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2014年9月 の投稿

世界の「平和憲法」新たな挑戦

カテゴリー:司法

著者  笹本 潤 、 出版  大月書店
 日本国憲法9条は「古臭い」どころか、紛争の絶えない現在の国際社会のなかで、ますます光輝く、希望の星になっています。いえ、ひとり日本人の私だけがそう思っているのではありません。9条の存在を知った世界中の心ある人たちが、自国にとり入れようとしているのです。そんなときに9条をなくしてしまおうとする安倍政権は反動的というより、犯罪的だと言わなければなりません。一刻も早く、退陣してもらう必要があります。
 紛争の絶えない中東米諸国では、政権の交代や紛争の終結などをきっかけとして平和憲法がつくられていった。軍隊を廃止したコスタリカ憲法(1949年)も、60年の歴史をもって生命力を発揮している。
 著者は半年間、コスタリカに留学したとのこと。偉いですね。尊敬してしまいます。
 2009年6月、ベトナムのハノイで開かれた国際民主法律家協会の大会では、「日本の9条を各国でとり入れていこう」という方針が採択された。
 国際的な紛争や問題を軍事力で解決してはいけない。だからこそ、9条を守って自衛隊を海外に派兵させないことが大切である。
 国際的な平和運動で、最初に日本の9条が取りあげられたのは、1999年にオランダで開かれた「ハーグ平和市民会議」でのこと。このとき、各国議会は、日本国憲法9条のような、政府が戦争をすることを禁止する決議を採択すべきだと明記された。
 そして、2008年5月に、日本の千葉「幕張メッセ」で「9条世界会議」が開かれた。予想をはるかにこえる2万人もの人々が集まった。海外からも100人以上の参加があった。
 コスタリカの隣国のパナマでも、軍隊を廃止する憲法が1994年にできた。
 2008年、エクアドルで、外国の軍事基地を認めない新憲法が国民投票で制定された。
フィリピンの1987年の憲法は外国軍事基地の撤去と核兵器の保有を禁止した。そして、1991年にアメリカのクラーク空軍基地、スービック海軍基地がフィリピンに返還された。現在、スービック海軍基地跡は商業地域になって、経済的に繁栄している。
 韓国の憲法は国軍の存在を認めている。そこで、武力行使に限界がない。韓国軍が、アメリカのベトナム侵略戦争に加担し、内外に大きな悲惨を生じてしまったことは、よく知られていること(多くの若者は知らない・・・?)でもあります。
 軍隊をもたないコスタリカは教育を重視している。憲法には教育費をGDPの6%以上にすべきだ。日本の教育費は、わずかGDP比で3.3%に過ぎない。許せない低さです。
真面目な弁護士による、至って生真面目なケンポーの話です。世界のなかで日本の憲法9条が高く評価されていることがよく分かる本でもあります。
(2010年10月刊。1600円+税)

中国のメディアの現場は何を伝えようとしているのか

カテゴリー:中国

著者  柴 静 、 出版  平凡社
 中国のテレビって、すべて国家統制のきいた官製報道ばかりかと思っていました。
 この本を読むと、中国でも一生懸命に現場から問題点を報道しようとしている人がいることを知って、うれしくなりました。
 日本のNHKも、籾井会長になってから、とりわけニュースは安倍首相の広報番組オンリーという感じですから、中国を批判することなんて出来ないと思っています。
 2003年4月、北京で大流行したサーズ、死亡率の高いウイルス性肺炎について、著者は病院まで突撃取材したのでした。
 著者は全身防護服を着て、戦々恐々として病室に入り、救急センターに戻ってから40分間消毒し、周囲の人まで緊張して汗をかいたとき、人民医院の医師と看護師は、もっとも基本的な防護服すらない状況下で、中庭で20数人の患者と向きあっていた。
 中国にも、もちろんDV(ドメスティック・バイオレンス)があります。そのあげくに女性(妻)が男性(夫)を殺してしまいます。女性犯罪には、夫殺しが多く、ある地方では70%になる。男は死に、生き残った女は執行猶予付きで死刑、無期懲役などに処せられている。
 十数人の少年の窃盗グループ。リーダーは15歳、最年少は10歳、全員が中途退学だった。彼らは、敵討ちのために、お金のために、ときには単なる楽しみからケンカした。ナイフはもちろん、チェーンや有刺鉄線を付けた自作の棍棒まで使った。ケンカが一番強い子どもに尋ねた。
 「怖くない?」
 「いいや」
 彼は昻然と胸をはった。怖くないのではなく、生死の概念さえなく、憐憫の情がないのである。自分が大切にされていないと、大切にされた実感のないまま大きくなると、生死までが、どうでもよくなる。というわけだ。
 愛と教育を得られなかった人が社会に対して責任感をもつはずがない。
 最近の鶏肉事件は、日本の毒入り冷凍食品事件と共通しているところがあるように思います。どちらも、働く人が大切にされていないということです。日本も、安倍首相のような間違った教育と労働者切り捨て政策がすすめば、今の中国と同じ事態になりかねません。
ネットで猫を虐待する映像を流した女性は、次のように語った。
 「憎しみ、それと未来に対する絶望ね」
 「離婚した女の憂鬱や生活の悩みを誰が理解してくれるというの。この重苦しい気持ちや悩みのせいで、生活していく自信を失い、無辜の小動物の身に向かって鬱憤を晴らすという情けないことをする羽目になった」
 「内心の圧迫感や抑鬱を発散させなかったら、崩壊していただろう」
 「心の奥底にいびつなものがある・・・」
 この本が中国でベストセラーになったことに、私は救いを感じました。
世の中の現実をなるべくありのままに伝えたい。しかし、そこには単純にシロかクロかに割り切れないことがたくさんあるし、いろんな人々の利害損失が微妙にからんでいる。
 そこを、映像メディアとしての制約のなかで、がんばって報道しているのはすごいです。
 それにしても、最近のNHKにはひどいですよね。集団的自衛権について、その問題点を国民に分かりやすく伝えようとしていません。あくまで安倍首相の側に「理解」を示して、それを前提として、反対する人もいくらかいるというニュアンスでの報道です。本当にデタラメです。安倍首相の妄念から一刻も早く脱却しないと、本当に日本は戦争に巻き込まれてしまいます・・・。心配です。マスコミ人の良識に大いに期待しています。
(2014年4月刊。1800円+税)

