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2016年6月 の投稿

安高団兵衛の記録簿

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 時里 奉明 、 出版 弦書房 
すごい人がいたものです。自らのしたこと、生活のすべてを刻明に記録していたのです。
私も、それなりに記録魔のほうですが、この本の主人公はケタ違いです。私など、その足元にはるか及びません。
私の場合、小学4年生以来つけていた日記やノート、メモを捨てずに今も手元に残しています。記録をとるときに忘れてはいけないのは、「年」です。そして、出来たら「時刻表示」もしたほうがいいのです。始まりが何時何分で、終了したのは何時何分だったと記録するのです。これは、旅行記をまとめるときに役に立ちます。
私は、それを活用して、大学生のころ何をしていたのか(セツルメント活動、寮生活そして東大闘争)について、8冊の本を刊行しました(売れなかったのが残念です)。弁護士になってから受けた税務調査実の顚末も2冊の本にしました。そして、先日、司法修習生のころを小説にしました。日記を書いていたのではありません。メモを書いて残しておいたのと、当時の資料のほとんどをダンボール箱に入れて保存しておいたのをベースとしました。もちろん、それだけでなく、同期の人たち、そして先人の書いた本などを広く参照しました。
この本の主人公は福岡県芦屋(あしや)町に生まれました。安高(あたか)という名前です。典型的な農家の生まれ育ちでした。
著者は安高家の長男として生まれ、家業の農業に従事した。地域のさまざまな団体組織の役員をつとめ、社会的な活動にも熱心だった。
団兵衛(著者)の日記は11歳のときに始まり、60年間、ほぼとぎれることなく続いている。
団兵衛は睡眠時間を削ってまで働いた。そして、何時間ねたかも記録していた。その平均した睡眠時間は5時間40分だった。
団兵衛は、農業をはじめてみると、農業ほど面白い仕事は他にないと思うまでになった。農業ほど楽しく、しかも聖なる仕事はない。
団兵衛は読書につとめた。それは修養のためだった。団兵衛にとって、近郊の市場へリヤカーに品物を積んで牛馬にひかせて歩いていくときの読書が唯一の「読書タイム」だった。
私は、本を読むのは車中と機中に限っています。机に向かったときは、もっぱら書きものをしています。
一人で仕事をすると、競争相手がいない。そこで、時間と競争をする。つまり、時間を相手にすることによって、競争心理が生じる。こうすることで、精神が緊張し、仕事の能率が向上する。
日本人のなかには、こんなに記録を残したい人がいるのですよね。それでルポルタージュも売れるのでしょうか・・・。私は、やっぱり小説を書きたいです(主人公になった気分で大きくはばたきたいのです・・・)。
一冊の手頃な本にまとめていただいた著者に感謝します。
(2016年3月刊。1900円+税)

