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2016年3月 の投稿

夜中の電話

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  井上 麻矢 、 出版  集英社
 私のもっとも尊敬する現代作家である井上ひさしの貴重な言葉が記録されています。娘(三女)に対するものです。
自分の不幸さえも幸せに転化させる術、「書くこと」を見つけた父。中年期以降は本来が明るい性格だったのだろう。とても楽天家だった。
 癌とたたかっていた父は、なるべく大好きな鎌倉の家に戻りたいと思っていた。なるほど、竹林を見ていると、心が落ち着く。
 父は死ぬのが怖いので、人はいかに死んでいくのかを戯曲に書いてきた。病院嫌いだし、そうとう怖かったと想像できる。父は、よくも悪くも真面目な人だ。
 父は元気になったら書く演目を決めており、それをいつから書き始めると計画を立てていて、強い意思をもっていた。
 父は、生真面目なので、新しい家庭ができると決まった日から、娘たち3人とは一線を引いた。この事実も、娘たちには、大きなショックとしてのしかかった。
 父にとっての幸せは作品を書くことだった。父とは行楽に行くこともなかった。父は眠る時間さえなかったのだから、子どもとの会話など、あろうはずもない。父は、忙しくて書斎にこもってばかり。机に向かって書いている父には、誰ひとり声をかけられなかった。
 立食パーティに行ったら、食べ物を食べないこと。どんなにお腹が空いていてもダメ。私も、いくら高い会費を払っても、立食パーティでは食べないようにしています。それは、どれだけ食べたのか分からない食べ方はしないようにしているという、ダイエットの一環であると同時に、話すべき相手をつかまえて談論することを優先させていることによります。それがうまくいったときには手にした赤ワインが2杯、3杯となって酔いを感じてしまうのです。やはり、空きっ腹にワインは良くありません。
まじめなことをだらしなく、だらしないことをまっすぐに、まっすぐなことをひかえめに、ひかえめなことをわくわくと、わくわくすることをさりげなく、さりげないことをはっきりと書く。
 井上ひさしの偉大さは、こんなにも分かりやすく課題を提起していることにもあります。
言葉は、お金と同じだ。一度だしたら元に戻せない。だから、慎重に、よく考えて使うこと。
 絶対に成功するという強い心をもつことは、逃げ道をつくらないで進む覚悟にも通じる。
 後ろ向きな言葉を言うときには、一日、置いてみる。仕事でも恋愛でも家族でも、決定的なことは最後まで口から出さない。
言葉は、自分が身につけられるものの中で、もっとも重要なもの。仕事場に行くとき、気分が落ち込む原因は、その場所で自分の立ち位置がよく分かっていないからだ。
 井上ひさしが作品を書くために膨大な資料を調べたのは、想像力をかきたてる下準備だ。調べてはじめて想像することが容易になる。
 プロというのは、自分で決めたことは、どんなことがあっても実行してしまう、強い魂の持ち主を言う。
 交渉時は、まず相手にしゃべらせること。仕事では、まず相手の話を聞くこと。人間は、自分の意見を聞いてくれた人には、割と素直になれる。
突然「こまつ座」を率いる立場になった井上ひさしの三女の話です。井上ひさしも偉いですが、三女である著者もすごい、すごいと感じながら読了しました。
(2015年12月刊。1200円+税)

東芝・不正会計

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  今沢 真 、 出版  毎日新聞出版
 東芝といったら、経団連副会長の企業。いわば日本を代表する企業です。その東芝で最高トップ連中が醜い派閥抗争のあげく、違法な「利益」を操作していたというのです。許せません。そして、自らは手がうしろにまわるような犯罪行為をしているくせに、経団連は子どもたちに学校で道徳教育をもっとやるべきだと声高に叫びたてています。いったい誰を手本としろというのでしょうか。まさかアベ首相ではないでしょうね。「東芝の社長のような立派な人になれ」と子どもたちに言うのですか。とてもそんなこと言えませんよね・・・。
 不祥事を起こした大企業の株主総会のときには、役員はズボンの下に大人用のおむつをつけて壇上にあがる。今では、これが常識となっている。というのは、質問に答えるべき役員がトイレに行っていて答えられないというのでは困る。とくに議長をつとめる社長がトイレだといって退席したら、株主総会は中断してしまう。そして、中断した時に株主が帰ってしまって議決ができなくなったら大変なことになるからだ。
 うひゃあ、トイレ休憩もとれないのですか・・・。ちっとも知りませんでした。東芝なんて、自業自得ではあるのですが・・・。
 東芝では、トップ(社長)の指示のもとで、たった3日間で119億円もの利益操作が行われた。佐々木社長(当時。経団連副会長)は、4年間にパソコン部品の押し込み販売による利益水増し額が654億円に達した。
 ここから言えることが少なくとも二つあります。一つは、こんなインチキをしているといことは、まともに税金を支払っているはずもないということです。それなのに、アベ政権は法人税の減税を強引にすすめています。もう一つは、会計法人なんて無用の長物だということです。情けない存在です。
 東芝で利益水増しが組織的に行われていた背景には「上司に逆らえない企業風土」があると指摘されている。いやな企業社会ですね、これって・・・。
 結局、東芝は過去6年間に1500億円もの利益水増ししていた。そして、最終的には5500億円もの赤字をかかえる会社だと発表された。ここまでデタラメしても、東芝の元社長たちはのうのうとしています。刑事責任が厳しく追及されるべきではないでしょうか。
 私は、弁護人としてスーパーの万引き(常習)事件をよく担当します。わずか1000円とか2000円の被害で懲役1年というのが珍しくありません。それと対比させると、東芝の社長たちだったら、懲役20年とか30年が相当なのではないでしょうか。
そして、東芝はウェスチングハウスというアメリカの原発企業をかかえているのも問題です。日本政府が原発を海外へ輸出しようというのに東芝も乗っていますよね。これまたとんでもない無責任な行動です。日本国民を裏切るものです。
自分たちの金もうけのためなら、何でもやっていいという企業風土を根絶してほしいものです。
                              (2016年2月刊。1000円+税)
 