小さき生物たちの大いなる新技術

カテゴリー:生物

著者  今泉 忠明 、 出版  ベスト新書
 バイオテクノロジー(生物工学)というのは、よく聞かれる言葉ですが、バイオミミクリー(生物模倣)という言葉は聞いたことがありませんでした。自然をよく観察してヒントを得て、その優れた点を真似することで効率のいい進んだ技術を生み出すというものです。
 新幹線の先頭車両の形状は、カワセミのくちばしから頭部にかけての形状に似せている。
 フクロウが音を立てずに飛ぶことのできる秘密は風切羽にある。端が綿毛のようにほつれているため、翼を羽ばたいて飛ぶときにも音がほとんど出ない。そこで、新幹線のパンタグラフの支持装置に風切羽をまねたギザギザを付け、30%の騒音削減に成功した。
 フンコロガシは、糞球の頂上にのぼって「ダンス」をすることによって、どの方向から光が来ているのかを認識して自分の進むべき方向を定めている。
 暗い夜には、脳は小さく、視力の弱いフンコロガシは、天の河の星々の光を頼りにまっすぐに糞をころがして進んでいく。これが、自動車の夜間運転支援システムのヒントになった。赤外線カメラでとらえた映像をディスプレイに表示し、夜間の視界を拡大することによって安全走行に寄与しようというもの。
 カメレオンの体色が代わるのは、皮膚細胞に白・赤・青・黄・黒の粒があり、紫外線を浴びると、その粒の大きさに変化が生じて、体色が変化する。
 温度によって光る色が変わる染料を開発した北大チームは、紫外線をあてると光る希土類(レアアース)に着目した。温度によって色が変わる「カメレオン発光体」は、宇宙船の開発に大いに役立っている。この塗料を機体表面に塗って、その色の変化によって温度を正確に検知できるというわけである。
 ガラガラヘビは、ピット器官における温度センサーが、0.002度の変化を感じるほど敏感なため、狙った動物の体温によって捕まえることができる。この熱追尾装置が追突空ミサイル「サイドワインダー」に応用されている。
 クモの糸を鳥もちの代用品として使うのが紹介されていますが、私も実際、鳥もちの代わりにクモの糸を二又の枝先にからませて、子どものころセミを捕まえていました。
 クモの糸(縦糸)は、同じ重量で比べたら、鋼鉄の5倍もの強度をもつ。人間の毛髪の10分の1の太さしかないのに、時速30キロをこえる速さでハチが飛んできても破れることなく捕まえる強度がある。
 ヤモリが窓ガラスに張り付いているのは、ヤモリの足の裏の微細な毛の先端と壁面の凹凸が分子レベルで吸い付いて、粘着力が生まれるから。
 カタツムリの殻がいつも汚れずにきれいなのは、その殻にとても細かいミクロの「溝」が刻まれているから。その溝に水が入り込んで、殻の表面にごく薄い水の膜が張られている。汚水は、殻の本体には付着せず、水にくっついているから、簡単に流れ落ちる。
 そこで、空気中の水分になじみやすい外壁タイルを開発し、雨が降ったら自動的に汚れが落ちる外壁システム「ナノ親水」をつくった。
 知らないことがたくさんあり、生物の隠れた能力を人間が少しずつ生かしていることも教えられました。生物の多様性を尊重したくなる本でもあります。
 ということは、自然をむやみに破壊してはいけないということです。大型公共工事、辺野古の埋め立てなんて、とんでもありませんよね。
(2014年2月刊。819円+税)

