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2016年3月 の投稿

ペコロスの母の贈り物

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  岡野 雄一 、 出版  朝日新聞出版
 『週刊朝日』に連載されたペコロスのマンガが本になっています。
 著者は長崎に戻ってタウン誌の編集長になってから、認知症になった母親のエピソードをマンガで紹介しはじめたのでした。
 父親は酒におぼれ、家庭内暴力がひどかったようです。それで、母親は若いころ裸足で家を飛び出して逃げたりしていたのです。
 そんな父親が、認知症になった母親の前にとてもいい感じのお爺ちゃんになって現われるのです。そして、それが息子である著者のトラウマを癒し、リハビリの時間になっていくのでした。
 母親の口癖がいいですね。「生きとかんば!」というのです。生きておきなさい、っていう言葉ですよね。
いろいろ大変なことがあっても、あきらめずに生きていこう。そしたら、いつかきっと、良いことがあるさ、という楽天的な言葉です。
 飲んだくれの暴力父は、実は、若いころにはアララギ派の短歌をよんでいたそうです。斉藤茂吉のあとの土屋文明にケンカを売っていたとのこと。
 著者のマンガは、そこはかとないペーソスを感じさせ、味わい深いものがあります。
(2016年1月刊。1200円+税)

ニュートリノで探る宇宙と素粒子

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者  梶田 隆幸 、 出版  平月社
 よくは理解できないながら、宇宙の成り立ちが少しでもつかめたらという思いで読みすすめてみました。
 ニュートリノは、電子と同じく素粒子の仲間。ニュートリノは、電子から電荷と重さをはぎとったようなもの。ニュートリノの大きさは分かっていない。
 私たちは、ニュートリノを触ったり、目で見たりして直接感じることはできない。
 しかし、ニュートリノがなければ私たち人類は存在できない。なぜか・・・。地球上の生物は、すべて太陽の光と熱によって生かされている。もしも太陽がなかったら、地球表面の温度は太陽系のいちばん外側にある冥王星よりも下がり、生物はまず生きていかれない。
 大要のエネルギーは、核融合反応によってつくられている。太陽中心の水素原子核が4個くっついてヘリウム原子核になるときに、膨大なエネルギーを放出する。もし、ニュートリノがなかったら、この反応はおこらない。最初の核融合反応が点火しないから・・・。
 ニュートリノがないと、太陽だって光り輝くことができないというのです。なんだか、ニュートリノを身近に感じることができました。
ニュートリノは観測するのが、とてもむずかしい。なにかにぶつかっても、曲がったりせず、地球すら貫通して飛んでいってしまう。
 太陽からやってくるニュートリノ1個を物質と反応させるには、地球を100億個ほどタテに並べてニュートリノを通す必要がある。そのくらい大量の物質があってはじめて、反応が起こる。逆に言うと、1個の地球を100億個のニュートリノが通り抜ければ、そのうちの1個がたまたま地球の内部のどこかで反応することになる。
 ニュートリノは、雨あられと地球に降りそそいでいて、太陽から地上にやってくるものだけでも、1平方センチメートルあたり毎秒660億個もある。
 こんなにすさまじい量のニュートリノって、一体どこへ行くのでしょうか・・・。
 スーパーカミオカンデは、直径40メートル、高さ40メートルの水槽を5万トンの水で満たしている。
 ニュートリノが一番たくさんつくられたのは、宇宙の始まり、つまり「ビッグバン」のとき。宇宙は始まって以来、ニュートリノに隅々まで満たされている。
 ニュートリノは、宇宙で一番たくさんある、もっともありふれた粒子である。
 ニュートリノは、電気的に中性で、物質とほとんど反応しない。ニュートリノは、物質と相互作用する力が弱い。弱い力とは、陽子の大きさの1000分の1くらいの距離にしか力が及ばない。
大気ニュートリノは、人間の身体にあらゆる方向から入射し、ほとんどそのまま空き抜けていく。
ニュートリノに質量があることは、現在では素粒子物理学の定理となっている。
 岐阜の山中にあるスーパーカミオカンデのほか、南極にも観測点があるそうです。すごいな、すごいな、と思いつつ、宇宙の起源と構成って今でも不思議なことだらけだということは、よく分かりました(分かったような気がしました)。
(2015年11月刊。800円+税)

