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2015年7月 の投稿

汽車ぽっぽ判事の鉄道と戦争

カテゴリー:社会

                               (霧山昴)
著者  ゆたか はじめ 、 出版  弦書房
 汽車や鉄道の好きな人を「鉄ちゃん」とか「鉄子」と呼びます。私の身近にも「鉄ちゃん」がいて、たまに見事な写真を披露してくれます。
 この本の著者は、福岡でも裁判官をしていました。引退したあと、東京のほか沖縄にも自宅を構えています。東京の自宅には、なんと払い下げてもらった汽車ポッポ客車コーナーまであります。4人掛けでボックスシートには網棚まであるのですから、本格的です。
 著者は祖父の代から裁判官をつとめてきました。そして、著者は幼いころからの筋金入りの鉄ちゃんなのです。小学生のころ、母ともども学校に呼び出され、「電車好きもいいが、ちょっと度が過ぎる。もう少しつつしむように」と訓戒されたというのです。これは、すごいことですよね・・・。
 父親は、裁判官だったのですが、広田弘毅首相の秘書官になり、著者は晴れて都内を電車通学するのです。
 戦前、終戦間近のころに、父親が東京から長崎地裁署長へ赴任するので、家族総出で汽車で移動したときの写真が紹介されています。
 1945年4月のときですから、アメリカ軍によって列車まで空襲されるのです。そして、父親は、官舎で被曝します。幸いにも、次は京都地裁署長へ栄転します。どうやら被曝による障害は軽かったようです。その経験から、平和を愛してがんばったものと思われます。
 そして、著者は、裁判官をしながら、全国の鉄道を踏破していき、ついに、昭和52年(1977年)に国鉄全線を乗り終わったのでした。最後は秋田県の角館(かくのだて)線の終点の松葉駅。角館の武家屋敷には行ったことがありますが、指宿や島原の武家屋敷よりスケールが大きいと思いました。
 エリート裁判官としてのコースを歩みながらも、趣味に生きている著者の楽しい思いの詰まった本です。福岡の岩本洋一弁護士からすすめられて読みました。今後ますますのご健勝を心より祈念します。
(2015年15月刊。1800円+税)

「イタリアの最も美しい村」全踏破の旅

カテゴリー:ヨーロッパ

                            (霧山昴)
著者  吉村 和敏 、 出版  講談社
 イタリアの「美しい村」234村を4年半もかけて全部まわり、紹介した写真集です。
 すごいです。立派です。楽しい写真集です。そして、いかにも美味しそうなスパゲッティがひそかに紹介されていて、ああっ、これ食べたいと思わせます。さすがプロの写真家による写真集です。そして、それぞれの村の故事来歴がよく調べてあるのにも驚嘆しました。
 私はフランス語なら、なんとか話せますので、フランスの「美しい村」めぐりはしたいと思いますが、イタリアは言葉の障害があるので、行く気にはなれません。この写真集で、しっかり行ったつもりになりました。
 「美しい村」というだけあって、すごい写真が満載です。チヴィタ・ディ・バンニョレジョという村は、まさしく「天空の城」です。一本の狭い橋が小高い山にある村を結んでいます。ただし、この村の住人は、今や8人という寂しさです。
モラーノ・カラブロという村は、小高い丘に至るまで、ぎっしりと家が建ち並んでいて壮観です。
 トスカーナ州にあるピティリアーノという村も、緑の樹海の上にそそり立つ岩全体が村になっています。フランスで私も行ったことのあるレ・ボーのような村です。ちなみに、レ・ボーは、松本清張の本の舞台にもなっています。
 このピティリアーノ村は、まったく観光地化されておらず(レ・ボーは完全な観光地です)、三毛猫がけだるそうに寝そべっています。
 2009年に出版された「フランスの美しい村」に続く、イタリア版の写真集です。
 この本には、強く心が惹かれるのですが、私は一人旅はしたくありません。安全面という理由もありますが、なんといっても一人で食事をしたくないというのが最大の理由です。
 おいしい料理を、これは美味しいねと言いながら、その日の感想を気楽に心を許して話せる人と旅行したいのです。
 それにしても、著者の敢闘精神には深く感謝します。まだ50歳にもならない、なかなかのイケ面の著者であることに気がつきました。いつも、ありがとうございます。
(2015年3月刊。3800円+税)

