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2015年1月 の投稿

「灘→東大理Ⅲ」の3兄弟を育てた母の・・・

カテゴリー:社会

著者  佐藤 亮子 、 出版  角川書店
 正月休み明けの事務所、私の机の上にびっくりするようなタイトルで、カラフルな本が載っています。あれえ、こんな本、注文した覚えはないんだけどなあ・・・。
 本を手にととってみると、なかに手紙が入っています。私の敬愛する奈良の佐藤真理(まさみち)弁護士からの贈呈本です。何、なに・・・。
 「突然ですが、妻の本を贈らせてもらいます。・・・」
 ええーっ、佐藤弁護士のつれあいが書いた本なんだ。そして、佐藤さんに息子が三人いて、みんな灘からそろって東大理Ⅲ(医学部)に合格したんだって。信じられません・・・。
 翌日、本は一気に読了しました。とても明快、かつ合理的な子育てです。誰もができることではないと思いますが、母親として確固たる人生観をもち、信念を貫く生き方に支えられた子育てですので、大切なところはどこの家庭でも取り入れることができるように思いました。
 その意味で、とっくに子育てを卒業してしまった私などは、大いに反省させられました。やっぱり子育ては楽しいものでなくてはいけないのです。そして、そのための工夫を尽くせば、楽しい子育てができるのです。
 この本を読んで、とても真似できないと思うところは後半部分に多々ありますが、男3兄弟と妹の4人を、全員平等に、しかも楽しく、のびのびと育てていった状況は、読んでいてほほえましくもあり、うらやましくもありました。
 私の家庭でも、それなりに三人の子どもを伸び伸びと楽しく育てたつもりではいるのですが・・・。初めての長男については、「かくあらねばならない」という親の押しつけが行き過ぎたと、今は大いに反省しています。まさしく若気の至りです。
 子どもが高校を卒業して親元を離れる18歳までは、すべて親の責任だし、親の仕事だ。子どもを早く大人にしようとは思わず、できることはしてあげる。やるべきことをシンプルにあげることが、子どもを伸ばすコツ。
自立とは、子どもが誰かに助けてほしいときに、きちんと声をあげられるようになること。
 親の自立は、子どもが離れていくときに、精神的に足をひっぱらないこと。
 子どもが、より一層前を向いてがんばれるように、ほめ倒す。そのためには、継続した観察が必要。そして愛情いっぱいに、本心からほめる。ほめて、背中を押してあげる。感情的に起こるのではなく、具体的に伝えること。
 子どもが話しかけてきたとき、「ちょっと待ってね」とは言わず、その場で子どもにきちんと向きあう。
母親の知的好奇心は、子どもにいい影響を与える。
 DNAのせいにするのは、子どもの存在を否定するようなもの。
「朝だよ、朝だよ」と笑顔で楽しそうな声で起こす。朝は、子どもに絶対に怒らない。何はともあれ、朝は、ニコニコ過ごす。感情をコントロールして、子どもたちが笑顔で学校に向かうようにする。
食事は、おいしく食べる。食事は楽しい場だと子どもが感じるのが一番。
カップラーメンは普段は一切食べない。しかし、具合の悪いとき、そしてテストの前にはカップラーメンを食べさせ、楽しさと元気をとり戻させる。
4人の子どもたちに、食べ物は徹底的に平等にする。
子どもたちがおもちゃで遊んだとき、片付けるのは親の仕事。子どもは楽しく遊ぶのに集中する。子どもにお手伝いもさせない。
 子どもの「楽しい」をいかに増やしてあげるかが親のつとめだ。
 テレビを見ない、見せないという点は、私の家でもそうでした。私は今でも、テレビは一切みません。たまに録画したものをみることはありますが・・・、
 子どもに水泳とバイオリンの習い事をさせた。
 よその子と比較して親が焦るのは、いちばんしてはいけないこと。
 子どもの部屋はない。勉強中も、周りは雑音だらけ。勉強する環境なんて、整っていないのが当たり前。受験は、本当は自分とのたたかい。
 これは、私も司法試験を受験しているときに、改めて、そう思いました。40年以上も前のことです。当時、2万3千人の受験生のうち500人ほどの合格者でした。他人を蹴落とすという気持ちでは合格できるものではありません。あくまで、自分の努力が肝心なのです。自分が理解したことを、文章にして表現する。それがどれだけ他人に分かってもらえるのか・・・。そのために勉強するのです。
きわめて合理的な生き方、学び方が満載の、とても実践的な本です。
 私も、運動会の騎馬戦のときに、ケガ人に備えて救急車が待機しているという「灘」校に入ってみたいと思いました・・・。といっても、私自身は市立中学、県立高校そして東京大学というコースで、今も良かったと思ってはいるのです。47歳で脱サラして小さな小売の酒屋を営んでいた両親と一緒に18歳まで生活していて良かったと考えています。おかげで、父についても、母についても、それなりに調べて伝記を書くことができました。親の生き方を書くなかで、戦前戦後の日本史を自分のルーツとして学ぶことができたことが成果です。
 子育ての終わった人にも、これから子育てしようという人にもおすすめの本です。
 佐藤真理さん、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。奥様によろしくお伝えください。一度、子どもさんたちと話させてください。楽しそうな息子さんたちのようですから・・・。
(2014年12月刊。1400円+税)