古代ギリシャのリアル

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  藤村 シシン 、 出版  実業之日本社
 古代ギリシャって、こんなにも自由奔放な、極彩色なところだったのですね・・・。真っ白な、どっしりと落ち着いた神殿のある国とばかり思い込んでいました。
 古代ギリシャに関する現代日本人の勝手な思い込みを軽く一掃してしまう画期的な本です。ギリシャに少しでも関心のある人には必読の本だと思いました。
 ギリシャには昔から白亜のパルテノン神殿があるなんて、とんでもない幻想だ。古代ギリシャの神殿は極彩色で彩色されていた。
 中国・西安に埋もれていた兵馬俑もそうなんですよね。極彩色なんです。これには大英博物館のスキャンダル(1939年)がからんでいたとのことです。うへーっ、知りませんでした・・・。
 古代ギリシャ人は、いちど完全に滅んでいるため、現代ギリシャ人とは血のつながりとか歴史のつながりはない。
 古代ギリシャ人は、古代ローマの中に吸収されてしまった。古代ギリシャ人は、もともとは海を知らない地方に住んでいた民族だった。
パルテノン神殿は紀元前5世紀に建てられているが、つくられた当初は、百足(ヘカトンペドス)と呼ばれていた。神殿の内部にあり、100歩(30メートル)で歩けるから・・・。
 パルテノン神殿は、もしものときに備えて金を備蓄するための倉庫だった。だから、祭壇がない。そして、パルテノン神殿は聖母マリア教会となり、イスラム教のモスクとなり、オスマン帝国は要塞化して、弾薬貯蔵庫とした。そのため、17世紀に爆発炎上してしまった・・・。
 この本が面白いのは、ギリシャ神話をじっくり解説しているところです。なあんだ、そういうことだったのか、と驚嘆してしまいました。
 有名なテミストウレス将軍は、ギリシャで一番強いのは俺様ではなくて、カミさんだ。いや、そのカミさんだって息子のいいなりなんだから、息子が全ギリシャで最強なんだ。そう言ったそうです。本当の話なんでしょうか・・・。出来すぎています。
 古代ギリシャの神々がいかにも浮気者ぞろいということもよく分かりました。これって、日本も同じようなものですよね・・・。40年以上も日本で弁護士をしていて、日本人の女性が昔から弱いなんて、ご冗談でしょうと思いますし、江戸時代の「女大学」なんて、実態にあわないものを押しつけようとしたもの、つまりウソ八百だと実感しています。日本は古代ギリシャ人と同じで、昔から性の解放はすすんでいたのです。
 ギリシャという国に少しでも関心のある人には強く一読をおすすめします。
(2016年2月刊。1500円+税)

生涯を賭けるテーマをいかに選ぶか

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 最相 葉月 、 出版  ポプラ社
  著者の名前は、「さいしょうはづき」と読みます。その『絶対音感』という本を読んだときには内容に圧倒された覚えが鮮明にあります。東京工業大学で朝一限目の講義をしたものが本になっています。当代一流の人々が登場して、その苦労話を語り聞かせてくれるのですから、面白くないはずがありません。
テーマは大切。テーマに対する思いが一番大事だ。
  人間は、ものごとが発見された順序にそって説明されると、一番よく理解できる。
  ああ、そうなのか・・・。だから、ほとんどの本で、結論から書いてなくて結論に至るプロセスから説明されているのですね。これまでは、まどろっこしくて、たまりませんでしたが、少し考えを変えてみましょう・・・・。
  生物が進化するシステムが次のように説明されています。DNAは、A(アデニン)とT(チミン)とG(グアニン)とC(シトシン)という4つの塩基で構成されている。このA,C,G,Tの分子の中で、何もしなくてもプロトンという水素結合のところが二本になることが、ごくたまにある。これは1万分の1くらいの確率。そうすると、Cが三本の腕で手を結んでいたGのところにAが来るようなことが起きてしまう。これが進化の原因である。つまり、生物というのは賢くて、天然にある量子科学的ゆらぎを利用して進化している。なんとなく分ったような気がします。
  生物の外観が美しければ、進化したと考える。見て、異常で、醜悪なものは、進化ではなく、異常個体とみなす。
ショート・ショートで有名な星新一は、アイデア捻出の原則は一つしかないと断言した。それは、異質なもの同士を結びつけること。
  SF作家は、矛盾したものを衝突させて、いわば夫婦ゲンカをさせて、次数が上がった世界を導き出し、それを起点として物事を書こうとしている。
  新しい話(アイデア)はこの世にないものだから、明後日(あさって)の世界からとってくるしかない。
人と会話するときには、事前に準備することが必要。
ともかく、継続、そしてやる気を長持ちさせることだ。
  統合失調症に親和的な人は、かすかな兆候を読む能力が傑出している人が多い。人間にとって必要不可欠な機能の失調による病気が統合失調症である。
私にとって、かなり(というか、ほとんど)難しすぎる本でした。それでも、人間の身体の神秘の一端には触れた思いがしました。死を覚悟した人にとっては、何も怖いものがないということも聞いていて、よく分りました。
テーマ選びの大切さをしっかり認識しました。
(2016年1月刊。1500円+税)

