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2013年6月 の投稿

建築家、走る

カテゴリー:社会

著者  隈 研吾 、 出版  新潮社
この忙しさは半端ではありません。世界をまたにかけて飛びまわる毎日です。よくぞ、これで身体がもつ、と本を読みながら不思議な思いに駆られました。
 設計のプロセスは悩みと迷いの連続である。しかし、プレゼンテーションの場では、悩みや迷いは一切見せない。いつでもストレートに言い切って、相手を安心させる。
 建築家は、設計競技(コンペティション。コンペ)への参加の依頼を受ける。その戦いに参加して選ばれないと仕事は始まらない。今では一年中、そういうレースに駆り出されている。いってみれば、毎週レースに出なければいけない競走馬みたいなもの。今、建築家は、そんな状況に耐えられる精神力、体力がないとやっていけない職業になっている。
 レースに引っぱり出されなかったら仕事がない。仕事がなかったら、事務所も自分もつぶれる。つぶれないために、休みもなしに走り続ける。そういう過酷な場に引き出されている。いやはや、大変な職業ですね。
中国政府が景観デザインに厳しくチェックするのは、政府によるバブルの延命策そのもの。中国で一番もうかるのは、それはデベロッパーが大規模な開発をして、不動産価格を上昇させること。ただし、不動産価格があまりにも急激に上昇してバブルになると、民衆の不満がたまって政情自体が不安定になる。中国政府はバブルを破滅させるわけにはいかないし、かといって野放しにするわけにもいかない。そこで、不動産業界に一定の規制をかけて、バブルをスローダウンさせながら維持するという微妙なコントロールが必要になる。
 いまの中国政府の最大課題は、バブルを柔らかくコントロールする方法である。さすがに官僚国家を何千年もやっているだけに、中国の役人は自分たちへの利益誘導が巧みだ。利益誘導といっても、露骨で分かりやすい方法はとらない。量から質へという転換のプロセスの中に官僚の利権も隠れていることを自覚している。世界がテーマとしていることが、結局は、利権獲得の最短の道筋だと理解している。うひゃあ。そんな見方ができるわけですね・・・。
 中国には、そもそも客観的基準というものがない。それぞれのプロジェクトごとに政府に申請し、担当の役人とネゴする。ネゴをベースにすると、そのネゴから役人の利権が無限に生じる。そのネゴのプロセスを通過してはじめて建築を実現できる。タフでハードボイルドな世界がある。めんどくささ、屈辱にめげず、ニコニコし続けていないと、」中国では通用しない。
 中国は、あらゆる民間企業がオーナーカンパニーである。これに対して、日本はサラリーマン機構であって、リスク回避システムとなっている。中国では、酔わなければいけないけれど、崩れてはダメ。その微妙なバランスが一番大事。中国は飲酒が打ち上げではなく、ゲート。この面接試験をうまくパスしない限り、前に進めない。中国は基本的に私情よりも論理を大切にする。
 アメリカの建築界はユダヤ人が掌握している。国際レースの仕掛け人は、ほとんどユダヤ人。ニューヨークでは、金融界と同時に、メディア界もユダヤ人が押さえている。これは実は法曹界についても言えることです。有力(有名)な弁護士の多くがユダヤ人です。
 これからもっとも注目すべきは韓国だ。このところ、韓国は世界のプロジェクトで連戦連勝している。日本人は、のどかな田舎の村で、こたつに入ってぬくぬくしているようなものだ。著者は、歌舞伎座改築に関わりました。まだ見ていませんが、ぜひ見てみたいものです。
 著者は大手の設計会社、そしてゼネコンにそれぞれ3年ずつサラリーマンとして働いています。そのあと、アメリカに渡って勉強しました。
ディベート教育で建築を教えている限り、アメリカに将来はないと直観した。
 著者が世界を飛びまわっているのは、現場を見てみたいから。ナマのもの、ナマの人、ナマの場所に出会いたい。旅行しないと絶対にナマの声には出会えない。
 2泊3日でフランスに行って、日本にいったん戻った翌日にまたフランス入り。翌日からイタリア、そしてクロアチアでそれぞれ2泊して帰国。その次の週はチリ、アメリカ、カナダのあと、アルバニアとマケドニアに1泊ずつで移動して、早朝に関空着で帰国。昼は奈良の現場を見て、大阪で打合せをして、夜は京都で講演会、最終の新幹線で東京に帰り、翌早朝に中国へ出発。なんという超過密スケジュールでしょうか。人間わざとは思えません。
 著者はパソコンをもたない。パソコンをもたないからこそ、自分を保てている。出先にもっていくのは、お財布とiPodとガラケー(スマホではない)。
 スタッフは、報告しない人はダメだが、報告が長すぎる人もダメ。
圧倒されてしまいます。私より6歳も年下ですが、その行動力に息を呑みました。
(2013年5月刊。1400円+税)