「トゥイーの日記」

カテゴリー:アジア

(霧山昴)
著者 ダン・トゥイー・チャム 、 出版 経済界 
かつて「ベトナム戦争、反対」の声をあげた人に、そのベトナム戦争の実情がどんなものだったのかを知るため、ぜひ読んでほしい本です。実話です。
北ベトナムで医師の娘として生まれ育ち、医師となって志願して南ベトナムの戦場へ行き、苛酷な戦場で3年あまりを過ごして、ついにアメリカ兵の銃弾にたおれた若き女医さんが、ずっと日記をつけていたのです。それを「敵」のアメリカ兵がアメリカ本国へ持ち帰り、英訳し、またベトナムで出版されたのでした。
この日記を手にして読んだ南ベトナム軍の兵士が「燃やすな。それ自体が炎を出しているから」と叫んだというのです。持ち帰ったアメリカ兵は、今、アメリカで弁護士をしています。
実は、この本を紹介するのは二度目です。前にこのコーナーで紹介したのを目に留めた「NPO津山国際交流の会」から映画のDVDを寄贈していただきました。本当にありがたいことです。もちろん日本語字幕つきです。この本とあわせて、この映画が広く日本でも上映されることを願っています。
涙なくしては読めない日記です。うら若い女性が、日々の戦場の苛酷さを紹介し、また、そのなかで人々の温かい愛情に包まれながらも、揺れる心情を率直につづっています。公開を前提としない日記ですから、若き男女の思いが交錯している様子も悩みとともに書きつづられていて、胸をうちます。胸がキュンと締めつけられます。
「午後、いつものように双胴戦闘機が村の上空を旋回していた。すると突然、ロケット弾がファーアの13の村落に投下され、続いて、ジェット機が2機、代わる代わる攻撃を開始した。飛行機から放たれた爆弾は重々しく落下し、地上に突っ込む。爆弾が炸裂すると激しい炎が上がり、煙がもうもうと立ち込める。四角い形をしたガソリン弾は太陽の光の中できらきらと照り返り、それから地面に触れた瞬間に真っ赤な火の玉が上がり、空が厚い煙で覆われる。戦闘機は唸るような轟音を上げて飛び続けている。そして旋回するたびに爆弾が投下され、耳をつんざく爆音が響き渡る」(1969年7月16日)
「昼夜を問わず爆音が空気を揺さぶり、頭上を旋回するジェット機や偵察機、ヘリコプターの轟音が鳴り響く。森は爆弾と銃弾の傷痕が生々しく、残った草木も敵が散布した薬剤のせいで黄色く萎び、枯れてしまった。薬剤は人体にまで影響するらしく、幹部たちは皆、ひどい疲れと食欲不振を訴えている」(1969年6月11日)
「アメリカ軍は昨日の朝から進攻を開始し、私たちは今朝4時に起きた。7時、敵の攻撃が始まる。私たちは壕にもぐった。壕にもぐって1時間あまりたったころ、中の雨水がだんだん増えてきて、あと少しで水面が胸元まで届くほどになった。私たちは寒さに震え、ついに耐えられなくなった。アメリカ兵がどこにいるか分からないが、とにかくここを出ると決心して、蓋を持ち上げて外に飛び出し、草むらの中にもぐり込んだ」(1969年10月30日)
「戦争はあまりにも残酷だ。今朝、燐爆弾で全身を焼かれた患者が運ばれてきた。ここに来るまでに1時間以上はたっているというのに、患者の体はまだくすぶって煙が立ちのぼっていた。患者は20歳のカインという少年だ。いつも楽しそうに笑っていた真っ黒な目は、今はただの小さな2つの穴にすぎない。茶色く焼け焦げたまぶたからは、燐の焦げ臭い煙がまだ立ちのぼっている。その姿はまるでオーブンが出されたばかりのこんがり焼いた肉塊のようだ」(1969年7月29日)
「一斉攻撃の最中でも、周囲に落とされる爆弾を見ながら、岩の隙間で日記や手紙を書き続けた」(1969年2月26日)
「日曜日の午後。日差しが強く、成熟しきった森の中を激しい風が吹き抜けている。ラジオはちょうど『世界の音楽』の時間。小さな部屋で仕事をしていると、この空間がとても平穏であることに気づく。砲弾も戦火も、肉親を失う苦しみもふと消え、胸中には、ただメロディーから生まれる感動が残るだけ」(1969年1月19日)
「日曜日。雨の後の空は快晴で、涼しい風が心地よい。木々の緑もつやつやしている。部屋のテーブルの上野花瓶には、今朝取り替えたばかりのヒマワリ。ラジオの光沢のある本棚に影を落としている。レコードからは耳慣れた『ドナウ川のさざなみ』の音楽が流れ、訪ねて来た友人たちの笑い声がしている」(1970年6月14日)
日記は1970年6月20日で終わり、その2日後、トゥイーはアメリカ兵の銃弾にたおれた。 
この日記が書かれていたのは、私の大学2年生のころから3年生のころのことです。他人事とは思えず、読むたびに涙がこみあげてきます。
才能あり、感情豊かな女性を戦争のせいで失くしたというのを実感させられます。
戦争の怖さと愚かさ、平和の大切さをしみじみ実感させてくれる貴重な日記です。
映画(DVD)を寄贈していただいて、本当にありがとうございました。
(2008年8月刊。1524円+税)