哲学な日々

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 野矢茂樹 、 出版  講談社
  著者は西日本新聞にエッセイを連載していたそうです。私は読んでいたかもしれませんが、記憶にありませんでした。東大に理系で入って、大学生として12年もいて、今では東大で哲学を教えているそうです。しかも、座禅まで教えているなんて・・・。東大駒場に、そんな場所があったなんて、信じられません。
  哲学は体育に似ている。実技なのだ。教師が問題を提示して学生が受けとめる。簡単に答えは見つからない。知識を伝えるというより、哲学を体験してほしいということ・・・。
不測の事態は必ず起きる。そんなとき、スピードと効率だけを考えて前のめりに行動していると視野が狭くなり、柔軟性を失う。だから哲学が必要となる。いったい、これは何なんだと自分のやっていることを問い直すのが哲学だ。
  座禅は、1分間に吐いて吸ってを3回以下の速さで、ゆっくりやる。吐く息とともに、今しょい込んでいる余計なものをすべて吐き出すような気持ちで静かに吐き出す。自分を空っぽにしていく。何も考えない。囚われない。こだわらない。呼吸だけに集中して、ただ空気が自分の体を通って巡っていく。そうすると、透明感と言えるような澄んだ感覚になる。
  うひゃあ、そ、そういうものなんですか、座禅って・・・。
  座禅中は、いっさいの価値判断を捨てなければいけない。
子どもを「ほめて育てる」という方針は根本的に間違っている。ほめられて育った子は、ほめられるためにがんばるようになる。そして、そこから抜け出せない。そうではなく、共に喜ぶこと。一緒に喜んで、子どもが感じている喜びを増幅する。そして、その子が自分の内側から感じる喜びを引き出してあげる。
  なるほど、この点はまったく同感です。
哲学というのは、他の学問分野と比べて、妄想力の比重が大きい。
考えるためには言葉がなければならない。言葉によってはじめて、思考が成立する。だが、言葉はまた、思考を停止させる力も持っている。思考を停止させる言葉に対抗するには、やはり言葉しかない。冷静で、明晰な言葉を、私たちは手放してはならない。
  さすがに哲学者の書いた本だけあって、普段なら考えないような点をいろいろ考えさせられました。
(2015年12月刊。1350円+税)
 わが家の近くの電柱にカササギが巣をつくっています。山に近いからだと思いますが、3個もあります。通勤途上にカササギが枝を口にくわえて運んでいるのを見かけます。それにしても巣づくりの初めは難しいと思います。うまく落ちないように枝を組み合わせていくのですよね。誰にも教えられずに本能だけで巣づくりをします。そして、少々の強風が吹いたくらいでは巣は壊れません。
 実は、わが家の庭にあるビックリグミの木にも高いところに巣をかけましたが、結局、使われませんでした。
 電柱の巣は九電が毎年撤去してしまうのです。カササギは、それにめげずに巣をつくって、子育てするのです。偉いですね・・・。

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