帰還兵はなぜ自殺するのか

カテゴリー:アメリカ

                               (霧山昴)
著者  デイヴィッド・ファンケル 、 出版  亜紀書房
 アメリカからアフガン・イラクへ戦争に行った兵士たち、小隊30人、中隊120人、大隊800人は、元気な人ですら、程度の差はあれ、どこか壊れて帰ってきた。悪霊のようなものにとりつかれずに帰ってきたものはひとりもいない。その悪霊は動き出すチャンスを狙っている。
 アメリカに戻ってきた元兵士の一人は次のように語る。
 ひっきりなしに悪夢をみるし、怒りが爆発する。外に出るたびに、そこにいる全員が何をしているのか気になって仕方がない。
200万人のアメリカ人がイラクとアフガニスタンの戦争に派遣された。アメリカに帰還したとき、戦争体験などものともしない者もいる。しかし、200万人の帰還兵のうち20~30%にあたる50万人の元兵士がPTSDやTBIを負っている。
PTSD・・・・心的外傷後ストレス障害、ある種の恐怖を味わうことで誘発される精神的な障害。
TBI・・・・外傷性脳損傷、外部から強烈な衝撃を与えられた脳が脳蓋の内側とぶつかり、心理的な障害を引きおこす。
苛立ち、重度の不眠、怒り、絶望感、ひどい無気力。なげやりな態度・・・。
繰り返し外国の戦場に派遣された兵士は自殺しやすい。既婚兵士は自殺しにくい。
戦争のあいだ、毎日が同じように始まった。兵士たちは幸運のお守りをポケットに入れ、最後の言葉にまつわる冗談を言い合った。素早く円陣を組んで祈りあげ、最後の煙草を吸った。
防弾チョッキのベルトをきつく締め、耳栓をし、耐破損性サングラスを下ろし、耐熱性グローブをはめた。「出発」という号令とともに、ハンヴィー(アメリカ軍の装甲車)に乗り込んで進んでいった。道路の先で自分たちを待ち受けているのが何か、よく分かっていた。
兵士たちは、ハーレルソンのハーヴィーが宙に高く吹き上がり、火に包まれるのを見た。エモリーが頭を打たれて倒れ、自分の血にまみれていくのを見た。兵士たちが脚を失うのを、腕を失うのを、脚を失うのを、手を失うのを、指を失うのを、つま先を失うのを、目を失うのを見た。
次々に起こる爆発音を聞き、何十台ものハンヴィーが消えて、凄まじい炎の雲と化し、死骸へと変わるのを見た。そして、しまいには、兵士たちの大半がその雲に取り込まれてしまう。恐怖の瞬間に、雲に囲まれて何も見えないまま考えた。
自分は生きるのか、死ぬのか、無傷のままか、ばらばらになるのかと。やがて耳鳴りがし、心臓が激しく鼓動し、精神が暗黙に落ち、目には時折涙があふれてくる。
彼らは分かっていた。分かっていたのだ。それでも毎日、戦闘に出かけ、戦争がどのようなものが分かってくる。
 勝者はいない。敗者もいない。勇敢なものなどない。ひたすら家に帰るまでがんばり、戦争のあとの人生でも、同じようにがんばり続けなければならない。
アメリカからイラクへ侵攻した兵士たちの多くが貧困家庭出身の若い志願兵だった。ある大隊の平均年齢は20歳だった。そして、毎年240人以上の帰還兵が自殺を遂げている。自殺を企てた人は、その10倍いると推定されている。なぜなのか。
本書では、そのいくつかのケースを家庭訪問するなどして明らかにしています。
 経済徴兵制というのは、アメリカにならって、日本でも取り入れられる恐れがあります。
 自民・公明の安倍政権のすすめている戦争法案は必ず廃案にしなければいけません。
 日本の未来を担う若者から、その輝かしい未来を奪わないようにしましょう。あなたも、ぜひお読みください。
(2015年6月刊。2300円+税)

