
 米原家は、みんな大食い、早食いだったとのことです。そして、食べ物に目がなく、食べ物を愛したようです。料理研究家である著者は、まさしく、その趣向を一生の職業としたわけです。
 タルタルステーキの話が出てきます。私が初めてフランスに行ったとき、マルセイユで同行してくれたフランス人が目の前でいかにも美味しそうにタルタルステーキを食べました。生の牛肉に生卵をのせた料理です。私も食べたかったのですが、旅行中なのでお腹をこわしたらいけないと思って、なんとか我慢しました。日本に帰ってから探しても、タルタルステーキを食べさせてくれるところはなかなか見つかりませんでした。魚のカルパッチョはあるのですが・・・。ついに東京のホテルでメニューを見つけたとき、すぐに注文しました。
 怖いもの知らずの万里は、実は、知らないもの、食べなれていない物はダメだった。食べ物に限らず、新しい事態にぶつかると、ちょっと怖じけて、二つの足を踏んだ。
 ええっ、これは意外でした。そして、万里はアルコールコーヒーもたしなまなかったというのです。ウォッカなんて何杯のんでもへっちゃら、そんなイメージのある万里なのですが、意外や意外でした。そして、万里は抹茶をたしなんでいたとのこと。びっくりします。
 そして、米原万里はモノカキになる前、詩人だったのですね。なかなか味わいのある詩が初公開されています。たいしたものですよ・・・。
 トルコあたりのリルヴァというお菓子が世界一おいしいとのこと。私もぜひ食べてみたいと思いました。
 米原万里ファンの人なら必読の本です。
(2015年6月刊。1500円+税)

鉄客商売

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  唐地 恒二 、 出版  PHP研究所
 国鉄が解体して、JRという民間会社になり、良い面だけが一方的にもてはやされる風潮に私は納得できません。私の好きなフランスでは、いまもフランス国鉄ががんばっています。もちろん労働組合もストライキもフランスでは健在です。
 今や日本ではストライキは死語同然。労働組合というのも労務担当(労務屋)の別称で出世階段の一つというイメージが強くなっています。労働組合が弱くなって大きな社会問題になっているのが非正規雇用とワーキングプアーです。
 若者にとって正規社員として就職する可能性がないとか、ブラック企業で死ぬまで酷使されていても耐えるしかないというのは、どう考えても異常な社会です。
 この本は国鉄解体をすすめ、営利本位になったことを自慢している本だと言って切り捨てることも出来ます。労働者は、経営者の言うままに働く存在であればいいという考えが底流にあるのでしょうね・・・。
 まあ、そんな先入観をもって読んでも、商売の論理を実践した本だと割り切って読むと、たしかに参考になるところがあります。
 ただ、「JR九州大躍進の極意」とサブタイトルにありますが、やっぱり列車は安全第一で運行してほしいし、事故対応もきちんとしてほしいという不満を私はもっています。ホームの無人化だなんて、最悪ですよ。安全性無視はいけません。
 1992年度のJR九州の飲食店は大赤字をかかえていた。原因は何か・・・。「気」がない。覇気がない。活気がない。元気がない。やる気がない。気づきがなり。死んだような店になっている。外食事業部門は、はじき飛ばされた人間が中心になって支えていた。
 ノウハウ本の大切な読み方は二つ。
 一つは、気に入った本を一冊、何回も読み返す。
 二つは、書かれていることをまるまる信じ、書かれているとおり全部を実行する。
 半信半疑で、適当につまみ喰いしても、うまくはいかない。
 会社の強さは店長会議で決まる。店長会議では、トップが一人で、方針のすべてを繰り返し語る。聞き手は前の話をほとんど忘れているから、トップは大事なことを何度も語る。
 売上に対して原価率が30%、人件費率が30%あわせて60%というが、もうかる店の標準だ。飲食店の従業員の大半がパートかアルバイト。
 その割合の全国平均は90%いろんな分野で、金持ち層をターゲットにした商業が発展しています。JR九州で、いうと「ななつ星」です。高収入を目ざすには良いことなのでしょうが、そんな超高級の旅行とは縁のない人々も多いということを、JR九州としても忘れてほしくないと思ったことでした。くり返しますが、駅の無人化はやめてください。とりわけ新幹線駅の無人化なんて怖すぎます。
(2016年6月刊。1500円+税)