憲法と政治

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 青井 未帆 、 出版 岩波新書 
 日本は長いあいだ武器輸出三原則によって基本的に軍事品の輸出をしてこなかった。これのメリットは、第一に日本の企業が軍需に依存する度合(比率)が低いこと。
 日本には、これまで輸出を前提とした軍需産業がなく、ほぼ自衛隊の装備調達のみに市場が限られてきた。その結果、防衛関連の企業が軍需に依存する比率は低い。三菱重工は10%、川崎重工は15%、IHIは9%、三菱電機は3%、NECは4%、軍需に依存しなくても企業は経営ができるため、国の防衛政策に意向を反映させようという動機がアメリカに比べて低い。アメリカは産軍複合体の力が強くて、大きな弊害が指摘されている。
 ところが、安倍首相の外遊には、多くの防衛産業関連企業が同行している。
 第二に、日本の積極的な軍縮外交を支えてきた。安倍政権は、これを根本的に転換した。今や人の命を奪うことで収益をあげるビジネスに自民・公明の政権が大きく乗り出しつつある。
 この本が画期的なのは安保法制が憲法違反であることが一見して明白であるからには、司法(裁判所)は、その判断を逃げることなく示すべきではないかと問いかけている点です。まことにそのとおりだと私は思います。
憲法を頂点におく憲法秩序をいかに維持していくのか、それを公務員であり、司法が考えなくていいはずがない。
通常、司法裁判所における訴訟の直接の目的は、主観的権利の保障であるが、付随審査制とは司法権の行使に付随して違憲審査がなされるものであり、違憲審査の有する個別の事案を超えた性質を考えれば、客観的憲法秩序の維持を図る訴訟のあり方を開拓し、展開していく可能性はあると考えたい。付随審査制をとるから抽象的な審査ができない、というわけではない。
 違憲審査そのものが、個別の事案をこえる性格を有する。付随審査制をとるアメリカでも、憲法上の争点を提起した者の個別具体的な事実関係が、単なる憲法判断のきっかけという扱いをされることは、しばしば起きている。つまり、アメリカのような付随審査制でも運用のなかで紛争解決とともに憲法秩序が保障されるようになっている。
もちろん、どんな問題であっても司法権が判断できるというのでは、権力間のバランスが崩れてしまう。だから、しかるべきときに、しかるべき判断をすることが重要なのである。
 憲法訴訟で「金銭賠償をせよ」と主張するのは、多くの場合、次善の救済にとどまったり、名目的な救済であったりすることにも、留意しておきたい。
 日本のように、憲法訴訟の受け皿として使える訴訟形式が限られているなかでは、使えるものは何でも使わざるをえない。実際に違憲を問う一つの有効な方法として認められてきたからこそ、これだけ広く用いられている。たとえば、再婚禁止期間違憲判決は、違憲性を否定しながらも違憲判断を下しており、実質的には違憲確認訴訟として機能した。
 このように、どんな事件であっても憲法判断を引き出せるというわけではないが、司法府は統治機構の一部として負っている法秩序の維持という任務から、憲法判断を示さなくてはならない場合があるはずである。
 砂川事件の最高裁判決において、「一見極めて明白に意見無効」と認められる場合には、裁判所の司法審査権の範囲に入ること、そして「違憲」とする理論的可能性が述べられている。
裁判所の判断に関係する諸機関が従うかどうかは、その判断がどれだけ説得力をもっているかにかかっている。それは、論理的な整合性の問題でもあり、そしてまた市民の支持を受けるものであるかどうかという問題でもある。
 砂川事件の最高裁判決を自民党とは違った観点から使っていこうとする大胆な問題提起がなされています。この新書こそ、今日の私たちの願いにまさしくこたえてくれるものです。司法関係者に一人でも多く読まれることを願ってやみません。安保法制が違憲であることは一見明白だということ。その点を司法は責任もって明らかとすべきなのです。
(2016年5月刊。840円+税)