日中歴史和解への道

カテゴリー:司法

著者  松岡 肇 、 出版  高文研
 著者は2006年まで福岡で弁護士をしていましたが、今は東京で活動しておられます。
 戦時中、中学2年生になったばかりで(13歳)、福岡の市内電車の運転手をしていました。学徒動員です。
 学徒動員って、大学生だけではなくて、中学生も対象だったのですね。そして、13歳の少年に市内電車を運転させていたなんて、ひどい話ですよね・・・。
日本は、敗戦間近となった1943年4月から45年5月までの2年間に、占領していた中国から中国人を強制的に日本へ連行してきて、土建業や金属鉱山、炭鉱や造船、港湾荷役などの重労働現場で強制労働、奴隷労働をさせていた。
 中国各地から4万人近い人々を連行してきた。年齢は、11歳から78歳まで。強制労働をさせた日本企業は35社、135事業場。北海道から九州にまで及んでいる。
強制連行・強制労働させたのは日本軍だったが、強制労働については日本の企業が加害者として関わっている。
 1995年6月から2005年9月までに日本で提訴された裁判は、12の地方裁判所で15件の裁判だった。原告数は275人、被告となった日本企業は24社。
 中国人を日本へ強制連行したのは、日本人(男性)が兵隊や軍属として召集され、国内男子労働者が急速に減少したことによる。
 何しろ古い話です。戦中のことなので、記憶が薄れてしまっています。事実の再現と確認すら困難です。
そのうえ「国家無答責の法理」というものがある。これは、戦前の明治憲法の下ですすめられた国家の権力作用については、それによって個人の損害が発生したとしても、民法の適用はなく、国の賠償責任を問うことも出来ないとするもの。
 しかし、そんな「形式論理」で原告の主張を排斥してよいものでしょうか・・・。最高裁の判決こそおかしい、無法だと思います。
 西松建設事件では、裁判こそ敗訴となったものの、西松建設側の内部事情もあって、それなりの内容で和解が成立し、現地に立派な石碑まで建立されています。東京の内田雅敏弁護士ほかの努力が実ったのです。
 村山・河野談話の見直しがいま話題になっています。日本政府は、過去、日本軍がしたひどい侵略戦争について正面から向きあって謝罪することをしていません。とりわけ今の安倍政権の開き直りはひどいものです。アメリカからも顰蹙を買っているほどです。
 松岡先生、今後ますます、お元気にご活躍ください。ありがとうございました。
(2014年12月刊。1500円+税)