初日への手紙Ⅱ

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者  井上ひさし 、 出版  白水社
 圧倒されます。そして、ぐいぐいと引きずり込まれてしまいます。
 時がたつのを忘れます。読みおえたとき、胸が熱くなっています。今日は、すごいいい本に出会えたな、そう思って感謝の気持ちで一杯になります。
 新国立劇場のこけら落とし(初演)の作品として井上ひさしは新作を目ざします。いつものように、凝りにこった台本です。戦前の日本史、天皇の言動、軍部の動向、そして被爆死してしまった演劇人のことなどを徹底して調べあげ、見やすい年表をつくり、そして登場人物の人形を机の上に並べてストーリーを考えに考え抜いて文字にしていくのです。
 まさしく身(生命)を削る必死に作業です。10日間、お風呂にも入れないほど、一刻一秒も惜しんで、睡眠時間を削って、それでも開演初日まであとわずかというのに、台本はまだ完成していません。遅筆堂として有名でした。
 しかし、出来あがった台本の素晴らしさは観客の心を大いに揺さぶります。だけど、これでは演じる役者はたまりませんよね・・・。
そんな舞台裏が井上ひさしの送ったFAXを通じて明らかにされています。
「状況はますます切迫してきましたが、命がけでやっているのですから、きっと活路は見つかるはず・・・。そう信じて続けます」
 「連日、4時間しか眠れません」「今夜、久しぶりに普通のごはんを食べました。ストレスで胃をこわして体力を失くしたのが夏バテの原因です」
 「小生の基本は、やはり半分は小説家のせいか、文字で読むものとして戯曲を書いています。文字で意味を、ルビで音を、が基本になっています」
 「戸倉 役者なんてものはね、真っ当に働いている世間様のお情けにすがって生きている屑、人間の屑だ。なんか悲しくて、そんなものに成り下がれるというんだよ。
  丸山 俳優は百姓になる、漁師になる、仕立て屋になる、キコリになる、大工になる、鉄道員にも商人にも軍人にも巡査にもなれる。
      俳優は、この世に生をうけたありとあらゆる人間を創り出すことができるんです。
      人間の屑にそんな神様のようなことができますか。人間の中でも宝石のような人たちが俳優になるんです。なぜなら、心が宝石のようにきれいで、ピカピカ輝いている者でないかぎり、すなおに人の心の中に入っていって、その人そのものになりきることができないからです」
 いやあ、いいセリフですね。こんなセリフを私も自分の本のなかに書いて生かしてみたいです・・・。
 「ある程度は観客に挑戦する。観客の期待への挑戦。期待の上を行く」
 「短いセリフ(台詞)には笑いを、長いモノローグには涙を」
 「コトバは世界を認識する枠組みです」
 「人間のドラマは、人間の内面に起きる、外面の表現ではない」
 「スパイは必ず二重スパイになる。そういう運命である。そしてスパイは、相手からもっとも信頼された瞬間に裏切る」
 「お二人を前に、頭の中でスシ詰めになって混乱していたアイデア群をしゃべっているうちに、芝居の全貌がくっきりと見えてきました」
 そうなんですよね。いくらかのアイデアがある時点で、それを理解しあえる人に話していくと、それが具体的に固まり、生き生きとして発展していくものなんですよね。最後に、井上ひさしの言葉を紹介します。
 「劇場は、人間が連帯しあうことだけを体験するところです。劇場は、人間がいったん死んで、つまり無になって、いっしょになって生まれ買われるところです。劇場に神様がいると明らかに思うときがあります。その神様は、突然いるというのではありません。俳優とお客が一緒になったとき、現れてる演劇の神様がいる。これはみんなでつくる神様です」
 いい本です。井上ひさしの汗と温かい体温を感じさせてくれる本でもあります。このところ疲れたなと感じているあなたにおすすめの一冊です。
                  (2015年10月刊。3400円+税)