生命の惑星・青島

カテゴリー:生物

著者  芥川 仁 、 出版  鉱脈社
 8月の初めに久しぶりに宮崎の青島に行ってきました。ところが、あいにくの大雨で、飛行機すら引き返すかもしれないという事前アナウンスが流れる始末でした。少しばかり揺れたものの、宮崎には無事に到着しました。しかし、青島のホテルについても、雨はやむことなく、せっかくデジカメを持参していったのですが、あえなく断念してしまいました。
 そんな悔しい思いを吐露していたところ、先輩の成見弁護士夫妻から送られてきたのが、この写真集です。
 宮崎日日新聞の文化欄に連載された写真と文章を本にまとめたものです。さすがに20年以上も宮崎に住んでいる写真家によるものですので、写真の質が違います。
 青島にすみつく小動物、そして植生が生き生きと紹介されています。写真の説明がまた克明です。青島が隅々まで手にとるように分かります。
 私の中学校の修学旅行先の一つが宮崎・青島でした。かつては、日本中の新婚旅行客があこがれ、集中していた、宮崎・青島は、今では見る影もなく衰退しています。それでも、気候温暖な宮崎、そして風土豊かな青島の魅力をたっぷり楽しめる写真集です。
 成見正毅・幸子の両先生、ありがとうございました。
(2014年5月刊。760円+税)

戦国大名

カテゴリー:日本史(戦国)

著者  黒田 基樹 、 出版  平凡社新書
 戦国大名と織豊大名・近世大名とは、領域権力ということで、基本的な性格を同じくし、社会状況の変化に応じて、その様相を変化させていったもの。
太閣検地、兵農分離、石高制などは、研究上の世界におけるある種の幻想でしかなかった。
戦国大名とは、領国を支配する「家」権力である。大名家の当主は、「家」権力の統括者という立場であり、権力体としての「戦国大名」は、大名家の当主を頂点に、その家族、家臣などの構成員をふくめた組織であり、いわば経営体ととらえるべきもの。
 戦国時代について、当時の人々は、まだ「室町時代」と認識していた。当代とは室町幕府の治世を指し、「先代」とは鎌倉幕府の統治時代を指した。
 戦国大名は、領国内において、平和を確立するが、それは内部における自力救済の抑止によって成り立っていた。
 中世における自力救済のキーワードである「相当」(同量報復)、「兵具」(武装)、「合力」(援軍)の禁止によって領国内の平和が形成・維持された。
 検地は、個々の百姓の土地所有権を決定するものではなかった。個々の百姓の所有地は、むしろ村によって決定されていた。
 通説では、石高は生産高となっているが、誤りである。近世の石高も、年貢賦課基準高でしかなかった。検地によって決定された村高が、そのまま年貢高になるのではなかった。村高から、いろいろの「引方」と呼ばれる控除分が差し引かれて、その残りが年貢高(定納高)となった。それこそが、大名と村との間における高度な政治交渉の反映だった。村高に対する引方の割合は、おおよそ2~3割におさめられていた。
 一反あたりの年貢量は、田地一反あたり五斗二升。平安時代後期の反別三斗の2倍にあたり、江戸時代の85%にあたる。
 したがって、織豊・近世大名の検地が戦国大名の検地より多くの富を収奪したというのは幻想なのである。こうした検地は、主に大名の「代替わり」ごとに行われた。
村という組織は、決して固定したものではなく、人員構成も領域も変動する可能性を常にもっていた。
 棟別銭は、屋敷地に対する賦課役で、屋敷地の家数に応じて賦課された。
 陣夫役は、先陣のたびごとに人・馬を徴発するもの。
 戦国大名の領国支配のなかで、大きな歴史的意味をもった政策が目安制による裁判制度の構築だった。
 目安は訴状のこと。評価衆が組織され、目安制による訴訟の審理にあたった。双方の出頭が求められ、出頭しなければ、無条件で敗訴とされた。
 目安制の全面展開について、北条氏康は、「百姓に礼を尽くす」政策の筆頭にあげている。そして、これが他の戦国大名に広がっていった。
 この目安制の意義は、領国を構成する社会主体である村のすべてに対して、大名家への直接訴訟権を認めたことにある。それは、すべての人々に訴訟権を認めた、万人に開かれた裁判制度がここに始まったと言ってよいもの。現代の裁判制度は、この延長線上に位置している。
 戦国大名の実際を知ることが出来ました。
(2014年1月刊。780円+税)

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