日本はなぜ原発を輸出するのか

カテゴリー:社会

著者  鈴木 真奈美 、 出版  平凡社新書
 「世界一安全な原子力発電の技術を提供できる」
 これは安倍首相がサウジアラビアの大学で講演した(2013年5月)ときの言葉です。こんな真っ赤な嘘を日本に首相が海外で堂々と言い切るなんて、私は絶対に許せません。
 嘘つきはドロボーの始まりです。道徳教育を強引にすすめようとする安倍首相の二枚舌は酷すぎます。
福島の原発事故は依然として「収束」の目途はたっていない。4号炉の使用済み燃料棒の取り出しこそ完了したものの、1号炉も2号炉も、そして3号炉も、核燃料棒の所在も何もかも判明していない。原因の究明さえ終わっていないのに、安倍首相が外遊先で「安全」を安請けあいするのは見識を欠く。反省したはずの「安全神話」を輸出するようなものではないか・・・・。
 原子力のプラント輸出は、「国」が長期にわたって法的・財政的な「保証人」になることが求められる特殊な国際商取引である。「国」は、日本側の保証人として、そのプロジェクトが続くあいだ、融資をふくめ、さまざまな側面から支援するだけでなく、原子炉の製造ラインと技術・人材を確保するための政策を保持することになる。
 原子力プラントの受注契約を先行させ、そのうえで自国の今後の原子力施策と中長期計画を検討するというのは、原子力産業を維持するために、原子力発電を継続するという逆転をもたらすことになる。
 このように、原子力輸出は、他のエネルギー技術の輸出にはない、特殊なリスクを内包している。なぜなら、一度でも大量の放射能放出事故が発生したときには、その賠償は巨額かつ長期にわたることは自明のことだから。
 原子力産業を立ち上げるのは「国」であり、この産業は「国」が定めた施策の枠組みをこえて活動することは基本的にありえない。国の法的・財政的な補償を必要とする海外展開の場合は、なおさらである。
 かつて世界の原子炉や濃縮ウラン燃料の供給をソ連と二分し、自由主義陣営への供給では圧倒的な占有率を誇っていたアメリカは、いまや輸入する側になった。いまでは、日本はアメリカの原子力産業の再建を技術面・資金面で支援し、日米は共同で原子力輸出をすすめている。
 世界の原子力産業界は、ライバルであると同時に、その根底では一蓮托生なのである。
 「室蘭が止まれば、世界の原発建設が止まる」
 世界の原子力業界では、室蘭にある日本製鋼所の室蘭製作所が、つとに有名である。そこで大型原子力用部材において突出した鋳鍛(ちゅうたん)技術をもっているため、世界のシェアの8割を占めている。
 地球は、もともと放射性を出すあまたの元素の塊だった。これらの天然の放射性元素のほとんどは、長い時間を経てエネルギーを出し切り、安定元素となった。この安定元素に囲まれた環境の下で人類は誕生した。ところが、この50年ほどのあいだに、本来なら地球上には存在しなくなったはずの放射性元素を核爆発や原子力発電によって大量につくり出してしまった。
 人間の管理能力をはるかに超える人工の放射性元素(核のゴミ)を、これからも増やし続けるか否かが、今、私たち人類に問われている。
 安倍政権による無責任な「原発」輸出策の危険性を改めて強く認識させてくれる新書です。読みやすい本です。ぜひ、あなたも手にとって一読してください。
(2014年8月刊。800円+税)

世界一うつくしい昆虫図鑑

カテゴリー:生物

著者  クリストファー・マーレー 、 出版  宝島社
 見事に極彩色の昆虫図鑑です。よくもまあ、これだけ姿も形も色も大きさも、さまざまに異なる昆虫が、この地球上に存在しているものです。この昆虫図鑑をめくりながら、世の中のことを私は実によく知らないことを改めて実感しました。還暦をとっくにすぎて、弁護士生活も40年以上となり、この社会のことは多少なりとも知っているつもりなのですが、実は、まだまだ知らないことのほうが圧倒的に多いことを知らされてしまうのです。
 頁をめくっていると、目がまわってしまうほど、多種多様な昆虫たちが登場します。
 「歩く宝石」と言われるオサムシには、どれ一つとして同じ色と模様の個体がいない。ですから、みんな並べると、統一性はあっても画一性はないのです。それでも、タマムシは1500種、コメツキムシは1万種といいます。それを丁寧に分類している学者がいるのです。学者ってすごい根気が求められる商売ですね。
 奈良の玉虫の厨子のタマムシは死んでも色が変わらない。しかし、キンカメムシは、生きているときには非常に色鮮やかな翅を持っているが、死んだら体色は褪(あ)せてしまう。
 「森の宝石」と呼ばれるプラチナコガネは、周囲の風景まで写し込むほどの金属光沢がある。
 ゾウムシは、世界中に6万種いる。頑丈な外骨格におおわれ、ゾウの鼻のような長い口吻(こうふん)をもっている。
 中南米の熱帯雨林に住むチョウであるベニスカシジャノメは、透明な翅をもち、後翅に眼状紋がひとつずつあり、翅の先はぼかしたような赤色に染まっている。息を呑む美しさです。
 インドネシアのメダマチョウは、鳥に補食されるのを避けるため、翅にふくろうの目玉を擬態した眼状紋をもっている。その目玉は、2個だったり、4個だったり、6個だったりする。
 植物昆虫と呼ばれる昆虫もいます。植物に擬態する昆虫のことです。鳥から見つかりにくいように、たとえば枯れ葉に擬態した体をもったカマキリがいます。そして、この擬態は個体によって全部異なるのです。
 植物昆虫は、互いがあまり似通った姿にならないように努めている。植物昆虫は、植物になりすますだけでなく、植物には必ずある、枯れたり病気になったりした葉や、昆虫の食害の痕まで真似るという、とてつもなく有効な方法を選んでいる。
 健康な昆虫が、昆虫に食われた植物に擬態し、同時にその植物を食べているというのは皮肉な話だ。
昆虫採集家によって昆虫が絶滅することを心配する人がいるけれど、それは事実に反している。恐ろしいのは、生息地をまるごと、根こそぎ人間が破壊して「開発」してしまうことだ。
 230頁の大型図鑑です。値段も3800円と少々高いので、ぜひ図書館で手にとって眺めて楽しんでみてください。
(2014年4月刊。3800円+税)