虫のすみか

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者  小松 貴 、 出版  ペレ出版
 私たちの身のまわりには、庭にも道ばたにも土の中にも、虫たちの不思議な巣であふれているのですね。そのことを満載した写真によって実感できる、楽しい虫の本です。
アリジゴクの主(ぬし)は、ウスバカゲロウの幼虫だったんですね。アリジゴクは、獲物をつかまえると食べるのではなくて、巨大なキバを獲物の体内に突き刺して、中身を吸い取ってしまう。そして、アリジゴクは糞をしない。成虫(ウスバカゲロウ)になったとき、まとめて大きな糞をする。ええっ、そんなことが可能なんですか・・・。
ハチやアリ、シロアリの多くは集団で分業して社会生活を送る。まるで人間のように洗練した高度な社会をもっている。だから、ある高名の昆虫学者が「利口ムシ」だと評した。それに対して、一人で好き勝手に食べて寝て暮らすだけの虫は「馬鹿ムシ」だと評する。しかし、著者は逆だと主張します。
群れなければ何ひとつまともな生活が出来ず、ひとりにされたら惨めに野垂れ死にする社会性昆虫こそ「馬鹿ムシ」であり、誰に教わるわけでもなく、たった一人で精巧な巣をつくり、毒針で狩りをする狩人蜂こそ至高の「利口ムシ」だと・・・。なるほど、ですね。
ヤマアリは強力な蟻酸をもっている。鳥のなかには、わざとアリ塚の上に降り立って暴れ、アリの蟻酸攻撃を受けることで、羽についた寄生虫を退治する「アリ浴び」の習性をもつものがいる。人間も、戦争中、服を洗うことが出来ないとき、ノミやシラミが湧いて困ったら、服をアリ塚に突っ込んで消毒していた。
うひゃあ、そんなこと知りませんでした。そんなことも出来るんですね・・・。
軍隊アリは、ジャングルにはなくてはならない存在である。軍隊アリは、ジャングルの空間にいちばん多く優先して生息する生物を一掃してしまうので、その区画内に「空き」が生まれる。そのことによって、森の生物の種の多様性をつくり出している。なるほど、そういうこともあるんですね。
東南アジアの国にはツムギアリの「アリの子」を食用にしているところがある。アリの幼虫をスープに混ぜたり、お米と一緒に炊いて食べる。かなり酸味の利いた味。まずいというのではないが、決して美味しくもない。そして、ツムギアリの巣を落として、その幼虫を鳥の餌にもしている。
攻撃的なツムギアリは、しばしば害虫駆除のために活用される。
たくさんのカラー写真とともに丁寧に解説されているので、素人にもよく分かります。
(2016年6月刊。1900円+税)