国際法学者がよむ尖閣問題

カテゴリー:社会

                              (霧山昴)
著者  松井 芳郎 、 出版  日本評論社
 尖閣諸島について、国際法学者が冷静に議論している本です。日本政府の間違いもきちんと指摘したうえで、中国側の主張に合理性のないことも明らかにされています。
 いずれにしても、「領土紛争」があることを認め、平和的に外交的措置で解決すべき問題です。武力による「紛争解決」だけは絶対に避けなければいけません。安倍首相の誤った姿勢は日本の平和を脅かし続けています。
 尖閣諸島は、中国では釣魚台群島などと呼ばれている。4つの無人島からなるが、そのいくつかには第二次大戦前、日本人が居住していた。
 尖閣諸島をめぐる紛争は1970年代初頭に発生したのであり、その前に中国政府が抗議の意思表明をしたことはない。
 尖閣諸島、釣魚台群島について、日本政府は中国とのあいだに「紛争」はないという見解をとっている。しかし、このような日本政府の主張を支持する国は皆無である。
 そりゃあ、そうでしょう。日本政府、とりわけ安倍首相の考えは出発点から間違っています。
 尖閣諸島についての日本の領土権は1895年にまでさかのぼるが、この日本の領土権をめぐる両国間の紛争が具体化したのは1970年前後の時点だった。すなわち、1895年ではなく、1971年が日中間の紛争が具体化した時点であり、したがって後者が本件紛争にとっての決定的期日である。領域紛争において、この決定的期日がいつであるかというのは、とりわけ重要である。
 1896年(明治29年)、沖縄県知事は尖閣諸島を八重山郡に編入し、国有地台帳に登載した。そして、うち4島を古賀辰四郎に30年のあいだ無料貸与した。そして、1932年に、その後継者である古賀善次に払い下げられた。
 アメリカ軍は、1955年から尖閣諸島のいくつかを射爆撃訓練のために使用しはじめたが、このとき、日本と合意書をかわしている。すなわち、これらの島について日本に主権があることを前提とした合意である。
 釣魚台群島は、石垣島と台湾の間にあるのではなく、石垣島と沖縄本島との間にある。
 井上清の主張は、中国の毛沢東に追従していた当時のものであり、客観的な根拠はない。日本側の主張は、1985年より前は尖閣諸島は無地主だったというものであり、それらが琉球に属していたと主張したことはない。
 中国は決定的期日である1971年まで、いかなる請求も提出していなかった。日本による実効的支配の行為は先占の要件を満たすのに十分なものだった。
 尖閣諸島に関する紛争において、日本は中国に対して権原の凝固の理論を主張できる。
 1895年の日本による領域編入以来、1971年の決定的期日に至るまで、日本は尖閣諸島に対して実効的支配を継続しており、それに対して中国側からは日本による領有に対していかなる抗議も対抗請求もなかった。したがって、日本による尖閣諸島についての「領域主権の継続的かつ平和的な表示」は否定できない。
 なるほど、なるほどと思いながら読みすすめました。あとはこのような領土的紛争を武力によらず、外交交渉や国際司法裁判所などを利用するなりして、平和的にじっくり腰を落ち着けて取り組むべきものです。拙速はいけません。
 安倍首相の間違った政策は危険きわまりなく、直ちにやめさせる必要があります。
(2014年12月刊。2200円+税)

憲法を守り活かす力はどこに

カテゴリー:司法

                               (霧山昴)
著者  宮下 和裕 、 出版  自治体研究社
 ながく自治体問題を研究してきた著者による、実践的な憲法論です。
 明治憲法よりも日本国憲法のほうが長生きしているという指摘には、ハッとさせられます。
 明治憲法(大日本帝国憲法)は、1890年(明治23年)11月29日から1947年(昭和22年)5月2日まで56年6ヶ月のあいだ、生きていた。ところが、日本国憲法は1947年5月3日から施行されて、もう68年も続いている。12年も長生きしていることになる。なぜ、現行憲法がこんなに長生きしているのか。それが問題です。
安倍首相のような改憲派は、古臭くなって、時代遅れになっていると罵倒しますが、本当でしょうか。
いったい、どこが古臭くなったというのか、安倍首相や桜井よし子は、具体的な批判はできません。なんとなく、古臭いというイメージをふりまいているだけです。
 日本国憲法が長生きしているのは、第一に、内容において人類の到達点を反映し、先取りしていたこと。第二に、日本国民の願いに合致していること。第三に、戦争で多大の被害をこうむったアジアの民衆の願いに合致していることが、理由としてあげられる。
 アメリカの法律学者も、日本の憲法が長生きしているのは、「65年も前に画期的な人権の先取りをした、とてもユニークな憲法」だからとしている。
 本当に、そうですよね。「押し付け憲法」というよりも、その内容が、当時も今も、時代の最先端を行く、画期的な先進的内容であることに日本人は誇りと自信をもっていいのです。
 著者は大牟田出身で、今は鳥栖市に住んでいます。大牟田には、99歳になる父親がヘルパーサポートのなかで一人住まいだというのです。これまた、すごいですよね。
 そして、小選挙区制の弊害をきびしく弾劾しています。
 投票率は、かつての70%台から53%へと急降下したなかで、自民党は小選挙区で8割近い議席を占めているものの、実は、その得票率は5割にもみたない。
 比例代表のほうでは、3割の得票率なのに、4割の議席を占めている。トップ一人だけ当選する小選挙区制は、単に大政党というより、第一党が極端に有利で、第一党を勝たせるための選挙と言ってよい。
 安倍政権は、「小選挙区制によってもたらされた虚構」の上に存在しているにすぎない。そのもろさを自覚しているからこそ、強行採決をくり返すのです。そんな安倍政権を許すわけにはいきません。著者の、今後のますますの健筆を心より期待します。
(2015年6月刊。1500円+税)

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