「非正規大国」日本の雇用と労働

カテゴリー:社会

著者  伍賀一道 、 出版 新日本出版社 
現代日本における非正規雇用の横行がもたらしている問題点をよくよく理解できる本です。
日雇い派遣の細切れ的雇用は、最低限の所得や住まいの確保を不可能にしている。健康ランドやネットカフェ、マクドナルドを転々とし、コンビニ弁当で空腹を満たすことが、生活コストを高め、予備の蓄えを難しくしている。細切れ的雇用と貧困の悪循環である。
 ことあるごとに繰り返される「自己責任論」は、働き口を得ることの出来ない人に対して、意欲の欠如や能力不足を指弾し、リストラされた労働者に対しては本人の落ち度を見つけ出そうとする。これによって、企業の責任や政策の失敗は免罪される。
失業と貧困は、資本主義の経済システムに加えて、今日の新自由主義的施策によって絶えずつくられるものである。
学校にも派遣教師がいるのですね。私は知りませんでした。
 いま、「即戦力や利便性」を求めて間接的雇用の派遣講師が私立高校で広がっている。派遣会社には1コマ(50分授業)4000円、そして派遣教員に渡るのは2200円。非常勤講師を雇うと2600円なので、学校にとっては1400円も高いが、雇用調整の容易さが上まわるメリットをもたらす。教員派遣最大手のエディケーショナルネットワークには、2007年に1万8000人が登録していたが、2013年には2万6000人に増えた。
 大学生のアルバイトが劣悪な労働条件で働く正社員に接して、正社員とは、あのような働き方を受け入れることだと覚悟してしまう。もし、高校生や大学生がアルバイトに精を出さなくても学校に通えるだけの給付制奨学金や授業料無償化が実現したら、日本の産業構造は、今とは相当異なるだろう。
教育政策の貧困は、若者を使い捨てにする産業の隆盛の有力な基盤となっている。学生たちが、不当な扱いをあいまいにしない気概をもつことを願わずにはいられない。本当に、そうですよね・・・。
 この間の労働者の増加のほとんどを非正規雇用が占めている。正規労働者が540万人減少する一方、非正規雇用は780万人増加した。これによって、過労死・過労自殺の多発がもたらされた。
 半失業者のプールを拡大することで失業者を隠蔽し、失業率を圧縮するような手法が新自由主義の特徴である。したがって、失業率が高いか、低いかだけで失業問題の深刻さの程度を即断することは出来ない。
 この10年間に非正規雇用は416万人増加したが、その65%が年間所得200万円未満層である。2012年時点で、この低所得層は、非正規雇用の4分の3を占めている。
 1982年当時、男性では9割以上、女性は7割弱が正規職についていた。
 若者が非正規労働者として職業人生を出発し、企業が正規雇用の縮小を継続しているもとでは、非正規雇用のまま中年に達する人が次第に増えている。これが生涯、単身化の増加と深く関わっている。
 民間大企業の労働組合が労使協調的労働組合になって以降、企業の成果の分け前を取得する道を選択した。社外工に対する労働行政の対応も批判的姿勢から黙認へと転換した。
 今日の雇用の劣化と働き方の貧困をもたらした要因の一つとして、労働組合が本来、果たすべき役割を担っていないことがあげられる。労働力浪費型雇用の進行に事実上黙認してきた点で、とりわけ民間大企業の労働組合の責任は大きい。
 今日の日本社会では、「連合」の政策が話題にのぼることなど、まずありません。いつも企業べったりの労働組合なんて、まるで存在意義がないからです。本当に残念な状況です。
 現代日本がいかなる社会であるかをよくよく映し出している貴重な労作だと思いました。
 360頁、2700円というハードカバーの本ですが、広く読まれるべきものとして、ご一読をおすすめします。
(2014年12月刊。2700円+税)

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