日本の絶滅古生物図鑑

カテゴリー:生物

著者  宇都宮聡・川崎梧司 、 出版  築地書館
いやあ、古代日本にもこんなに奇妙な古生物がいたのですね・・・。そして、化石として日本各地に残っていたなんてちっとも知りませんでした。
いえ、日本に恐竜の化石があることくらいは私も知っています。まだ見ていませんが、熊本県の天草に恐竜化石があるようですし、福井県は恐竜化石の宝庫だというのは聞いています。
北海道にも恐竜がいたのでした。体長10メートルに達するモレノサウルスです。
 クビナガリュウの仲間です。10メートルの復元骨格は圧巻ですね。
 日本にはワニだっていたのですね。しかも、なんと大阪府豊中市にいたとは・・・。
大阪が世界に誇る化石、それがマチカネワニだ。体長7メートル、体重1.3トンという巨大なワニです。頭部だけで、1メートルという大きさです。大阪大学のキャンパス工事現場で保有状態のよいワニの頭部が発見されたのでした。
 岐阜県には、ゾウの化石が見つかっています。日本にも野生のゾウが生息していたわけです。ナウマンゾウになると、日本各地で化石が見つかっています。マンモスは、さすがに北海道だけのようです。マンモスの臼歯化石が発見されています。
オールカラーの見ているだけで楽しい図鑑です。日本だって、古代世界の一部なんだと実感できます。眺めていると気分転換になる図鑑として、一見をおすすめします。
(2013年2月刊。2200円+税)

大隕石・衝突の現実

カテゴリー:宇宙

著者  日本スペースガード協会 、 出版  ニュートンプレス
隕石が日本の原子力発電所に落ちたらどうなるのか・・・。
 これは、政府も原発関係者も、想定してはならないとする設問です。その正解は、日本列島の大半が汚染されて、人々は住み続けられずに列島外へ脱出するしかないということです。かつてのユダヤ民族のディアスポラ(民族離散・脱出)が始まるのです。
 原子力発電所にあった核燃料がむき出しになってしまえば、もう誰も近づけません。手のうちようがないのです。それを承知のうえで、いま、日本政府と原発企業は海外へ原発を輸出しようとしています。当面は輸出代金が入ってきて日本経済にいくらかプラスになるのかもしれません。でも、いったん不具合が発生し、事故になったとき、日本政府が不具合の責任を追及される可能性があります。その額が天文学的な巨額になったとき、私企業では負担しきれず、政府が負担することになります。もちろん、それは日本国民の納めた税金です。当面の「利益」に目がくらんで輸出した人は既にこの世を去り、責任をとりません。後世の人々が責任をとらされるのです。こんなひどい事態をつくり出す企業を「死の商人」と呼ばずに、何と呼びましょうか・・・。
 この本を読むと、隕石というのは、宇宙から地球へ頻繁に落下していることがよくわかります。ロシアや南極大陸だけに落下しているというのでは決してありません。怖い現実です。
地球にニアミスする小惑星は毎年、数個ある。
 1908年6月30日、ロシアでツングースカ爆発が起きた。地上から6キロメートル上空での爆発だった。このツングースカ爆発は、2000平方キロメートル以上もの地域に拡がる森林を荒廃させ、爆心地から20キロメートル以内は高熱によって炎に包まれた。爆発規模は、広島型原爆の1000倍の破壊力をもつ、20メガトンだった。
 地球は何もない空間を孤独に運動しているわけではない。むしろ、数多くの天体軌道の間をすり抜けるようにして運動していると言ったほうがよい。したがって、他の天体との衝突という問題は、避けては通れないものなのである。
 小惑星は確定番号がついたものだけでも30万個以上ある。その数は60万個以上におよぶ。今までに発見された彗星は3000個あまり。このうち長周期彗星は2800個、短周期彗星は280個である。
恐竜が絶滅したときの小惑星の衝突(メキシコのユカタン半島)は直系10キロメートル程度の小惑星だった。その衝突エネルギーは1.2億メガトンだった。津波は高さは数千メートルと推定されている。
 直系100メートルの小惑星が衝突しても、関東平野程度の範囲は壊滅する。
 このサイズの小惑星が地球へ衝突する確立は数百年に1回である。
 隕石が地球にぶつかるのは避けられないし、その被害たるや甚大なものがあります。その被害を加速させる原発なんて、地球上に置いてはいけないのです。
(2013年4月刊。1400円+税)