八法亭みややっこの憲法噺

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 飯田 美弥子 、 出版 花伝社 
実は、タイトルには「日本を変える」というのが入っています。そうなんです。単に面白、おかしく落語を語るのではありません。もちろん楽しくなければ落語ではないのですが、何のために弁護士が落語を語るかと言えば、日本社会に憲法の精神を定着させること、その方向で日本社会を変革しようというのです。
そんなことが落語を語って可能なのか・・・。
みややっこの話を一度きいてみたら、それが可能なんだと確信できるのです。そんなスゴワザの持ち主なのです。
わずか100頁のブックレットですが、そこに美味しいアンコがギュウ詰めです。みややっこは食べられませんが、冷ややっこなら美味しくいただけますよね・・・。
といっても、平日はフツーに弁護士業務をしている。土日祭日のみの「噺家(はなしか)」で、3年間に130高座をつとめた。だから、休日は、ほぼない。
高座といえども、弁護士による憲法の講義なので、噺は90分かかる。それを、「あっという間だった」「眠らなかった」という聴衆の感想が寄せられるものにする。会場での著書サインセールは行列ができる。
アベ政治は許さない。自民党の改憲草案(2012年10月に発表)の時代錯誤的内容を知って、弁護士として仰天させられた。
アベ首相のホンネは自民党の改憲草案にそって憲法を変えることにあるのに、選挙の前になると、それを隠してアベノミクスの是非、経済問題一本に争点をしぼって本当の争点を隠してしまう。そしてNHKをはじめとするマスコミが、みんなアベ政権の言いなりになって動いて、世論を誤った方向へ誘導していく。そして、選挙で「勝つ」と、とたんに信を得たから憲法改正だと大声で叫びたてる。
もういいかげんに、アベ政治に騙されないようにしましょうね。
今日も元気なみややっこ先生の、怒りに満ちみちたブックレットです。
お値段も800円(と消費税)と安いので、ぜひ買って読んでみてください。
(2016年5月刊。800円+税)

ブラックバイト

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 今野 晴貴 、 出版 岩波新書 
学生を「使い潰す」アルバイトをブラックバイトと呼ぶ。
アルバイトに過重労働が広がったことによって、もっとも重大な被害をこうむっているのが高校生そして大学生だ。学校のテストや授業よりも、アルバイトを優先するように強制され、「単位が取れない」「留年してしまった」「進学をあきらめてしまった」という問題が全国で一斉に吹き出している。
問題の背後には、産業界の変化、学生の貧困の拡大、教育の変化などさまざまな要因がある。
ブラックバイトで問題になっている業種の多数は、全国規模のチェーン店として展開している。
店の側は、アルバイトをやめようとする学生をこうやって脅す。
「本当に辞めるのなら、懲戒解雇にする。懲戒解雇になったら、就職できなくなるよ」
ええっ、これはひどいセリフです。もちろん、まったくの嘘八百のセリフですが、この脅し文句を真に受けてしまう学生は少なくないことでしょう・・・。
「おまえ、どうやって責任とるんだ。死んで責任をとるしかないぞ」と脅されたアルバイトもいる。なんてひどいセリフでしょうか・・・。いえ、もっとひどい脅しのセリフもあります。
「今から家に行くからな。ぶっ殺してやる」
うひゃあ、す、すごーい・・・。こんな物騒なセリフを吐く店長も相当に追い詰められているのでしょうね。でも、言われた当の本人は、ついに不安障害、うつ状態と診断されてしまいました。
ブラックバイト・ユニオンという団体(労組)まで結成されているそうです。一抹の光明ですね・・・。
個別指導を売りものにする塾では、担当生徒を3人以上も退会させたら解雇されるという規定がある。
牛丼チェーン店の「ワンオペ」。ワンオペとは、何から何まで、すべてを一人でやらなくてはいけないという状態をさす。休憩をとることが不可能になる。
24時間、仕事に拘束されたうえ、さらに大変なのは、クレームへの対処。
ブラックバイトは、学生であることを尊重しない。 
この点が、私たちの時代の学生アルバイトとは決定的に異なります。少し前まで、試験が近づくとアルバイトが休みをとるのは当然でした。ところが、今は違うのです。今やアルバイトは過剰なまでに戦力として期待されています。
ブラックバイトの三つの特徴。
一つは、学生の戦力化。
二つは、安くて従順な労働力。
三つは、一度はいると、辞められない。
今の学生の置かれている非常に深刻な状況が嫌やというほどよく分かります。どうやって打開したらいいのでしょうか・・・。みんながよく状況を認識し、おかしいという怒りの声をあげていくところから始めるしかありませんよね。
(2016年4月刊。820円+税)

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