スウェーデン・モデル

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  岡澤 憲芙・斉藤弥生 、 出版  彩流社
 今の日本人がスウェーデンを見習うべき最大のものは、なんといってもスウェーデンの投票率の高さです。なんと、86%近くもあります。そして、国会議員の選挙は完全比例代表制です。なので、死票が出ません。それで、一党独裁はなく、多党連立政権があたりまえなのです。日本のように国民のなかでの支持率は3分の1しかないのに、3分の2をはるかに超える国会議員がいて、政権与党の暴走を誰も止められない、なんていうことはありません。
 風通しのよい社会だと、投票所に行こうという気にさせますよね。選挙はお祭りのように楽しく、にぎやかなもののようです。戸別訪問を禁止して、萎縮させるということはありません。
 日本は、こんなところから変えなくてはいけません。
そして、国会議員も大臣も若い。20代の国会議員は珍しくないし、女性の大臣の比率も高いのです。住みやすい国だと思います。
 スウェーデンは、かつてヨーロッパでもっとも貧しい農業国家だった。それが短期間に世界でもっとも豊かな福祉・工業国家へ変身した。
 スウェーデンが生みだした「世界で最初」は、テトラパック、シートベルト、レーザーメス、ペースメーカー、コンピューターのマウス、イケア、H&M・・・。
 スウェーデンは、1814年以来、この200年間戦争していない、平和の伝統がある。
スウェーデンの政治は、この100年間、ほとんどが相対多数の単独政権か、2~4党の連合政権だった。
国会議員の45%は女性であり、大臣も2人に1人は女性。男も女も働いて、自分の財布をもった消費者になり、納税者になる。そして、男も女も出産・育児・家事に参加する。
スウェーデンは、2013年に5万人、2014年に8万人の難民を受け入れた。
スウェーデン語教育は無料で受けられる。
 パルメ首相は家族で映画をみた帰りに地下鉄の駅付近で暗殺された。首相も大臣も国王も気楽に街を歩き、地下鉄に乗っている。
 スウェーデンという国に学ぶべきとこおrは大きいと思ったことでした。
(2016年1月刊。2200円+税)

ひとと動物の絆の心理学

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 中島 由佳 、 出版  ナカニシヤ出版
 私は犬派です。というのも、物心ついたときから、ずっと犬と一緒に生活してきたからです。それは高校生まで続きました。大学に入って、愛犬(ルミといいます。スピッツのオスです。座敷犬でした)が車にはねられて死んだことを聞いて、本当に残念でした。それでも、大学に入って忙しかったので、ペットロスにはなりませんでした。そして、子どもたちが小学生になったとき、柴犬を飼いました。メスなのに、マックスと呼んでいました。私の責任なんですが、室外に飼っていてフィラリアにやられて死なせてしまいました。申し訳ないことです。
 私の小学生のころには小鳥の飼育も流行していましたし、鶏も飼っていました。ニワトリのエサになる雑草をとってきたり、貝殻を叩きつぶすのも小学生のころの私の仕事でした。生来、生真面目な私は、一生懸命、ニワトリの世話をしていました。そして、父が飼っていたニワトリを「つぶす」のも、しっかり見ました。そのおかげで、ニワトリの卵の生成過程も、この目で確認することができました。娘が小学生のころ、ウナギを催物の会場で釣りあげ、家で飼いたいと言ったとき、私はダメと言いました。そして、慣れないまま、ウナギをさばいてウナギの蒲焼きをつくってみました。泣いていた娘も食べてくれました。
 日本人で動物を飼っている世帯は全世帯の3分の1。そして、犬と猫が人気だ。犬は6割、猫は3割を占める。犬も猫も、今では8割が室内飼い。
 一昔前までは、犬は番犬として屋外の犬小屋で暮らし、猫はねずみ獲りと近所のパトロールが日課という生活スタイルだったが、今やほとんど見られない。今では、犬も猫も、8割が家の中で家族と一緒にヌクヌク暮らしている。
人は動物と「会話」をする。人は社会的な生きものだ。たしかに自分のことを話したい。自分のことを話して理解してもらえることで、心の健康を保つことができる。
 動物が友人と家族とは違うのは二つある。一つは、傾聴してくれること、もう一つは評価しないこと。つまり、ありのままの自分を動物はしっかり受けとめてくれる。
 動物とのふれあいが、病気の人の生存率を伸ばすことも実証されている。人生にストレスはつきもの。しかし、動物の存在が、ストレス度の高いできごとによる心身のダメージをある程度は防いでくれている。
犬とのふれあいは、やはり愛犬とのふれあいが一番。飼い主とその犬とのふれいあいこそが強い愛着で結ばれている。
 非行少年や情緒障害の子どもにとって、動物は、ワン・アンド・オンリーの存在なのだ。つまり、彼らにとっては、動物こそ唯一の「家族」だった。逆に言うと、児童虐待や配偶者に対する家庭内暴力(DV)には、しばしば脅しや見せしめとしての動物虐待や殺害をともなっている。
 子どもたちが、幼いころから小鳥や犬・猫の世話をするというのは、とてもいい原体験になると思います。手抜きしたり、へますると、小鳥や犬・猫が死んでしまうという重大な、取り返しのつかない結果を生じさせるからです。
 子どもたちが大きくなってからは、旅行優先のために、犬を飼うのはあきらめています。
(2015年12月刊。1800円+税)

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