日本の東南アジア外交

カテゴリー:アジア

著者  桂 誠 、 出版  かまくら春秋社
40年ぶりに大学のクラス同窓会に出席したところ、外務省に入って大使になった人がいることを知りました。その彼が退官して本を書いたとメールで知らせてきたので、早速、読んでみました。
 クラスの同窓会と言えば、かの有名な舛添要一議員もその一人ですが、彼は同窓会には参加していませんでした。
 著者はフィリピン大使をつとめました。日本は戦前フィリピンに侵攻し、支配していました。慰安婦問題をふくめてフィリピンの人々には大変な迷惑をかけています。
著者はフィリピン大使として、次のように挨拶した。
 「自分は戦後生まれであるが、第二次大戦中に旧日本軍が与えた損害に対して衷心から申し訳ないと考えている。これを毎年2回の公式行事のなかで表明している」
 そうなんです。加害者は忘れても、被害者はずっとずっと覚えているものなんです。戦前の日本人が何をしたのか、そのことにきちんと向きあってこそ、日本の未来は開かれるのです。これは決して「自虐史観」というようなものではありません。
 ですから、著者は村山総理の謝罪談話を必要なものとして評価しています。まったくそのとおりです。安倍首相の見直し発言は明らかに外交上マイナスです。
対フィリピン援助国のなかで、日本は圧倒的なシェアを占めている。ODAについてもそうです。
 私は、20年以上も前に、レイテ島に行って日本のODAの現状を視察したことがあります。山奥にたどりついた地熱発電所は三菱重工業のつくったもので、日本人も駐留していました。ところが、周辺の住民はその発電所の生み出す電気の恩恵を受けていなかったのでした。何のためのODAなのか、疑問も感じながら帰ってきました。
 2010年、日本はフィリピンの輸出先としてアメリカを抜いて一位となった。
フィリピンの財界は華僑系が多いことを再認識しました。
 現在のフィリピンの著名な富豪20家族のほとんどは華僑である。アキノ大統領はコファンコ家であり、曾祖父が福建省から移民してきた。華僑系でない富豪は、アヤラ家、ロペス家、アボイティス家くらいだ。
 そして、「フィリピン商工会議所」の幹部は、ほとんど華僑である。しかし、華僑系の人が財界に進出する例は多くはない。
 フィリピンは総人口の1割に相当する900万人以上が海外への出稼ぎ労働者として出している。これらの者の安全を図ることがフィリピン外交の柱の一つとなっている。
 このほか、ラオスやミャンマーについても触れられています。外交官としての実感から、平和外交の大切さが語られている本だと思いました。中国との領土紛争にしても、外交交渉でゆっくり解決すべきものです。軍事力に頼る発想は下策というほかありません。
(2013年5月刊。1500円+税)

白熱講義!日本国憲法改正

カテゴリー:司法

著者  小林 節 、 出版  ベスト新書
著者はごりごりの改憲派で有名な憲法学者です。それでも、安倍首相の96条改正先行論は許せないと高らかにぶちあげます。私もその限りで、大賛成です。著者が改憲論をぶつところは、あまりに俗論すぎて不思議に思えてきますが、ここでは私と一致する点にしぼって紹介します。誰だって、みんなが一致するはずもありませんからね・・・。
ところで、著者は私と同じ団塊世代です。アメリカのハーバード大学で学び、慶応大学で憲法を教えています。改憲論と党是とする自民党の有力ブレーンの一人でしたが、最近はあまり座敷に呼ばれていないそうです。
著者は30年来の改憲論者であるが、現状のままで自民党に憲法改正させるわけにはいかない。なぜなら、権力者の都合のいいような改悪がなされる恐れがあるからだ。
 そもそも憲法は、主権者である国民大衆が権力を託した者たち(政治家とその他の公務員)を規制し、権力を正しく行使させ、その濫用を防ごうとする法である。
 権利者(国民)には、権利の代価として義務が伴っているのではない。
 「改憲のハードルが高い」は嘘。アメリカの改憲手続は日本以上に厳しいが、それでも、30回近くも憲法が改正されている。条件が厳しいから改正できないというのは間違い(詭弁)である。
立憲主義とは、国家の統治を憲法にもとづいておこなうという原理である。国家は個人の基本的権利を保障するための機関であり、国家権力は権利保障と権力分立とを定めた憲法に従って行使される。それにより、政府は憲法の制約下に置かれることになる。
 日本国憲法は敗戦後、アメリカに押しつけられたということを問題とする人に対して、著者は、押し付け憲法だっていいと開き直っています。
 そこには押しつけられるべき事情があった。そして、押しつけられたとはいえ、結果として民主主義が浸透し、急速な経済成長を遂げることができたという意味においては押しつけられて良かったと言える。押しつけ憲法の無効性を論じること自体むなしいこと。
楽して殿様になった世襲議員たちは、いつも自分たちが造っている法律の立法と同様に、本来は自分たちに向けられる最高法規の憲法で、「国を愛せ」と国民大衆に命じる構えになる。傲慢さの結果である。
立憲主義とは何なのか、なぜ安倍首相の改憲論が間違いなのか、改憲論の立場から、とてもわかりやすく解説している貴重な新書本です。
(2013年6月刊。800円+税)

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