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2013年1月 の投稿

「橋下維新」は3年で終わる

カテゴリー:社会

著者  川上 和久 、 出版  宝島社新書
先の総選挙のとき、マスコミが「第三局」そして「橋下維新」を天まで高く持ち上げるのは異常でした。視聴率さえ取れれば、現実社会がどうなろうとかまわないという軽率さに、多くの国民が振りまわされてしまいました。
 この本は、「橋下維新」はナポレオンやヒトラーと同じ危険をもっているとしています。なるほど、と思わせる内容でした。
 世論は、熟慮なしに「邪悪な意図」に操られると、方向を誤る凶器になる。社会への不満、不安と、それを解決できない統治システムがあるとき、必然的にそれを解決しようとする、強烈な上昇志向と権力欲を持った政治リーダーが登場する。
 橋下徹は、メディアの眼前で、分かりやすい「敵」を設定し、テレビカメラの前で攻撃する。「対立構造を作らないと、メディアに分かってもらえない」と言う。それは相手を説得するというよりも、激しく戦っている姿をメディアを通じて印象づけ、大阪市民の支持を得た。
 橋下徹の「敵」を際立てる手腕は見事だ。歯切れのよい弁舌で、テレビなどでニュースとして取り上げられるようにアピールし、「敵」に悪のレッテルを貼ったうえで、容赦なく叩いていく。潜在的な市民のもつ「敵意」を橋下徹は巧みに利用している。
 私(橋下)の役割は、街頭で無党派をつかむこと。
有権者の感情に訴えるときには、政策は言わない。相手を批判するときも、「繰り返し」で、自らの「怒り」を強調し、自分がいかに相手に対して憤懣やるかたない思いであるかを受け手に強く印象づける。
ナポレオンも、メディアのコントロールには十分な注意を払った。警察に世論を監視させ、「郵便物検閲室」で手紙の内容を調べさせた。このほか、1810年の法令で、一県につき1つの新聞、パリには4つの新聞紙か存続を許さなかった。だから、すべての新聞が「体制派の新聞」になった。
同じ「一県一紙政策」は、戦前の日本でも行われた。いつまでも多くの道府県に有力な一つの地方新聞があるのは、その名残で全国紙を凌駕して圧倒的な講読率を誇っている地方新聞も少なくない。
テレビの長時間視聴層の多くが自民党を支持している。これは、テレビの操作が国民を操作することに直結していることを意味していますよね。
 今の日本で一番重要なのは独裁。独裁と言われるくらいの強い力だ。
 こんな橋下徹を「弱者」が強く支持しているというのは、まったくの矛盾ですよね。はやいとこ、「橋下維新」への幻想から目を覚ましたいものです。
(2012年10月刊。743円+税)

かつての超大国アメリカ

カテゴリー:アメリカ

著者  トーマス・フリードマンほか 、 出版  日本経済新聞出版社
いまやアメリカの全盛期は去り、中国の全盛期に取って代わられた。アメリカ人の多くがそう思っている。
 アメリカ人の切迫感は、アメリカの政治体制が、最大の難問と取り組むどころか、きちんと組み立てられてもいないという事実から生じている。
 現在、MITの工学部の教授団375人の4割は外国生まれだ。
 アメリカでは、破産にそんなにひどい汚名は伴わない。しかし、だれも破産を奨励してはいない。破産すると、数年間は与信に汚名がつくが、そのうちにそれも消える。簡単に破産できる分、簡単にやり直せる仕組みになっている。
 シリコンバレーの起業家たちは、なにかに挑戦して失敗し、破産を申告して、また挑戦し、それを何度もくり返し、やがて成功して金持ちになる。
アメリカ人には、政府は経済で積極的な役割を果たすことができないという誤った考えがある。これは危険だ。
 法律事務所で最初に解雇される弁護士は、信用バブルと住宅バブルの最中に仕事が急増したときに就職し、仕事をやり、やり終えると仕事がなくなった連中だ。
 いまも仕事があるのは、新しいテクノロジーや新しいプロセスを使って従来の仕事をもっと効率的にやる新しいやり方を見つけたり、これまでは存在しなかった仕事を考案し、新たなやり方でやったりしている弁護士だ。法律事務所も、あらゆる面でもっとクリエイティブかつ柔軟になる必要がある。
 アメリカの富裕層の上位1%が国民の年間収入の4分の1を手にしている。これを資産でみると、上位1%が全体の40%を支配している。25年前は、それぞれ12%と33%だった。
 その間、上位1%は10年間に18%収入増となったが、ミドルクラスの収入は逆に減少している。
 現在の富裕層は社会一丸となった行動の恩恵を必要としていない。自分たちの公園がある。自分たちだけのカントリークラブがある。自分たちの私立学校があり、公立学校に通う必要はない。自家用ジェット機や運転手付き自家用車など、自分たちの輸送システムがあるから、公共交通が老朽化しても平気だ。
 なーるほど、それで大金持ちは社会全体の福祉向上に関心がないのですね。それでも、一歩外に出たら多発する犯罪にビクビクしなくてはいけないと思うのですが・・・。
 民主党も共和党も、それぞれ中道派が消滅した。この2党は、互いをますます敵視し、相手の「皆殺し」を図っている。
 つい先日も、アメリカの小学校で痛ましい大量殺人事件が起きましたが、銃規制が進まないアメリカを見ると、いったいこの国はまともな国かと疑います。ましてや、全教員に銃を携帯させて教壇に立たせたらどうかという意見が出ているというのですから、アメリカは狂っているとしか思えません。
 それもこれも、殺し、殺されるのが昔からあたりまえという国だからなのでしょうね。ベトナム戦争、そしてイラク、アフガニスタンと戦後ずっと侵略戦争を仕掛けてきた国は、アメリカ国内の社会と人心を荒廃させてしまったのでしょう。
 そんなアメリカに盲従してきた日本政府も同じレベルだというのが悲しいところです。
 この本に、アメリカのしてきた侵略の歴史についての反省が見あたらないのが残念に思いました。
(2012年9月刊。2400円+税)