当選請負人、千堂タマキ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 渡辺 容子 、 出版 小学館文庫
東京・横浜のベッドタウンでの市長選挙の実情の一端を描いた小説です。読ませます。
選挙とは、自分の主義主張と心の内面をこれでもかというほど裸にして、それを公衆の面前にさらけ出して審判を受けるという厳粛なる儀式である。
本当は、そうなんですよね。でも、実際には、イメージ選挙のほうが先行しているし、強いです。その根本的な理由は、「べからず選挙」とまで言われる公選法による規制です。戸別訪問を禁止するなんて、とんでもない間違いです。選挙のときこそ、国民が自由に政治を語るべきなのです。
そして、マスコミです。お金さえあれば、マスコミ操作は出来ます。それに権力がともなえば、マスコミなんて、ちょろいものです。かの「アベさまのNHK」に堕してしまった悲惨さは、残念無念というほかありません。
「選挙で勝つには、政策も大事です。ポスターもビラも決しておろそかには出来ません。ですが、もっとも大切なのは、候補者の人間力なのです」
現実には、候補者に「人間力」が全然なくても当選する人が少なくありません。「政策は当選したら勉強します」と臆面もなく言ってのけて当選してしまうタレント候補が昔も今も少なからずいます。
地上戦とは、支持者・支持団体を回って投票を訴え、地道に票を掘り起こしていく活動をいう。空中戦とは、選挙カーや街頭、そしてインターネットを介して広く世間に政策を訴え、浮動票の獲得を図る戦術をいう。
マイクを握るのは左手が基本。右手、また両手でもつと、集まった人々から握手を求められたときに、マイクを持ち替えなければいけない。
「カクダン」とは確認団体のこと。選挙期間中に、特定の政治活動をすることが認められた政党その他の政治団体をさす。
カクダンのビラには、選挙活動用のビラと違って、枚数や回数に制限がない。何枚配ってもOK。ただ、ビラには候補者の名前や顔写真は載せられない。
選挙には多くの人がかかわっているから、誰かのシナリオや思惑どおりに物事が運ぶなんていうことはありえない。それどころか、選挙期間中には、自陣のミスや相手方のミスによって、まったく予期していなかった事件やハプニングが必ず起きる。
想定外の出来事がおきたとき、どれだけ冷静に、かつ素早く事態を掌握し、状況を脱するための方策を練るか。どんなピンチに陥ったときでも、頭を使えば、最悪の状況を打破して、それをチャンスに変えてしまう面白いアイデアがひらめくものだ。
実は、私も、選挙には何回もかかわりました。もちろん、候補者としてではなく、後援会の役員として、です。ですから、街頭での訴えの難しさは身にしみています。歩いている人の足を停めさせるような話をしたいのですが、なかなか出来ません。自分の体験を語り、自分の言葉で候補者への支持を訴えるようにしています。
結局、自分の身近な体験した話題を切り出して、話を具体的に展開するしかないと思いました。
日本人は、もっと真正面から政治とか司法のあり方を議論すべきだと思います。
政治になんか関わりたくないと思っても、政治のほうは私たちを放っておいてくれません。その意味で、投票率54%でしかないという現状を変える必要があります。
(2014年9月刊。670円+税)

大脱走

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 荒木 源 、 出版 小学館
就職に苦労した末に入社できた住宅リフォーム会社は典型的なブラック企業。
そんな会社に入ったとき、どうしたらよいか・・・。
とにかく契約をとること。新人がまずやらされるアポインターというのは、アポをとるのが、すべて。そのためには、まずたくさん「叩く」。
インターホンを押し続ける。200枚の名刺をわずか半月で使い切る。
アポインターは、あとを引き継ぐクローザーが、客と商談をすすめる材料を集めるお膳立ても整えておかなければいけない。
どんな仕事でも、仕事のない恐怖に比べれば、まだまし。
もちろん、サギまがいの住宅リフォーム会社に騙される客ばかりが世の中にいるわけではありません。逆に、騙したはずの客に会社が脅かされてしまうことだってありうるのです。そんなときには、会社は、それは現場の人間が社の方針とは違ってやったことで、社は責任がないと突き放してしまいます。怖い仕組みです。
そんなことを許していいのか・・・。社員が結束してブラック会社を変えよう。そう思っても、一緒に行動してくれる人はほとんどいない。みんな、自分の身が可愛い。じゃあ、どうする、どうなる・・・。
救いのあるような、ないような、身につまされるストーリー展開の本でした。
なかなか、こんなブラック企業って、なくなりませんよね。どうしたらいいんでしょうか・・・。
(2015年11月刊。1400円+税)

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