ここまでわかった日本軍「慰安婦」制度

カテゴリー:日本史(戦後)

著者  日本の戦争責任資料センター 、 出版  かもがわ出版
日本軍が「慰安婦」制度を設置した理由は4つ。
 第一は、強姦の防止。しかし、これは失敗した。軍の中で、慰安所で性暴力で公認しておいて、外で防ぐのには無理がある。
 第二に、性病の蔓延防止。実際には、これも失敗した。戦地での性病の新規感染者は1万人をずっと超えていた。
 第三に、戦地にいる軍人に「慰安」を提供する。酒と女性を提供するということ。
 第四に、防諜。スパイ防止ということ。
日本軍「慰安婦」制度は軍が主体となってつくった施設である。
 慰安所の女性は、外出の自由がない、外出するのは許可制。ビルマで保護された20人の日本軍の朝鮮人慰安婦のうち、12人は連行されたとき未成年だった。21歳未満の女性については、本人が売春目的であることに同意していたとしても、国際条約によると違法であるとされている。
 1937年の時点で、大審院が、上海の海軍慰安所に女性をだまして連れていったことを犯罪として認定した。
 戦後、バダビア軍法会議の判決は次のように判示した。
 「はじめの抵抗のあと、この残忍で非人道的な行為の犠牲者である女性たちが無駄だと思って抵抗を止めたからといって、彼女たちが自発的に売春したとか、被告の将校や慰安所業者の責任を逃れるということを正当化するものではない。なぜなら、最初に加えられた暴力行使の効果として起こったものであり、そこでは基本的な行動の自由はまったく論外だったからである」
 日本軍が、軍隊の責任で「慰安所」を設置していたこと、多くの女性を日本だけでなく朝鮮半島や東南アジアからだまして連れて(拉致して)いたことは日本史の重大な汚点です。軽々しく否定するわけにはいきません。
 安倍首相がこの歴史的事実を否定する談話を出そうとしていますが、韓国・中国そして東南アジアからの反発は避けられません。ますます日本は孤立化してしまいます。
(2007年12月刊。1000円+税)

おかげさま老人ホーム選びの掟

カテゴリー:司法

著者  外岡 潤 、 出版  ぱる出版
介護弁護士を自称する著者は介護マンガ『ヘルプマン』を読んで発奮したということです。私も『ヘルプマン』は、ついに21巻全部を読み通しました。とても教えられました。
 私の依頼者、相談者に介護施設で働く人はたくさんいますので、共通の話題づくりにも役立ちました。
 それにしても、東大を出て一流の法律事務所に勤めていたのに、いきなり独立開業し、しかも専門分野が介護というのですから勇気があります。
 そのうえ、奇術が出来て、日本舞踊まで演じるというのですから、多芸・異能の若手弁護士ですね。
 介護マンガ『ヘルプマン』こそ、著者の人生を大きく変えた。よし、それなら、介護現場で起きるトラブル解決に特化した弁護士になろうと決意した。
 今の日本の介護現場はトラブルの温床であり、当初の想像以上に事態は深刻である。
 介護業界は現場のスタッフの待遇が賃金面で絶望的に悪すぎる。仕事内容もいわゆる3Kで、あたりまえかもしれないが、職場には若々しい活気などなく、新卒にも人気がない。だから、健全な競争が起きず、優秀な人材がなかなか来ない。来ても定着して育つのはまれで、慢性的に人手が足りない。その悪循環のなかで、カバーしきれない事故が続出している。
老人ホームを選ぶときには、その施設の現場全体の雰囲気、ありように着目すべきだ。
 施設が、すみずみまで清潔にしていること。それは職場の雰囲気、職員の意識の高さの反映でもある。
有料老人ホームとの契約では契約を結んでから90日以内なら一時金の返還を求められることが多い。
 3年前に出張型介護、福祉系専門法律事務所「おかげさま」を開業してがんばっているとのこと。うれしいですよね、こんな若手弁護士がいるなんて。
 引き続き、ぜひがんばってください。
(2011年10月刊。1400円+税)
 明けましておめでとうございます。本年もどうぞご愛読ください。
 おせちもほどほどに食べ、ガーデニングに励んだり、静かに正月休みを過ごしました。嵐の前の静けさ、といった気分でした。

細菌が世界を支配する

カテゴリー:生物

著者  アン・マクズラック 、 出版  白揚社
細菌は地球上の元素をリサイクルして、ほかのすべての生き物の栄養補給を支えている。私たちに食べ物を与え、私たちの排泄物を浄化してくれる。気候の調節に役立ち、水を飲めるようにしてくれる。なかには、水蒸気の小さな水滴を集めて雲をつくる化合物を空気中に放出している細菌まである。
 細菌は単純でも、その単純さにだまされてはいけない。複雑とはいえないその構造が、実は地球の生態系で起こっている大切な生化学反応のすべてを進めている。
細菌は小さくても、膨大な数で地球を占領している。細菌は地表から6万メートルも離れた上空にも、深さ1万メートルの深海にも住んでいる。
細菌の総数は10の30乗にもなる。すべての細菌の細胞をあわせた質量は1×10の15乗キログラムに近く、これは地球上に暮らす人間65億人すべてをあわせた質量の2000倍以上にあたる。その細菌の圧倒的多数が土の中に住んでいる。
 細菌は生物学的な作用によって、人間が生きる条件をも整えてくれる。
 細菌には、大切な酵素、タンパク質、そして遺伝の仕組みを入れておくだけの大きさがあれば十分だ。進化を経て、余分なものはすべて切り捨ててきた。小さくて単純な構造のおかげで増殖にかかる時間が短いから、適応が早い。また、小さいから体積に対する表面積の割合が大きく、細菌の代謝は効率の良さの手本になる。
 細菌にどれだけの種があるかは、まだわかっていない。これまでにおよそ5000種の特性が明らかになっていて、そのほかの1万種も部分的に確認されている。
 どんな方法をつかっても、たとえ最強の消毒剤でも、皮膚からすべての細菌を取りのぞくことはできない。皮膚は無菌にはならない。ヒトに住みついた通常の細菌(常在細菌)は、健康で傷のない皮膚にはまったく問題を起こさない。
 ステーキや牛乳が食卓にのぼるのも、牛のルーメン(第一腸)のなかで、嫌気性細菌が草を消化したから。ルーメン発酵は、無酸素の状態で糖を微生物のエネルギーに変え、副産物として酸やアルコールを生みだす。アルコールを生みだす細菌を利用したワインづくりは、紀元前6000年にはメソポタミアで行われていた証拠が見つかっている。
多くの細菌は、水が不足してくると休眠状態に入り、周囲に水が戻ってきたとき、ふたたび増えることができる。
 EUとカナダは、食肉用動物に対して抗生物質の使用を禁止している。しかし、アメリカでは抗生物質の使用が続いている。第一次世界大戦の1000万人にのぼる死者の半数は感染症が死因だ。
緑色植物、海藻、シアノバクテリアは、太陽エネルギーを動物が利用できるエネルギーに変える、地球上の主要な経路になっている。始生代から原生代までのあいだにシアノバクテリアの光合成によって大気の成分が変わり、酸素のない状態から酸素を豊富にふくんだ状態になった。
 古代のシアノバクテリアの痕跡は葉緑体に姿を変え、植物細胞のなかで日光エネルギーを糖のかたちの化学エネルギーに変換する場所になった。
 シアノバクテリアの増殖はほかの細菌にくらべて非常に遅く、およそ一日に1回しか分裂しない。それでも十分に競争に耐えられるのは、丈夫なうえ、ほとんど栄養素なしでも生きられるからだ。シアノバクテリアには、エネルギー源の日光と炭素のもとになる二酸化炭素、そしてほんのわずかな塩分があれば十分だ。
私たちの口に入るステーキの窒素は、遠い海に住むシアノバクテリアが、別の大陸の土からやってきたものと考えても、決して大げさなことではない。
 身近な存在である細菌について、認識を改めさせてくれる本でした。
(2012年9月刊。2400円+税)

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